研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS
(東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。
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ウィット・ライブラリー ゲストブック 1924年1月18日
ウィット・ライブラリー バーバラ・トンプソン氏のオフィスにて
2008年3月3日から6日間の日程で、山梨絵美子、江村知子、中村節子の3名で、イギリスにおける美術図書館、研究機関を訪問し、資料の収集と公開のありかたについて調査を行いました。限られた日程でしたが、セインズベリー日本芸術研究所、ロンドン大学コートールド美術研究所ウィット・ライブラリー、大英博物館、大英図書館、ヴィクトリア&アルバート美術館ナショナル・アート・ライブラリー、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)の6ヶ所を訪問、施設の調査とともに、各所の研究者と意見交換を行いました。なかでもウィット・ライブラリーは、研究所初代所長矢代幸雄が自らの美術史研究にとってひじょうに有益であったという体験から、日本でもこうした美術資料図書館が必要であるとして研究所の構想を得たという、当所にとっては縁の深い施設です。同所のゲストブックによると、1924から28年の間に9回に渡って矢代が訪問したことが判明し、研究所創設当時の事情を把握するとともに、文化財情報の整理・蓄積・公開においての課題を認識しました。今後も研究交流を行い、資料の利活用と閲覧室の運営とに活かしていきたいと考える次第です。
『国宝 彦根屏風』報告書
平成18~19年度にかけて彦根城博物館と共同で行った「彦根屏風」の調査研究についての報告書がこのたび無事刊行のはこびとなりました。この作品は本格的な修理が行われ、額装から屏風の形に改装されました。報告書では修理前・後の写真のほか、高精細画像、近赤外線画像、蛍光画像を多数盛り込みました。絵具層の下に存在する色名の指示書きの近赤外線画像と実際のカラー画像を対比させ、蛍光X線分析データとその計測箇所の高精細画像を対応させるなど、作品のもつ情報をできる限り提示することに関係者一同努めました。作品研究の基礎資料として末永く利用して頂けることを願っております。本書は中央公論美術出版から市販されます。
http://www.chukobi.co.jp/products/detail.php?product_id=336
『美術研究作品資料 第5冊 黒田清輝《湖畔》』の原寸大部分図
巻末「《湖畔》をめぐる言葉とイメージ」より
湖畔にたたずむ浴衣姿の女性を描いた黒田清輝の油彩画《湖畔》(明治30年作)は、数ある日本の美術品の中でもとくに親しまれた、人気の高い作品といってよいでしょう。このたび当研究所企画情報部では、この黒田の代表作にさまざまな視点から迫った『美術研究作品資料 第5冊 黒田清輝《湖畔》』を刊行しました。巻頭の城野誠治・鳥光美佳子(東京文化財研究所)による《湖畔》の画像は、原寸大部分図やふだん見ることのできない絵の裏側の画像もふくまれ、見なれた作品でありながら新鮮さを覚えます。荒屋鋪透氏(ポーラ美術館)・植野健造氏(石橋美術館)・金子一夫氏(茨城大学)・鈴木康弘氏(箱根町教育委員会)・渡邉一郎氏(修復研究所21)・田中淳・山梨絵美子(東京文化財研究所)によるテキストは、《湖畔》のモデルや制作地にはじまり、日本美術や西洋美術における位置、そして今日にいたる評価の変遷、作品のコンディションといったテーマで各々語られています。巻末には《湖畔》にまつわるイメージや言葉を収集し、昭和42年に発行された記念切手や《湖畔》によせた詩などを掲載しました。まさにその成り立ちから現在までの《湖畔》が歩んだ“生涯”をうかがえる一冊です。本書は中央公論美術出版より市販されています。
http://www.chukobi.co.jp/products/detail.php?product_id=121
帝釈天像頭部X線写真
(サンフランシスコアジア美術館)
企画情報部の津田と皿井は、美術の技法・材料に関する研究の一環として、平成20年3月10日から12日までの3日間、サンフランシスコ・アジア美術館において、日本の奈良時代につくられた仏像二像(梵天・帝釈天像)の調査と関連資料の収集を行いました。これらの像は、もともと奈良の興福寺にありましたが、明治時代の終わり頃に民間に流出し、その後アメリカのコレクターによって購入されたものです。
これらは、奈良時代にしかみられない脱活乾漆技法という、特殊な技法で造られています。外形は、漆と麻布で張り子状になっており、中は補強のための心木が入れられているほかは空洞となっています。高価な漆が大量に必要であったり、構造的にも脆弱であったりするため、現在に伝わっている脱活乾漆技法の作品は少なく、これらはきわめて貴重な遺品と言えます。興福寺の阿修羅像も同じ技法でつくられたものです。
明治38年頃に興福寺で撮影された写真には、多くの破損仏にまじってやはり大破したこの二像が写されています。アジア美術館の持つ関連資料の中にX線透過画像などを見出しましたが、それによって修理の状況などの手がかりを得ることができました。たとえば、明治の写真には梵天の頭部は無くなっていましたが、梵天像のX線透過画像をみると、その頭部は意外にも制作当初のものである可能性のあることがわかりました。本調査で得た知見を、さらに多角的に検証していく必要があります。今後、アジア美術館の協力を得て、これら脱活乾漆像の技法や様式などの解明をすすめたいと思います。
研究所における呉景欣氏
平成19年9月より1年間企画情報部に来訪研究員となった呉景欣氏(台北市出身、UCLA大学院博士課程在学)は、来日後の調査研究の成果を、3月26日に部内研究会にて発表しました。同研究員のテーマは、1920年代を中心として日本の近代美術が、どのようにヨーロッパ美術を受容したのかを研究テーマとしています。当日は、「古典か前衛か、キリスト教か仏教か―1920年代の古賀春江の宗教的なテーマの絵画」と題し、古賀春江が宗教的な主題、モチーフを扱った作品をとりあげ、当時のエル・グレコ等の古典から近代までのヨーロッパ美術受容の様相と重ねて考証した興味深い内容でした。発表後、部内の近代美術、及び仏教美術研究者等との協議においても活発に意見が交わされました。今後、さらに研究が深まることを期待します。
SPレコード鑑賞会の様子
3月28日、SPレコード公開鑑賞会を無形文化遺産部研究室で開催しました。無形文化遺産部は、芸能部時代から伝統芸能に関する音源を収集してきましたが、そのなかには、現在では希少価値となった多くのSPレコードも含まれています。大正時代から昭和初期にかけて録音されたSPレコードを一般の愛好者に公開し、伝統芸能の継承に関して、あるべき継承の姿をレコードを通して考える場としたい、という意図のもとに、能狂言に対象を絞って鑑賞会を行いました。会場の都合で参加者を限定しましたが、当日は21名が参加し、かつての謡の表現の多様性にみな感慨を深くしていました。
増子昇氏による口頭発表「金属の錆生成について-金属学の立場から」
研究プロジェクト「文化財の保存環境の研究」は、文化財を取り巻く環境の調査・解析手法を確立し、保存環境の現状把握と改善を目指しています。今回は、大気汚染や内装材料の文化財への影響評価のための金属試験片曝露調査について、その歴史や限界を論じました(2008年3月3日、参加者33名)。増子昇氏(東京大学名誉教授)には、窒素酸化物、硫黄酸化物、火山性ガス、海塩粒子等の文化財影響について、金属学分野の研究を基にご講演いただきました。また、当所名誉研究員門倉武夫氏は金属片曝露による文化財影響試験の歴史について、犬塚研究員は室内環境が文化財に与える影響を総体として評価するドシメーター(曝露計)の開発例について報告しました。今後の研究協力・研究の進展に有益な研究会となりました。
ベルリン技術博物館内紙の修復工房内部
保存修復科学センターでは、3月24日(月)から26日(水)にかけて、ベルリンにある、ドイツ技術博物館の紙の修復工房内において、在外日本古美術品保存修復協力事業の一環として、平成20年から開始予定の紙の修復作業に関する現地調査を実施しました。ドイツ技術博物館の紙の修復工房では、通常、ポスターや、図面類などの修復作業を実施しており、紙の修復作業に必要な設備や道具類は一通りそろっています。今回はそれらの設備、道具類が機能的に満足するかどうかを調査するとともに足りない設備や道具類を把握する作業を実施しました。今回の調査結果を元にして、設備を整え、ベルリンにおける紙の修復作業が円滑に進められる様に準備を進めています。
会議の様子
ウズベキスタン考古学研究所壁画修復室見学の様子
文化遺産国際協力センターは、アジアにおいて文化遺産の保護活動に携わる専門家の交流を促進するために、国際会議やワークショップを開催してきました。平成19年度からは、さらなるネットワークづくりを目指し、毎年アジア各地において専門家会議を開催することになりました。一年目は中央アジア地域に焦点を合わせ、3月12日から3日間、ウズベキスタンの首都タシュケントで開催しました。ウズベキスタンのほか、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、さらにユネスコの専門家を招聘し、各国における文化遺産保護活動の現状と課題について報告と討論を行いました。会議後、サマルカンドの遺跡、歴史的建造物、博物館、考古学研究所を見学し、文化遺産の保存・展示方法について意見を交換しました。参加者からは、日本を含む各国が直面している問題点、保護活動の事例を知ることができ有意義であった、今後も連携をはかり情報交換を行いたい、などの感想が寄せられました。
平成20年3月10日、タジキスタン共和国科学アカデミー、歴史・考古・民俗研究所と東京文化財研究所の間で、文化遺産保護のための協力に関する合意書と覚書が締結されました。合意書は包括的なもので、歴史・考古・民俗研究所と当研究所が協力して、タジキスタン共和国の文化遺産保護のための活動を行うこと、また、実際の保存修復作業やワークショップ等を通じて人材育成・技術移転を図ること等が、その内容に含まれています。覚書は、同研究所に所属する国立古物博物館所蔵の壁画資料の保存修復事業及びそれに係わる人材育成・技術移転のための協力に関するものです。文化遺産国際協力センターは、これらの合意書及び覚書に基づいて、平成20年度から具体的な活動を開始する予定です。
国立文化遺産センターでの布製品修復作業の様子
文学文化国家センターでのインタビューの様子
2月26日から3月4日までの間に、文化遺産国際協力コンソーシアムの行う「協力相手国調査」の一環として、モンゴルでの文化遺産保護及び国際協力に関する情報収集を行いました。調査では、モンゴルの文化遺産保護に係わる主要な博物館、機関等あわせて12カ所で、それぞれ2時間から3時間程度のインタビューを行ってきました。モンゴルは1990年にそれまでの社会主義体制から民主主義体制に移行しましたが、その際に文化財行政にも大きな変化がありました。現在は、遊牧文化をはじめとするモンゴルの貴重な有形・無形の文化遺産を次世代に伝えていくための法整備や制度作りがようやく本格化してきたところであり、今後、人材育成や全国に広がる文化財の調査登録作業などが予定されているとのことです。
企画情報部では毎月、研究会を開催しています。2月は27日(水)、コメンテーターに渡邊雄二氏(福岡市美術館)を迎え、綿田が「聚光院問題を考える」の題目で研究発表を行いました。大徳寺聚光院方丈(重要文化財)の創建年代については従来、狩野松栄・永徳親子による障壁画(国宝)の作期との関連で、永禄9年(1566)か天正11年(1583)かという議論がなされてきました。今回綿田は、めまぐるしく変化していた政情を考慮しつつ、断片的に残された史料を根拠に元亀2年(1571)という年次をあらたに提案しました。続いて渡邊氏より、塔頭障壁画全体の流れで考えると聚光院障壁画のプランはやはり古様な側に属しているという見解が示されました。その後、研究所外からの参加者も交えて活発な議論が行われました。
一龍斎貞水師による講談
東京文化財研究所では、平成14年から講談の実演記録を実施しています。ご協力いただいているのは、一龍斎貞水師と宝井馬琴師のお二人です。
重要無形文化財「講談」保持者の貞水師には、時代物と世話物、二席の連続長講をお願いしていますが、世話物の『緑林五漢録』が、平成20年2月13日、貞水師としては第21回目となる実演記録をもって、遂に完結の運びとなりました。第1回目が平成14年6月11日ですから、足掛けで7年を費やしたことになります。
緑林(みどりのはやし)とは盗賊のことです。『緑林五漢録』は、五人の義賊が次々に登場しては、刑場の露と消えてゆくまでを描いた長大な物語です。
時代物は『天明七星談』(平成17年12月26日完結)に続き、現在は『仙石騒動』を口演していただいています。来年度からは新たな長編の世話物が始まる予定です。
国際研究集会での講演の様子
2月5日から7日にかけて、東京文化財研究所セミナー室において第31回文化財の保存および修復に関する国際研究集会を開催致しました。今年度は保存修復科学センターが担当し、「文化財を取り巻く環境の調査と対策」というテーマで、海外から7名、国内から8名の研究者による講演が行われました。
国内の発表者からは、主に今年度解体が行われた高松塚古墳に関する温湿度制御、微生物対策等に関する講演が行われました。一方海外からは、同様の問題に取り組んでいるラスコー洞窟壁画についての講演も行われ、有意義な討議を交わすことができました。さらに、他の装飾古墳の保存対策、国際的な文化財保存の取り組み、非接触調査法に関する情報交換や意見交換も行いました。
研究会の様子
研究会の様子
保存修復科学センター伝統技術研究室では、2月27日(水)に当研究所セミナー室において「漆芸品の用いられた金属の劣化」を開催しました。当日は、伝統技術研究室の北野と保存科学研究の佐野千恵室長のほか、関西大学文学部教授・博物館館長の高橋隆博先生、漆芸家で重要無形文化財保持者(人間国宝)の北村昭斎先生、宮内庁正倉院事務所の成瀬正和先生の3名をお招きし、ご講演いただきました。近年、蒔絵粉や覆輪金具などのような漆芸品に用いられた金属の劣化に関する問題が話題となりつつあります。そのためか当日は年度末にもかかわらず多数の出席者がありました。研究会ではまず北野の劣化が著しい近世の出土蒔絵の話からはじまり、高橋先生からは漆工史の視点から日本や中国・朝鮮半島における金属が用いられた漆芸品の歴史と技法に関する解説をいただくとともに、博物館の立場からどのような点に注意しておられるかについてのお話がありました。引き続き、北村先生からは修復家の立場から実際に先生が手がけられた国宝・重要文化財の漆芸品の修復や復元模造について詳細で貴重なお話があり、実際に作業された方にしかわからない細かい点まで含めてご紹介いただきました。成瀬先生からは分析化学の立場から正倉院御物の漆芸品を中心とした古代から中世の漆芸品に用いられた金属の分析結果とそれらの劣化状態についてのお話をいただきました。最後に佐野室長からは保存科学の立場から博物館施設の保管環境や木製保管箱と金属の劣化との関係に関する話題提供がありました。講師の先生はお三方とも、実践を踏まえてのお話であっただけに、説得力もあり、会場からは、さまざまな質問が出て大変盛会でした。
ワークショップの風景
ワークショップ参加者一同
大エジプト博物館保存修復センター長のナディア・ロクマ女史との一場面
国際協力機構(JICA)は、円借款事業で建設中の大エジプト博物館に付属する保存修復センターに対して、人材育成・技術移転事業を行っています。今回、文化遺産国際協力センターは、その一環としてJICAの要請を受け、現地エジプトの保存修復専門家およそ20名に対し、2月24日から28日までの日程で、紙の保存修復ワークショップを開催しました。紙本修復家である坂本雅美さんを講師として、ヨーロッパの紙や日本の紙の製造法や特性、材質に関する講義と、それぞれの保存上の問題やさまざまな保存処置方法、長期的な保存のためのマウントの方法などに関する実習を行いました。エジプトには、パピルスや染織品など、さまざまな出土遺物があり、保存処置が困難な資料も数多くあります。参加者の多くは、長年保存修復に携わってきた経験豊かな専門家であり、ワークショップ中も、さまざまな有意義な質問が出され、議論が行われました。そして参加者からは、ワークショップを通じ、エジプトの文化遺産の保存修復のために参考となる知識、技術や材料に関する知見を得ることができたと、非常に高い評価を受けました。このワークショップの結果、今後の日本からの継続的な支援に対しても大きな期待を寄せていただくことができました。
消防本部(本部長:鈴木所長、副本部長:三浦副所長、永井管理部長)
救護者の搬送
訓練参加者の様子
消化器による放水体験
1月25日午前10時30分から当研究所で総合消防訓練が実施されました。
この日は研究所3階の給湯室からの出火を想定し、初期消火、通報、避難誘導、救護などを研究所の職員で構成する自衛消防隊を中心に訓練を行い、当日研究所に勤務する職員が多数参加しました。
午前10時30分、所内に設置された火災警報機が鳴り、「火災が発生したので非難してください」と放送されると、自衛消防隊及び火災発見者が消火器による初期消火(模擬)と119番通報(模擬)を行い、職員を誘導し屋外に避難させました。
その間、消防本部、救護所を設置するとともに、自衛消防隊が、煙を吸って具合が悪くなり、逃げ遅れた職員1人を担架で避難させ、文化財(模擬)を搬出しました。
訓練終了後、鈴木所長から、訓練参加への謝辞及び感想、文化財防火デーの意義、防火意識の高揚を図ることなどの講評がありました。
また、実際に消火器を使用した消火訓練では、消火器の種類、取扱い方法の説明を受けた後、「火事だ!」との発声とともに放水を行いました。
研究所では、1月26日の「文化財防火デー」に合わせ、関連行事として毎年、消防訓練を行っています。
講演する陳芳妹氏
淡水・ギン山寺全景(1991年整備以前)
企画情報部ではプロジェクト研究「東アジアの美術に関する資料学的研究」の一環として「人とモノの力学」というテーマを設け、美術品や文化財といったモノの価値形成において、縦横に広がる人と人とのつながりを視野に入れながら、そこにどのような力関係でモノが絡んでいくのかに注目し、研究を進めています。このたび当部発行の研究誌『美術研究』391号に中国宋代の古代銅器受容について論考をお寄せいただいた国立台湾大学芸術史研究所の陳芳妹氏をお招きして、1月15日(火)に講演会を開催しました。
「淡水ギン山寺に造られた神聖空間と民族相互認識の問題―社会芸術史の探究」と題した発表は、18世紀末から19世紀初頭にかけて台湾へ移住した漢民族、とりわけ福建省西山区の客家汀州を出身とする人々の表象についての内容でした。彼らは少数派ながら、台湾北部の淡水にギン山寺を建立し、その伽藍や意匠が出身地汀州の記憶をとどめたものであることを陳氏は突き止めています。わたしたちにはなじみの薄い台湾の前近代史が話の対象でしたが、移動する人にまつわるアイデンティティーの主張は上記の研究テーマにも適い、発表後はマイノリティー(少数派)の自己表象をめぐって議論が交わされました。
菩薩立像上半身 X線透過画像
企画情報部のプロジェクト研究「美術の技法と材料に関する広領域的研究」の一環として、1月29日(火曜日)に当研究所において都内在住の個人が所有する脱活乾漆造の菩薩立像(像高77.1㎝)のX線透過撮影を行いました。本像については6月の活動報告で述べたように作風から8世紀の最末もしくは9世紀に入っての造像が考えられるものです。6月に行った調査は目視による表面観察にとどまったため、構造・技法を明確にすることはできませんでした。そこで今回のX線透過撮影では、像内に像を支える構造材が存在するのか、用いられた麻布貼りは何層にわたっているのか、どの程度、補修・後補部が像に及んでいるのかなどを解明するために実施したものです。結果、像内には像を支える構造材が存在しないことや、補修は表面にとどまり像内に及ぶような損傷は少ないことが確認できました。また、一般に脱活乾漆造の場合、粘土でつくった原型に麻布を数層にわたって貼り重ねたのち、後頭部と体部背面に長方形の窓を開けて、そこから原型の粘土を除去して像内を中空としますが、本像では両耳を通る線で像を前後に切断して粘土の除去を行っていたことがX線透過撮影による画像から窺え、頭体部を前後に切断しやすくするために両腕を別に作って肩部で接合していたことも判明しました。このことは脱活乾漆造の終末期において構造・技法面に新たな展開があったことを示唆するようでもあります。今後、その方面でのさらなる技法解明が課題となったよう考えます。
この集団研修は、文化庁及びユネスコアジア文化センター主催で、アジア諸国から無形文化遺産保護に関わる行政官を招き、1月21日から26日に行われました。東京文化財研究所は共催機関としてその企画段階から参画し、研修の実施に当たっても、無形文化遺産部の宮田が講師として参加し、「日本における無形文化遺産の保護及び目録作成のメカニズムについて」「東京文化財研究所の無形文化遺産活動について」の2テーマについて、講義を行いました。参加者からは、日本の制度はもちろん当研究所の活動についても多くの質問が寄せられ、その関心の高さがうかがわれました。