研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


第7回保存環境調査・管理に関する講習会-地球温暖化を見据えた持続可能な環境管理-の開催

講習会会場(オンライン併用)

 本講習会は保存環境の調査、評価方法、環境改善や安全な保管のための資材・用具等に関して、より専門的な共通理解を得ることを目的として、文化財活用センターと東京文化財研究所で共同開催しています。
 第7回目は「地球温暖化を見据えた持続可能な環境管理」と題して、令和6(2024)年3月1日に文化財活用センター会議室において開催されました。令和5(2023)年8月にオーストラリア・メルボルンで開催された “Changing Climate Management Strategies Workshop(気候変動に対する管理戦略ワークショップ)”に参加した保存科学研究センター兼文化財防災センター研究員・水谷悦子による報告がされ、ワークショップの内容の共有と課題抽出、ディスカッションが行なわれました。
 ワークショップでは、昨今の世界的な気候変動危機により、文化遺産をより持続可能な方法で保存活用する必要性が世界的に高まっていることを受け、各国の博物館において取り組む上での課題と解決手法について講義、実習、ディスカッションが行われたことが紹介されました。特に文化遺産の保存環境管理の歴史的経緯と温湿度のガイドラインの変遷に関する講義は今後の持続可能な管理戦略を進めていくうえで、肝要であることが示されました。それと同時に文化遺産へのリスク評価とモニタリング手法の講義があり、最終日は事例報告とディスカッションがなされ、非常に密度の濃いワークショップだったことが報告されました。
 ワークショップに参加した中で、日本においてはどのように管理戦略を進めていくか、水谷より日本における地球温暖化の影響と保存環境管理の課題提供がされました。会場には5名、リモートでは12名の保存担当学芸員や保存科学の専門家が参加し、保存環境の根本に関わる様々な質問が寄せられました。
 今回の講習会は持続可能な文化財の保存のための環境管理に関する海外の動向を知り、日本における地球温暖化と保存環境管理との向き合い方を改めて考える良い機会となりました。

持続可能な収蔵品のリスク管理 ワークショップ-HERIe Digital Preventive Conservation Platform の活用-の開催

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Łukasz Bratasz 氏による講義の様子
Michal Lukomski 氏による講義の様子
ワークショップの様子

 令和5(2023)年12月17日、東京藝術大学美術学部を会場に東京藝術大学大学院文化財保存学専攻と文化財防災センターとの共同で、「持続可能な収蔵品のリスク管理」と題したワークショップを開催しました。
 HERIe Digital Preventive Conservation Platform(https://herie.pl/Home/Info)はコレクションの展示および保存条件の安全性を評価する際に、博物館・美術館等の学芸員と保存の専門家との連携を支援するために、収蔵品に対するリスクの定量的評価を提供する意思決定支援のためのプラットフォームです。現時点で、大気汚染物質、光、不適切な温度や相対湿度などの環境劣化要因に対応するモジュールと、火災の危険度の推定を可能にするモジュールが含まれています。このプラットフォームは、欧州委員会とゲッティ保存研究所からの財政的支援を受けて、いくつかの機関によって開発されています。
 このワークショップは作品保存管理者、保存修復者などがプラットフォーム上で自分自身の館のデータを使用しながら、どのように活用できるか実地に体験してもらうことを目的として行いました。海外よりこのプラットフォームの開発者の一員である先生方を招き、活用方法や有効性について直接お話を伺い、実地に試せる非常に良い機会となりました。導入として、Łukasz Bratasz氏 (ポーランド科学アカデミー教授)から持続可能なコレクションの保存計画立案のためのプラットフォームについて紹介があり、コンセプトおよび構成の説明、そして博物館・美術館等における空気汚染物質と化学的劣化について紹介がありました。続いて、Michal Lukomski氏 (ゲッティ保存研究所博士)から機械的損傷のモデル化と博物館環境の評価ツールの使用について、Boris Pretzel氏(東京藝術大学大学院文化財保存学専攻招聘教授)からは光劣化ツールについて紹介があり、最後にBratasz 氏により防火評価ツールの説明がありました。展示ケースツールなどの他のツールについても紹介とデモンストレーションが行われ、受講生はそれぞれのツールを実際に使って、どのようなことができるプラットフォームなのかを理解しました。
 受講生からは大変有用なツールを教えていただいたので館に戻って活用したい、修復する際に工房へ持ち込んだ時の光の損傷など検討するのに役立てたいなど、プラットフォームへの理解が深まったという意見が多く寄せられました。
 このプラットフォームは無料で提供されているものなので、研修に参加された方々だけでなく、参加されなかった方々にも広く活用してもらいたいと考えています。

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