研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

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第47回世界遺産委員会への参加

第47回世界遺産委員会の会場となったユネスコ本部
第一会議場での審議風景

 令和7(2025)年7月6~16日、第47回世界遺産委員会がパリのユネスコ本部で開催され、東京文化財研究所から3名がオブザーバーとして参加しました。今回の委員会は当初、議長国を務めるブルガリアでの開催予定でしたが、保安上の理由から準備途中で会場が変更となりました。

 会議の冒頭、通常は形式的な議事の承認が進むところで、トルコによるNGO「ティグリス救済財団」のオブザーバー参加拒否や韓国による「明治日本の産業革命遺産」の委員会決議の履行に関する議題の追加要求が行われる、波乱の幕開けとなりました。議題の追加要求は、予定時間を大幅に超過して議論が尽くされましたが合意に至らず、委員国の秘密投票の結果、否決されました。一方、オブザーバー参加拒否は、ほぼ議論がないまま当該団体が参加者リストから抹消されたため、締約国からは委員国の対応を遺憾とする発言が相次ぎました。

 登録遺産の保全状況では、56件の危機遺産を含む248件が審議され、3件が晴れて危機遺産リストから除外されました。近年の委員会では危機遺産リストに記載されたままの遺産の増加が問題視されており、危機遺産を脱するための締約国の取り組みが強く求められるようになっています。遺産の新規登録では31件が審議され、26件が登録となりました。このうち諮問機関が登録を勧告したのは16件で、委員会で勧告が覆される傾向が依然として続いています。ただし、保全状況等に関する勧告に従った修正を含めての登録も多く、諮問機関の評価と締約国の認識との乖離の解消に向けて一定の改善がみられたともいえます。今回の登録で、シエラレオネとギニアビサウが新たに加わり、196の締約国のうち世界遺産を保有する国は170となりました。登録遺産の地域的な偏りは世界遺産リストの代表性を損なうものとして委員会での積年の課題となっており、諮問機関によるギャップ分析の更新など不均衡を是正するための取り組みが続けられています。

 このほか、ユネスコ日本信託基金の支援をもとに5月にナイロビで行われたアフリカの遺産のオーセンティシティに関する国際会議の成果文書が、賛否の分かれる議論を経て最終的に採択に至ったことは、今後の世界遺産の評価基準に変革をもたらす画期を予感させるものでした。

 次回の世界遺産委員会は、来年7月に韓国・釜山で開催される予定です。当研究所では、今後も世界遺産をとりまく動向を注視し、関係する情報の収集と分析、発信に取り組んでいきます。

世界遺産ヤングプロフェッショナルフォーラム2024への参加

第46回世界遺産委員会での声明発表(撮影:インド考古調査局)
世界遺産タージ・マハルへの訪問(撮影:インド考古調査局)

 令和6(2024)年7月14日~23日にかけて、インドの首都ニューデリーにて第46回世界遺産委員会の一環として開催された、「世界遺産ヤングプロフェッショナルフォーラム2024」に文化遺産国際協力センターアソシエイトフェロー・金子雄太郎が参加しました。
 同フォーラムは、ユネスコ世界遺産教育プログラムの代表的な取り組みとして、世界中の若者と文化遺産・自然遺産の専門家の交流を通じた異文化理解や交流の促進、遺産保護における若者の新たな役割の模索を目的としています。今年度のフォーラムでは、3,500名を超える応募者の中から選出された、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、中南米、太平洋諸島の計31か国、50名(インドより20名、他30か国より30名)の参加者が、世界遺産に係る課題や機会についてそれぞれの国や専門の視点から意見を出し合いながら議論を行いました。「21世紀における世界遺産-若者のための能力向上と機会の探求-」のメインテーマのもと、気候変動、革新的技術、コミュニティ、持続可能な観光という4つのキーワードに関連したプログラムとして、博物館やタージ・マハル等の世界遺産への訪問、専門家による講義、参加者間での議論と発表等、世界遺産を様々な角度から学ぶ大変充実した内容でした。プログラムの最後には、本フォーラムで得られた知識と経験を基に、世界遺産に係る若手専門家からの提言をまとめた声明文を作成し、世界遺産委員会の場にて発表しました。
 アフリカや中南米の国々では、若手という立場であっても世界遺産登録や保護・管理の現場の責任者として、遺産が直面している様々な問題の解決に向けて積極的な役割を担っていることを知り、同じ世代の一人として大変刺激を受けました。一方で、それらの国々からの参加者の多くが、世界遺産に登録された文化遺産や自然遺産においても資金や人材の不足による脆弱な保護体制が常態化していることを指摘しており、日本による文化遺産分野での国際協力もこのような国々にさらなる支援を差し伸べていくことが求められていると感じました。今後の世界遺産保護を担うべき若手専門家の一人として、これら世界遺産に係る現状を周知していくとともに、自身も国内外の遺産保護の一助になれるよう努めていきたいと思います。

世界遺産ヤングプロフェッショナルフォーラムに関するユネスコのウェブサイト
https://whc.unesco.org/en/youth-forum/

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