2025 World Forum for Intangible Cultural Heritageへの参加

セッション3のディスカッション
津寬寺での座禅の体験会

 令和7(2025)年9月17日・18日に大韓民国のソウルで開催された国際フォーラム「2025 World Forum for Intangible Cultural Heritage」に当研究所の石村智(筆者)が参加しました。
 この国際フォーラムは大韓民国国家遺産庁とアジア太平洋無形文化遺産国際情報ネットワークセンター(ICHCAP)の共催により毎年開催されているもので、今回のテーマは「無形文化遺産の経済的活動を探る(Exploring Economic Activities of Intangible Cultural Heritage)」で、無形文化遺産の経済的な側面に関して議論が行われました。
 フォーラムは、アハメド・エイウェイダ(Ahmed EIWEIDA)氏による基調講演と、セッション1「無形文化遺産の経済的価値を探る(Exploring the Economic Value of ICH)」、セッション2「コミュニティ中心の経済的活動と持続可能な開発(Community-Based Economic Activities and Sustainable Development)」、セッション3「無形文化遺産の倫理的な商業化(Ethical Commercialisation of ICH)」、特別セッション「地域の視点:韓国における無形文化遺産の経済的活動(Local Perspectives: Economic Practices of Intangible Cultural Heritage in Korea)」によって構成され、世界各地の専門家(シンガポール、東ティモール、香港、ネパール、インド、インドネシア、マレーシア、ボツワナ、フィリピン、日本、そして大韓民国)が、発表者もしくはモデレーターとして参加しました。
 筆者はセッション3で「保護しながら振興する:日本における工芸技術の二つの指定制度(Protecting while promoting: Two designation systems for traditional crafts in Japan)」と題した発表を行いました。日本の工芸技術においては、文部科学省の「文化財保護法」による重要無形文化財の指定制度と、経済産業省の「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」による伝統的工芸品の指定制度があり、前者は工芸技術の保護を主な目的としているのに対し、後者はその振興を主な目的としています。しかし両者は矛盾するものではなく、相互に補完しながら工芸技術の存続に貢献しているという状況を説明しました。
 セッション3のディスカッションでは、無形文化遺産と知的財産権に関する課題も議論されました。とりわけ無形文化遺産がコミュニティの手を離れ、過度な商業化や脱コンテキスト化の状況に陥ってしまうことへの懸念が表明されました。筆者は、日本の伝統工芸に関して、外国から安価な模倣品が輸入されることへの危惧について説明しました。また以前、外国の有名人が自分のデザインしたブランドに「Kimono」という名称を付けようとしたため、日本国内から大きな批判の声が上がったことを紹介しました。さらにこのディスカッションでは無形文化遺産と人工知能(AI)との関係についても言及されましたが、こうした問題はまだ日本では本格的に議論されていないと筆者は感じました。
 日本でも「文化財の活用」というスローガンが叫ばれて久しいですが、今回のフォーラムに参加して、保存と活用の両立は依然として重要な課題であることを再確認しました。その上で、コミュニティが主体的にその保存と活用に関わることで、その文化財/文化遺産の価値をより高めることが出来る可能性についても、考えるきっかけとなりました。
 なお本フォーラムの会場はソウル市街地の北にある津寬寺(Jingwansa)という仏教寺院でした。開会式では「水陸齋(Suryukjae)」と呼ばれる仏教儀礼のデモンストレーションが行われ、また昼食には伝統的な精進料理が振舞われました。さらに最終日のフォーラム終了後には座禅の体験も行われました。

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