在朝日本人と韓国朝鮮美術史の形成について(予察)―令和5年度第2回文化財情報資料部研究会の開催

質疑応答の様子

 令和5(2023)年5月30日に「在朝日本人と韓国朝鮮美術史の形成について(予察)」と題して文化財情報資料部・田代裕一朗が発表を行いました。
 植民地期(1910-1945年)の朝鮮半島に滞在・居住していた「在朝日本人」のなかには、美術工芸の行政・研究・教育・収集・制作(製作)に関わった人士が少なからず存在しました。しかしこのような在朝日本人のなかには、朝鮮半島で没した例、日本引き揚げ後に活動をやめた例も多く、戦後の日本でその存在が忘却された人士も多数います。
 陶磁史研究を志し、韓国(大韓民国)に住み、当地で学んだ「在韓日本人」としての経歴を持つ発表者(田代裕一朗)は、自身と同じように朝鮮半島の地で過ごした日本人のことに関心を持ってきました。同時に彼らが現在の美術史認識に及ぼした影響は少なくないことを日々感じてきました。
 そのような観点のもと、発表者は陶磁史研究とは別に長期的な研究課題として、この在朝日本人の研究に取り組むことにしました。具体的には、美術史とその周辺分野で活動した在朝日本人を対象とし、①彼らによって形成された枠組み(歴史観、価値評価)と②人的ネットワークを分析し、1945年以後の韓国朝鮮における美術史認識にどのような影響を及ぼしたのか、解明を目指すものです。
 発表では、在朝日本人について関心を持つ契機となった朝鮮白磁の評価史研究(田代裕一朗、 「「秋草手」を通して見た近代日本の朝鮮白磁認識」、『美術史学研究』294号、韓国美術史学会、平成29(2017)年)について紹介したうえで、陶磁史研究と並行して取り組んできた資料調査で得た知見を紹介し、今後の展望について述べました。「予察」という題にある通り、今回の発表はあくまで研究の第一歩として構想を紹介するものでした。今後検討を進め、在朝日本人が韓国朝鮮美術史の形成に及ぼした影響を明らかにしていければと思います。

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