ゲッティ研究所の訪問と持続可能な保存環境管理に関する研究についての意見交換
地球温暖化が世界的な課題となる中で、平成26(2014)年には国際文化財保存修復学会(IIC)と国際文化財保存修復委員会(ICOM-CC)から共同宣言が行われるなど、資料保存の現場においても地球環境に配慮した持続可能な保存環境管理の在り方が求められています。保存科学研究センター・保存環境研究室では、こうした背景を踏まえ日本の文化財保存に適した持続可能な保存環境管理手法を探る研究を進めています。
その一環として令和5(2023)年8月にゲティ研究所(Getty Conservation Institute)とオーストラリアのビクトリア国立美術館の共催で開催された、「気候変動下における管理戦略ワークショップ―持続可能な保存環境と資料の応答のモニタリング(Changing Climate Management Strategies Workshop:Sustainable Collection Environments and Monitoring Object Response)」に参加し、その後も継続してゲティ研究所の研究員と交流を続けてきました。
令和7(2025)年9月24日~26日に、ロサンゼルスのゲッティ研究所(Getty Conservation Institute)を訪問し、ワークショップから2年を経て、東京文化財研究所とゲティ研究所それぞれにおける研究の進展について報告を行い、意見交換を実施しました。東京文化財研究所からは、保存環境研究室研究員・水谷悦子と客員研究員の京都大学大学院工学研究科准教授・伊庭千恵美が報告を担当しました。日本の気候条件や文化財の材料構造の特異性、損傷リスク評価に求められる計測手法などについて活発な議論が交わされました。
ディスカッションの後には研究施設を見学し、多様な専門分野の研究者と交流する機会も得られました。日本の事例は温帯湿潤気候に属する国々における文化財の保存環境管理の問題を考えるうえで、有益な知見を提供するものです。今回の訪問を通じて、国際的な視点から保存環境研究を見直すとともに、今後の共同研究の方向性を探るうえで大変有意義な機会となりました。
