研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


タジキスタン、アジナ・テパ仏教遺跡保存プロジェクト

調査によって明らかになったストゥーパのある中庭に面した南東の壁
タジク人専門家との共同作業の様子

 文化遺産国際協力センターは、4月16日から5月9日にかけて、ユネスコ文化遺産保存日本信託基金による「タジキスタン、アジナ・テパ仏教遺跡保存プロジェクト」の第3次ミッションを派遣しました。本プロジェクトの目的は、日干しレンガや練り土といった土構造物で構築された仏教寺院を保存することであり、文化遺産国際協力センターでは、過去の発掘調査以後に堆積した土砂や雑草を除去し、あわせて寺院本来の壁の位置や構造を明らかにする考古学的清掃や試掘調査を2006年より実施してきました。
 今回の調査では、ストゥーパ(仏塔)のある中庭に面した南東の壁を精査し、涅槃仏のあった部屋へとつづく入口を確認しました。また、遺跡の縁辺部2カ所で試掘調査をおこなったところ、それぞれで仏教寺院の外壁を検出することができ、仏教寺院本来の範囲を確認することができました。こうした成果は、遺跡を保存する際に重要な情報になります。なお、現地で実施されたすべての考古学調査は、タジク人の若手考古学者と共同で行われ、私たちが調査を実施する上で大きな助けとなりました。同時に、現地専門家の育成という点においても、意義のあるものになったと思われます。

シルクロード沿線人材育成プログラム

岡田文男講師(京都造形芸術大学)による授業
中内康雄講師(文化財建造物保存技術協会)による授業

 中国文化遺産研究院(2008年2月に中国文物研究所を改組して名称変更)と共同で実施する「シルクロード沿線文化財保存修復人材育成プログラム」は3年目を迎えました。今年は、春から3ヶ月間半、古建築保護修復班(2年改革の第1年目)を実施し、秋から2ヶ月間、土遺跡保存修復班(3年計画の第3年目)を実施する予定です。折しも今年は8月8日からの北京オリンピックを控え、その日程を避けるため、例年よりも早めの4月3日に春のコースがスタートしました。古建築コースは、新疆・甘粛・青海・寧夏・陝西・河南の各省から合計12名の研修生が参加し、1年目に理論講座と各種調査の実習、保護修復計画の作成を研修し、2年目に参加する修復実習作業のための基礎を身につけることを目的にしています。その1年目の現場実習の場所には、故宮博物院の支援を得て、故宮内部の頤和軒東側の一角が提供されています。3カ月半の期間中、日本側講師10名が参加し、中国側講師とともに指導にあたります。

アジア文化遺産国際会議「中央アジアの文化遺産と日本の貢献」の開催

会議の様子
ウズベキスタン考古学研究所壁画修復室見学の様子

 文化遺産国際協力センターは、アジアにおいて文化遺産の保護活動に携わる専門家の交流を促進するために、国際会議やワークショップを開催してきました。平成19年度からは、さらなるネットワークづくりを目指し、毎年アジア各地において専門家会議を開催することになりました。一年目は中央アジア地域に焦点を合わせ、3月12日から3日間、ウズベキスタンの首都タシュケントで開催しました。ウズベキスタンのほか、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、さらにユネスコの専門家を招聘し、各国における文化遺産保護活動の現状と課題について報告と討論を行いました。会議後、サマルカンドの遺跡、歴史的建造物、博物館、考古学研究所を見学し、文化遺産の保存・展示方法について意見を交換しました。参加者からは、日本を含む各国が直面している問題点、保護活動の事例を知ることができ有意義であった、今後も連携をはかり情報交換を行いたい、などの感想が寄せられました。

タジキスタン共和国の文化遺産保護のための協力に関する合意書の締結

 平成20年3月10日、タジキスタン共和国科学アカデミー、歴史・考古・民俗研究所と東京文化財研究所の間で、文化遺産保護のための協力に関する合意書と覚書が締結されました。合意書は包括的なもので、歴史・考古・民俗研究所と当研究所が協力して、タジキスタン共和国の文化遺産保護のための活動を行うこと、また、実際の保存修復作業やワークショップ等を通じて人材育成・技術移転を図ること等が、その内容に含まれています。覚書は、同研究所に所属する国立古物博物館所蔵の壁画資料の保存修復事業及びそれに係わる人材育成・技術移転のための協力に関するものです。文化遺産国際協力センターは、これらの合意書及び覚書に基づいて、平成20年度から具体的な活動を開始する予定です。

モンゴルでの文化遺産および国際協力に関する相手国調査の実施について

国立文化遺産センターでの布製品修復作業の様子
文学文化国家センターでのインタビューの様子

 2月26日から3月4日までの間に、文化遺産国際協力コンソーシアムの行う「協力相手国調査」の一環として、モンゴルでの文化遺産保護及び国際協力に関する情報収集を行いました。調査では、モンゴルの文化遺産保護に係わる主要な博物館、機関等あわせて12カ所で、それぞれ2時間から3時間程度のインタビューを行ってきました。モンゴルは1990年にそれまでの社会主義体制から民主主義体制に移行しましたが、その際に文化財行政にも大きな変化がありました。現在は、遊牧文化をはじめとするモンゴルの貴重な有形・無形の文化遺産を次世代に伝えていくための法整備や制度作りがようやく本格化してきたところであり、今後、人材育成や全国に広がる文化財の調査登録作業などが予定されているとのことです。

大エジプト博物館保存修復センター設立のための支援事業: 紙の保存修復ワークショップの開催

ワークショップの風景
ワークショップ参加者一同
大エジプト博物館保存修復センター長のナディア・ロクマ女史との一場面

 国際協力機構(JICA)は、円借款事業で建設中の大エジプト博物館に付属する保存修復センターに対して、人材育成・技術移転事業を行っています。今回、文化遺産国際協力センターは、その一環としてJICAの要請を受け、現地エジプトの保存修復専門家およそ20名に対し、2月24日から28日までの日程で、紙の保存修復ワークショップを開催しました。紙本修復家である坂本雅美さんを講師として、ヨーロッパの紙や日本の紙の製造法や特性、材質に関する講義と、それぞれの保存上の問題やさまざまな保存処置方法、長期的な保存のためのマウントの方法などに関する実習を行いました。エジプトには、パピルスや染織品など、さまざまな出土遺物があり、保存処置が困難な資料も数多くあります。参加者の多くは、長年保存修復に携わってきた経験豊かな専門家であり、ワークショップ中も、さまざまな有意義な質問が出され、議論が行われました。そして参加者からは、ワークショップを通じ、エジプトの文化遺産の保存修復のために参考となる知識、技術や材料に関する知見を得ることができたと、非常に高い評価を受けました。このワークショップの結果、今後の日本からの継続的な支援に対しても大きな期待を寄せていただくことができました。

中国新疆ウイグル自治区の仏教壁画を有する石窟の現状調査

シムシム千仏洞の景観と保存修復された石窟群
キジル石窟224窟に見られる有機物からなる赤色の色材(新疆ウイグル自治区文物局提供)

 現在、文化遺産国際協力センターでは、敦煌莫高窟やバーミヤーン遺跡、アジャンター石窟などユーラシアの広範な地域に所在するさまざまな仏教石窟において、壁画の技法材料と保存修復に関する調査、研究を実施しています。新疆ウイグル自治区は中央アジアの東端に位置し、それらの仏教壁画を東西交流という観点から比較研究する上で、非常に重要な遺跡が分布しています。中国では、敦煌研究院を中心に、研究活動や保存修復作業が進んでいます。今回、株式会社NHKエンタープライズの受託調査研究として、1月5日から12日にかけて、極寒の中、トルファンのベゼクリク千仏洞、クチャのキジル千仏洞、シムシム千仏洞、クムトラ千仏洞、クズルガハ千仏洞の石窟において、壁画の彩色技法の観察、写真記録、保存状態の調査等を行いました。調査にあたっては、日本から4名と、新疆ウイグル自治区文物局と敦煌研究院保護研究所からそれぞれ中国人研究者の参加を得て、共同で調査を行いました。これらの遺跡は、バーミヤーン遺跡と同様に、礫岩やシルト岩、やわらかい砂岩からなる崖に石窟を掘り込んでいるか、あるいは泥レンガで構造物を付加することにより祠堂などを形成し、その壁面に土壁を施し、その上に、セッコ技法によって彩色するという共通点を持っています。有機物からなる鮮やかな赤色など、比較的保存状態の良い色材もあり、今後、科学的な研究を行うことによって、シルクロードの壁画の技術を明らかにする鍵となるような、重要な成果が得られるのではないかという実感を持ちました。

文化遺産国際協力コンソーシアム研究会「リビング・ヘリテージの国際協力」の開催

研究会の様子
ポスター展示の様子

 1月9日に文化遺産国際協力コンソーシアム研究会「リビング・ヘリテージの国際協力」が開催されました。この研究会は、文化遺産国際協力センターが事務局業務を受託している「文化遺産国際協力コンソーシアム(会長:平山郁夫前東京芸術大学学長)」が主催する研究会で、文化遺産国際協力に関する様々なテーマを取り上げ、検討するための研究会です。第2回目となる今回の研究会では、リビング・ヘリテージ、すなわち「生きた遺産」、「活かされている遺産」という切り口に注目し、100名を超える様々な分野の方にご参加いただきました。基調講演では、ユネスコ・バンコク事務所の文化担当アドバイザー R. エンゲルハルト氏に、リビング・ヘリテージという概念が登場した背景や、遺産を継承する地域の人々をも含めた文化遺産国際協力の重要性、日本の果たすべき役割について講演いただきました。また、事例紹介として昭和女子大学によるベトナムでの学際的な取り組みに関する事例や、三浦恵子氏による東南アジア各地でのリビング・ヘリテージの保全に関する事例紹介をいただきました。パネル・ディスカッションでは、現地で直面する課題や、変わりゆく価値観の中で何をどのように守っていくべきなのか、日本はいったいどのような協力が出来るのか、といった話題について、会場も含めた活発な議論がおこなわれました。文化遺産国際協力コンソーシアムでは、今後も定期的に研究会を開催し、文化遺産国際協力に携わる様々な関係者のネットワーク構築を支援していきます。

シルクロード沿線人材育成プログラム「紙の文化財」研修コース終了

侯菊坤人事労働司長が研修生の成果物を視察
修了式記念撮影

 中国文物研究所(北京)での人材育成プログラム「紙の文化財」研修コースは、3カ月間の日程を無事に終了しました。この間、日本からは計12名の専門家が196時間にわたって講師を担当しましたが、とくに最後の4週間は国宝修理装こう師連盟の技術者2人が中国側の専門家とともに授業を行い、研修生たちは短期間ながら冊子、軸装物の修復技術を習得しました。12月27日には中国国家文物局の侯菊坤人事労働司長が出席して修了式が行われ、シルクロード沿線6省から参加した12名の研修生に東京文化財研究所と中国文物研究所連名の修了証が授与されました。同プログラムは、来年度5年計画の3年目を迎え、春に古建築コース、秋には土遺跡コースを実施する予定です。

石造文化財の保護に関する中国人専門家の来日研修

樹脂処理の実験

 東京文化財研究所が参加している陝西唐代陵墓石刻保護修復事業とユネスコ/日本信託基金龍門石窟保護修復事業は、いずれも2008年に最終年を迎えようとしています。ともに石灰岩という共通した材料の文化財を対象とするものであるため、これまでも研究会の開催や現地調査、日本での研修に両事業のメンバーを積極的に合流させてきました。今回は11月19日から12月16日の日程で、西安文物保護修復センターと龍門石窟研究院の保存修復部門の専門家各2名を日本に招へいし、石質文化財の修理技術、撥水材料を塗布した後の効果の評価方法、修理作業終了後の環境のモニタリングなどについて研修を行いました。最終年度の修復作業実施に向けて、研修の成果が期待されます。

第21回国際文化財保存修復研究会の開催

会議風景

 2007年12月6日に、93名の参加を得て、第21回国際文化財保存修復研究会「保存処置後のモニタリング」を開催しました。国士舘大学の西浦忠輝教授による「遺跡保存におけるモニタリングの重要性とその問題点」、インドネシア・ボロブドゥール遺産保存研究所のナハール・チャヤンダル氏による「ボロブドゥール遺跡の修復後のモニタリング」、韓国国立文化財研究所の金思悳氏による「石窟庵の長期的保存方案」の3件の発表と、総合討議が行われました。それぞれの遺跡における様々なモニタリング方法が紹介され、参加者の間で情報が共有されましたが、それを他の遺跡にも導入するためには、さらに広くモニタリングの重要性を訴えていく必要があることが認識されました。

大エジプト博物館保存修復センター設立への協力

建設中の「大エジプト博物館保存修復センター」

 文化遺産国際協力センターは、エジプトのカイロで建設が進められている「大エジプト博物館(Grand Egyptian Museum)」の付属機関である「保存修復センター」の設立に向け、国際協力機構(JICA)の要請を受け、技術的な支援を行なっています。保存修復センターに必要な機材リストの作成、同センターで活動する専門家の人材育成、技術移転等、エジプト側が求めているさまざまな要請に対して、助言を行なっています。これに関し、11月12日から20日にかけて、清水センター長、山内地域環境研究室長、谷口特別研究員がエジプトに出張し、エジプト側の担当者と今後の協力について協議を行ないました。現時点では開設の準備段階で必要な支援を行なっていますが、同センターの開設(2008年4月予定)以後は、ワークショップ等を通じて、具体的な人材育成・技術移転の面で協力していく予定です。

「シルクロードの世界遺産登録のための国際シンポジウム」への参加

シルクロードの世界遺産登録のための国際シンポジウム

 10月30日及び31日に中国の西安で、2010年に予定されている「道としてのシルクロードの世界遺産への登録」のためのシンポジウムが開催されました。日本側からは、同シンポジウムには山内地域環境研究室長と前田耕作客員研究員が参加しました。日本にとっては、このシルクロードの登録はいくつかの問題を孕んでいます。特に問題となるのは、登録が予定されているシルクロードの地理的な範囲です。現時点では、シルクロードの東側の起点とされているのが中国の西安(長安)であり、日本、特に奈良の存在が考慮されていません。登録の申請書でどのような地理的な概念規定がなされていくかについて、今後とも強い関心を持ち続ける必要があると思われます。

アンコール遺跡の救済と発展に関する国際調整委員会総会

 表題の会議が2007年11月28日、カンボジアのシエムリアップで開催されました。年2回の委員会のうち技術委員会では、遺跡の保存修復や調査研究などに携わる組織の活動報告が行われますが、総会はより総合的な討議を行う場とされています。今回、口頭での活動報告は一部の大規模事業だけで、ほとんどの組織は事前に文章で活動報告を提出、会場で報告書集が配られました。
 本委員会の対象はアンコール遺跡ですが、実は今回、しばしば話題になったのはプレア・ヴィヒア遺跡でした。この遺跡はタイとの国境に位置し、来年には世界遺産リスト登録が確実とみられている重要な遺跡です。このほど、この遺跡の保存・整備にタイが協力することとなり、また両国のほかいくつかの国による国際調整委員会の組織が検討されている状況で、当該遺跡への関与についての意思表明が関係各国からなされました。日本に期待される役割はまだ具体的には示されないものの、大きいことは確かで、今後、何ができるのかを検討していく必要があるでしょう。

「韓国中央アジア学会」に参加して

韓国中央アジア学会主要メンバーとの記念撮影

 11月10日にソウルの国立中央博物館で「韓国中央アジア学会」に開催されました。今回の学会は、「敦煌」をテーマとするもので、フランス・ギメ東洋美術館のジャック=ジエス氏、イギリス・大英図書館のスーザン=ウィットフィールド氏、ロシア・エルミタージュ美術館のサモスュク=キラ氏が敦煌壁画、敦煌文書の研究、アーカイブをテーマに報告を行い、敦煌研究院の李最雄氏が敦煌壁画の保存と科学研究について、東文研文化遺産国際協力センターの岡田健が日中共同による敦煌壁画の保護活動について報告を行うという、敦煌学の全体とそれに関わる世界中の専門家の活動にまで視野を広げた、極めて意欲的な学会でした。韓国の中央アジア学会は創立14年という若い組織ですが、日本や中国、アメリカで学位を取った研究者も多く、自らの研究対象へ積極的にアプローチする姿勢はすばらしいものです。11月2日に同じ国立中央博物館で設立された「東アジア文化財保存学会」、あるいは毎年着実に実績をあげつつある「日中韓・紙の文化財保護学会」など、韓国との連携は文化遺産研究と保護のあらゆる面で、今後重要さを増していくことでしょう。

シルクロード沿線人材育成プログラム「紙の文化財」研修コース・実技実習

坂田雅之氏(国宝修理装こう師連盟)による実技指導

 中国文物研究所(北京)での人材育成プログラムは、11月になり日中の専門家の指導による実習授業に入りました。近年開発された中性紙等の材料による書籍の保存・保管方法についての授業は、修理に重点を置いた研修を想定し参加した研修生にとって新鮮な内容であったようです。いっぽう、伝統的な修復技術に関しては日中の方法に違いがあり、「中国の紙の文化財」保存に貢献するため、日本側の専門家がどのように日本の技術を伝えていくか、現場での試行錯誤が続いています。しかしこれによって、研修生への指導にとどまらず、日中の専門家による技術交流も促進できるものと期待されています。

イラク人保存修復専門家の研修事業(2)

真空凍結乾燥処理後の遺物のクリーニング作業(静岡県埋蔵文化財調査研究所)

 3ヶ月にわたるイラク人専門家への保存修復の研修は順調に進み、これまでにほぼ半分が終了しました。
 9月末から10月末にかけ、4名の研修生は東京文化財研究所での保存修復に関する基礎講義と乾燥した木製遺物の保存修復の実習に参加しました。つづく10月29日から11月9日には、(財)静岡県埋蔵文化財調査研究所の協力を得て、遺跡から出土した水浸木材の保存修復について研修を行いました。静岡市駿府城内遺跡(15~16世紀)の発掘現場では、実際に液体窒素や発泡ウレタンを使った脆弱な木製遺物の取り上げ作業を経験したほか、静岡県埋蔵文化財調査研究所・清水事務所では、実際の出土遺物に対して、PEGや凍結乾燥による強化処理や、クリーニングや接合、補彩といった一連の保存修復の作業に携わりました。
 今後、奈良文化財研究所において保存修復の作業に用いられるさまざまな機材についての研修を受け、最後に今回の研修の成果についての報告を行ない、研修を修了する予定です。

インドネシア・プランバナン遺跡復興支援第3次調査―文化庁「文化遺産国際協力拠点交流事業」―

ガルーダ祠堂 解体の始まった頂部の調査
東京文化財研究所とジョグジャカルタ特別州考古遺跡管理事務所のメンバー

 文化遺産国際協力センターでは、2006年5月27日のジャワ中部地震で被災した世界遺産プランバナン遺跡の復興支援事業への協力を行なっています。日本の草の根文化無償の支援によるガルーダ祠堂の足場の架設工事の完了を受けて、2007年10月22日から11月4日にかけて第3次ミッションを派遣しました。今回の調査では、部分解体が始まったガルーダ祠堂を中心に、頂部の被害状況と内部構造の確認、過去の修復に関する文献収集調査および聞き取り調査を行ったほか、ガルーダ祠堂とほぼ同じ構造をもつハンサ祠堂を対象に、構造体の振動特性の究明のための地震動計によるモニタリングを開始しました。これらの調査はジョグジャカルタ特別州考古遺跡管理事務所、ガジャマダ大学との協力を得て実施されました。
 現在は、調査に先だって作成された祠堂各面の幾何補正画像を活用し、各石材の破損状態、補修方法と解体範囲を図示し、修理事業費の積算が可能な水準での設計資料を整える準備を進めています。さらに、祠堂の構造特性に関する解析結果に基づき構造補強方法を検討の上、修理設計案を本年度中に提示していく予定です。

シルクロード沿線人材育成プログラム「紙の文化財」研修コース始まる

清水真一センター長による文化財保護概論
岡岩太郎氏(国宝修理装こう師連盟)による日本の紙の紹介

 シルクロード沿線の文化財保護に従事する中国の人材を育成する共同プログラムは、10月8日から12月27日までの日程で、北京の中国文物研究所において、2007年度後期「紙の文化財」研修コースがスタートしました。この研修コースにおいては、中国と日本の「紙の文化財」保存に関わる専門家が講師をつとめます。日本からは12名の専門家が、10週にわたって北京に滞在し、理論講座と実技指導を担当します。伝統的な保存修理技術だけではなく、現代科学によって解明された紙の文化財の材料や技法に関する講義や、新しい欧米的な保存方法などについての講義もあり、シルクロード沿線の各地から集まった12名の研修生が十分な成果をあげられるよう工夫を凝らしています。

石造文化財の保存処理技術に関する研究会(西安)

現地(乾陵東門)視察

 2004年度以来、西安文物保護修復センターと共同で推進している「唐代陵墓石彫像保護修復事業」では、毎年一回日中専門家による研究会を開催しています。第4回目となる今回は、10月11日から13日の日程で西安市において開催しました。中国国内からは、同じく私たちが保護のための共同研究を進めている龍門石窟研究院からも担当者が派遣され出席しました。西安・龍門ともに来年度での事業終了を目前に控え、修復作業がいよいよ最終段階に入るにあたり、「石造文化財の保存処理技術に関する研究会―石造文化財の保存修復と展示方法/保存処置に際しての接合部分及び表面の化粧方法」というテーマで、事例報告と討論を行いました。日本からは石造文化財の修復に豊富な経験のある海老澤孝雄氏(ざエトス)に参加して頂きました。

to page top