研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


アンコール遺跡の救済と発展に関する国際調整委員会第16回技術委員会

多くの観光客が訪れる遺跡バンテアイ・スレイ

 7月5日・6日の2日間、カンボジアのシエムリアップで標記の委員会が開催されました。この委員会はアンコール遺跡の保護に携わる各組織の取り組みを発表する場で、本研究所もタ・ネイ遺跡の石材上の植物について、同定結果や遺跡内での分布と開空率との関連に関する研究成果を発表しました。
 また、討議のテーマのひとつに「持続的な発展」がありました。2005年の外国人観光客は67万人を越え、遺跡保護のみならず事故防止の点でも、見学路や施設の適切な配置が課題です。近くのシエムリアップでも下水道の未整備やごみの投棄による川の汚染が報告されています。これは遺跡を訪れる人々の責任でもあり、この分野でも各国の経験を生かした国際協力が不可欠だと感じられました。

バーミヤーン遺跡保存事業-第8次ミッション-の概要

I 窟における保存修復活動
仏教時代に遡る可能性のある壁

 文化遺産国際協力センターは、2003年よりアフガニスタン情報文化省と共同で、バーミヤーン遺跡保存事業を行っています。今年は6月9日から7月15日にかけて、第8次ミッションを派遣しました。本ミッションでは、壁画の保存修復と考古学調査に加え、他機関との共同研究も実施しました。
 壁画の保存修復では、これまでの作業を継続し、I窟とN(a)窟の2石窟で作業を行いました。I窟では、剥落するおそれのある壁画をグラウティングとエッジングによって補強し、今ミッションをもってこの石窟における壁画の保存修復作業をすべて成功裏に終了することができました。また、N(a)窟では、次ミッションに予定している壁画表面のスス状黒色物質を除去する準備として、壁画の補強を行いました。
 考古学調査では、保護すべき遺跡の範囲を確定するために、試掘調査と分布調査を実施しました。試掘調査はバーミヤーン渓谷の数箇所で行われ、その内の一箇所からは、おそらく仏教時代にまで遡る壁が出土しました。また、遺跡の分布調査を周辺に位置する渓谷において実施し、これまで知られていなかった墓地や城砦などの遺跡を発見しました。こうした考古学調査は、とかく仏教時代のみが注目されがちなバーミヤーンを、現代まで続く歴史の中に位置づけて理解するために重要なものです。
 共同研究として、金沢大学、株式会社応用地質、株式会社パスコの3つの機関と、それぞれ、イスラーム陶器の研究、地質調査、石窟の測量調査を行いました。これらの調査・研究は、今後も継続する予定で、バーミヤーン遺跡を保存するうえで必要不可欠なさまざまな情報や視点を提供してくれるものと期待されます。

インドネシア・プランバナン遺跡復興専門家会合

プランバナン寺院ガルーダ祠堂

 2006年5月27日に発生したジャワ島中部地震により被災した世界遺産プランバナン遺跡群については、昨年度に派遣した調査団により被害状況、修理履歴、地盤、構造体の振動特性などの基礎的調査を行っています。2007年6月29日、30日の2日間にわたり現地で開催された専門家会合では、インドネシア側が行った地盤や構造体の調査も含めてこれまでに実施した調査結果についての総合的な検討を行いました。これに基づいて一部解体を含む修理の方針や手順などについて基本的な方向付けが出来ました。また、具体的に修理設計を進めていくためにさらに必要な調査事項について協議しました。
 日本からの技術協力の内容としては、遺跡群の中枢をなし早期公開が望まれているプランバナン寺院について、本年度中に修理設計を取りまとめるために必要な支援を行うことです。具体的には、地震計を設置して構造体の振動特性をさらに明らかにした上で必要な構造補強方法を提示すること、オルソ画像を作成した上で、これに各石材の破損状態、補修方法と解体範囲を図示し、修理事業費の積算が可能な水準での設計資料を整えることです。このため、9月以降に再度の現地調査を予定しています。

敦煌壁画に関する共同研究と研修者派遣

莫高窟第285窟での撮影調査

 第5期「敦煌壁画の保護に関する共同研究」は2年目を迎え、5月8日から3週間の日程で敦煌莫高窟にメンバーを派遣して、今年度前半の合同調査を実施しました。調査は、昨年度からの継続で、西暦538、539年の紀年銘を持ち、仏教のみならず中国の伝統的題材に彩られることで重要視されている第285窟での、光学的方法による撮影、顕微鏡や分光反射率測定などによる分析的研究を行いました。また、名古屋大学と共同の放射性炭素年代測定による石窟の年代同定研究のために、第285窟のほか莫高窟最初期窟とされる第268、272、275窟の壁体からサンプルの追加採取を実施したほか、夏に予定されている本年度後半の合同調査、および秋以降の敦煌研究院来日研修者との共同研究に向けて、各種の準備を行いました。いっぽう、この調査チームとともに3名の大学院博士課程で学ぶ学生が莫高窟に行きました。彼らは、昨年度から実施している「敦煌派遣研修員」として、公募により選抜されました。保存科学、絵画修復、文化遺産管理とそれぞれに異なる専門領域からの参加で、9月中旬までの4ヶ月間、敦煌研究院保護研究所の専門家の指導を受けて、壁画保護のための多岐にわたる内容の研修を受けます。この研修は今後さらに3年間を予定しており、壁画の保存修復を直接学ぶ機会のほとんどない日本の若手専門家が、将来にわたり国内外で活躍するための大きな門戸を開くものとなります。

シルクロード沿線人材育成プログラム

屋外での授業

 中国文物研究所と共同で実施する「シルクロード沿線文化財保存修復人材育成プログラム」は 2年目を迎えました。今年は、春からの3ヶ月間、土遺跡保存修復班( 3年計画の第2年目)と考古発掘現場保存修復班を実施し、秋からの3ヶ月間で博物館館蔵品保存修復班の「紙の文化財」コースを実施する予定です。その春のコースの開講式が、張栢国家文物局副局長をはじめ担当各部門の責任者が出席する中、4月16日研修場所となる陝西省韓城市梁帯村において盛大に行われ、3ヶ月間の研修が開始されました。韓城市は、宋元明3代の建築物が遺されている歴史名城地区であり、近くには秦時代の万里の長城があり、また司馬遷の墓があるなど、文化遺産の宝庫とも言える土地ですが、2004年秋には近在の梁帯村で、西周末から東周早期と推定される墓が大量に発見されました。その大部分が未盗掘であり、しかも多くの墓から朱砂が崩落した痕跡が認められることから、それらが貴族級の被葬者のものであると推定されています。とくに、M27号墓からは大量の金器、漆鼓、石磬などが出土していて、これを含む4つの墓は当時の諸侯級のものであろうと言われています。私たちの研修コースは、陝西省文物局の全面的な支援を得て、この梁帯村で現在発掘作業が行われている大型墓を現場実習に使うことになりました。3ヶ月の期間中、日本側講師13名が参加し、中国側講師とともに指導にあたります。

タジキスタン、アジナ・テパ仏教遺跡保護プロジェクト

日干レンガで造られた北側の壁の一部
焼けて変色したプラスターが残存する北壁

 文化遺産国際協力センターは、4月12日から5月18日にかけて、ユネスコ文化遺産保存日本信託基金による「タジキスタン、アジナ・テパ仏教遺跡保護プロジェクト」の第2次ミッションを派遣しました。
 アジナ・テパは、7世紀から8世紀に機能していた仏教寺院で、大型のストゥーパ(仏塔)や復元長12.8mという巨大な涅槃仏の塑像が出土したことで知られています。本事業の目的は、日干レンガや練り土といった土構造物で構築された仏教寺院を保存することであり、センターは、タジク人の若手考古学者と共同して、過去の発掘調査以後に堆積した土砂や雑草を除去し、仏教寺院本来の壁および床面の位置と構造を明らかにする考古学的清掃作業を行っています。
 今回の調査の結果、仏教寺院の壁が、日干レンガと練り土を併用して構築されていること、場所によっては日干レンガのみで作られた壁も存在することなどが分かりました。また、寺院の床面を検出するために一部で発掘を行ったところ、いくつかの壁画片や彩色塑像片と思われるものが出土しました。
 現地の若手考古学者との共同作業は、われわれ日本人にとっても非常に刺激的なもので、こうした調査が、今後も現地専門家の人材育成に貢献することを希望しています。

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