文化遺産の研究と保存のための分析技術に関する国際会議(TECHNART2025)での発表と参加報告

会場の様子
研究発表の様子 ポスターセッション
研究発表の様子 オーラルセッション

 令和7(2025)年5月6日~9日、イタリア・ペルージャで開催された「TECHNART 2025」に、保存科学研究センターから保存環境研究室室長・秋山純子、分析科学研究室アソシエイトフェロー・紀芝蓮、研究補佐員・寺島海の3名が参加しました。
 TECHNARTは文化遺産に対する科学的アプローチを主題とする国際学会で、今回の会期では、蛍光X線マッピング分析(MA-XRF)や粉末X線回折マッピング分析(MA-XRPD)、ハイパースペクトルイメージング(RIS)などの非接触・面的分析の応用例に加え、機械学習を用いた画像解析、環境に配慮した修復材料の開発など、最新の研究動向が紹介されました(TECHNART2025プログラムprogram.pdfを参照)。
 紀はポスターセッションにて、香川県指定有形文化財『高松松平家所蔵博物図譜』に用いられた緑色色材を対象に、ハイパースペクトルカメラによる反射スペクトルと主成分分析(PCA)を用いた材料分類・推定を試みた研究成果を発表しました。大量の分光データに統計的手法を組み合わせた本手法は、絵画材料や技法の理解に有用であることを示しました。発表を通じて得られた議論や意見交換においても、色材データベースの整備や多次元データ解析の高度化が国際的な共通課題であることも改めて確認されました。
 寺島はオーラルセッションにて、江戸期の絵画に対して実施した二次元的な分光分析の事例を発表しました。発表では、欧米で油彩画などに用いられたスマルト(コバルトガラスを砕いた青色顔料)が日本絵画でも使用されていたこと、その用法や彩色効果について新たな知見を報告しました。今回の学会では、アメリカやポルトガルからもスマルトに着目した発表があり、国際的関心の高さがうかがえるとともに、多面的な議論を通じて理解を深める有意義な機会となりました。
 なお、海外の研究チームには保存科学や文化財科学の専門家のみならず、分析装置のハードウェアやソフトウェアの開発者なども参画して学際的なアプローチが取られています。日本でも分野横断型の研究が進展しており、今後はこうした発表の場をさらに充実させることが研究の深化に繋がると感じました。本学会参加を通じて得た知見を、今後の研究活動の一層の充実に活かしてまいります。

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