アンコール・タネイ遺跡保存整備のための現地調査Ⅺ‐東門周囲および中心伽藍の整備

東門再構築後の補修作業
東門周囲仮排水路敷設に伴う考古調査
中心伽藍東塔の危険箇所 応急補強置き替え

 東京文化財研究所では、カンボジアにおいてアンコール・シエムレアプ地域保存整備機構(APSARA)によるタネイ寺院遺跡の保存整備事業への協力を継続しています。令和4(2022)年6月12日から7月3日にかけて、修復中の東門の手直し工事の確認、東門周囲の排水路敷設に関する考古調査、および中心伽藍の危険箇所調査のため、職員2名、客員研究員1名の派遣を行いました。
 東門修復工事については、同年1月の派遣時に確認した要補修箇所について、5月からAPSARAが先行して手直し作業を開始していました。今回はその作業状況を確認すると同時に、石材の欠損箇所の補修や彫刻等の仕上げ精度についてAPSARAとさらなる協議を行いました。これによりいくつかの追加作業が生じたものの、6月末には、ほとんどの作業が完了しました。
 また、以前より、東門周囲地表の排水状況改善が課題となっていましたが、APSARAとの協議の結果、東門の西側から北濠へと達する仮設の排水路を設けることとなりました。このため間舎裕生客員研究員を派遣し、排水路敷設に伴う考古調査を行いました。東門やテラスが建設された当初の地盤面を傷めないよう確認しながら水路を掘り進め、延長約30mの仮設排水路が完成しました。10月までの雨季の間、現地スタッフと協力しながら、その効果を経過観察する予定です。
 中心伽藍においては、APSARAリスクマップチームとの協議で対策の優先度が最も高いとされた中央塔と東塔について、建物周囲に足場をかけ、詳細な危険箇所調査を実施しました。これらの危険箇所に既設の木製補強は虫害等による劣化が著しく、以前から耐久性のある材料での更新が求められていましたが、今回、APSARAの要望によって、応急的に足場用単管で木製補強を置き替えることとなりました。不均衡な荷重伝達による石材の欠損や亀裂の状況を確認しつつ、必要最小限の補強となるよう、現場でAPSARAスタッフと議論しながら、中央塔1カ所、東塔3カ所について補強の更新を実施しました。また、これらの危険箇所に見学者が立ち入らないよう、見学路に仮設柵を設けて安全対策を行いました。
 さらに、APSARA観光局がタネイ寺院遺跡を含む一帯をめぐる自転車ツアーを企画していたことから、同局ともワーキングセッションを行いました。見学施設の整備についてアイデアを交換し、遺跡の保護と見学者の安全確保、見学者への遺跡理解を促進する方法等を検討しました。今後、本遺跡にふさわしい保護と観光の両立のあり方について、整備の過程の中でさらに議論を深められればと思います。

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