研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

■東京文化財研究所 ■保存科学研究センター
■文化財情報資料部 ■文化遺産国際協力センター
■無形文化遺産部


韓国伝統文化大学校の一行を迎えて (資料閲覧室)

書庫を見学する李基星教授ほか

 令和5(2023)年9月1日、李基星氏(韓国伝統文化大学校)をはじめとする韓国の研究者・大学院生一行が、東京文化財研究所の資料閲覧室を訪問しました。一行は日韓文化財フォーラム(8月31日に早稲田大学にて開催)で研究発表をするため来日しており、日本滞在中の見学先として当研究所が選ばれました。

 資料閲覧室を訪問した一行は、東京文化財研究所の沿革と資料閲覧室の蔵書構成について研究員から説明をうけたのち、書庫を見学しました。昭和5(1930)年以来集められてきた当研究所の蔵書には、韓国美術史・考古学に関する貴重な資料も含まれており、一行は興味深く資料を閲覧していきました。

 文化財アーカイブズ研究室は、文化財に関する資料情報を専門家や学生に提供し、資料を有効に活用するための環境を整備することをひとつの任務としております。それは海外の専門家や学生に対しても例外ではありません。世界的に見ても高い価値を誇る当研究所の貴重な資料が、広く活用され、人類共通の遺産である文化財の研究発展に寄与することを願っております。

 ※文化財アーカイブズ研究室では、大学・大学院生、博物館・美術館職員などを対象として「利用ガイダンス」を随時実施しています。ご興味のある方は、是非案内(https://www.tobunken.go.jp/joho/japanese/library/application/application_guidance.html) をご参照のうえ、お申込みください。

(202309 / 田代裕一朗)

美術雑誌『國華』掲載作品図版の追加公開

扇面法華経(419号掲載)
配架の様子

 『國華』は、明治22(1889)年に創刊され、現在まで継続して刊行されている美術雑誌で、日本・東洋美術史分野の重要な学術刊行物として知られています。創刊以来、豪華な図版とともに優れた美術作品を紹介しており、そのひとつひとつが美術史研究における重要な基礎資料となっています。現在に至るまで130年以上、研究者たちによって営々と積み重ねられた基礎資料の量は膨大なものです。
 資料閲覧室では、平成26(2014)年に『國華』に掲載された作品の紙焼き図版を國華社よりご寄贈いただきました。この紙焼き図版は台紙に貼りつけて整理されており、その量は段ボール箱45箱分に及ぶものでした。資料の整理に取り組みながら、このうち800号[昭和33(1958)年]から1200号[平成8(1996)年]にかけて掲載された図版を先行公開しましたが、このたびこれに先立つ400号[大正13(1924)年]以降の掲載図版を追加公開いたしました。大正から昭和初期にかけての貴重な資料です。
 これらの作品図版は、先行公開された作品図版とともに資料閲覧室のキャビネットに号数順に配架されています。追加公開にあたって『國華』掲載作品図版全てを再度並べ直しましたので、以前より更にご覧になりやすくなったのではないかと思います。資料閲覧室にお越しの皆様には自由にご覧いただくことができますので、貴重な資料をぜひご活用ください。

(202306 / 田代裕一朗)

在朝日本人と韓国朝鮮美術史の形成について(予察)―令和5年度第2回文化財情報資料部研究会の開催

質疑応答の様子

 令和5(2023)年5月30日に「在朝日本人と韓国朝鮮美術史の形成について(予察)」と題して文化財情報資料部・田代裕一朗が発表を行いました。
 植民地期(1910-1945年)の朝鮮半島に滞在・居住していた「在朝日本人」のなかには、美術工芸の行政・研究・教育・収集・制作(製作)に関わった人士が少なからず存在しました。しかしこのような在朝日本人のなかには、朝鮮半島で没した例、日本引き揚げ後に活動をやめた例も多く、戦後の日本でその存在が忘却された人士も多数います。
 陶磁史研究を志し、韓国(大韓民国)に住み、当地で学んだ「在韓日本人」としての経歴を持つ発表者(田代裕一朗)は、自身と同じように朝鮮半島の地で過ごした日本人のことに関心を持ってきました。同時に彼らが現在の美術史認識に及ぼした影響は少なくないことを日々感じてきました。
 そのような観点のもと、発表者は陶磁史研究とは別に長期的な研究課題として、この在朝日本人の研究に取り組むことにしました。具体的には、美術史とその周辺分野で活動した在朝日本人を対象とし、①彼らによって形成された枠組み(歴史観、価値評価)と②人的ネットワークを分析し、1945年以後の韓国朝鮮における美術史認識にどのような影響を及ぼしたのか、解明を目指すものです。
 発表では、在朝日本人について関心を持つ契機となった朝鮮白磁の評価史研究(田代裕一朗、 「「秋草手」を通して見た近代日本の朝鮮白磁認識」、『美術史学研究』294号、韓国美術史学会、平成29(2017)年)について紹介したうえで、陶磁史研究と並行して取り組んできた資料調査で得た知見を紹介し、今後の展望について述べました。「予察」という題にある通り、今回の発表はあくまで研究の第一歩として構想を紹介するものでした。今後検討を進め、在朝日本人が韓国朝鮮美術史の形成に及ぼした影響を明らかにしていければと思います。

(202305 / 田代裕一朗)