アンコール・タネイ遺跡保存整備のための現地調査XIX-中央伽藍前十字テラスの保存修復に向けた予備調査(2)

十字テラス周辺の石材散乱状況(2024年12月調査後)
散乱石材発掘作業の様子

 前稿にて、タネイ遺跡の中央伽藍前十字テラスの保存修復方法検討に向けた予備調査開始を報告しました。その後、アンコール・シェムリアップ地域保存整備機構(APSARA国立機構)との検討を経て、崩壊した十字テラス周辺の堆積土中に埋もれている構成材を探し出すため、より広範囲での散乱石材調査を実施することになりました。
 令和7(2025)年5月下旬より同機構の考古スタッフが発掘を先行して開始し、6月1日~22日には文化遺産国際協力センターより職員2名を派遣し、相互協力のもとで散乱石材の確認と記録を行いました。
 その結果、テラスの構成材が追加で確認されたほか、複数の観音菩薩像の上半身や腕部などの発見にもつながりました。一方で、とくにテラス南面の側壁中段部分の構成材の多くが未だに不足していることから、例えば他寺院の建材としての転用など、何らかの理由でテラスが人為的に破壊され、材が持ち出された可能性が高いことが推測できます。失われた材を含めたテラスの各部構成の復原検討には、同時代の他寺院におけるテラス状構造物を参照する必要があり、今次期間中に計7寺院での比較調査を実施しました。
 派遣期間中の6月12日には、アンコール遺跡群の各修復プロジェクトへの技術的助言を担うアドホック専門家等が現場視察に訪れました。これに続き、19日~20日に開催されたアンコール・サンボープレイクック遺跡保存開発国際調整委員会(ICC-Angkor/Sambor Prei Kuk)の技術会合においてタネイ遺跡十字テラスの修復基本方針を提案し、実施案検討のための作業を開始することが承認されました。

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