ポルトガルで「発見」された2基のキリスト教書見台について―桃山・江戸初期の日葡関係と禁教実相を映す新出資料―令和5年度第9回文化財情報資料部研究会の開催

当研究所での書見台調査風景
研究会発表の様子
研究会後の書見台実見観察の様子

 令和6(2024)年1月23日に開催した文化財情報資料部研究会では、リスボン新大学のウルリケ・ケルバー氏と文化財情報資料部特任研究員・小林公治が、「ポルトガルで「発見」された2基のキリスト教書見台について―桃山・江戸初期の日葡関係と禁教実相を映す新出資料―」というテーマで発表しました。
 ここで報告した2基の書見台はキリスト教で聖書(ミサ典書)を置くためのもので、近年ポルトガルで確認された新出の資料です。ひとつは琉球、あるいはポルトガルの中国拠点であったマカオとの関係が指摘されてきたポルトガル・アジア様式のものですが、漆塗下の木胎面に墨書漢字が多数書かれています。もうひとつは1630年代に京都で造られヨーロッパに輸出された南蛮漆器ですが、通常イエズス会のシンボルマークIHSが表される中央部にはなぜか黒い漆が厚く塗られ松の木が描かれています。これまでにない特徴を持つこれらの書見台は歴史的な重要資料だと考えられたため、このたび日本まで持ち運び奈良文化財研究所と東京文化財研究所などで学術調査と研究報告を行うことになりました。
 発表者2名の研究と今回国内で実施した調査により、ポルトガル・アジア様式の書見台は1600年頃の製作で、七言律詩で書かれた漢字文には「マカオから離れ難い」という一文があるため、この漆塗螺鈿装飾がマカオでなされたこと、またこの頃の日本での書見台製作がマカオと密接に関係していたことを示しています。もう一方の南蛮漆器書見台は奈良国立博物館でX線CT調査を実施した結果、松の木の下からIHS紋の螺鈿痕跡が見つかったことから、迫り来る禁教圧力の中キリスト教器物であることを隠すため、中央部からキリスト教文様だけをはぎ取り松文様に塗り変えたことが判明しました。
 この研究会ではこうした事実を速報的に報告すると同時に、参加者にこれらの書見台を直接観察していただく機会にもなりました。今後は、両書見台に対するさらなる調査と研究を進め、その成果をできるだけ早く報告していきたいと考えています。

(NHK報道ウェブリンク: https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240218/k10014362331000.html

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