研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


イラク人専門家の人材育成事業

染織品の保存修復研修(女子美術大学)

 イラク国立博物館保存修復研究室の専門家に対する人材育成事業は、2004年より運営費交付金およびユネスコ文化遺産保存日本信託基金をもとに実施されてきました。本事業では、これまでにのべ18名の保存修復専門家を研修生として受け入れてきました。そして帰国した研修生は、それぞれの技術を活かし多くの文化財の修復を行っています。 これまでの研修では、日本国内のさまざまな機関の協力を受け、金属器を中心に博物館に供与された設備を使用するための実習を行ってきました。本年度は、ユネスコおよびイラク国立博物館の意向を受け、染織品の保存修復と文化財保存修復や材質分析に必要な機器に関する研修(機器研修)を実施しました。6月18日から9月19日の3ヶ月と比較的短期ではありましたが、保存修復の技術の研修に加えて、その背景にある保存理念やさまざまな科学的知識などの講義、実習を取り入れることで、一修復専門家の育成にとどまらず、将来にわたり博物館の専門家を指導できる人材の育成を目指しました。 研修は、染織品の保存や分析を率先して行っている大学の研究者をはじめ、保存修復専門家の方々の協力の下に実施されました。財団法人静岡県埋蔵文化財調査研究所では、考古遺物の保存修復、発掘現場での対処法について学び、現場での取り扱いについて学びました。染織品の保存修復実習では、まず、保存修復の基礎や染織品の歴史についての基礎講義をそれぞれ専門の先生方に行っていただきまし、その後、女子美術大学の協力を得て、女子美術大学が所蔵する江戸時代の小袖、コプト布片を題材に、保存修復と保管管理について実習を行いました。機器研修では、東京文化財研究所保存修復科学センター、奈良文化財研究所の協力の下、さまざまな機器の使用方法、分析技術に関する講義と実習を行いました。
 2009年1月にイラク国立博物館の陳列の一部が再開しました。これまでに、イラク国内の混乱のなかで失われた文化財の3分の1が博物館に返還されてきており、少しずつですが確実に復興に向かっています。本研修に参加した保存修復家が博物館の将来を担う人材に成長し、イラク国内の復興に貢献することを期待します。

イラク人専門家の人材育成事業

日本語の研修

 文化遺産国際協力センターでは運営費交付金「西アジア諸国等文化遺産保存修復協力事業」およびユネスコ日本文化遺産保存信託基金「バクダードにあるイラク国立博物館の保存修復室復興」を基に、イラク人保存修復家を日本へ招へいして、文化財の保存修復にかかる人材育成・技術移転のための研修を実施しています。本年度は、イラク国立博物館よりスィーナー・C・A・アルティミーミー氏、ファドゥヒル・A・A・アラウィ氏、モハンマド・K・M・J・アルミマール氏、バーン・A・M・A・アルジャミール氏の4名の保存修復専門家を招へいし、2009年6月19日から9月18日までの3ヶ月間にわたり、主に染織品の保存修復実習と文化財保存修復や材質分析に必要な機器に関する研修を開始しました。本研修では、女子美術大学、奈良文化財研究所、静岡県埋蔵文化財調査研究所など、国内の大学・保存修復専門機関の協力を得て行います。

イラク人専門家の人材育成事業

遺構のはぎ取り実習
(静岡県埋蔵文化財調査研究所)
金属遺物の保存修復実習
(奈良文化財研究所)

 文化遺産国際協力センターでは、イラク国立博物館の保存修復室の復興のために、研究所の運営費交付金およびユネスコ文化遺産保存日本信託基金をもとに、人材育成・技術移転を目的とした保存修復研修を実施してきました。研修コースは2004年度に始まり、本年度で5年目となります。招へいした保存修復の専門家は、のべ14名となり、木製品、金属器、土器、粘土版など、さまざまな対象物をテーマとした研修を実施してきました。
 本年度は、イラク国立博物館より保存修復室長のブタイナー・M・アブドゥルフセイン氏、修復家のタームル・R・アブドゥアラー氏の2名の保存修復専門家を招へいし、2008年7月1日から12月10日の約半年間にわたり、主に木製品の保存修復研修とそれに関連する保存修復技術の習得のための実習を実施しました。
 研修は、奈良文化財研究所および静岡県埋蔵文化財調査研究所、九州国立博物館および国内の保存修復機関の協力を得て行いました。保存修復の実習として、木製品の保存修復(東京文化財研究所)、金属遺物の保存修復(奈良文化財研究所)を行いました。さらに、これまでの研修から発展させ、本研修では、木材に関する基礎的な科学調査(静岡県埋蔵文化財調査研究所)や3次元CTスキャナをはじめとする最新の分析機器など(九州国立博物館)について学びました。文化財を構成する材料の分析や劣化のメカニズムを科学的な視点からとらえる良い機会となったことに、二人の研修生も非常に満足していました。
 6か月にわたる長期の研修でしたが、両研修生は意欲的に取り組んでいました。今回の研修成果をイラク国内の文化財の保存修復の現場で生かしていってくれることを願います。

イラク人保存修復専門家の研修事業(2)

真空凍結乾燥処理後の遺物のクリーニング作業(静岡県埋蔵文化財調査研究所)

 3ヶ月にわたるイラク人専門家への保存修復の研修は順調に進み、これまでにほぼ半分が終了しました。
 9月末から10月末にかけ、4名の研修生は東京文化財研究所での保存修復に関する基礎講義と乾燥した木製遺物の保存修復の実習に参加しました。つづく10月29日から11月9日には、(財)静岡県埋蔵文化財調査研究所の協力を得て、遺跡から出土した水浸木材の保存修復について研修を行いました。静岡市駿府城内遺跡(15~16世紀)の発掘現場では、実際に液体窒素や発泡ウレタンを使った脆弱な木製遺物の取り上げ作業を経験したほか、静岡県埋蔵文化財調査研究所・清水事務所では、実際の出土遺物に対して、PEGや凍結乾燥による強化処理や、クリーニングや接合、補彩といった一連の保存修復の作業に携わりました。
 今後、奈良文化財研究所において保存修復の作業に用いられるさまざまな機材についての研修を受け、最後に今回の研修の成果についての報告を行ない、研修を修了する予定です。

イラク人保存修復専門家の研修事業

本年度招へいされたイラク人研修生たち

 文化遺産国際協力センターでは、東京文化財研究所の運営交付金およびユネスコ/日本信託基金をもとに、2004年度からイラク国立博物館中央修復研究室の復興のために、イラクの保存修復専門家への研修を継続しています。2007年度は、イラク国立博物館中央修復研究室からファーエザ・M・ジュマー氏、タグリード・H・ヘーゼル氏、ニネヴェ古物遺産局からスィナーン・A・ユーニス氏、イラク・ナーシリーヤ博物館からジャマール・A・A・イスマイール氏の4名の保存修復専門家を招へいし、2007年9月19日から12月12日までの3カ月間にわたり、木製品の保存修復研修を実施する予定です。本事業は、奈良文化財研究所および静岡県埋蔵文化財調査研究所の協力を得て実施されます。

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