研究会「キルギス共和国の文化遺産」の開催

文化遺産国際協力センターは、文化庁の委託を受け、「キルギス共和国および中央アジア諸国における文化遺産保護に関する拠点交流事業」を2011年度より実施しています。この事業は、中央アジアの文化遺産保護を目的に、中央アジアの若手専門家育成を目指すものです。
今回、この事業の一環として、キルギス共和国よりバキット・アマンバエヴァ女史、アイダイ・スレイマノヴァ女史、アイヌラ・テンティエヴァ女史の3名の専門家を日本に招聘し、「キルギス共和国の文化遺産」と題する研究会を3月15日に開催しました。アマンバエヴァ女史とスレイマノヴァ女史は、キルギス共和国における考古学新発見に関して発表を行ない、またテンティエヴァ女史はキルギス共和国の無形文化遺産に関する講演を行ないました。
アルメニア歴史博物館所蔵の考古金属資料の保存修復ワークショップ開催

文化庁委託文化遺産国際協力拠点交流事業の一環として、平成24年1月下旬から2月上旬にかけて、アルメニア歴史博物館にて同館所蔵の考古金属資料の保存修復ワークショップを開催しました。1月24日~2月3日までの8日間は、アルメニア歴史博物館のほかアルメニア国内の他機関所属の若手専門家合計10名に対し、ドキュメンテーションをテーマとした国内向け人材育成ワークショップを開催しました。労働安全衛生、博物館と保存修復、金属科学、文化財科学と分析技術に関する講義のほか、写真撮影、状態調査、顕微鏡による光学調査と可搬型蛍光X線分析計(XRF)を用いた元素分析などの実習を実施しました。適切な保存修復処置方法の選択のほか、国内専門家のネットワーク構築、青銅器の製作技術の研究などを行いました。
また、2月7日~11日の5日間、国内向けワークショップ参加者10名のほか、グルジア、イラン、ルーマニアの3カ国から金属保存修復専門家各1名ずつをアルメニアに招聘し、さらにまた、アルメニアの考古金属資料の調査研究を行っているアルメニア人考古学者、科学者なども招き、国際ワークショップを開催しました。アルメニアの金属文化財に関する研究や、自国の博物館や保存修復の状況を発表しあうことで、情報交換と広域ネットワーク構築に貢献しました。
次回のミッションでは、錆除去等の保存修復処置作業を行います。また、修復後に再度元素分析を実施し、製作技術の研究を深めていく予定です。
キルギス共和国および中央アジア諸国における文化遺産保護に関する拠点交流事業

文化遺産国際協力センターは、中央アジアの文化遺産保護を目的とする標記事業を文化庁より受託し、2011年から2014年までの4年間の予定で、キルギス共和国チュー河流域の都城址アク・ベシム遺跡を対象とした、ドキュメンテーション、発掘、保存修復、史跡整備に関する一連の人材育成ワークショップを開催しています。
事業の初年度にあたる今年度は、文化遺産のドキュメンテーションに関するワークショップを実施しています。10月に行った第1回目のワークショップでは、おもに遺跡の測量に関する研修を実施しました。
今回、2月4日から10日にかけて、第2回目のワークショップをキルギス共和国国立科学アカデミー歴史文化遺産研究所にて開催しました。今回のワークショップでは、キルギス人若手専門家8名を対象に、考古遺物の実測に関する研修を行ないました。土器や石器、土製品の実測のほか、拓本、遺物の写真撮影の実習、また伝統的な土器工房の見学なども行いました。
研修生は意欲的に取り組んでおり、今回の研修を通じて得た技術を将来的に中央アジアの文化遺産保護に役立ててくれることが期待されます。
ミャンマーにおける文化遺産国際協力コンソーシアム協力相手国調査


文化遺産国際協力コンソーシアムでは2月22日から28日まで、ミャンマーを対象とする協力相手国調査を行いました。同国における文化遺産保護の現況と今後の国際協力の展開を探るため、現地を訪問し、ミャンマー側の協力要望事項等を明らかにすることが調査の主な目的です。代表的文化遺産であるバガン遺跡群やマンダレーの木造建造物、各地の博物館や図書館などを訪れ、担当者との面談も含めて、情報収集や意見交換を行いました。
その結果、ミャンマーの文化遺産は全般に劣化が進んでおり、保護の体制も不十分で、危機的な状況にあることがわかりました。また、バガンでは観光客が昨年来急激に増加しており、現状の観光インフラでは既に受け入れが限界に達しつつあることも明らかになりました。遺跡保存とともに、市街地環境や所得格差の問題なども視野に入れた持続的開発のあり方が課題となります。他方、博物館に関しても、保存施設や研究機能の不備が深刻なことがわかりました。
昨今のミャンマーをめぐる情勢変化に伴い、文化遺産保護分野のみならず、あらゆる分野で日本及び海外諸国からの支援の増大が見込まれ、今後はこうした支援事業間の調整も必要になると考えられます。文化遺産分野における今後の日本からの協力のあり方について、広く関係諸機関と協議しながら、検討していく予定です。
インドネシア・パダン歴史地区文化遺産復興支援



2009年9月に発生した西スマトラ沖地震により被災した西スマトラ州パダン市歴史地区における文化遺産復興に向け、東京文化財研究所は同年11月以来、支援活動を継続してきました。本年度は文化庁委託による緊急支援事業として、昨年3月11日の東日本大震災の経験も踏まえて、建造物耐震及び防災対策、危機管理に重点を置いた現地ワークショップ開催を含む調査を2012年1月4日から13日にかけて行い、またこれに引き続き、インドネシア人専門家招へいを1月19日から25日にかけて実施しました。
ワークショップでは被災文化遺産復興に関する日本の取り組みを紹介するとともに、市内歴史地区の複数の現場において、耐震対策や町並み保存に向けた意見交換を行いました。また、現地調査では、歴史的町並み及び建造物の復興状況調査に加え、基礎的な構造調査による耐震補強の提案、町家の形式調査等を行いました。他方、日本への招へいにおいては、東北をはじめとした被災地域での復興過程と防災対策の実情について、現地で活動する方々から様々なお話を伺うことができました。こうした一連のプログラムを通じて、震災から2年が経過したパダンにおける文化遺産復興に向けた課題も、より明確になってきたところです。震災が引き金となって貴重な歴史的遺産が失われてしまうことのないよう、今後の具体的行動計画策定に向け、引き続き協力を続けていく必要があります。
拠点交流事業モンゴル:アマルバヤスガラント寺院の保存・管理のためのワークショップ


モンゴルにおける文化庁委託・拠点交流事業の一環として、2012年1月21日~27日の日程で東京文化財研究所から4名の専門家を派遣しました。
1月24日、25日には、東京文化財研究所、名古屋大学法政国際教育協力研究センター、モンゴル国の教育・文化・科学省の共催により、アマルバヤスガラント寺院の保存管理計画の策定に向けたワークショップを開催しました。ワークショップでは、文化遺産の保護のみならず、モンゴル国の土地法および行政裁判制度を考慮した議論を行い、これを踏まえてモンゴル教育・文化・科学省と寺院が所在するセレンゲ県庁に対する提言書をまとめました。提言書では、アマルバヤスガラント寺院の世界遺産登録と保存管理計画の策定のためのワーキング・グループを設立すること、現在の保護区域の規制に関する課題点を明確にすること、地域住民の理解を得るよう努めること等が明記されました。今後も関係各機関との連携を密にし、提言内容の実現に向けて、協力していくことが望まれます。
また、1月26日には、東京文化財研究所、名古屋大学法政国際教育協力研究センター、モンゴル国警察庁の間で、文化財の不法な輸出入に関する意見交換を行いました。モンゴル国警察庁からは、この問題に関する国内の施策や体制、犯罪事例等が説明されました。東京文化財研究所からは、同国ヘンティ県所在のセルベン・ハールガ遺跡およびアラシャーン・ハダ遺跡における文化財の盗掘や落書きの事例について情報提供をしました。
タイ・アユタヤ遺跡群における洪水被害調査



平成23年11月28日~12月3日、および12月18日~23日の2次にわたり、文化庁委託事業によるアユタヤ遺跡群での洪水被害調査を実施しました。9月来の豪雨と長雨の影響によって、アユタヤやバンコクで大規模な洪水が発生したことは日本でも大きく報道されました。世界遺産リストに登録されているアユタヤ遺跡群も広範囲にわたって浸水し、その保存への影響を懸念したタイ政府の要請がユネスコバンコク事務所経由で伝えられたことから、緊急支援事業として専門家による実地調査が急遽決定されました。
第1次調査では水害対策および文化財保存の2名、第2次調査では保存科学、壁画、建築、写真の各分野から6名の専門家を派遣し、タイ文化省芸術局および日本国文化庁の専門家たちとともに、主な遺跡の被害状況を実地において確認しました。
その結果、浸水は相当な規模に及び、これによる一部壁画の汚損や局所的な塩類析出、煉瓦遺構への土の堆積や露出展示遺構の水没などが生じているものの、遺跡への直接的被害は限定的かつ比較的軽微なものが大半でした。しかし、煉瓦造の仏塔や祠堂などの経年による劣化や変形等は随所で認められ、中長期的な計画に基づく継続的なモニタリングや保存修復の実行が、被災状況の正確な記録作成とともに災害時の被害軽減にとっても重要であることが改めて認識されました。タイ当局によるこうした活動をいかに支援していくかが、今後の課題となります。
バハレーンにおける文化遺産国際協力コンソーシアム協力相手国調査



文化遺産国際協力コンソーシアムでは12月16日から23日まで、バハレーンの文化遺産を対象として協力相手国調査を行いました。バハレーンに対する文化遺産国際協力の現況と今後の展開を探るため、現地を訪問し、バハレーン側が求める具体的協力要請項目について検討することが調査の主な目的です。現地では、紀元前2200年頃から作られた古墳群等を中心とする考古遺跡、世界遺産バハレーン砦、バハレーン国立博物館、ムラハク歴史保存地区を訪れ、担当者と面談を行うとともに、情報収集や意見交換を行いました。
その結果、考古遺跡に関しては発掘後の整備や世界遺産登録後の保護管理のための共同研究、保存科学分野における長期的な技術協力、建造物の保護と修復のための人材育成等が必要であると感じました。今後の日本からの協力の在り方を探るため、関係諸機関と協議しながら、どのような支援ができるのか検討していく予定です。
シルクロード世界遺産登録に向けた支援事業:カザフスタンとキルギスにおける専門家育成のためのワークショップ



シルクロード関連遺跡の世界遺産一括登録を目指して、中央アジア5カ国に中国を加えた各国が国境の枠を超え、様々な活動を目下展開中です(活動報告2010年1月、2月、2011年5月参照)。この活動を支援するため、文化遺産国際協力センターも今年度より、ユネスコ・日本文化遺産保存信託基金による「シルクロード世界遺産登録に向けた支援事業」に参加し、中央アジア各国で各種の事業を開始しています。その一環として、カザフスタン共和国とキルギス共和国において、技術移転と人材育成を目的としたワークショップを開催しました。
カザフスタンでは、9月27日から10月19日まで、考古遺跡の地下探査に関するワークショップを、奈良文化財研究所およびカザフスタン考古学専門調査研究機関と共同で実施しました。ワークショップには、カザフスタン人専門家の他、他の中央アジア諸国からも考古学専門家が参加しました。実習では、アルマトイ近郊のボロルダイ古墳群(写真1)とトルケスタン北西部のサウラン都城址を調査対象に、レーダー探査(GPR)と電気探査を行いました。研修生達は非常に熱心で(写真2)、限られた時間の中でも多くのことを学ぶことができたと思います。
地下探査の成果という点でも、カザフスタンの考古遺跡での適用はほぼ初の試みでしたが、埋没している地下の構造物を捉えるのに十分な結果が得られました。今後は、各種の遺跡での試行や発掘調査による検証も行い、その有効性を検討していく必要がありますが、多くの遺跡を限られた人材で調査しなければならない中央アジアの実情から、地下探査への期待が極めて大きいことは間違いありません。
キルギスでは、10月18日から24日まで、遺跡の測量に関するワークショップを開催しました。文化遺産保護関連分野の人材育成を目的に、キルギス共和国科学アカデミー歴史文化遺産研究所および同志社大学と共同で実施したこのワークショップには、キルギスの若手研究者8名が参加しました。
測量の原理や方法論に関する座学の後、中世の都城址であるケン・ブルン遺跡を対象に測量実習を行いました(写真3)。一週間と短い研修でしたが、研修生は測量の原理をよく理解し、遺跡の測量技術を着実に身に付けていきました。
文化遺産国際協力センターでは、今後も、中央アジア諸国において文化遺産保護関連の技術移転や人材育成を目的としたワークショップを開催する予定です。
キルギス共和国および中央アジア諸国における文化遺産保護に関する拠点交流事業

文化遺産国際協力センターでは、キルギス共和国チュー河流域の都城址アク・ベシム遺跡を舞台に、ドキュメンテーション、発掘、保存修復、史跡整備に関する人材育成支援を2011年度からの4年間、文化庁委託事業として実施する予定です。中央アジア5カ国の若手専門家を育成し、将来的に中央アジア諸国の文化遺産保護に益することを目的としています。
今年度は10月6日から10月17日までの12日間、奈良文化財研究所およびキルギス共和国国立科学アカデミー歴史文化遺産研究所と協力して、第1回ワークショップを実施しました。今回のテーマは、遺跡のドキュメンテーションに関するもので、具体的には、遺跡の測量に関する座学を歴史文化遺産研究所で行った後、アク・ベシム遺跡でトータルステーションを用いた遺跡測量を実習しました。ワークショップには、キルギス共和国の8名に加えて、他の中央アジア各国からも1名ずつ、計12名の若手専門家が参加しました。研修生はいずれも測量技術を身につけようと、熱心に研修を受講していました。また、この研修を通じて、中央アジア各国の若手専門家の間にネットワークが構築されたことも、重要な成果の1つだったといえます。
今後も引き続き、中央アジアの文化遺産保護を目的とした様々なワークショップを実施していく予定です。
タジキスタンにおける壁画断片の保存修復(第12次ミッション)



10月9日から11月8日まで、「タジキスタン国立古代博物館が所蔵する壁画断片の保存修復」の第12次ミッションを実施しました。今回のミッションでは、タジキスタン南部のフルブック遺跡から出土した11~12世紀の壁画の保存修復を行いました。フルブック遺跡の壁画は、中央アジアにおける最初期のイスラム美術の遺物であり、類例の少ない貴重な資料です。本修復事業は住友財団の助成金を受けて実施されました。
フルブック遺跡から出土した壁画断片は、ほとんどが厚さ1cmにも満たない薄い状態であり、また全体に劣化が著しく取り扱いができないほど脆くなっています。本ミッションでは、2009年に実施した試験的な保存修復処置の結果をふまえて、3つの断片に対し、彩色層の強化、クリーニングと裏打ちを行いました。ふのり水溶液を壁画表面に数回噴霧し彩色層に一定の強度をもたせてからクリーニングを行いました。その後、割れてばらばらになった小断片を正しい位置に並べて固定しました。固定部分を保護し、断片全体をひとまとまりとして安定化させるため、断片の背面の凹凸に沿いやすい三軸織物を使用し裏打ちを行いました。
次回のミッションでは、他の断片のクリーニング、裏打ちを行うとともに、マウント方法の検討を行う予定です。
文化遺産国際協力コンソーシアム シンポジウム「文化遺産を危機から救え~緊急保存の現場から~」



2011年10月16日に、一般の方々を対象に、自然災害により被害を受けた文化遺産の緊急保存に関するシンポジウム「文化遺産を危機から救え~緊急保存の現場から~」を東京国立博物館平成館大講堂にて開催しました。
基調講演には、近藤誠一文化庁長官をお招きし、東日本大震災による文化財の被害状況と文化財レスキュー事業を中心にお話しいただきました。続いて、大和智文化庁文化財鑑査官、日高真吾国立民族学博物館准教授、宮崎恒二東京外国語大学理事、フランスのNGO である「国境なき文化遺産」のアンリ・シモン代表より、それぞれご報告頂いた後、「文化遺産への緊急対応の課題」と題したパネルディスカッションを行いました。
講演内容は、阪神・淡路大地震および今年の東日本大震災によって被害を受けた建造物、民俗文化財、文字文化財等の復旧事業から、海外の文化遺産への支援まで多岐に及びました。緊急的な文化遺産復旧に関する議論を通じて、日本の被災文化財保護の経験を活かし、今後とも被災文化遺産保護のための国際的取り組みに協力していくべきであることが確認されました。
国際研修「紙の保存と修復」



8月29日より9月16日まで、ICCROMおよび九州国立博物館との共催で国際研修を行いました。世界中から60名程の文化財関係者の応募があり、その中からインド、スイス、メキシコなどに所属機関がある10名が参加者として選抜されました。
この研修では紙、特に和紙に着目し、材料学から歴史学まで様々な観点からの講義を行いました。同時に実習では、欠損部の補填から、裏打、軸付けなどを行って巻子を仕上げ、さらに和綴じ冊子の作製も行いました。見学では、修復にも使用される手すき和紙の産地である岐阜県美濃地方を訪れて和紙製造の現場および紙の集散地として発展した美濃市美濃町伝統的建造物群保存地区を見学し、紙の製造から輸送、販売まで歴史上の和紙の流通について学習しました。さらに、伝統的な表装工房や道具・材料店を訪れ、日本における紙の保存修復のための環境についても学びました。
この研修で伝えられた技術や知識が、海外で所蔵されている日本の紙文化財の保存修復や活用の促進につながり、ひいては海外の作品の保存修理にも応用されることを期待しています。
第4回大洋州世界遺産ワークショップへの出席


9月5日から9日まで、サモアのアピアでUNESCOの第4回大洋州世界遺産ワークショップが開催されました。大洋州は全地表の3分の1の面積を占めているにもかかわらず、世界遺産の登録件数は多くありません。そのためUNESCOは、自国の文化や自然の世界遺産登録を目指す大洋州の島嶼国の代表者を集めて、そうした取り組みを支援するためのワークショップを開催しています。文化遺産国際協力コンソーシアムでは、今後増加すると思われる大洋州の国々からの文化遺産保護に関する支援要請に備えるため、今回のワークショップにオブザーバーとして参加しました。
会議には13の島嶼国と2つの海外領のほかに、オーストラリアとニュージーランドがドナー国として、またICOMOSやIUCN等の諮問機関も参加しました。これまでの各国の取り組みと世界遺産登録に向けた準備の進捗状況が報告され、また大洋州が一丸となって取り組んでいくための核になる大洋州遺産ハブの形成などについて検討されました。
大洋州はこれまで自然遺産の保護に積極的な地域でしたが、今後は文化遺産についても積極的に保護し、博物館などの整備に向けても取り組みを進めたい姿勢が感じられました。また、無形遺産にも関心が高く、今後は大洋州諸国から無形的側面を含めた文化遺産の保護に関する支援等が要請されるのではないかと予測されます。
モンゴル・アマルバヤスガラント寺院における研修およびワークショップ



文化庁委託・拠点交流事業の一環としてモンゴル教育文化科学省と共同で行っているモンゴル・アマルバヤスガラント寺院での活動も3年目となります。本年は6月下旬および8月下旬の2度にわたり、協力ミッションを派遣しました。
昨年度のワークショップで検討した内容に従って本年4月、文化遺産法に基づく保護区を設定する決定がモンゴル政府によって行われました。この保護区は、寺院本体だけでなく、周囲の景観や、寺院建設に関連する考古学的遺跡、さらには聖地や伝承地も含む広大なもので、そこでの開発規制等、具体的コントロールの内容を検討することが今年度の大きなテーマとなっています。地元のセレンゲ県が担当する保存管理計画策定作業の推進に向け、省・県・郡・寺院・住民の代表が参加するワークショップを各回とも開催しました。県側の作業体制立ち上げや基本情報収集等に遅れが目立つなど課題も少なくありませんが、計画に盛り込むべき基本的方針を県への提言としてまとめました。
これと並行して8月ミッションでは、日本の木造文化財建造物修理技術者を講師に、建造物保存修復調査に関する研修もモンゴル人若手技術者を対象として実施しました。この研修も一昨年、昨年に続くもので、実際に破損が進行している仏堂の一つを実測しながら、破損状況の定量的把握から、修理工事の積算に必要な数量調書の作成に至る作業の流れを実習しました。伽藍内の歴史的建造物は劣化・破損が進み、修理の緊急性がさらに高まってきています。修理の技術的水準を確保するには、依然モンゴル単独では対応が難しい状況は変わらず、日本を含む海外からの技術支援を求める声はますます大きくなりつつあります。これに今後どのように対処していくか、モンゴル政府側との意見交換を継続していく必要があります。
アジャンター遺跡の保存にむけた専門家会議2011開催

東京文化財研究所では、昨年度まで文化庁委託「文化遺産国際協力拠点交流事業」の枠組みにおいて、インド考古局(ASI)と共同で、アジャンター遺跡第2窟および第9窟における壁画の保存修復のための調査研究を実施しました。
そのフォローアップとして、文化遺産国際協力センターでは、2011年7月23日から28日までアジャンター遺跡を管理するインド考古局から、現地研究室の代表者チャンドラパンディアン氏を招へいし、27日に専門家会議を開催しました。
本会議では、共同作業で行った第2窟壁画の状態や損傷要因についての調査結果、また、第2窟、第9窟における高精細デジタル撮影によるドキュメンテーションの成果を報告しました。さらに、ASI側からは、アジャンター遺跡以外の遺跡も含めたASIの活動内容をご報告いただきました。アジャンター壁画が抱える問題を専門家間で共有するとともに、今後どのように壁画の保存を目指していくかを検討する貴重な機会となりました。
アルメニア共和国文化省との文化遺産保護のための協力に関する合意書の締結

6月24日に、アルメニア共和国文化省、アルメニア共和国歴史博物館と東京文化財研究所の間で、それぞれ文化遺産保護のための協力に関する合意書と覚書が締結されました。
合意書はアルメニア共和国において文化遺産保護活動を行うための包括的なものであり、共同作業や国内外ワークショップ等を通じて保存修復専門家の人材育成・技術移転を図ります。覚書についてはアルメニア共和国歴史博物館所蔵の金属考古資料の保存修復・調査研究とそれに関わる専門家の人材育成・技術移転のための協力に関するものです。
文化遺産国際協力センターでは、これらの合意書及び覚書に基づいて、平成23年秋から具体的な活動を開始する予定です。
キルギス共和国科学アカデミー歴史文化遺産研究所との文化遺産保護のための協力に関する合意書の締結

6月27日に、キルギス共和国科学アカデミー歴史文化遺産研究所と東京文化財研究所の間で、キルギスの文化遺産保護のための協力に関する合意書と覚書が締結されました。
今後、歴史文化遺産研究所と東京文化財研究所は、人材育成事業や文化遺産保護事業の共同実施、文化遺産に関する会議の共同開催を行います。
今年度より、チュー川流域の都城址アク・ベシムを対象にドキュメンテーション、発掘、保存、史跡整備に関する人材育成事業を実施していく予定です。
大エジプト博物館保存修復センタープロジェクト 労働安全衛生研修の実施とフェーズ2詳細計画策定調査への参加


文化遺産国際協力センターでは、国際協力機構(以下JICA)が行うエジプト国大エジプト博物館保存修復センタープロジェクトへの協力を継続的に行っています。 2011年4月27日(木)~5月5日(木)までの実質5日間、「労働安全衛生研修」を保存修復センター内で開催しました。東京芸術大学の桐野文良教授と東文研文化遺産国際協力センターの藤澤明が、講師としてJICAから現地へ派遣されました。エジプトでは文化財保存修復分野の高等教育機関において労働安全衛生について学ぶ機会がなく、エジプト人専門家達は日々の作業における安全衛生について疑問を持つことが多々ありました。これまで実施した研修の中から彼らの必要とする知識や技術を判断し、今回の研修実施に至りました。研修は大変好評で、繰り返し指導してほしいとの声が多く聞かれました。今後も定期的な研修実施を通して、修復専門家だけでなく清掃員に至るまで保存修復センターで働く全ての人が安全衛生に対する共通認識を持つことが目標です。また、5月27日(金)~6月4日(土)の9日間、JICAが行うフェーズ2(本格協力)詳細計画策定調査に東文研から3名が参加しました。専門家の執筆協力を受けて東文研が取りまとめたフェーズ2人材育成計画をもとに、JICAがエジプト側と今後の協力可能性について協議を行いました。その結果、JICAは引き続き保存修復センターで働く専門家の人材育成と技術移転への協力をエジプト側と約束し、今年7月以降の早い段階で、本格協力を開始することになりました。それに伴い、東文研もJICAと共により一層効果的な協力を行っていく予定です。
アルメニア共和国における文化遺産保護への協力のための準備ミッション派遣

文化遺産国際協力センターでは、文化庁委託『文化遺産国際協力拠点交流事業』の一環として、「コーカサス諸国等における文化遺産保護のための協力」を開始します。今年度はアルメニア歴史博物館を拠点とし、金属や染織品の考古遺物の保存修復に関する人材育成・技術移転を行う予定です。
アルメニア共和国には歴史上大変貴重とされる資料が数多く存在するにもかかわらず、資金・人材・教育機関・情報などの不足により、調査研究や保存修復が思うように進んでおらず、文化財保護分野の人材育成と技術移転において海外からの支援を強く望んでいます。
2011年4月3日(日)~13日(水)、準備ミッションを派遣し、博物館を管轄する文化省関係者との協議、アルメニア歴史博物館の保存修復施設や収蔵庫の視察、そこで働く保存修復専門家達と具体的な研究協力内容について直接話し合いを行いました。
その結果をもとに、現在、アルメニア側との合意書と覚書締結準備、およびアルメニア歴史博物館所蔵の金属・染織考古遺物の保存修復と自然科学的調査についてワークショップや共同作業を開始する準備を進めています。