研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

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標津町におけるノリウツギ栽培地の視察と普及事業

ノリウツギの栽培を手掛ける古瀬氏
福西氏による紙漉き体験の様子

 東京文化財研究所は、文化庁の委託を受け、令和4(2022)年より「美術工芸品修理のための用具・原材料と生産技術の保護・育成等促進事業」に取り組んでいます。この事業は、入手が困難な修復材料の保護と、生産技術の継承を目的としています。今回は、令和8(2026)年6月24日~26日に北海道標津町(しべつちょう)で行われた、ノリウツギの栽培地視察と普及事業についてご紹介します。
 ノリウツギは、「宇陀紙(うだがみ)」という和紙の原材料の一つです。宇陀紙は文化財修復に欠かせない修復材料の一つですが、現在製作者が国内で1軒のみとなっています。その原材料でネリとして用いられるノリウツギも、安定的な確保が課題となっていました。こうした状況を受けて、文化庁の支援のもと、北海道標津町がノリウツギの出荷事業を令和4(2022)年度から行ってくださることになりました。標津町にはノリウツギが大量に自生しており資源は豊富にありますが、いずれ枯渇する恐れがあります。そこで、ノリウツギの持続的な供給を目指して栽培活動にも取り組んでいます。ノリウツギは種からの発育が難しく、採取可能になるまで時間がかかりますが、標津町の方々のおかげで少しずつ苗の出荷への体制も整いつつあります。標津町と当研究所は文化財修復材料の連携・協力に関する協定書を締結し、お互いの知見を共有しながら、今後のノリウツギの確保を図っています。
 標津町では、町民への理解促進を目的とし、宇陀紙製作者の福西正行氏(選定保存技術者)による講演および紙漉き体験会が毎年開催されています。今年は地域の小学6年生と高校2年生が参加しました。子どもたちからは、「本物の和紙作りを体験できてよかった」「自分たちが住んでいる標津町に、日本の文化を守るすごいものがあるなんて知らなかった」「自分の住んでいる町を誇りに思う、嬉しい」という声が上がりました。伝統文化への理解が深まるとともに、郷土への誇りを育む重要な機会となりました。
 今後も多角的なアプローチを行い、各専門機関と綿密に連携しながら、文化財修理基盤の維持・発展に向けた事業を推進してまいります。

(202606 / 羽生彩香, 西田典由, 石村智, 趙依寧)

「文化財保存修復に関するワークショップ―額縁の歴史・技法と保存修復について―」および「文化財保存修復に関する講演会―イギリスと日本における額縁の歴史と保存―」の開催報告

開講式後の集合写真

 保存科学研究センターでは、令和元(2019)年度以降、文化財の保存修復に関する研修事業に力を入れており、海外の専門家を招聘し、関係機関と連携して研修を実施してきました。昨年度までは国立アートリサーチセンターとの共催でしたが、本年度は新たに国立西洋美術館とも協働し、三機関による共同開催として本研修を実施しました。
 本年度の研修テーマには、東洋絵画における表装と同様、古くから絵画作品と深い関わりを持つ「額縁」を取り上げました。額縁は、絵画を鑑賞するうえで作品と切り離すことのできない存在でありながら、国内ではその重要性に対する理解が十分に浸透しておらず、保存修復に関する情報も極めて限られているのが現状です。こうした状況を踏まえ、イギリスのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館修復課の上級修復士であるバロウ由紀子氏を講師としてお招きし、令和7(2025)年10月29日から31日の3日間にわたり、文化財保存修復に関するワークショップ「額縁の歴史・技法と保存修復について」を開催しました。
 午前の講義は当研究所セミナー室で行い、イギリスにおける額縁の歴史や製作技法から、現代の保存修復の実際に至るまで幅広くご講義いただきました(参加者67名)。午後は国立西洋美術館の保存修復室に会場を移し、事前に選ばれた15名の参加者がギルディング、色合わせ、クリーニングなど、イギリスで行われている保存修復技術を実践的に学びました。
 また、11月1日には講演会「イギリスと日本における額縁の歴史と保存」を併催し、バロウ氏からはイギリスにおける額縁修復の歴史や修復士の仕事について、東京都美術館学芸員の中江花菜氏からは日本における洋風額縁の歴史についてご講演いただきました(参加者69名)。
 三機関の協力によるワークショップ開催は初めての試みでしたが、額縁に関する理論と実践の両面を包括的に学ぶことができ、今後の保存修復の発展に資する有意義な研修となりました。

ワークショップおよび講演会のより詳しい内容については、下記のリンクをご参照ください。
https://ncar.artmuseums.go.jp/reports/collections/conservation/workshop/post2026-3066.html

(202510 / 早川典子, 倉島玲央, 國方沙希, 一宮八重, 趙依寧, 羽生彩香, 秋山花子, 玉川みほの)