研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


3月施設見学(1)

説明を受ける遺産保護センターの方々

シンガポール国立遺産局(National Heritage Board)下の遺産保護センター(Heritage Conservation Centre) 3名
 漆関係の分析機器導入のための漆研究目的に関する意見交換と調査機器類の調査のため来訪。分析科学研究室を見学し、各担当研究員による業務内容の説明を受けました。 

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3月施設見学(2)

説明を受ける凸版印刷株式会社の方々

凸版印刷株式会社 2名
 海外事業推進部で海外の遺跡保存にも貢献する活動しているので、見学したいと来訪。文化遺産国際協力センターの担当研究員による業務内容の説明を受けました。

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公開研究会「南蛮漆器の多源性を探る」の開催

公開研究会予稿集
公開研究会における討論の様子

 南蛮漆器とは、16世紀後半以後日本に到来したポルトガル人やスペイン人らの発注を受け、17世紀前半までの間に京都の蒔絵工房での制作のうえ欧米に輸出された独特の様式を持つ漆器です。こうした漆器の存在は国内では昭和10年代頃から知られるようになり、1970年代頃からは、かなりの数が日本に逆輸入され現在全国の博物館・美術館コレクションとなっています。また近年の調査では、スペインやポルトガルのキリスト教会などには、今なお多くが伝えられていることが分かってきました。この数年は、南蛮漆器に焦点を当てた展覧会も国内外で頻繁に開催されていますので、実際に目にされた方も多いのではないでしょうか。
 さて、南蛮漆器の特徴は、西洋式の器物を日本伝統の蒔絵や螺鈿技術で装飾した姿にあると言えますが、文様や材料、製作技術に対する美術史や文献史学、また有機化学、木材学、貝類学や放射線科学といった多面的な研究によって、この漆器は単にヨーロッパと日本との要素だけでなく、東アジア・東南アジアや南アジアといったアジア各地の要素も持ち合わせた大航海時代ならではの特徴的な文化財であることが明らかとなってきました。
 こうした南蛮漆器の多源的性格を具体的に跡付け、認識を共有することを目的として、この公開研究会は2017(平成29)年3月4日と5日の二日間にわたり当研究所で開催され、国内外の専門家11名による12本の報告と熱心な討論が交わされました。またこの研究会には、海外(欧米・アジア)から延べ25名、国内各地から延べ160名と多数の参加があり、南蛮漆器に対する国内外の高い関心が改めて実感されました。

松澤宥アーカイブに関する研究協議会の開催

松澤宥アーカイブに関する研究協議会の様子

 3月14日、研究プロジェクト「近・現代美術に関する調査研究と資料集成」の一環として、松澤宥アーカイブに関する研究協議会を行いました。
 松澤宥(1922-2006)は、独自のコンセプトによる作品とパフォーマンスで知られ、東洋的な宗教観、宇宙観、現代数学、宇宙物理学等を組み入れながら思考を深め、そこから導き出された思想、観念そのものを芸術として表現した、日本だけでなく、国際的にみても「コンセプチュアル・アート」の先駆的な存在として語られる重要な人物です。この研究協議会は、一般財団法人「松澤宥プサイの部屋」(理事長松澤春雄氏)が取り組んでいる同アーカイブの概要とその整備活動について、関係者と共有し、研究資料としての価値を確認するために開催したものです。まず以下の発表・報告をしていただきました。嶋田美子氏(美術家)「松澤アーカイブ構築にむけて 現況2017年3月」、細谷修平氏(東北芸術工科大学映像学科研究補助員)「松澤宥関連フィルムの調査及びデジタイズの現状報告」、山村みどり氏(当研究所特別研究員)「草間彌生書簡―松澤宥アーカイブを通して見えて来る草間彌生像」、富井玲子氏(美術史家、ポンジャ現懇主宰)「アーカイブ研究における松澤宥アーカイブの位置」(以上、発表順)。またこの後に行われたディスカッションでは、戦後日本美術の専門家を交えて、松澤宥アーカイブ整備の課題、日本の戦後美術から現代美術の作家アーカイブズの散逸防止、さらには作家アーカイブズ収蔵専門機関の必要性などについて意見交換が行われました。

カヌー文化研究会の開催

カヌー文化研究会の様子
海洋文化館におけるカヌー資料の調査

 平成28年度文化庁文化遺産国際協力拠点交流事業「大洋州島しょ国の文化遺産保護に関する拠点交流事業」の一環として、3月22日に本研究所で「カヌー文化研究会」を開催しました。本研究会では、本事業の相手国拠点機関である南太平洋大学(University of the South Pacific)から日本に招へいした4名の専門家(Peter Nuttall氏、Alison Newell氏、Samual London-Nuttall氏、Kaiafa Ledua氏)に研究報告をしていただきました。彼らは、風力などの再生可能エネルギーを用いた「持続可能な移動手段(sustainable transportation)」の開発において、大洋州の伝統的な航海カヌーの技術を活用する可能性を探る研究を推進する一方で、フィジーの古代カヌーの復元および実験航海にも携わっています。本研究会ではそうした彼らの取り組みについて発表していただきました。
 本研究会では日本の専門家3名からも研究報告をしていただきました。南山大学人類学研究所所長の後藤明氏からは小笠原諸島におけるハワイ式アウトリガー・カヌーについて、映像作家で無形文化遺産部客員研究員の宮澤京子氏からはカヌーに関する映像記録の方法について、海洋ジャーナリストで東京海洋大学講師の内田正洋氏からは日本におけるカヌー・カヤック文化の興隆について、それぞれ発表していただきました。そして最後に、発表者および参加者を交えての総合討論が行われました。本研究会には専門家を中心に20名あまりの参加者があり、熱のこもった議論と情報交換を行うことができました。
 本研究会の後、4名の招へい者は沖縄県を訪問し、本部町にある国営公園沖縄海洋博記念公園の海洋文化館を視察しました。海洋文化館は1975年の沖縄海洋博覧会の時に日本国政府パビリオンとして設立されたもので、当時収集された大洋州の民族資料のコレクションは世界有数の規模であり、とりわけカヌーのコレクションで著名です。ここで学芸員の板井英伸氏からの解説を受けながら、今では現地でもほとんど見ることのできないカヌー資料の調査をおこないました。また名護市内では、沖縄の伝統的木造漁船であるサバニを復元しているグループの工房を訪問する機会を得、情報交換をすることができました。
 大洋州だけでなく、日本列島を含む環太平洋地域の広い範囲には、かつてカヌーを駆るという文化が共有されていました。近代以降、こうした文化は各地で次々と消滅していきましたが、近年こうした文化を復興しようという「カヌー・ルネサンス」ともいうべき運動が各地で展開されています。それは例えばフィジーでのカヌー復元であったり、沖縄でのサバニ復元であったりします。今回の一連の事業は、こうしたカヌー文化の復興において大洋州と日本が連携できる可能性を示す、有意義なものであったと思います。

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『木積の箕をつくる―千葉県匝瑳市木積』の報告書とDVDの刊行

報告書とDVD

 2015年9月から調査を続けてきた千葉県匝瑳市木積の藤箕製作技術の報告書と映像記録が、3月末に刊行されました。
 この事業は、災害等により技術が失われた場合に復元を可能にする技術記録とは何かを検討するため、文化財防災ネットワーク推進事業の一環として行われました。伝承者の方々に協力をいただきながら、原材料の採集・加工から箕づくりまでの一連の工程を、7時間弱におよぶ映像と、文字・図版による報告書に記録しました。
 今後は映像や報告書の検証を行い、よりよい技術記録の可能性を探っていきたいと考えています。なお、報告書のPDF版およびDVDの映像は、東京文化財研究所無形遺産部のホームページにて2017年6月中旬頃に公開予定です。

イラン文化遺産セミナーの開催ならびにイラン文化遺産手工芸観光庁および文化遺産観光研究所との協力趣意書の締結

協力趣意書の締結

 イラン・イスラム共和国は、アケメネス朝ペルシアの王都ペルセポリスや、その繁栄ぶりから「世界の半分」と称賛されたイスファハーンなど、世界有数の文化遺産を有しています。
 東京文化財研究所ではこのたび、モハンマド・ハッサン・タレビアーン博士(イラン文化遺産手工芸観光庁副長官)およびモハンマド・ベヘシュティ・シラージー博士(イラン文化遺産観光研究所所長)をお招きし、3月29日に「イラン文化遺産セミナー」を開催しました。日本人専門家の講演とあわせて、お二人には同国の歴史文化的背景と文化遺産保護についての興味深いお話をいただきました。
 セミナー終了後、東京文化財研究所、イラン文化遺産手工芸観光庁、イラン文化遺産観光研究所の三者の間で趣意書を取りかわし、今後5年間にわたって、イランの文化遺産を保護するため様々な学術分野において協力することを約束しました。

ブータンの伝統的民家建造物に関する現地調査と研究協力協定書の締結

ティンプーでのMOU調印式
古民家調査の様子(プナカ県ツォサ村)

 東京文化財研究所では、平成23(2011)年度からブータンの版築造伝統的建造物に関する調査研究について、同国内務文化省文化局(DOC)と協力してきました。その契機は2009年と2011年に発生した地震によって伝統的工法で建てられた建物に大きな被害が生じたことで、公共民間を問わず建造物の耐震性能向上による安全性の確保と、現在も住宅建設等に広く用いられている伝統的工法の保護継承とをいかに両立させるかが喫緊の課題としてクローズアップされることとなりました。
 型枠内で土を突き固めて壁体を構築する版築造の建造物を対象に、その構造性能の把握分析と伝統的建築技法の解明という両分野で調査研究を継続してきましたが、民家を文化財として保存するための制度的枠組みも整いつつあることから、2016年度からは版築造の古民家建造物における基本的な形式分類と編年指標の確立を目的とした調査を科学研究費補助金(基盤研究B「ブータンの版築造建造物の類型と編年に関する研究」:研究代表者亀井伸雄所長)により実施しています。
 平成29(2017)年3月4日から16日にかけて行った共同現地調査では、ティンプー県及びプナカ県内で計16棟の古民家について実測調査等を行い、痕跡の観察や住民への聞き取り等とあわせて、当初形式や建築年代、過去の改造履歴等に関する考察のための情報収集に努めました。
 またこの間、本研究所とDOCとの協力関係をさらに強固にするため、両者代表による研究協力協定書への署名も行いました。有形無形の伝統文化を大切に守り続けていきたいというブータンの人々の思いに寄り添いつつ、歴史的建造物の文化的価値の明確化に寄与することができるよう、引き続き調査研究を続けていきたいと思います。

ネパールの歴史的集落保全に関する招聘研修

南砺市五箇山相倉集落における研修
実地研修後のワークショップ

 2015年4月に発生したネパール・ゴルカ地震によって被災したカトマンズ盆地内の歴史的集落の多くで、現在も復興に向けた取り組みが続けられています。しかし、その過程で伝統的な建物が取り壊されて現代的な建物が新築されてしまうなど、必ずしも文化的価値の保全と復興とが両立しているとは言えないのが現状です。その背景には、たとえ住民を含む関係者が望もうとも、そもそも歴史的集落を文化遺産として保全するための体制が十分に整っていないという問題があります。
 保全制度の確立に向けては、ネパール政府の関係当局も決して手をこまぬいている訳ではありませんが、保全を実施するのは最終的には対象の集落を所管する地元行政による部分が大きく、保全のためのガイドラインを作成する主体についても同様です。そこで前報の通り、昨年11月末、カトマンズ盆地内の世界遺産に含まれる歴史的街区や同暫定リスト記載の歴史的集落を管轄する6市に呼びかけて、それぞれの現状と課題を共有するとともに、わが国の保全制度についても情報提供するための会議をネパール現地で共催しました。
 これに続いて今回、3月4日から12日にかけて、上記会議でも中心的な役割を担った各行政の担当者ら8名を日本に招聘し、歴史的集落の保全制度(伝建制度)に関する実地研修を実施しました。輪島市黒島地区や南砺市五箇山相倉集落など北陸・中部地方の重要伝統的建造物群保存地区等を訪問して地元の行政担当者や関係者から説明を受けるとともに、参加者それぞれが所管する歴史的集落または街区が抱える課題や現状と比較しながら活発な意見交換が行われました。
 ネパールの歴史的集落の復興において、本研修の参加者が核となって適切な保全体制を構築していくことを目指しながら、今後も技術的支援を継続していきたいと考えています。

2月施設見学

説明を受ける公益財団法人文化財建造物保存技術協会の方々

公益財団法人文化財建造物保存技術協会 10名
 文化財建造物修理技術者の養成研修事業において、修理技術者の将来の保存修理技術の向上に役立てるため来訪。実演記録室、文化財情報資料部、X線撮影室、生物実験室を見学し、各担当研究員による業務内容の説明を受けました。

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東京国立博物館蔵准胝観音像及び普賢菩薩像の共同調査

准胝観音像の画像撮影

 文化財情報資料部では、東京国立博物館とともに、東博所蔵の平安仏画の共同調査を継続して行っています。東京文化財研究所の持つ高精細のデジタル画像技術で撮影し、細部の技法を知ることのできるデータを集積しつつあります。このデータからは、目視では気づかれることのなかった意外な技法を認識することができ、それらが平安仏画の高度な絵画的表現性といかに関連しているかを両機関の研究員が共同で探っています。2月23日、重要文化財・准胝観音像と国宝本年度分の全図の高精細でのカラー分割写真の撮影行いました。今後は博物館と共同で他の光学調査手法も取り入れ、より多面的にデータを取得し、博物館の研究員と共有したうえ、将来の公開も視野に入れながら、その美術史的意義について検討してまいります。

バガン漆芸技術大学における漆工品ワークショップの開催

漆工品の調査実習
クロスセクションサンプルの顕微鏡観察実習

 文化遺産国際協力センターは、ミャンマー連邦共和国における文化遺産保護事業の一環として、バガン漆芸技術大学において漆工品ワークショップを開催しました。バガンは漆工品の一大産地として知られています。同大学はその伝統と技術を継承するため若い技術者の育成に力を入れており、また付属の漆工品博物館を備え、数多くの文化財を所蔵しています。その一方で、文化財の保存修復や材料の科学調査および研究に関する知識と技術を必要としています。
 平成29(2017)年2月6日~8日に実施したワークショップには同大学の教授と付属博物館の学芸員合計12名が参加し、漆工品の保存修復の基礎として不可欠である調査と科学分析について実習と講義を行いました。調査の実習では、各受講者が日本の漆工品3点と付属博物館の所蔵品1点を目視で観察・記録し、それぞれの用途や材料、技法、損傷状態についての意見交換後、講師が解説を行いました。また、科学分析の実習ではクロスセクションのサンプル作製と観察を行いました。実際の作品から剥離した断片を樹脂で封入し、研磨して仕上げたサンプルを顕微鏡で観察することにより、漆塗りの構造について理解することを目的としています。実習の内容を補完するため、講義では保存修復の事例と主な科学分析方法を紹介しました。
 本ワークショップでの経験が、ミャンマーにおける文化財保護の一助となればと考えています。

バガン(ミャンマー)における煉瓦造寺院外壁の保存修復方法に関する研究

防水シートの設置
ラッシングベルトの設置

 平成29年(2017)2月5日~28日までの期間、ミャンマーのバガン遺跡群内Mae-taw-yat寺院(No.1205)において、壁画保護のための雨漏り対策を主な目的とする煉瓦造寺院外壁の保存修復方針策定に向けた施工実験を行いました。前回までの調査を通じて課題となっていた修復材料の選定と外観美に配慮した修復方法について、ミャンマー宗教文化省 考古国立博物館局バガン支局職員と協議を重ねることで、具体的な方針案に関する有意義な意見交換を行うことができました。また、本事業の主軸テーマである壁画について、現地専門家の方に解説をいただきながら、技法の変遷や図像学について情報収集を行いました。
 現場作業を進める中では、昨年8月24日にミャンマー中部を震源とするM6.8の地震による被害が寺院構造体に発生していることが明らかとなり、当初の予定を一部変更して被災箇所に対する応急処置を行いました。バガン遺跡群において、煉瓦造寺院および内部に描かれた壁画に傷みをもたらす主な原因が雨漏りであることは明白です。構造体を補強するラッシングベルトと並行して、間近に迫った雨季に配慮した崩落防止ネットおよび防水シートの設置を行いました。
 今後は寺院建造時に使用された各種材料の化学分析を進め、これまで使われてきた修復方法を客観的に見直すとともに、新旧材料の適合性について研究を進めていきます。また、現在のバガン遺跡群に適した保存修復方法について、現地専門家とともに方針を組み立ててゆく予定です。

研究会「考古学的知見から読み取る大陸部東南アジアの古代木造建築」の開催

研究会の様子

 平成29(2017)年2月13日に研究会「考古学的知見から読み取る大陸部東南アジアの古代木造建築」を開催しました。本研究会では、ミャンマー、タイ、カンボジア、ベトナム及び日本の専門家が各国におけるこの分野での調査研究の状況に関して報告し、情報共有と意見交換を行いました。
 報告では、考古学的調査によって得られた知見を通して既に失われた木造建築の実像に迫るための各国の試みが紹介されました。ミャンマーからは、煉瓦で組まれた井戸状の掘立柱穴の列が出土したバガン王宮遺跡の調査について報告されました。カンボジアからは、アンコール地域で広範囲にわたって碁盤目状に配置されていた居住址の解明を目的として近年実施されてきた調査の成果が説明されました。タイからは、スコータイ遺跡群及びピッサヌロークのチャン宮殿遺跡において調査された礎石や出土瓦、煉瓦造の壁や柱に残る痕跡等から、それらの建造物にかつて存在したことが推定できる木造の柱・小屋組・壁の特徴に関して報告されました。中部ベトナムに関しては、林邑の遺跡から発掘された礎石・瓦当・燃損木部材、及びチャンパのミーソン遺跡に残る柱穴を手掛かりとした木造建造物の復原考察についての発表が行われました。さらに、北部ベトナムに関しては、タンロン皇城遺跡等の基礎地業や出土瓦の特徴、及び建築型土製品と現存古建築遺構の比較検討から得られる知見についての報告が行われました。
 各報告に続いては会場からの質疑が行われ、最後に日本におけるこの分野での調査研究状況に関する話題提供も交えて報告者全員での討論が行われました。
 多くの有意義な意見交換がなされた今回の研究会の成果も踏まえ、今後も情報共有の場を設けることなどを通じて、東南アジアの木造建築遺産に対する理解と研究協力を深めていきたいと思います。

1月施設見学

説明を受ける牧園大學校学生

 牧園大學校微生物ナノ素材学科大学3年生 8名
 文化財保存のための微生物管理技術習得ため来訪。生物科学実験室、実演記録室を見学し、各担当研究員による業務内容の説明を受けました。 

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文化財情報資料部研究会の開催―「赤瀬川原平による《模型千円札》理論の形成に関する予備的研究」

「〝千円札裁判〟へ ブツ・法廷・行為 第一回公判」(千円札事件懇談会事務局、1966年)東京文化財研究所所蔵
研究会の様子

 1月31日、文化財情報資料部研究会にて、「赤瀬川原平による《模型千円札》理論の形成に関する予備的研究」と題し、客員研究員の河合大介氏による発表が行われました。
 赤瀬川原平(1937-2014)は、前衛美術、漫画・イラスト、小説・エッセイ、写真といった多彩な活動を展開した芸術家です。河合氏の発表では、1963年に千円札の図様を印刷した作品を制作したことに端を発する一連の「千円札裁判」が結審するまでの期間に発表された、赤瀬川自身による著述の分析を中心に、赤瀬川の「模型」という概念がどのように形成されていったかに迫るものでした。河合氏は、起訴容疑の「通貨及証券模造取締法」違反にみられる「模造」に対して、「模型」という概念を赤瀬川が持ち出すことで、自らの制作物を芸術作品として歴史的・理論的に正当化しようとする試みがなさたことを示し、後年の執筆・制作活動においても「模型」概念に含意されている特徴を見て取ると指摘しました。
 研究会にはコメンテーターとして、水沼啓和氏(千葉市美術館)にご参加いただき、「千円札裁判」に関わる作家などの「芸術」という概念の相違、あるいはリレーショナル・アートとしてみる「千円札裁判」などの観点から所見をいただき、活発な意見交換が行われました。

文化財情報資料部研究会の開催

 1月12日に文化財情報資料部月例の研究会が、下記の発表者とタイトルにより開催されました。

  • 小山田智寛(当部研究補佐員)「WordPressを利用した動的ウェブサイトの構築と効果:ウェブ版「物故者記事」および「美術界年史(彙報)」を事例として」
  • 田所泰(当部アソシエイトフェロー)「栗原玉葉の画業におけるキリスト教画題作品の意義」

 小山田の発表は、当研究所ウェブサイトの改良実績に関する報告でした。当研究所では日本での美術界の動向をまとめたデータブックである『日本美術年鑑』を昭和11(1936)年より刊行してきましたが、一方で編集にあたり蓄積された展覧会や文献等のデータをウェブ上でも利用できるよう公開しています。なかでも、その年の美術界の出来事をまとめた「美術界年史(彙報)」と、亡くなった美術関係者の略歴を記した「物故者記事」について、平成26(2014)年4月よりソフトウェアWordPressを利用したデータベースとしてリニューアル公開することで、アクセス件数が大幅に増加しました。本発表では、そのリニューアル前後の公開形式を比較しつつ、新たな機能がもたらした効果について具体的な解析結果に基づき報告されました。
 田所は、大正期に東京で女性画家として活躍した栗原玉葉(1883~1922年)の画業に関する発表を行ないました。玉葉は大正7(1918)年から9年にかけて、集中的にキリスト教画題の作品を描いています。なかでも大正7年の第12回文展へ出品し、玉葉の代表作とされる《朝妻桜》は、禁教令下の江戸時代、吉原の遊女・朝妻がキリスト教を信仰した廉で捕らえられ、その最期の願いにより満開の桜花の下で刑に処されたという話を絵画化した作品です。発表では、《朝妻桜》の制作意図や玉葉の画業における位置づけについて検討し、さらに玉葉にとってキリスト教画題がどのような意義をもつものであったのか考察を深めました。なお栗原玉葉の画業全体については、すでに田所による論考「栗原玉葉に関する基礎研究」が『美術研究』420号(2016年12月刊)に掲載されていますので、そちらをご参照ください。

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第11回東京文化財研究所無形文化遺産部公開学術講座「麻のきもの・絹のきもの」の開催

公開学術講座の様子

 平成29(2017)年1月18日(水)に文化学園服飾博物館との共催で第11回東京文化財研究所無形文化遺産部公開学術講座「麻のきもの・絹のきもの」を開催しました。本講座では、我が国の染織を語る上では欠くことのできない「麻」と「絹」に焦点を当て、現在における麻と絹を取り巻く社会的環境の変化や技術伝承の試み、そして、受け継ぐ意義について、各産地で活動をされている方などから報告いただきました。
 麻については、昭和村からむし生産技術保存協会の舟木由貴子氏より「からむしの技術伝承―昭和村での取り組み―」、そして東吾妻町教育委員会の吉田智哉より「大麻の技術伝承 ―岩島での取り組み―」を報告いただき、植物としての麻を栽培する技術や植物から繊維を取り出す技術の重要性と伝承の難しさについて産地からの声を届けました。一方、絹に関しては岡谷蚕糸博物館の林久美子氏より近代化を支えた絹の技術革新と、その活動を残す意義についてご報告いただきました。
 その後、無形文化遺産部の客員研究員である菊池健策氏による講演「民俗における 麻のきもの・絹のきもの」、文化学園服飾博物館の吉村紅花学芸員による展覧会解説「展覧会 『麻のきもの・絹のきもの』の企画を通じてみた麻と絹の現状」の後、文化学園服飾博物館で開催されている「麻のきもの・絹のきもの」の見学会を行いました。
 麻のきものや絹のきものを取り巻く文化の継承には、その原材料である麻や絹そのものの技術が欠かせません。本講座を通じて、現在、麻も絹も伝承に多くの課題を持っていることを知っていただき、着物を作る技術だけでなく、その原材料である糸を作る技術の保護の重要性についての関心が高まればと思います。
 今後も無形文化遺産部では伝統技術を取り巻くさまざまな問題について議論できる場を設けていきます。

アンコール・タネイ遺跡保存管理整備計画策定ワークショップの開催

ワークショップの様子

 東京文化財研究所ではこれまで15年以上にわたり、アンコール・シエムレアプ地域保存整備機構(APSARA)との間で、共同研究や人材育成研修の実施等、様々な協力活動を行ってきました。この間、一貫してそのフィールドとなってきたのがアンコール遺跡群のタネイ寺院遺跡です。平成29(2017)年1月26‐28日の3日間にわたり、同遺跡に関する保存管理整備計画作りを支援するため、現地ワークショップを開催しました。
 本ワークショップには、APSARA機構のRos Borath副総裁をはじめ、遺跡保存、観光、森林、水利の各課から計約20名のスタッフが参加しました。初日はAPSARA本部にて遺跡保存管理の基本的な考え方や計画策定の手順等に関するレクチャーを行い、2日目はタネイ遺跡および周辺における現況確認調査、3日目は再び室内に戻って計画の基本方針と保存整備事業の方向性に関する検討作業を行いました。
 タネイ遺跡は、観光客で賑わう世界遺産アンコールのコアゾーン内にある主要遺跡の一つでありながら、鬱蒼とした密林に囲まれた廃墟の様相を今日も色濃く留めています。ワークショップでの議論の結果、このような景観をできるだけ維持しながら安全に遺跡を見学できるようにすること、遺跡へのアクセスを本来の経路に復するとともに来訪者が周辺遺跡との関係性を体感的に理解できるようにすること、など大きな方針について合意し、今後も関係各課が連携しながら、考古発掘等の調査も含めた具体的な事業内容の検討を着実に進めていくことで一致しました。本事業はカンボジア側主体で行われる遺跡保存整備のパイロットモデルとしても位置付けられており、このような作業が適切かつ円滑に進められるよう、本研究所としても必要な技術的支援を継続していきます。

寄附金の受入

㈱東京美術倶楽部淺木会長(中央)と亀井所長(右)
㈱東京美術倶楽部三谷社長(左)と亀井所長(中央)

 東京美術商協同組合(中村純理事長)より東京文化財研究所における研究成果の公表(出版事業)の助成を、また、株式会社東京美術倶楽部(三谷忠彦代表取締役社長)より東京文化財研究所における研究事業の助成を目的として、それぞれ寄附金のお申し出があり、11月30日に東京文化財研究所の口座にお 振込みいただきました。
 ご寄附をいただいたことに対して、株式会社東京美術倶楽部淺木正勝代表取締役会長及び三谷忠彦代表取締役社長にそれぞれ、亀井所長から感謝状を贈呈しました。東京美術商協同組合中村純理事長は、御都合により同席できなかったため淺木会長に中村理事長に代わって宛感謝状をお受け取りいただいております。
 当研究所の事業にご理解を賜りご寄附をいただいたことは、当研究所にとって大変ありがたいことであり、今後の研究所の事業に役立てたいと思っております。

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