キルギス共和国および中央アジア諸国における文化遺産保護に関する拠点交流事業
文化遺産国際協力センターでは、キルギス共和国チュー河流域の都城址アク・ベシム遺跡を舞台に、ドキュメンテーション、発掘、保存修復、史跡整備に関する人材育成支援を2011年度からの4年間、文化庁委託事業として実施する予定です。中央アジア5カ国の若手専門家を育成し、将来的に中央アジア諸国の文化遺産保護に益することを目的としています。
今年度は10月6日から10月17日までの12日間、奈良文化財研究所およびキルギス共和国国立科学アカデミー歴史文化遺産研究所と協力して、第1回ワークショップを実施しました。今回のテーマは、遺跡のドキュメンテーションに関するもので、具体的には、遺跡の測量に関する座学を歴史文化遺産研究所で行った後、アク・ベシム遺跡でトータルステーションを用いた遺跡測量を実習しました。ワークショップには、キルギス共和国の8名に加えて、他の中央アジア各国からも1名ずつ、計12名の若手専門家が参加しました。研修生はいずれも測量技術を身につけようと、熱心に研修を受講していました。また、この研修を通じて、中央アジア各国の若手専門家の間にネットワークが構築されたことも、重要な成果の1つだったといえます。
今後も引き続き、中央アジアの文化遺産保護を目的とした様々なワークショップを実施していく予定です。
タジキスタンにおける壁画断片の保存修復(第12次ミッション)
10月9日から11月8日まで、「タジキスタン国立古代博物館が所蔵する壁画断片の保存修復」の第12次ミッションを実施しました。今回のミッションでは、タジキスタン南部のフルブック遺跡から出土した11~12世紀の壁画の保存修復を行いました。フルブック遺跡の壁画は、中央アジアにおける最初期のイスラム美術の遺物であり、類例の少ない貴重な資料です。本修復事業は住友財団の助成金を受けて実施されました。
フルブック遺跡から出土した壁画断片は、ほとんどが厚さ1cmにも満たない薄い状態であり、また全体に劣化が著しく取り扱いができないほど脆くなっています。本ミッションでは、2009年に実施した試験的な保存修復処置の結果をふまえて、3つの断片に対し、彩色層の強化、クリーニングと裏打ちを行いました。ふのり水溶液を壁画表面に数回噴霧し彩色層に一定の強度をもたせてからクリーニングを行いました。その後、割れてばらばらになった小断片を正しい位置に並べて固定しました。固定部分を保護し、断片全体をひとまとまりとして安定化させるため、断片の背面の凹凸に沿いやすい三軸織物を使用し裏打ちを行いました。
次回のミッションでは、他の断片のクリーニング、裏打ちを行うとともに、マウント方法の検討を行う予定です。
文化遺産国際協力コンソーシアム シンポジウム「文化遺産を危機から救え~緊急保存の現場から~」
2011年10月16日に、一般の方々を対象に、自然災害により被害を受けた文化遺産の緊急保存に関するシンポジウム「文化遺産を危機から救え~緊急保存の現場から~」を東京国立博物館平成館大講堂にて開催しました。
基調講演には、近藤誠一文化庁長官をお招きし、東日本大震災による文化財の被害状況と文化財レスキュー事業を中心にお話しいただきました。続いて、大和智文化庁文化財鑑査官、日高真吾国立民族学博物館准教授、宮崎恒二東京外国語大学理事、フランスのNGO である「国境なき文化遺産」のアンリ・シモン代表より、それぞれご報告頂いた後、「文化遺産への緊急対応の課題」と題したパネルディスカッションを行いました。
講演内容は、阪神・淡路大地震および今年の東日本大震災によって被害を受けた建造物、民俗文化財、文字文化財等の復旧事業から、海外の文化遺産への支援まで多岐に及びました。緊急的な文化遺産復旧に関する議論を通じて、日本の被災文化財保護の経験を活かし、今後とも被災文化遺産保護のための国際的取り組みに協力していくべきであることが確認されました。
国際研修「紙の保存と修復」
8月29日より9月16日まで、ICCROMおよび九州国立博物館との共催で国際研修を行いました。世界中から60名程の文化財関係者の応募があり、その中からインド、スイス、メキシコなどに所属機関がある10名が参加者として選抜されました。
この研修では紙、特に和紙に着目し、材料学から歴史学まで様々な観点からの講義を行いました。同時に実習では、欠損部の補填から、裏打、軸付けなどを行って巻子を仕上げ、さらに和綴じ冊子の作製も行いました。見学では、修復にも使用される手すき和紙の産地である岐阜県美濃地方を訪れて和紙製造の現場および紙の集散地として発展した美濃市美濃町伝統的建造物群保存地区を見学し、紙の製造から輸送、販売まで歴史上の和紙の流通について学習しました。さらに、伝統的な表装工房や道具・材料店を訪れ、日本における紙の保存修復のための環境についても学びました。
この研修で伝えられた技術や知識が、海外で所蔵されている日本の紙文化財の保存修復や活用の促進につながり、ひいては海外の作品の保存修理にも応用されることを期待しています。
第4回大洋州世界遺産ワークショップへの出席
9月5日から9日まで、サモアのアピアでUNESCOの第4回大洋州世界遺産ワークショップが開催されました。大洋州は全地表の3分の1の面積を占めているにもかかわらず、世界遺産の登録件数は多くありません。そのためUNESCOは、自国の文化や自然の世界遺産登録を目指す大洋州の島嶼国の代表者を集めて、そうした取り組みを支援するためのワークショップを開催しています。文化遺産国際協力コンソーシアムでは、今後増加すると思われる大洋州の国々からの文化遺産保護に関する支援要請に備えるため、今回のワークショップにオブザーバーとして参加しました。
会議には13の島嶼国と2つの海外領のほかに、オーストラリアとニュージーランドがドナー国として、またICOMOSやIUCN等の諮問機関も参加しました。これまでの各国の取り組みと世界遺産登録に向けた準備の進捗状況が報告され、また大洋州が一丸となって取り組んでいくための核になる大洋州遺産ハブの形成などについて検討されました。
大洋州はこれまで自然遺産の保護に積極的な地域でしたが、今後は文化遺産についても積極的に保護し、博物館などの整備に向けても取り組みを進めたい姿勢が感じられました。また、無形遺産にも関心が高く、今後は大洋州諸国から無形的側面を含めた文化遺産の保護に関する支援等が要請されるのではないかと予測されます。
モンゴル・アマルバヤスガラント寺院における研修およびワークショップ
文化庁委託・拠点交流事業の一環としてモンゴル教育文化科学省と共同で行っているモンゴル・アマルバヤスガラント寺院での活動も3年目となります。本年は6月下旬および8月下旬の2度にわたり、協力ミッションを派遣しました。
昨年度のワークショップで検討した内容に従って本年4月、文化遺産法に基づく保護区を設定する決定がモンゴル政府によって行われました。この保護区は、寺院本体だけでなく、周囲の景観や、寺院建設に関連する考古学的遺跡、さらには聖地や伝承地も含む広大なもので、そこでの開発規制等、具体的コントロールの内容を検討することが今年度の大きなテーマとなっています。地元のセレンゲ県が担当する保存管理計画策定作業の推進に向け、省・県・郡・寺院・住民の代表が参加するワークショップを各回とも開催しました。県側の作業体制立ち上げや基本情報収集等に遅れが目立つなど課題も少なくありませんが、計画に盛り込むべき基本的方針を県への提言としてまとめました。
これと並行して8月ミッションでは、日本の木造文化財建造物修理技術者を講師に、建造物保存修復調査に関する研修もモンゴル人若手技術者を対象として実施しました。この研修も一昨年、昨年に続くもので、実際に破損が進行している仏堂の一つを実測しながら、破損状況の定量的把握から、修理工事の積算に必要な数量調書の作成に至る作業の流れを実習しました。伽藍内の歴史的建造物は劣化・破損が進み、修理の緊急性がさらに高まってきています。修理の技術的水準を確保するには、依然モンゴル単独では対応が難しい状況は変わらず、日本を含む海外からの技術支援を求める声はますます大きくなりつつあります。これに今後どのように対処していくか、モンゴル政府側との意見交換を継続していく必要があります。
アジャンター遺跡の保存にむけた専門家会議2011開催
東京文化財研究所では、昨年度まで文化庁委託「文化遺産国際協力拠点交流事業」の枠組みにおいて、インド考古局(ASI)と共同で、アジャンター遺跡第2窟および第9窟における壁画の保存修復のための調査研究を実施しました。
そのフォローアップとして、文化遺産国際協力センターでは、2011年7月23日から28日までアジャンター遺跡を管理するインド考古局から、現地研究室の代表者チャンドラパンディアン氏を招へいし、27日に専門家会議を開催しました。
本会議では、共同作業で行った第2窟壁画の状態や損傷要因についての調査結果、また、第2窟、第9窟における高精細デジタル撮影によるドキュメンテーションの成果を報告しました。さらに、ASI側からは、アジャンター遺跡以外の遺跡も含めたASIの活動内容をご報告いただきました。アジャンター壁画が抱える問題を専門家間で共有するとともに、今後どのように壁画の保存を目指していくかを検討する貴重な機会となりました。
アルメニア共和国文化省との文化遺産保護のための協力に関する合意書の締結
6月24日に、アルメニア共和国文化省、アルメニア共和国歴史博物館と東京文化財研究所の間で、それぞれ文化遺産保護のための協力に関する合意書と覚書が締結されました。
合意書はアルメニア共和国において文化遺産保護活動を行うための包括的なものであり、共同作業や国内外ワークショップ等を通じて保存修復専門家の人材育成・技術移転を図ります。覚書についてはアルメニア共和国歴史博物館所蔵の金属考古資料の保存修復・調査研究とそれに関わる専門家の人材育成・技術移転のための協力に関するものです。
文化遺産国際協力センターでは、これらの合意書及び覚書に基づいて、平成23年秋から具体的な活動を開始する予定です。
キルギス共和国科学アカデミー歴史文化遺産研究所との文化遺産保護のための協力に関する合意書の締結
6月27日に、キルギス共和国科学アカデミー歴史文化遺産研究所と東京文化財研究所の間で、キルギスの文化遺産保護のための協力に関する合意書と覚書が締結されました。
今後、歴史文化遺産研究所と東京文化財研究所は、人材育成事業や文化遺産保護事業の共同実施、文化遺産に関する会議の共同開催を行います。
今年度より、チュー川流域の都城址アク・ベシムを対象にドキュメンテーション、発掘、保存、史跡整備に関する人材育成事業を実施していく予定です。
大エジプト博物館保存修復センタープロジェクト 労働安全衛生研修の実施とフェーズ2詳細計画策定調査への参加
文化遺産国際協力センターでは、国際協力機構(以下JICA)が行うエジプト国大エジプト博物館保存修復センタープロジェクトへの協力を継続的に行っています。 2011年4月27日(木)~5月5日(木)までの実質5日間、「労働安全衛生研修」を保存修復センター内で開催しました。東京芸術大学の桐野文良教授と東文研文化遺産国際協力センターの藤澤明が、講師としてJICAから現地へ派遣されました。エジプトでは文化財保存修復分野の高等教育機関において労働安全衛生について学ぶ機会がなく、エジプト人専門家達は日々の作業における安全衛生について疑問を持つことが多々ありました。これまで実施した研修の中から彼らの必要とする知識や技術を判断し、今回の研修実施に至りました。研修は大変好評で、繰り返し指導してほしいとの声が多く聞かれました。今後も定期的な研修実施を通して、修復専門家だけでなく清掃員に至るまで保存修復センターで働く全ての人が安全衛生に対する共通認識を持つことが目標です。また、5月27日(金)~6月4日(土)の9日間、JICAが行うフェーズ2(本格協力)詳細計画策定調査に東文研から3名が参加しました。専門家の執筆協力を受けて東文研が取りまとめたフェーズ2人材育成計画をもとに、JICAがエジプト側と今後の協力可能性について協議を行いました。その結果、JICAは引き続き保存修復センターで働く専門家の人材育成と技術移転への協力をエジプト側と約束し、今年7月以降の早い段階で、本格協力を開始することになりました。それに伴い、東文研もJICAと共により一層効果的な協力を行っていく予定です。
アルメニア共和国における文化遺産保護への協力のための準備ミッション派遣
文化遺産国際協力センターでは、文化庁委託『文化遺産国際協力拠点交流事業』の一環として、「コーカサス諸国等における文化遺産保護のための協力」を開始します。今年度はアルメニア歴史博物館を拠点とし、金属や染織品の考古遺物の保存修復に関する人材育成・技術移転を行う予定です。
アルメニア共和国には歴史上大変貴重とされる資料が数多く存在するにもかかわらず、資金・人材・教育機関・情報などの不足により、調査研究や保存修復が思うように進んでおらず、文化財保護分野の人材育成と技術移転において海外からの支援を強く望んでいます。
2011年4月3日(日)~13日(水)、準備ミッションを派遣し、博物館を管轄する文化省関係者との協議、アルメニア歴史博物館の保存修復施設や収蔵庫の視察、そこで働く保存修復専門家達と具体的な研究協力内容について直接話し合いを行いました。
その結果をもとに、現在、アルメニア側との合意書と覚書締結準備、およびアルメニア歴史博物館所蔵の金属・染織考古遺物の保存修復と自然科学的調査についてワークショップや共同作業を開始する準備を進めています。
アジア文化遺産国際会議「西アジアの文化遺産―その保護の現状と課題」
3月3日から5日までの3日間の日程で、イラク、シリア、レバノン、ヨルダン、バハレーンのアラブ5カ国の専門家を東京文化財研究所へ招き、日本の専門家と共に各国の文化遺産、その保護の現状について情報を交換し、今後の日本を含む各国間の連携による国際協力による保護活動の可能性について討論する会議を開催しました。文化遺産国際協力センターは、アジアの各地域について、文化遺産保護のための地域内ネットワークの構築と、日本の貢献を促進することを目ざし、中央アジア(2007年度)、東南アジア(2008年度)、東アジア(2009年度)の各地域の国々による国際会議を開催してきました。今回の会議は、これまで主に考古学や歴史研究での交流が盛んだった西アジア地域について、今後文化遺産保護という視点から新たなネットワークを構築していくための貴重な一歩となりました。
文化遺産国際協力コンソーシアム平成22年度総会および講演会「欧州における遺産:非政府的視点から」の開催
2011年3月11日(金)に標記総会および講演会を開催しました。総会では、コンソーシアムの平成22年度事業報告と、次年度事業計画が報告されました。これに続いて開催した講演会では、欧州の文化遺産保護のために活動するNGOであるヨーロッパ・ノストラの副会長ジョン・セル氏にご講演いただきました。はじめに、多言語や複雑な政治体制などヨーロッパの多様な文化が育まれた背景と、今日の文化遺産保護に係る条約や政策についての説明がありました。続いて、震災を受けたイタリアのラクイラなどにおける危機遺産保全キャンペーンや、優れた保存活動等を顕彰するヨーロッパ・ノストラ・アワードなど、ヨーロッパ・ノストラの活動についてご紹介いただきました。長年に亘って、文化遺産保護に関する連携・協力を推進してきたヨーロッパ・ノストラの経験は、文化遺産国際協力コンソーシアムの今後の活動の在り方を考える上でも大いに参考となりました。
文化財保存修復国際研修に関する研究会の開催
文化遺産国際協力センターでは2月2日・3日の2日間にわたり、「海外の文化財保存修復専門家養成を目的とする国際研修等の実施に関する研究会」を、東京文化財研究所会議室にて開催しました。本研究会は、当センターが行っている「諸外国の文化財保護に係る人材育成」事業の一環として、国際研修のより効果的かつ実践的な実施に向け、国内外の研修実施機関との情報共有および意見交換の場として企画したものです。途上国を中心とする外国からの研修生を対象とした保存修復技術や能力開発の研修に焦点をあて、プログラムの具体的内容や教授方法、さらには研修成果の評価法や問題点などについて、海外4機関および東文研を含む国内3機関の担当者から報告を受けたのち、これらを踏まえて参加者による意見交換を行いました。
研修実施事例の分析を通じて、いくつかの共通課題が浮き彫りとなりました。主なものとしては、研修事業自体のマネージメント、研修の継続性とプログラム同士の相互連携、研修情報の共有などが挙げられます。このようなテーマでの研究会は従来あまり行われてきませんでしたが、今後も様々な機会を通じて、研修方法の改善や多国間での相互連携の可能性などにつなげていきたいと考えています。
ミクロネシア連邦における文化遺産国際協力コンソーシアム協力相手国調査 ~ナン・マドール遺跡~
文化遺産国際協力コンソーシアムでは2月18日から25日まで、ミクロネシア連邦のナン・マドール遺跡を対象として協力相手国調査を実施しました。この遺跡は6世紀から16世紀の間につくられたと伝えられており、92もの人工島とその上に建つ建造物からなっています。現在でも遺跡の全容は解明されておらず、神秘の遺跡といわれています。今回の調査は、遺跡の現状を調べるとともに、遺跡保護のために何が必要か把握し、我が国の協力の可能性を検討することを目的として行いました。
玄武岩の石柱を重ねてつくられた建造物には、崩壊した部分も多く見られました。その要因としては、自然風化やマングローブなど植物の繁殖が影響していると考えられます。さらには近年の温暖化にともなう水位上昇により、満潮時に水没する遺跡も見られました。このような点について今後詳細な調査を行い、管理計画を策定する必要があると考えられます。同時に、遺跡保護に関する現地の人々の理解を促進することも不可欠でしょう。いくつかの島や建造物は王の墓や祭儀場であったと伝えられています。遺跡そのものを守るとともに、このような伝承も含めた包括的な保護を図る必要性を強く感じました。
アルメニア共和国における文化遺産国際協力コンソーシアム協力相手国調査
文化遺産国際協力コンソーシアムは、2011年2月7日から13日まで、アルメニア共和国において協力相手国調査を実施し、東文研からは専門家として2名が参加しました。この調査の目的は、日本による同国における文化遺産保護分野での将来的な協力可能性を探ることにありました。
今回の調査では、文化遺産保護を管轄している文化省(写真1)をはじめ、歴史博物館、国立美術館、マテナダラン古文書研究所・博物館(写真2)、歴史・文化財科学研究センターといった保護や調査・研究に関わる諸機関を訪れ、担当者と面談を行うとともに、情報収集や意見交換を行いました。その結果、アルメニアがこの分野において今日抱える主要な問題として、ソ連邦からの独立後に生じた資金の不足やロシアを中心とした教育システムの終焉による人材育成面の困難などがあることが明らかとなりました。機器供与や博物館建設といったハード面の充実も必要ですが、同国にとっては文化遺産保護に関わる人材を育成することが急務であると感じられました。
今後の日本からの協力のあり方としては、アルメニアの研究機関と連携しながら、アルメニア人専門家の人材育成を主眼とした共同研究や研修などを実施していくことが考えられます。
国際研究集会「「復興」と文化遺産」の開催
第34回文化財の保存および修復に関する国際研究集会「「復興」と文化遺産」を東京国立博物館平成館において、1月19日から21日の3日間開催しました。自然災害、そして紛争からの復興過程、さらには社会変化の渦中における社会と文化遺産の関わりをめぐり、それぞれの状況に対応する3セッションを設けて、海外から10件、国内から4件の講演と、議長・講演者によるディスカッションが行われました。
文化遺産の意味や価値付けが社会状況によって変化する中で人々にとって復興されるべき文化遺産とは何かなど、多様な課題をめぐって活発な議論が交わされました。
本研究集会の詳細な内容については、来年度、報告書を刊行する予定です。
カンボジア、タイでの共同研究
(カンボジア タ・ネイ遺跡)
11月下旬から12月初旬にかけて、カンボジアとタイでそれぞれ現地の文化財に関する調査研究を実施しました。カンボジアでは、アンコール遺跡群のタ・ネイ遺跡で、遺跡の石材の上に繁茂する様々な生物、特に地衣類やコケ類と環境との関連について、イタリアのローマ第3大学のジュリア・カネーヴァ教授にも参加していただき調査を行いました。タイでは、遺跡保存に対する覆屋の効果について、東部のプラチンブリにあるラテライトに彫られた仏足石やレリーフ、スコータイのスリチュム寺院大仏などで観察を行うとともに、アユタヤやバンコクで仏像などに用いられている漆に関する調査を行いました。さらに、共同研究の相手先である文化省芸術局で、局長を交えて今後の共同研究の進め方について協議を行いました。
キトラ古墳の壁面取り外し作業終了
保存修復科学センターでは文化庁からの受託事業「特別史跡キトラ古墳保存対策等調査業務」の一環としてキトラ古墳壁画の取外しを行ってきました。昨年度より春と秋に集中的な取り外し作業を行っており、来年度の春期取り外しでの終了を目標にしてきましたが、予定より早く今期(2010年度秋)に石室内のすべての漆喰を取り外すことができました。東文研における機械・道具・材料の開発や改良と技術者の方達の作業への熟練により、迅速な作業を行うことができました。2004年の青龍の取り外しから始まった一連のキトラ古墳壁画保存事業は、これにて石室内の作業は終了し、以降、保存施設における壁画の修復処置に移行します。
アジャンター壁画の保存修復に関する調査研究事業~第5次ミッション報告
(アジャンター第2窟右祠堂右壁)
東京文化財研究所とインド考古局は、文化庁委託「文化遺産国際協力拠点交流事業」および運営費交付金「西アジア諸国等文化遺産保存修復協力事業」の枠組みのもと、アジャンター壁画の保存修復に関する共同研究を行い、これに必要な知識の共有と技術交流を目指しています。
アジャンター壁画は、基岩の亀裂からの浸水や、生物被害、人為的損傷に加え、過去の修復に起因する色調変化や彩色層の劣化といった多くの問題を抱えています。なかでも顕著なものとして、コウモリの糞尿による黒色化・白色化、そして壁面に塗布されたニス(シェラック、PVAC)の黄色化・暗色化が挙げられますが、効果的な保存修復手法が確立されていないのが現状です。このような課題に対処するために、今回の第5次ミッション(平成22年11月14日~12月4日)では、第2窟壁画を対象とした試験的なクリーニングを実施しました。昨年度までの科学分析およびドキュメンテーションの蓄積をもとに、インド人保存修復専門家と共同で、適切な保存修復方法の検討作業を行いました。
