第46回世界遺産委員会への参加


令和6(2024)年7月21日~31日、第46回世界遺産委員会がインドのニューデリーで開催され、東京文化財研究所から文化遺産国際協力センター3名、文化財情報資料部1名の計4名がオブザーバーとして参加しました。
委員会では、世界遺産条約の締約国や諮問機関の代表らが一堂に会し、世界遺産の新規登録や保全状況などの審議が行われます。新規登録では、今回24件が新たに登録され、世界遺産の総数は1223件となりました。わが国で大きく報道された「佐渡島の金山」については、イコモスが登録には情報が不十分として範囲の修正などを求める勧告を出していましたが、勧告に対する日本政府の対応を受けて、全会一致で世界遺産への登録が決まりました。保全状況の審議では、高速道路の建設が計画されるイギリスの「ストーンヘンジ」など危機遺産入りを勧告された4資産の記載がいずれも回避された一方、戦禍による破壊が危惧されるパレスチナの「聖ヒラリオン修道院」は、世界遺産登録と同時に危機遺産リストへの記載が決議されました。
会期中に開催されたサイドイベントでは、様々な加盟国や関係団体から世界遺産を取り巻く最新の動きが紹介されました。また、サイトマネージャーや若手専門家を対象としたフォーラムも同時期に開催され、本会議の外でも、持続可能な遺産管理などの喫緊の課題をテーマとした活発な議論が行われました。
世界遺産委員会への現地参加は、オンラインでは得難い最新の国際動向を知り得るまたとない機会です。当研究所では来たる11月に「世界遺産研究協議会」を開催するなど、今回の内容を含む情報発信に引き続き取り組んでいきます。
第31回文化遺産国際協力コンソーシアム研究会「技術から見た国際協力のかたち」の開催


文化遺産国際協力コンソーシアム(東京文化財研究所が文化庁より事務局運営を受託)は、令和4(2022)年8月28日に第31回研究会「技術から見た国際協力のかたち」をウェビナーにて開催しました。
新たな技術の導入によって、文化遺産に関わる様々な作業が効率化・高精度化されるとともに、調査・研究手法や国際協力のあり方そのものにも変化がもたらされています。本研究会は、日本が関わる文化遺産国際協力の現場における具体的事例を紹介しつつ、多様な社会的・文化的背景のもとで行われる活動の中で私たちは次々と現れる新技術にいかに向き合うべきか、について議論することを目的としました。
はじめに亀井修氏(国立科学博物館)による「社会における技術の変化:テクノロジーとどのように向き合うか」と題する報告で技術の特質について概観した後、下田一太氏(筑波大学)による「複数国の協力による技術導入:カンボジア・ライダーコンソーシアムの設立による遺産研究と保護」で複数国協力による大規模な技術導入の事例、野口淳氏(金沢大学)による「身近な最新技術で文化遺産保護を広める:誰もが取り組める計測記録を目指して」で汎用的技術の導入を通した人材育成の事例が、それぞれ報告されました。
これらの講演を受けて、亀井氏と友田正彦事務局長(東京文化財研究所)のモデレートのもと、講演者を交えたパネルディスカッションが行われ、活発な意見が交わされました。本研究会の詳細については、下記コンソーシアムのウェブページをご覧ください。
https://www.jcic-heritage.jp/20220909seminarreport-j/
国際協力調査「海域交流ネットワークと文化遺産」報告書の刊行


古来より交流の舞台となったのは陸上だけではなく、海上もまたヒトとモノが行き来する舞台であり、「海の道」を通じて異なる文化や文明が出会ってきました。近年では、これまでの研究の中心であった陸から海へと視点を移して、海を切り口にグローバルヒストリーを捉え直そうとする潮流が生まれています。同時に、海を介した交流に関連する文化遺産の調査や研究、そして保護においても新たな視点が求められるようになってきています。
文化遺産国際協力コンソーシアム(東京文化財研究所が文化庁より事務局運営を受託)では、海の道を通じた交流によって遠く離れた地域を結ぶ多数の線が網の目を形成し、さらにはその影響が港湾などを通じて内陸部にも広がっていくことを「海域交流ネットワーク」と捉え、世界各国や地域での海域交流ネットワークに関わる文化遺産保護の動向を把握することを試みました。
2か年の調査の中で、27か国・29機関を対象にしたアンケート調査や、オンラインでの聞き取り調査、フォーラム・シンポジウムなど、様々な手法による調査や関連活動を実施した結果、海域を通じたヒト、モノ、文化の交流をめぐる多種多様な様相が浮かび上がりました。また、海域交流ネットワークに関連する様々な文化遺産の現状や、国際協力を通じた支援が期待される分野や活動に関する情報も寄せられました。詳細は国際協力調査「海域交流ネットワークと文化遺産」報告書をご覧ください。コンソーシアムでは、引き続き同分野における情報収集・発信に取り組んでいく予定です。(https://www.jcic-heritage.jp/publication/)
文化遺産国際協力コンソーシアムパンフレットのリニューアル



文化遺産国際協力コンソーシアム(以下コンソーシアム)は、海外の文化遺産保護国際協力に携わる様々な分野の専門家や諸機関が参加する拠点組織で、文化遺産に関する多様な活動における連携を促進し、効果的な国際協力を支援することを目的に活動を行っています。故・平山郁夫画伯の構想の下、平成18(2006)年に文化庁と外務省の共管で設立され、東京文化財研究所が事務局を受託運営しています。
コンソーシアムならびに日本の文化遺産国際協力の活動をより広く発信するため、パンフレットの大々的なリニューアルを行いました。これまでのパンフレットは、文字情報が多いコンパクトなものでしたが、今回は世界各地で行われる日本の文化遺産保護を通した国際協力のあり方や、それを支える平時の活動を具体的にイメージできるよう写真をふんだんに使用しています。人的破壊、気候変動、災害など、様々な要因によって被害を受ける文化遺産保護の難しさと、それに一丸となって取り組む専門家の姿が伝わる内容になったのではないかと思います。
パンフレットはコンソーシアムウェブサイトからご覧いただける他、コンソーシアム事務局で配布・発送しておりますのでお気軽にお問合せください。(https://www.jcic-heritage.jp/publication/)
文化遺産国際協力コンソーシアムによる令和3年度シンポジウム「海と文化遺産-海が繋ぐヒトとモノ-」の開催


文化遺産国際協力コンソーシアム(東京文化財研究所が文化庁より事務局運営を受託)は、令和3(2021)年11月28日にウェビナー「海と文化遺産-海が繋ぐヒトとモノ-」を開催しました。
人々の営みや当時の社会、歴史、文化を物語る証人として、海に関わる文化遺産が世界各地に残されるとともに、近年では最先端の技術や分析手法を通じて、海を介して運ばれてきたモノの由来も具体的に解明できるようになってきました。本シンポジウムは、海に関わる文化遺産をめぐる国際的な研究や保護の動向、世界各地における海の文化遺産にまつわる取り組みの事例や日本人研究者の関わりを紹介するとともに、この分野での国際協力に日本が果たしうる役割について考えることを目的に開催されました。
石村智(東京文化財研究所)による趣旨説明に続き、佐々木蘭貞氏(一般社団法人うみの考古学ラボ)による「沈没船研究の魅力と意義―うみのタイムカプセル」、木村淳氏(東海大学)による「海の路を拓く―船・航海・造船」、田村朋美氏(奈良文化財研究所)による「海を越えたガラスビーズ ―東西交易とガラスの道」、四日市康博氏(立教大学)による「海を行き交う人々―海を渡ったイスラーム商人、特にホルムズ商人について」、布野修司氏(日本大学)による「海と陸がまじわる場所―アジア海域世界の港市:店屋と四合院」の5講演が行われました。
続くフォーラム「海によってつながる世界」では、周藤芳幸氏(名古屋大学)と伊藤伸幸氏(名古屋大学)が加わり、東西の海と陸を介した交流、船と技術、地中海世界や新大陸世界での海域ネットワークの様相、海と文化遺産に関する国際協力をテーマとした4つのセッションで活発な議論が展開されました。
最後に、山内和也氏(帝京大学)が閉会挨拶を行い、人間が海へと漕ぎ出し世界を繋げてきたことを示す物証である、海にまつわる文化遺産を保護することの重要性が改めて強調されました。
シンポジウムをオンライン形式で行うのは初めての試みでしたが、世界11か国から約200名の方にご参加をいただき、盛況な会となりました。コンソーシアムでは引き続き、関連する情報の収集・発信に努めていきます。
本シンポジウムの詳細については、下記コンソーシアムのウェブページをご覧ください。
https://www.jcic-heritage.jp/20211209symposiumreport-j/
文化遺産国際協力コンソーシアムによる「アフガニスタンの文化遺産保護に関する緊急声明」の発表

アフガニスタン国内における急激な情勢の変化を受け、本研究所が文化庁より事務局運営を受託している文化遺産国際協力コンソーシアムは、令和3(2021)年8月18日付で「アフガニスタンの文化遺産保護に関する緊急声明」を発表しました。全文は以下の通りです。コンソーシアムでは引き続き、関係機関との連携を図りながら現地の情報を収集するとともに、文化遺産保護のための協力に尽力していきます。
「アフガニスタンの文化遺産保護に関する緊急声明」
政情の急変というアフガニスタンの大きな変革期のなか,同国に所在する歴史的文化遺産,とりわけ遺跡や博物館を標的とする不法な略奪や破壊活動が強く懸念される状況となっています。私どもは,貴重な文化遺産が重大な危機にさらされる可能性に対し,深刻な憂慮の念を抱いています。
文化遺産国際協力コンソーシアムは,我が国が文化遺産保護分野の国際協力において一層の役割を果たすため,関係機関や専門家の連携を推進することを目的として設立されました。2001年以来,アフガニスタンでの活動は,我が国が取り組んできた文化遺産国際協力の歴史の中でも主要な柱の一つとなっており,これまでアフガニスタンや国際機関などと協力して,同国の文化遺産保護に大きな成果をあげてきました。
文化遺産は人類の歴史を語る共有の宝であるとともに,国民の統合とアイデンティティーの拠り所として,また地域や国家の発展のためにも重要な役割を果たすことが広く認識されています。文化遺産に対する略奪や破壊を未然に防ぐために,すべての勢力や個人に対し,節度を保った冷静な行動を強く求めます。また,世界の人々とこのような憂慮を共有したいと思います。
ここに,アフガニスタンの文化遺産を保護するための協力への強い意志を表明するとともに,アフガニスタンのすべての人々の安全と一刻も早い状況の安定化を願ってやみません。
文化遺産国際協力コンソーシアム
会長 青柳 正規
文化遺産国際協力コンソーシアムによる第29回文化遺産国際協力コンソーシアム研究会「文化遺産にまつわる情報の保存と継承~開かれたデータベースに向けて~」の開催


今日、文化遺産に付随する情報をデータベースに記録することが、デジタルアーカイブをはじめとした記録技術の進化によって可能になるとともに、様々な地域特有の情報をデータベース上で継続的に収集するといった双方向的な取り組みも始まっています。文化遺産にまつわる情報の保存と継承の望ましいあり方を考え、この分野での今後の国際協力の可能性についても議論するため、文化遺産国際協力コンソーシアム(本研究所が文化庁より事務局運営を受託)は、令和3(2021)年8月9日にウェビナー「文化遺産にまつわる情報の保存と継承~開かれたデータベースに向けて~」を開催しました。
齋藤玲子氏(国立民族学博物館)による「フォーラム型情報ミュージアムプロジェクトとアイヌ民族資料の活用」、無形民俗文化財研究室長・久保田裕道による「無形文化遺産に関わる情報の記録と活用について」、林憲吾氏(東京大学)による「アジア近代建築遺産データベースの40年:その展開・変容・課題」の3講演が行われ、続くパネルディスカッションでは、近藤康久氏(総合地球環境学研究所)の司会のもとデータベースに記録する対象やデータベース作成を通じた国際協力の可能性について議論されました。
文化遺産にまつわる情報をどう残し、誰に伝えるかという点において、より多くの立場の人々が関わるようになるとともに、その方法も多様化してきています。コンソーシアムでは引き続き、関連する情報の収集・発信に努めていきたいと思います。
本研究会の詳細については、下記コンソーシアムのウェブページをご覧ください。
https://www.jcic-heritage.jp/jcicheritageinformation20210625/