シダ籠の製作技術の調査
採取したシダをその場で切り揃える
籠の底部分を編む
令和5(2023)年12月25日、広島県廿日市市大野でコシダ(Dicranopteris linearis)を使った籠の製作技術を調査しました。
大野のシダ籠細工は明治30年代に静岡の職人を通して、新たな副業として当地に伝わったとされています(四国から伝わったとされる説もあり)。地形や気候がコシダの生育に適していた大野では良質な材料が豊富に入手できたことから、シダ籠は大正から昭和にかけて重要な産業に発達しました。昭和40年代以降、シダ籠づくりはプラスチック製品の台頭によって急速に衰退しますが、伝統的な技を残そうと平成9(1997)年から技術伝承の講習会が開かれ、現在まで技が繋がってきました。
籠編みにはコシダの葉柄(軸)部分を利用します。10月~翌3月ころ、1メートル程度まで伸びた葉柄を根本部分から刈り、釜で2時間ほど煮て、煮あがったものをよく揉んだら、そのまま籠編みに使える素材となります。タケ類や多くのツル性植物のように割ったり裂いたりする必要がなく、そのまま使えること、水に強く丈夫であることなど、きわめて優秀な素材と言えます。籠のなかでも最も一般的なのは「茶碗めご」と呼ばれる籠で、2時間ほどで編みあがります。
シダを用いた籠はかつて西日本を中心に各地で生産されていましたが、現在でも技が伝承されているのは、管見の限り、ここ大野と沖縄県今帰仁村のみです。日本には各地に籠のような編組品を作る技術が残っていますが、その素材には、地域の自然環境に合わせた多様な植物が選択され、巧みに利用されてきました。無形文化遺産部ではこうした自然利用の知恵と技を記録し、後世に引き継ぐために、引き続き、多様な素材による編組品の調査を進めていきます。