文化財保存修復に係るトルコ共和国での事前調査

ケスリク修道院の壁画
エフェソス遺跡の壁画

 令和4(2022)年6月26日〜7月9日までの期間、トルコ共和国において文化財保存修復に係る共同研究事業確立に向けた事前調査を実施しました。この共同研究は、平成29(2017)年〜令和元(2019)年に東京文化財研究所が実施した「トルコ共和国における壁画の保存管理体制改善に向けた人材育成事業」を通じて課題に挙がった保存修復計画の運用方法や現行の保存修復技法について、持続可能な改善策を講じることを目的とします。文化財の保存において応急処置が最優先されてきた同国において、近年では各種素材に特化した保存修復専門家の育成に力が注がれはじめています。
 今回の調査では、トラブゾン、シャンルウルファ、カッパドキアの各地域やセルチュクなど、複数の都市を訪れ、各地に残された文化遺産の保存状態や保存修復方法について現地専門家と意見交換を行いました。カッパドキア地域の南部に位置するキリスト教のケスリク修道院では、内壁に描かれた壁画が1000年以上にわたる典礼奉仕による蝋燭の煤汚れのため黒い層で覆われており、保護と観光活用の双方の観点から原状の回復が望まれました。また、古代ローマ時代の遺跡であるエフェソスでは、長年この地で発掘調査を続けるオーストリア考古学研究所のメンバーと協議するなかで、統一性を欠いた保存修復方法の見直しや、基本方針の確立を目指した研究の必要性について説明を受けました。
 調査には、さきの人材育成事業でもご協力をいただいたアンカラ・ハジ・バイラム・ヴェリ大学の先生方にも同行いただきました。今後は、今回の調査結果を踏まえて、取り組むべき課題を明確にしながら、各協力機関と共に実施可能な共同研究の枠組みを作っていく予定です。現状のトルコ共和国における文化遺産保護や保存修復活動の更なる発展に繋がる研究となるよう、来年度からのスタートを目指します。

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