令和5(2023)年度保存科学研究センター新規導入機器

 保存科学研究センターでは令和5(2023)年度に「ミクロトーム」「生物顕微鏡(偏光・位相差・微分干渉観察付)」「赤外線顕微鏡」を導入しました(図1)。これら新規導入機器についてご紹介します。
ミクロトーム
 試料を正確に切断する装置です。例えば、紙や布がどのような素材でできているか分析する時、試料を切断して断面を顕微鏡観察することがあります。従来は、剃刀など鋭い刃物で切断したり、樹脂に埋め込んで研磨したりしていました。しかしこれらの方法では、試料が変形する・樹脂に埋もれてしまい試料が観察しづらい・操作に熟練を要する、などの問題がありました。ミクロトームによりこれらの問題が解消し、紙や布の素材判別が容易になりました。実際の断面観察結果例を図2に示します。木材や漆器など有機物からなる文化財全般に適用できます。
生物顕微鏡
 偏光観察は結晶構造の観察に、位相差顕微鏡は微小構造の観察に、微分干渉顕微鏡は細胞や生体組織の観察に、それぞれ有効な観察法で、普通の顕微鏡観察では見えなかったものが見えるようになります。例えば、文化財に付着したカビや細菌の観察、紙や織物の繊維観察、文化財に用いているでんぷん糊や膠などの観察などに威力を発揮します。
赤外線顕微鏡
 赤外線カメラは文化財観察によく用いられますが、その顕微鏡版です。書画等で用いられる墨線やある種の染料がはっきり視認できるようになるため、素材の判別や、絵画の下地の観察などに利用することができます。
 これらの装置を用いて文化財分析を今後も進めていきます。

【図1】新規導入機器の写真

ミクロトーム
生物顕微鏡
赤外線顕微鏡

【図2】名塩雁皮紙の断面

メスで断面出し
ミクロトームで断面出し

メスで断面を出すと、大量に含まれる粘土鉱物が刃物で押されて雁皮繊維を覆い隠し、本来の姿が失われてしまう。ミクロトームで断面を出すと繊維間の隙間が確認され、繊維の中空構造なども損なわれていない。

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