研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


日印共同によるアジャンター壁画の技法材料、製作技法と保存に関する調査研究―文化庁「文化遺産国際協力拠点交流事業」―

壁画に塗布されたシェラックの暗色化によって図像が見えにくくなっている壁画について、インド考古局の専門家から説明をうける
今回共同調査を行った、東京文化財研究所とインド考古局(アジャンター現地オフィス)のメンバー

 東京文化財研究所は、インドと共同でアジャンター遺跡の壁画の技法材料、製作技法に関する情報や知識を交換・共有し、また保存修復に関する人材育成・技術移転することを目的とした事業を予定しています。そのために、9月25日から10月3日まで、インド・アジャンター遺跡での予備調査とカウンターパートであるインド考古局との意見交換を実施しました。
 アジャンター遺跡には、玄武岩からなる馬蹄形の渓谷に、30におよぶ仏教石窟が開鑿され、壮麗な仏伝を中心とする仏教壁画と数多くの彫刻が残されています。現在私たちが目にすることができる壁画の多くは、もともとの鮮やかな色調とは異なり、かなり黄色がかったものとなってしまっています。これは、かつて、イタリア人やインド人保存修復家たちにより、表面の保護や色彩をはっきりさせる目的でシェラック樹脂を何度も塗布されてしまった結果によるものです。また、コウモリの尿害や生物被害などにより、絵画が見えにくくなってしまっている場所も数多くみられます。この拠点交流事業のなかで、アジャンター仏教壁画の製作技法、材料について共同で分析を進めていくとともに、アジャンターに特有な保存に関する問題について取り組み、よりよい保存修復のための材料や手法が見出せるように共同研究を開始する予定です。

イラク人保存修復専門家の研修事業

本年度招へいされたイラク人研修生たち

 文化遺産国際協力センターでは、東京文化財研究所の運営交付金およびユネスコ/日本信託基金をもとに、2004年度からイラク国立博物館中央修復研究室の復興のために、イラクの保存修復専門家への研修を継続しています。2007年度は、イラク国立博物館中央修復研究室からファーエザ・M・ジュマー氏、タグリード・H・ヘーゼル氏、ニネヴェ古物遺産局からスィナーン・A・ユーニス氏、イラク・ナーシリーヤ博物館からジャマール・A・A・イスマイール氏の4名の保存修復専門家を招へいし、2007年9月19日から12月12日までの3カ月間にわたり、木製品の保存修復研修を実施する予定です。本事業は、奈良文化財研究所および静岡県埋蔵文化財調査研究所の協力を得て実施されます。

中央アジアにおける文化財保護施策に関する国際会議にむけた現状調査

タシケントでの文化財保護制度に関する聞きとり調査

 文化遺産国際協力センターでは、文化財保護施策に関する国際研究の一環として、本年度は中央アジアを対象とした研究を行っています。9月9日から16日には、中央アジアにおける文化財保護に関する現状調査と、3月に中央アジアで実施を予定しているアジア文化遺産国際会議の準備のため、タシケント(ウズベキスタン)とアルマティ(カザフスタン)を訪れ、現地政府やユネスコの関係者と面会し、情報収集およびニーズアセスメントのための協議を行いました。1991年のソビエト崩壊による独立以降、中央アジアの各国では、制度から保存の現場まで幅広い問題に直面しています。今回の調査では、考古遺跡の保存と管理活用、遺物の保存環境、人材育成など、現地で問題視される具体的な課題が示されるとともに、日本および中央アジア諸国の文化財関連分野の専門家による国際会議を実施し、今後の情報交換や技術移転のため、協力していくことで合意が得られました。

タイ・カンボジア現地調査

レンガ造構造物の保存処理の効果に関する評価
(タイ・アユタヤ遺跡)

 文化遺産国際協力センターは、タイおよびカンボジアにおいて、それぞれタイ文化省芸術総局、アンコール地区保存整備機構(APSARA)と共同で現地調査を行いました。タイでは、スコータイ遺跡およびアユタヤ遺跡において調査研究を実施し、スコータイ遺跡では、スリ・チュム寺院の大仏に繁茂するコケ類や藻類等の植物の対策についての調査や実験、アユタヤ遺跡では、3年前に実施したレンガ造遺構の保存処理について、評価のための調査を行いました。
 カンボジアでは、石造文化財の表面に繁茂する植物について、タ・ネイ遺跡での現地調査のほか、アンコール遺跡で使われている石材の石切場となっていたクーレン山周辺での砂岩石材の調査も実施しました。

敦煌派遣研修、4カ月間の日程を終了

敦煌研究院における研修報告会

 敦煌研究院と東京文化財研究所による第5期共同研究・共同事業において、今回初めて日本の人材を敦煌に派遣し研修を受けさせるということが実現しました。これは、敦煌莫高窟を研修場所として、今後ますます需要が高まる国際協力による外国壁画の保存活動に日本が積極的に参加していくための人材を育てることを目的とするものです。正式にスタートした今年度は、5月13日から4カ月間の日程で実施されました。東京芸術大学大学院博士後期課程・佐藤由季さん(絵画修復)、同・藤澤明さん(保存科学)、筑波大学大学院博士後期課程・末森薫さん(文化遺産管理、美術史)の3人が、異なる専門性を活かし、それぞれの不足を補い合いながら、4カ月の長期間、莫高窟の宿舎に泊まりながら、分析研究、劣化状況の調査、保存処理作業の実習、壁画構造の再現制作と模写など、壁画保存に関する全面的な研修を受けました。現場での貴重な体験は、研修の事業としての成功ですが、同時に3人ひとり一人にとっても、将来の研究や仕事に大きな影響をもたらすものであってほしいと願っています。3人はまた、敦煌研究院の数多くの同世代の研究者・専門家と篤い友情を育みました。この研修はさらに3年間を予定しています。

タイ王国文化省芸術局長来訪

タイ王国文化省芸術局長来訪(右から4番目がタイ王国文化省芸術局長)

 8月21日に、タイ王国文化省のArak SUNGHITAKUN 芸術局長が来訪されました。同氏は、国際交流基金の招聘により、8月20日から26日までの日程で来日されていたところ、日本の文化財保存関係活動視察の一環として来所されたものです。
 研究所では、所長と面談し、その後、所内見学及び文化遺産国際協力センターにおいて現在行っている日タイ共同研究の今後の進め方や、来年度にタイで行われる予定の国際会議に関する打ち合わせなどが行われました。

『東文研ニュースダイジェスト』の創刊

『東文研ニュースダイジェスト』創刊号

 このたび『東文研ニュースダイジェスト』を創刊することになりました。『東文研ニュースダイジェスト』は、一言でいえば『東文研ニュース』英語版です。しかし単なる『東文研ニュース』の翻訳ではなく、研究所が発行する海外向けの広報誌として、半期ごとに記事の内容を選りすぐったものだけを提供していきます。
 『東文研ニュース』(日本語版)が研究所のさまざまな活動を一般向けにわかりやすく伝えることを使命としてきましたように、『東文研ニュースダイジェスト』もまた研究所が推進する国際協力を海外向けにわかりやすく伝えていきます。
 創刊号は2006年における研究所の活動をまとめました。今後は研究所の活動を迅速に伝えるため、毎年2号を刊行していきます。『東文研ニュースダイジェスト』が、研究所の進める国際協力の一端を伝える役割を担うことにつながれば幸甚です。

『年報』『概要』の刊行

『東京文化財研究所年報』2006年度版
『東京文化財研究所概要』2007年度版

 このたび『東京文化財研究所年報』2006年度版と『東京文化財研究所概要』2007年度版をそれぞれ刊行しました。『年報』は昨年度、研究所が行ったさまざまな活動の実績を網羅的にまとめた年次報告書です。一方、『概要』は研究組織をはじめ、今年度、研究所が行おうとするさまざまな活動を視覚的にわかりやすく、また日英2ヶ国語で紹介しています。
 『年報』や『概要』は国および都道府県の美術館・博物館、文化財研究部門をもつ大学図書館に配布しています。またホームページ上でもPDFファイル形式で配信しています。
 とくに『概要』は一般の方々にもご利用いただけるように、『東文研ニュース』とともに黒田記念館や研究所でも配布しています。

『昭和期美術展覧会の研究〔戦前篇〕』刊行にむけて

昭和5年にローマで開催された日本美術展覧会の会場 会場に床の間を設えて、横山大観ら当時を代表する日本画家による作品を展示しました。

 企画情報部ではプロジェクト研究「近現代美術に関する総合的研究」の一環として、『昭和期美術展覧会の研究〔戦前篇〕』の2008年度刊行に向けて準備を進めています。同書は昭和戦前期に開催された主要美術展覧会の出品作のデータブック『昭和期美術展覧会出品目録〔戦前篇〕』(2006年刊行)の研究篇にあたるものです。昨年9月と今年5月の二度にわたる編集会議、および執筆候補者との調整を経て、若手の研究者を中心とする計29名の方に、各専門分野をふまえた論考を寄せていただくこととなりました。展覧会や美術団体の動向を軸に、絵画や彫刻、版画、写真、工芸等の諸ジャンルはもちろん、プロレタリア美術や戦争美術といった昭和戦前期ならではのテーマも盛り込まれ、近年の研究のめざましい進展をうけて、質量ともに充実した一書となりそうです。今後は執筆者による研究会を開くなどして、一層のレベルアップを図りたいと思っています。

International Seminar for Traditional and Ritual Theatre(テヘラン)での講演

Iranian Artist's Forum-Beethoven Hollでの講演[22日]
City Theatre Cafe(City Theatre of Tehran BF1)での演奏会[25日]

 Dramatic Arts Center of Iranからの依頼を受け、Iranian Artist’s Forum(8月20日~22日テヘラン)におけるInternational Seminar for Traditional and Ritual Theatreで、“Bunraku: Traditional Japanese Puppet Theatre”(飯島満)、“Folk Performing Arts and Traditional Festivals in Japan”(俵木悟)と題する講演を行いました。あわせてIranian Academy of the Artsでの懇談会に出席し、今後の研究協力等について意見を交換しました。
 今回のセミナーは、13th Tehran International Ritual-Traditional Theatre Festival(8月23日~28日)に先立って開催されたものです。フェスティバルの会期中は、イラン国内および近隣諸国を中心に、各地から招かれた様々の芸能がテヘラン各所で公演されていました。日本ではまず実見できないような中東の諸芸が数多く参加しており、その意味においても得るところの大きい極めて有意義な調査となりました。

保存修復科学センター連絡会議の開催

保存修復科学センター連絡会議の様子

 今年4月の文化財研究所と国立博物館との統合に合わせて、保存科学部と修復技術部が統合し、保存修復科学センターが設立されセンターには、4国立博物館・奈良文化財研究所の保存修復担当研究職員も併任として所属することになりました。8月3日には、保存修復科学センターの初めての連絡会議が、奈良文化財研究所の小講堂で開催されました。参加者は、28名でした。会議では、国立博物館や文化財研究所の職員紹介および本年度のプロジェクト概要紹介を行うと共に、情報交換を行いました。また、博物館の収蔵資料の科学的な調査に関して文化財研究所の協力をお願いしたいという要望など様々な意見が出ました。この会議に先立ち、高松塚古墳現地では、床石発掘状況や断熱覆屋の空調設備の見学や壁画修理施設に置かれている取り上げられた壁画の見学も行われ、有意義なセンター連絡会議でした。

特別史跡・キトラ古墳壁画の保存修復

天井作業風景

 東京文化財研究所では文化庁からの受託事業で、「特別史跡キトラ古墳壁画保存修復事業」を行っており、その中で、石室内の定期点検や壁画の取り外しなどを進めています。
 キトラ古墳では、側壁の四神および十二支神をすでに取り外し、天井・星宿図のみが現地に残っています。その天文図で、7月に一部のはく落が確認されました。その後の調査で、はく落の危険性が高い箇所が数十か所にのぼることが明らかとなるなど、著しく悪い状態です。そこで、東京文化財研究所では、落下の危険性が極めて高い部分から順次取り外し作業を進めています。

エントランスホールにおけるパネル展示「[キトラ古墳壁画]―壁画の取り出しと修復作業について―」

壁画取り外しに用いた機材の実物展示

 現在、エントランスでは、国の特別史跡キトラ古墳壁画の取り出しと修復作業について展示を行っています。パネルコーナーでは、壁画の図像部の拡大および原寸大写真を展示するとともに、キトラ古墳自体の概説や保存修復事業の概要を写真・イラストを用いて解説しています。特に、壁画の取り出しに関しては、現場での取り出し作業から特別展示のための処置までを、順を追って解説してあります。また、取り外しに使用する材料を選択するために作製したサンプルや、取り外しに使用した道具などは、現物が展示してあります。

タジキスタン、アジナ・テパ仏教寺院保存事業

タジキスタンでのユネスコ国際執行委員会の様子

 ユネスコ文化遺産保存日本信託基金による「タジキスタンの仏教遺跡保護プロジェクト」の第3回国際執行委員会が、8月23日から30日までタジキスタンの首都ドシャンベで開催されました。本プロジェクトは、練り土やレンガで構築された土構造物であるアジナ・テパ遺跡の保護を目的としています。文化遺産国際協力センターは、2005年より事業に参加し、遺跡範囲の確認や清掃作業などの考古学調査を実施してきました。
 今回の数回にわたる会議と28日に開かれた国際執行委員会では、2007年春までに実施された活動と遺跡の現状にもとづき、今後の事業方針が討議されました。土壁の保存処置をめぐっていくつかの改善点が指摘され、また、ストゥーパ保護のための覆い屋の建設計画は見直され、代案として練り土で覆う方法が検討されました。そして、タジキスタン側から、これまでの日本人専門家による活動を評価し、引き続き事業への協力が要請されました。これを受けて文化遺産国際協力センターは、保護活動に必要となる考古学的清掃などで協力していく予定です。

タジキスタンの文化財調査

タジキスタン国立古物博物館の収蔵庫における、ソ連時代に剥ぎ取られたさまざまな遺跡の壁画片の現状
タジキスタン国立古物博物館における、ソ連時代に修復されたペンジケント遺跡の壁画の調査風景

 「西アジア諸国等文化遺産保存修復協力事業」の一環で、8月23日から30日にかけて、タジキスタン国立古物博物館に所蔵されている壁画資料の現状調査を行いました。1991年までソヴィエト連邦に属していたタジキスタンでは、かつてロシア人専門家が主に調査や保存修復を行っていましたが、ソ連邦崩壊後は、地元の研究者や、調査・研究資金の不足が深刻な問題となっています。また、ソ連邦時代の技術や方法論が基礎になっているため、現時点では時代遅れの面が顕著となり、日本や欧米諸国からの技術移転や方法論の導入が急務となっています。
 国立古物博物館には、ペンジケント、シャフリスタン遺跡など、6世紀~8世紀の間に商人として活躍したソグド人によって描かれた極めて貴重な壁画が残されています。収蔵庫には、数十年に及ぶ発掘作業のなかで発見された数多くの壁画が、現地から剥ぎ取られてなにも処置されずに山積みにされたまま放置された状況です。特に、ソ連邦崩壊後は、全ての資料がタジキスタン国内に残されたまま、何の処置も施されていないのが現状です。こういった資料は、無計画な剥ぎ取りに対する倫理的な問題のみならず、合成樹脂の多用による壁画の暗色化など、技術的にもさまざまな問題をはらんでいます。
 学術的に非常に重要な文化遺産を保存していくために、人材育成や技術移転のための緊急的な協力が求められています。

敦煌莫高窟第285窟の共同調査進む

携帯型蛍光X線による分析調査

 敦煌莫高窟には、いまも膨大な壁画芸術が残されています。しかし、現在私たちが肉眼で見ることのできる壁画は、1千年以上もの歳月を経て、制作当初から比べれば甚だしく劣化が進み、変色、褪色、剥落などによってすでに大きく変化してしまったものなのです。壁画の保存は、その劣化のメカニズムを解明し、これ以上劣化を進行させないための処置を施す活動ですが、そもそも当初の壁画制作技法や材料がどのようなものであり、どのような要因によって現在の状態になったかを解明することは、保存の方法を考える上で必要であるとともに、壁画の価値を再び蘇らせるという意味においても、極めて重要です。その両方を兼ね備えてこそ、真の文化財保護と言えます。私たちの日中共同調査は、正常光、側光、赤外線、紫外線蛍光などの写真撮影による観察とともに、デジタル顕微鏡、携帯型蛍光X線、ラマン分光法による非破壊分析調査、微小試料による技法・材料および劣化に関する詳細な分析調査、さらに修復の専門家による劣化状況に対する詳細な観察作業などを総合的に行っています。これによって、これまで知られていなかった第285窟(6世紀前半)における多量の有機色料使用の状態や、特殊な壁画劣化の状況が次第に解明されつつあります。また、放射性炭素(14C)年代測定法による石窟の年代同定、鉛同位体比分析による鉛系顔料の産地同定研究も行い、シルクロードの広い地域を視野に入れた研究を進めています。

宗湛の研究

キャビネットに収納された画家別フォルダ群
そのうちの宗湛フォルダを抜き出したところ

 企画情報部文化形成研究室では、「東アジアの美術に関する資料学的研究」の一環として、室町時代の将軍家専属絵師・宗湛(1413~81)の基礎研究に取り組んでいます。昨年度は最初に宗湛に関する資料を網羅的に収集し、研究の基盤となる資料集を作成しました。その際、とくに室町時代の漢画系絵師についてまとまった成果を得た戦前の「東洋美術総目録事業」の形式を参考としています。その作業を通じ、研究基盤整備という目的下における「東洋美術総目録」形式のある種普遍的とでも呼びたくなるような有用性を確認できただけでなく、戦前から断続的に形成されたまたは今でも順次形成されている研究所の美術関係各種アーカイブが今でも十分に有効であることをあらためて認識しました。
 今年度はひとつひとつの資料に綿密な考証を付し、なおかつ集めた資料から総合的に判断することによって、資料集の質を高め、対象へのより正確な理解へ近づこうとしています。その経過を本年度の第2回総合研究会で発表しました(7月10日、綿田稔「宗湛の研究」)。昨年度の美術部オープンレクチャー(10月28日、綿田「雪舟と宗湛」)で報告した内容より考証の進んだ部分が相当にあります。今後、まとまった成果を『美術研究』誌上に順次公表していく予定です。

2007年度共催展「近代日本洋画の巨匠 黒田清輝展」開催

「近代日本洋画の巨匠 黒田清輝」展の案内

 今年度の上記共催展が、神奈川県の平塚市美術館において、7月21日より開催しました。(会期:9月2日まで)同美術館のある湘南地域は、黒田清輝にとってフランス留学帰国後から晩年にいたるまで、たびたび訪れた地として、さらに創作活動にとっても縁の深い地でした。ひろく知られるように、留学から帰国直後の黒田は、積極的に外光を取り入れた新しい表現の作品を描き、斯界に新鮮な衝撃をおよぼしました。そうした作品の何点かは、平塚に隣接する大磯、鎌倉などで制作されました。その点からも、今回の共催展は、黒田の画業全般を紹介すると同時に、とくに同美術館が所蔵する湘南地域を描いた「波打ち際の岩」(1896年)なども加えて展示し、この地域との関連を多くの方々に見ていただく機会になればとおもいます。

国立歴史民俗博物館蔵紀州徳川家伝来楽器コレクションの調査

 昨年より、国立歴史民俗博物館と共同で同博物館蔵紀州徳川家伝来楽器コレクションの調査を始めました。紀州家10代藩主治宝が、収集した雅楽器を中心とするコレクションは一部散逸していますが、博物館が所蔵する楽器だけでも総数157件をこえ、その他楽譜や付属文書も多数有しています。博物館では平成16年に資料図録を刊行しましたが、それに基づきながら専門家の目を加えてさらに詳しい調査をすすめる予定です。7月から管楽器の調査が始まりましたが、調査の結果、従来「賀松」と呼ばれてきた能管が、『銘管録』(明和年間に徳川幕府に提出した銘管一覧)に記載のある「古郷の錦」である可能性が強くなりました。

「博物館・美術館等保存担当学芸員研修」の開催

文化財害虫同定実習を行っている様子

 昭和59年から始まった「博物館・美術館等保存担当学芸員研修」は、文化財保存施設において資料保存の任にあたる学芸員を対象に、基礎的な知識や技術を習得して頂く目的で毎年開催しているものです。第24回となる今回は、7月9日から20日まで、平日の9日間開催し、32名の受講生が全国から集まりました。
 研修は講義と実習からなり、前者では温湿度や虫害管理といった保存環境、および各種文化財の劣化とその防止を主な内容としています。後者では、機器を使った環境測定法を習得し、その応用として横浜市歴史博物館においてケーススタディ実習を行いました。また今回は、隣接する東京国立博物館の協力をいただき、当博物館における資料保存に関する講義と見学を実施しました。
 自然科学的な内容の多い研修なので、人文系を専門とする方の多い受講生は面食らうことも多いかも知れませんが、我々は出来る限り内容を理解して頂こうと、毎年工夫しています。また、2週にわたって同じ部屋で過ごした受講生の結束は堅く、研修後もメーリングリストなどを通じて情報交換を行い、それぞれの館での保存環境向上に大きく寄与しています。来年度の募集要項は、2月頃都道府県教育委員会を通じて、各施設に配布する予定ですので、資料保存を担当する学芸員の皆様はどうぞご応募ください。

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