研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


第10回無形民俗文化財研究協議会の開催

総合討議の様子

 12月4日(金)に第10回無形民俗文化財研究協議会が開催され、「ひらかれる無形文化遺産―魅力の発信と外からの力」をテーマに、4名の発表者と2名のコメンテーターによる報告・討議が行われました。
 東日本大震災以降の復興の過程においては、被災して甚大なダメージを受けた地域が「外の力」を取り込んでいくことで、結果的に文化継承が図られたという例が数多く報告されています。I・Uターン者や観光客、あるいはコミュニティの中でそれまで伝承に関わってこなかった層が新たに伝承を担うようになったり(伝承者の拡大)、新たな観客や支援者層に対して伝承を発信していったり(享受者の拡大)、様々なかたちで無形文化遺産を外に向かって「ひらく」際に、どのような仕組みや方法が必要になるのか、またそこにどのような課題や展望があるのか。今回は被災地域に限らず、過疎高齢化や都市化によって疲弊する全国各地に対象を広げ、「外からの力」と文化継承について議論を交わしました。
 青森、山形、広島、沖縄の四つの地域からの報告やその後の討議を通して、魅力を発信する方法や仕組みづくりといった具体的な話から、“伝統”と変容をどう捉えるか、文化を伝承していくということが地域にとってどのような意味を持っているのかといった話まで、多岐に及ぶテーマが出されました。その中で、四つの地域いずれも、最初から外の力に頼って伝承を繋げていこうとするのではなく、まずは伝承者やそれを取り巻く地域の方々が伝承の在り方についてきちんと議論し、葛藤する中で進むべき道を選択してきたという姿が印象的でした。今回の協議会は例年より多くの方にご参加いただき、なおかつ、保存団体の方など実際に伝承を担っている方の参加が目立ちました。無形文化遺産を「ひらく」ということへの問題関心の高さが浮き彫りになったと同時に、伝承の問題が当事者の方々にとっていかに切実なものになっているかということについても、認識を新たにさせられました。
 協議会の内容は2016年3月に報告書として刊行し、後日無形文化遺産部のホームページでも公開する予定です。

第10回無形文化遺産部公開学術講座の開催

公開講座の実演風景

 12月18日、「邦楽の旋律とアクセント ― 中世から近世へ ― 」というタイトルで、公開講座を行いました(於平成館大講堂)。中世芸能の能(謡)と近世芸能の長唄を取り上げ、国語学者の坂本清恵日本女子大学教授と共同で、日本語のアクセントが歌の旋律にどの程度影響を与えているのか対応関係を考察したあと、桃山時代の旋律を復元した謡「松風」と、長唄「鶴亀」の実演を楽しみました。ジャンルによって影響関係が異なり、時代の推移とともに変化もしたこと、等が判明しました。入場者は285名。講演と能楽師・長唄演奏家の実演がクロスした内容に、興味深かったとの感想が多く寄せられました。

「無形文化遺産と防災―伝統技術における記録の意義」研究会開催

箕の工程作業実演の様子

 12月22日、「無形文化遺産と防災―伝統技術における記録の意義」と題した研究会を行いました。本研究会は、文化遺産防災ネットワーク推進事業の一貫として東京文化財研究所が担っている「文化財保護のための動態記録作成」事業において行いました。無形文化遺産は「かたち」をもたない文化遺産なので、防災・減災を考えていくのに、記録を活用するのが重要な要素の一つとして考えられています。
 今回は東日本大震災で被災した地域のうち、福島県の放射能被害のあった地域における伝統技術を取り上げて、被災前の記録と、被災後の記録から、防災・復興にむけてどのようなことが行われているのか、2つの事例が紹介されました。
 紹介された事例は福島県浪江町の「大堀相馬焼」と南相馬市の「小高の箕作り」です。「大堀相馬焼」の事例では、災害後に浪江町から工房を移転して新たに復興を目指している現状が紹介されました。また「小高の箕作り」の事例では、災害前の映像記録から技術の復元を試みられており、映像記録から判別できた技術の習得について、実際に工程作業の一部を披露されながら無形文化遺産における記録の意義について議論が交わされました。
 無形文化遺産の防災は、さまざまなケースが考えられるため、必ずしもこれで良いのだと言い切れないことも多くあります。今後も議論を重ね、文化遺産の防災や、減災への貢献を目指していきたいと思います。

ネパールにおける文化遺産被災状況調査(その2)

カトマンズ・ハヌマンドカ王宮アガムチェンでの被災状況調査
被災建物回収部材の管理と記録に関するワークショップ
コカナでの被災状況調査

 文化庁委託による標記「文化遺産保護国際貢献事業」の一環として、11月21日から12月8日まで、ネパールでの現地調査を実施しました。
 今回の調査では、9月におこなった世界遺産「カトマンズ盆地」周辺における被災文化遺産の概況調査の結果を踏まえて、構成資産であるカトマンズ・ダルバール広場と、暫定リスト記載で古い街並が残るコカナ集落を対象としました。
 カトマンズ・ダルバール広場では、建築班による「被災状況調査」、構造班による「3D計測」「常時微動計測」を実施しました。また、緊急的保護対策として、倒壊した建造物から回収された部材の適切な管理と記録について、部材の整理・格納を試行するとともに、記録手法の検討をおこない、この課題に取り組む現地の職員へのワークショップを通じてタイミングよく参考例を示すことができました。
 一方、コカナでは、沿道の建造物の「被災状況」「形態変容」「構造」のほか、「無形文化遺産」「水質」等の多角的な調査を実施しました。被災した歴史的都市における「迅速な住居の再建」と「歴史的な街並の継承」という二つの課題は、被災住民からは相反するものとして捉えられがちです。しかし、この難題に立ち向かって歴史継承に意欲的な現地住民組織『コカナ再生・再建委員会』と連携し、文化遺産の視点からの情報を的確に収集することで、再建計画の立案に寄与すべく調査をおこないました。
 今後も継続的な調査を予定しており、その成果を現地側へ迅速に還元できるよう努めていきたいと思います。

カレンダー2016「文化財を守る日本の伝統技術」の作成

2016年 卓上版カレンダー表紙
2016年 壁掛け版カレンダー1月「錺金具」

 文化遺産国際協力センターでは、文化財の保存のために必要不可欠な選定保存技術に関する調査を進めています。選定保存技術保持者および選定保存技術保持団体の方々から作業工程や作業を取り巻く状況や社会的環境などについて聞き取り調査を行い、作業風景や作業に用いる道具などについて撮影記録を行っています。この調査の成果公開・情報発信の一環として、2016年の海外向けのカレンダーを2種類(卓上型・壁掛け型)作成しました。このカレンダーは「文化財を守る日本の伝統技術」と題し、2014、15年度に実施した調査の中から、錺金具・たたら製鉄・日本刀・鬼瓦・檜皮葺・苧麻糸手績み・邦楽器原糸・昭和村からむし・粗苧・漆掻き・漆掻き用具・琉球藍・杼の製作技術を取り上げました。全ての写真は当所企画情報部専門職員・城野誠治の撮影によるもので、それぞれの材料や技術の持つ特性を明確に示す一瞬をとらえる視覚的効果の高い画像で構成し、各図の解説は英語と日本語で掲載しています。このカレンダーは諸外国の文化財関係の省庁・組織などに配付し、広く海外の人々に日本の文化財を守り伝える技術や日本文化に対する理解の促進につなげていきたいと思います。

11月施設見学(1)

 大韓民国・国立中央博物館 計2名
 11月5日、東京文化財研究所が所有している機器を見学し、購入予定の機器の参考とするために来訪。保存修復科学センターを見学し、担当研究員による説明を受けました。

11月施設見学(2)

保存修復科学センター副センター長による講演を聴講する様子

 日本空気清浄協会 21名
 11月16日、文化財全般について幅広く知見を習得し、空気環境と関係の深文化財の保存修復科学について学ぶために来訪。保存修復科学センター佐野副センター長による講演を聴講した後、企画情報部の資料閲覧室及び無形文化遺産部の実演記録室を見学し、各担当研究員による業務内容の説明を受けました。

11月施設見学(3)

 韓国伝統文化大学校4名
 11月17日、韓国伝統文化大学校が行っている日本製の屏風の状態調査及び修復方針決定の参考とするため、東京文化財研究所の日本絵画修復専門家に屏風絵の技法等について話を聞くことを目的に来訪。文化遺産国際協力センターを見学し、研究員による説明を受けました。

海外日本美術資料専門家(司書)の招へい・研修・交流事業2015(通称JALプロジェクト)への視察受入など

JALプロジェクト 当研究所視察の様子

 JALプロジェクト(実行委員長:加茂川幸夫東京国立近代美術館館長)は、海外で日本美術資料を扱う専門家(図書館員、アーキビストなど)を日本に招へいして、日本の美術情報資料や関連情報提供サービスのあり方を再考することなどを目的とし、昨年度からスタートした事業です。本プロジェクトに、当研究所から山梨企画情報部長、橘川研究員が実行委員を委嘱され、橘川は招へい者への事前現地ヒアリング、研修ガイダンス、国内関連機関視察への随行を行いました。
 事前ヒアリングは、水谷長志氏(本プロジェクト実行委員、東京国立近代美術館)とともにベルリン国立アジア美術館図書館のコルデゥラ・トライマ氏、プラハ国立美術館のヤナ・リンドヴァー氏を担当し、10月3日、5日に現地での日本美術情報の状況に関してヒアリング、視察を実施しました。
 日本にお越しいただいた資料専門家9名は、11月16日から23日まで、東京・京都・奈良・福岡にある関連機関を視察いただきました。当研究所には同月18日にご訪問いただき、資料閲覧室などで図書資料、作品調査写真、近現代美術家ファイル、売立目録に関する資料・プロジェクトを紹介したのち、当研究所研究員らとディスカッションを行いました。さらに、今年度は「海外における日本美術関係資料担当者との交流会」を実施し、国内関連機関関係者との面会の機会を提供いたしました。これは昨年の招へい者からの要望に応えたもので、28名の参加を得て、和やかな雰囲気のなか、専門家ならではの活発な情報交換が行われました。
 研修最終日となった同月27日に、東京国立近代美術館講堂で公開ワークショップが開催され、昨年度に引き続き、招へい者から日本美術情報発信に対する提言が行われ、文化財情報の国際的な発信のあり方について再検討する良い契機となりました。

企画情報部研究会の開催―徳川吉宗が先導した視覚と図像の更新について―

『古画備考』巻二十六 岡本善悦肖像 (東京藝術大学附属図書館所蔵)

 11月24日(火)、企画情報部では、加藤弘子氏(日本学術振興会特別研究員)を招いて「徳川吉宗が先導した視覚と図像の更新について―岡本善悦豊久の役割を中心に―」と題した研究発表がおこなわれました。
 江戸幕府の第8代将軍である徳川吉宗(1684~1751)は、革新と復古の両面を兼ね備えた政治家として著名ですが、美術の分野でも、中国の宋・元・明の名画の模写やオランダ絵画を輸入させ、また、諸大名が所蔵する古画の模写や珍獣の写生を命じたことが確認されます。そうした古画の模写や写生をおこなった画家として挙げられるのが、同朋格として吉宗に仕えた岡本善悦豊久(1689~1767)です。加藤氏は、東京国立博物館が所蔵する「板谷家絵画資料」の中に、善悦の末裔にあたる彦根家旧蔵の約270点の粉本類が含まれることを紹介し、それらの存在から、善悦が吉宗の意向を狩野家や住吉家に伝え、視覚と図像を指導していく役割を果たした可能性を指摘されました。こうした問題は、吉宗の絵画観を解明するとともに、善悦を通して吉宗の絵画観が粉本として蓄積され、その後の狩野派の画風などに影響を与えたことを示唆するものでもあります。発表後は、善悦の役割とともに、善悦と同じく吉宗の側近であった成島道筑との関係などについても活発な意見が交わされました。今後は、実際の絵画作品が少ない善悦の、さらなる作品紹介などが待たれます。

レスキューされた文化財、その後――仙台、昭忠碑修復の現状レポート

東京、ブロンズスタジオでの昭忠碑修復の様子(平成27年11月7日)翼をひろげたブロンズの鵄が、背を下にして置かれています。後方のボードに留めた被災前の写真を参考にしながら、破砕した断片を繋ぎ合わせていきます。

 この活動報告でもたびたびお伝えしたように、平成23年(2011)3月の東日本大震災で被害を受けた多くの文化財に対し、当研究所に事務局を置く東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援委員会はレスキュー活動を各所で行なってきました。仙台城(青葉城)本丸跡に建つ昭忠碑もそのひとつで、明治35年(1902)、仙台にある第二師団関係の戦没者を弔慰する目的で建立された同碑は、震災により高さおよそ15メートルの石塔上部に設置されたブロンズ製の鵄が落下する被害を蒙り、救援委員会による文化財レスキュー事業の対象として、ブロンズ破片の回収や鵄本体の移設作業が行なわれました。平成26年の同事業終了後は宮城県被災ミュージアム再興事業として修復が実施され、今年度は破損した鵄の部分を東京、箱根ヶ崎にあるブロンズスタジオへ移動して接合する作業が進められています。ここでは、11月7日に同スタジオで行なった見学にもとづき、その修復の様子をレポートしたいと思います。
 破損した鵄は今年の6月3日と7月10日の二度に分けて、東京へ搬送されました。まず行われたのは、ブロンズ接合の前段階として、破損した鵄の最も大きな部分(約5.1トン)の内側に充填されていたコンクリートや鉛を取り除く作業でした。それらは鵄と石塔をつなぐ鉄心として入れられたレールを固定し、また鵄部分の重量のバランスを取るために満たされていたものです。これを約3カ月かけて取り除いた後、破砕したブロンズの本格的な接合作業に入ることになりました。震災前の調査で撮影された画像をもとに元の形を復元していくのですが、鵄の頭部や羽先などは粉砕した状態にあり、ジグソーパズルのような作業が進められています。
 高さ15メートルの塔の上に総重量5トン以上もある巨大な鵄の彫刻を据え付けた昭忠碑の建設は文字通り力技というべきものでしたが、ブロンズスタジオの高橋裕二氏によれば、修復作業を進めていく中で、現在は機械で製造されるような細かな部品を手技でひとつひとつ加工し作り出すなど、当時の丹念な仕事の様子がうかがえるとのことです。修復を通して、同碑の建設に携わった明治の人々のいとなみが改めて浮かび上がってきたといえましょう。この接合作業は次年度にかけて進められ、完了後は再び仙台に戻ることになりますが、一方で石塔部分について雨水の侵入による劣化が問題となっています。震災から5年が経とうとしていますが、同碑の保存修復をめぐって未だ課題は多く、長期的な取り組みが必要とされています。

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畑正吉フランス留学期の写真資料受贈

畑正吉のセルフ・ポートレート。明治43(1910)年撮影。鏡にカメラのレンズを向け、シャッターを押す自分の姿を撮影したもの。原板中の書き込みから、日本の文化人がよく滞在したパリのホテル・スフローで撮影したことがわかります。

 彫刻家の畑正吉(1882‐1966)は、東京美術学校(現、東京芸術大学)や東京高等工芸学校(現、千葉大学)の教授を務め、造幣局賞勲局の嘱託として記念メダルやレリーフなどを制作した人物です。明治40(1907)年から43年にかけて農商務省海外実業練習生として渡仏、パリのエコール・デ・ボザールに日本人彫刻家として初めて合格し、彫刻を学びました。その留学の折の原板12点が畑正吉のご遺族のもとに伝えられており、このたび正吉の孫にあたる畑文夫氏よりご寄贈いただくことになりました。原板には畑正吉のセルフ・ポートレートをはじめ、安井曾太郎や藤川勇造といった、当時パリに滞在していた日本人美術家と撮影した写真が残され、異国での交友のあとをしのばせる大変貴重な資料といえましょう。これらの原板資料についてはあらためてデジタル撮影を行ない、ウェブ上にて画像を公開する予定です。(「畑正吉フランス留学期写真資料」として2017年4月21日公開)

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無形文化遺産(伝統技術)の伝承に関する研究会Ⅱ「染織技術の伝承と地域の関わり」の開催

熊谷伝統産業伝承室(くまぴあ)での見学の様子

 無形文化遺産部では平成27年11月11日、12日にかけて熊谷市と共催で無形文化遺産(伝統技術)の伝承に関する研究会Ⅱ「染織技術の伝承と地域の関わり」を開催しました。本研究会では第1回目の同研究会(平成27年2月3日開催)のテーマ「染織技術をささえる人と道具」を引き継ぎ、染織技術に必要な「道具」の保存と活用について積極的な支援を行っている埼玉県熊谷市と京都府京都市の担当者を招き、染織技術に欠かせない要素である「道具」の保存と活用に関して行政がどのように関わっていく事ができるのかについて考えました。
 11日は当研究所保存修復科学センターの中山俊介近代文化遺産研究室長より文化財という視点から「道具保護と活用」について報告があった後、熊谷市立熊谷図書館の大井教寛氏に「熊谷染関連道具の保護と行政の関わり」、京都市伝統産業課の小谷直子氏に「京都市における染織技術を支える事業について」を報告いただきました。その後の総合討議では、行政でできることや、様々な立場の人々の連携の重要性等について活発に議論が交わされました。フロアからは、技術を伝承するためにはその技術の根ざす「地域」を大切にしながら他の「地域」と連携していくことも視野に入れていくことが必要との意見もでました。
 12日は遠山記念館の水上嘉代子氏による講演「埼玉県の染織の近代化小史―熊谷染を中心に―」の後、熊谷伝統産業伝承室(熊谷スポーツ・文化村「くまぴあ」内)の見学を実施しました。同室内に展示されている長板回転台や水洗機、蒸し箱はポーラ伝統文化振興財団の助成により移設されたものです。
 今回の研究会は、染織技術やそれをささえる道具との関わりについて具体的な事例をもとに議論を展開し、染織技術の伝承を考えていく上で、道具を保存していく大切さを改めて認識することができる機会となりました。
 今後も無形文化遺産部では伝統技術を取り巻くさまざまな問題について議論できる場を設けていきます。

サントリー美術館での重要文化財「四季花鳥図屏風」の調査

イメージングプレート現像装置を用いた調査風景

 2015年8月の調査に引き続き、11月10日から12日までの期間にサントリー美術館にて、重要文化財「四季花鳥図屏風」の調査を実施しました。「四季花鳥図屏風」の制作技法や材料について調べるために、光学調査、蛍光X線分析、可視分光分析、エックス線透過撮影等の手法を用いた調査を行いました。
 エックス線透過撮影では、イメージングプレートを用いてX線透過画像を得ます。今回の調査では、11月に東京文化財研究所に導入したイメージングプレート現像装置をサントリー美術館に持ち込んで実施しました。このため、それぞれの撮影後にX線透過画像をその場で確認しながら調査を進めることができました。このようにして得られたエックス線透過画像から、彩色材料の種類や厚さや製作技法に関する様々な情報を得ることができました。
 これらの調査結果を整理し、今年度中に調査報告書を刊行する予定です。

研究会「東南アジアの遺跡保存をめぐる技術的課題と展望」の開催

総合討議の様子

 東南アジア5カ国より考古・建築遺産の保存修復に携わる専門家をお招きして、11月13日に東文研セミナー室にて標記研究会を開催しました。各国における遺跡保存をめぐる様々な技術的課題について発表いただくとともに、新たな協力の可能性をめぐって意見交換を行いました。これまでに遺跡整備の実践例を多数有するインドネシアとタイ、また特に近年、新技術の導入が目覚ましいカンボジア、ベトナム、ミャンマーからの具体的事例紹介をもとに、考古遺跡や歴史的建造物、博物館等における文化遺産保護状況を広く俯瞰する機会となりました。
 インドネシアからはHubertus Sadirin 氏(ジャカルタ首都特別州文化財諮問専門委員会技術指導官)、タイからはVasu Poshyanandana 氏(文化省芸術局建造物課主任建築家・ICOMOSタイ事務局長)、カンボジアからはAn Sopheap氏(APSARA機構アンコール公園内遺跡保存予防考古学局・考古室長)、ベトナムからはLe Thi Lien女史 (ベトナム社会科学院考古学研究所・上席研究員)、ミャンマーからはThein Lwin氏(文化省考古・国立博物館局・副局長)にお越しいただきました。
 総合討議においては、出土遺構の保存方法、修復における新旧材の整合性、建造物の耐震対策、有形的価値と無形的価値との保存のバランス、管理体制・人材育成の問題等について活発な議論が行われました。これらの国々は、いずれも熱帯あるいは亜熱帯地域に属するという気候環境的な類似性にとどまらず、材料の劣化要因や対策面でも共通する課題を抱えています。域内外でのさらなる連携を視野に入れて情報共有、協力を継続していくことを確認しあう機会となりました。今後も各国との対話を深めながら支援のニーズを見定め、より有効な協力のあり方を考えていきたいと思います。

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国際研修2015「ラテンアメリカにおける紙の保存と修復」の開催

和紙の裏打ち実習における実演

 2015年11月4日から11月20日にかけて、ICCROM(文化財保存修復研究国際センター)のLATAMプログラム(ラテンアメリカ・カリブ海地域における文化遺産の保存)の一環として、INAH(国立人類学歴史機構、メキシコ)、ICCROM、当研究所の3者で国際研修を共催しました。本研修は、INAHを会場にして、今年で4回目の開催です。
 研修前半は当研究所が担当し、ポルトガル、ベリーズ、チリ、コロンビア、キューバ、メキシコ、ウルグアイ、ベネズエラの8カ国から、9名の文化財修復の専門家が参加しました。本研修では、日本の紙文化財の保存修復技術を海外の文化財へ応用することを目的に、日本の文化財保護制度の紹介から始まり、修復に関連する和紙や接着剤等の材料、国の選定保存技術のひとつである装こう修理技術の基本的な知識等を講義した上で、実習を行いました。実習は、プログラムの一環で当研究所において数ヶ月間装こう修理技術を学んだINAH職員が共に遂行しました。日本人講師の実演を踏まえて、糊炊き、作品のクリーニング、補修、裏打ち、張り込み等の和紙の特性を活かした装こう修理技術の基礎を体験してもらいました。研修後半は、メキシコとスペイン、アルゼンチンの文化財修復の専門家によって、欧米の保存修復における和紙の応用等についての研修が行われました。この様な技術交流を経て、日本の保存修復技術への理解の深化と海外の文化財保護への貢献ができるよう、同様の研修を継続する予定です。

第29回ICCROM総会

会場概観
審議の様子

 2015年11月18日から20日にかけてイタリア・ローマで開催されたICCROM(International Centre for the Study of the Preservation and Restoration of Cultural Properties)の第29回総会に参加しました。ICCROMは、1956年のUNESCO第9回総会で創設が決議され、1959年以降ローマに本部を置いている政府間組織です。ICCROMは世界遺産委員会の諮問機関としても知られていますが、動産、不動産を問わず、広く文化遺産の保存に取り組んでいます。当研究所では特に紙や漆を用いた文化財の保存修復研修を通じてその活動に貢献してきました。
 総会は2年に1度開催されており、例年通り、約半数の理事の任期が満了するのに伴い選挙が行われました。選挙の結果、当研究所の川野邊渉が理事に再任されました。そのほか、UAE、フランスの理事も再任され、アイルランド、アルゼンチン、イラン、オランダ、カナダ、韓国、チュニジア、ノルウェー、ヨルダンからは新たな理事が選出されました。
 また、今年の総会からテーマ別討論が行われることになり、「Climate Change and Natural Disasters: Culture cannot wait!」というテーマの下、各国の災害対策や復興事例が紹介されました。その中で、今年3月に仙台で開催された第3回国連防災世界会議で「仙台防災枠組2015-2030」及び「仙台宣言」が採択されたことも大きく取り上げられ、各国の日本に対する期待の高さを実感しました。
 当研究所では、今後もこうした国際会議に参加し、文化財保護に関する国際的動向について情報を収集するとともに、日本の活動について広く発信していきたいと考えています。

10月施設見学

文化遺産国際協力センターの取組について説明を受ける様子

 東京学芸大学 9名
 10月5日、当研究所で行っている国内外の文化財研究や文化財保護協力といった最新活動に対する理解を深め、今後の学習に活かすために来訪。企画情報部の資料閲覧室、無形文化遺産部の実演記録室及び保存修復科学センターの保存科学研究室を見学し、各担当研究員による業務内容の説明を受けました。また、文化遺産国際協力センターでは、当研究所の国際的な取組について、研究員による説明を受けました。

企画情報部「第49回オープンレクチャー モノ/イメージとの対話」の開催

会場の様子

 企画情報部では、10月30日(金)、31日(土)の2日間にわたって、オープンレクチャーを当所セミナー室において開催しました。日頃の研究の成果を広く一般に講演の形で発信するものとして毎年行われており、今回で第49回を迎えました。本年は当所研究員2名に加え、外部講師2名を迎え、各1時間余の講演が行われました。
 第1日目は、皿井舞(企画情報部主任研究員)「仁和寺阿弥陀三尊像と宇多天皇の信仰」、増記隆介(神戸大学准教授)「十世紀の画師たち―東アジア絵画史から見た「和様化」の諸相―」。皿井は宇多天皇が造立した阿弥陀三尊像について、その図像的特色とこれが宇多天皇を中心とする宗教史的歴史的背景といかに関わっているかを述べ、増記氏は中国における10世紀頃の山水画の変化を史料から読みとり、その日本への影響について考察されました。第2日目は、安永拓世(企画情報部研究員)「与謝蕪村の絵画に見る和漢」、吉田恵理(静岡市美術館学芸係長)「池大雅の山水画を考える―二つの「六遠図(りくえんず)」を手がかりに―」。安永は江戸時代の代表的な画家である与謝蕪村の絵画において「和」と「漢」が彼の表現の中でどのように意識され、混交され、実作品にどのように表れているかを述べ、吉田氏は蕪村と並ぶ江戸画家・池大雅が描いた「六遠図」を中心に、それが中国の絵画理論を源としながらもユニークなものであること、日本的「文人画家」としての大雅の絵がどのように形成されていったかを諸作品の筆法、また作品に関わった人々との関連によって講演されました。
 第1日目は138名、第2日目は109名の多くの聴衆を迎え、アンケートに回答いただいた方のうち、「大変満足した」と「おおむね満足だった」が合わせて8割以上と好評をいただきました。

国際シンポジウム「日本美術史研究の現在―グローバルな視点から」への参加

 様々な分野でグローバル化が課題となっている中で、美術史学においても「世界美術史」や「グローバル美術史」への試みがなされるようになっています。そうした状況を踏まえてハイデルベルク大学東アジア美術研究所の主催により、国際シンポジウム「日本美術史研究の現在―グローバルな視点から」が10月22日から24日まで、ハイデルベルク大学のカールジャスパー・センターで行われました(http://sharepoint2013.zo.uni-heidelberg.de/zo-conference-hub/conf-iko/histories-of-japanese-art/SitePages/Home.aspx)。同シンポジウムは石橋財団がハイデルベルク大学への日本からの日本美術史客員教授派遣する支援をする「石橋財団日本美術史客員教授制度」の創設10周年を記念したもので、1「世界の創出―空想の日本」、2「東アジアからの輸出美術品の拡散」、3「20世紀初頭の芸術界における日中関係」、4「日本美術と公衆の語り」、5「欧米における東洋美術品収集と世界美術史の形成」、6「戦後美術の同時代性」、7「国際展における「日本」」の7つのパネルによる構成で、22名の研究発表と各パネルでの討論、クリスティン・グート氏(ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館)Christine Guth (Royal College of Art and V&A Museum, London)とタイモン・スクリーチ氏(ロンドン大学)Timon Screech (SOAS, London) の2名による基調講演が行われました。当所から山梨が招かれて参加し、パネル5で「ダーウィン著『種の起源』と世界美術史の始まり」(インゲボルグ・ライヘル氏、フンボルト大学、Ingeborg Reichle , Humboldt University, Berlin)、「ドイツ帝国における東洋美術品収集と世界美術史の状況」(ドリス・クロワッサン氏、ハイデルベルク大学、Doris Croissant , Heidelberg University)に先立って「美術商林忠正―欧米と日本の異なる「美術」概念のはざまで」というテーマで発表しました。3日間の発表と討論を通じて、大航海時代以後、人、物、知識・情報の移動が激しくなり、日本美術品や日本美術史についても様々な地域で異なる語りがなされてきたことが明らかになりました。シンポジウムの報告書は2017年に刊行される予定です。

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