研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


国際研究集会「日本絵画の修復 ―先端と伝統―」の開催

総合討論会

 11月12日~14日の3日間、第33回文化財の保存及び修復に関する研究集会「日本絵画の修復 ―先端と伝統―」を東京国立博物館平成館において開催しました。日本絵画の修復に関して、国内外での現状を科学的・客観的に確認することで、材料・技法を再認識し、ここで得られた知識を共有することで、広く世界で所有されている日本絵画の保存と活用を促進することを目的して、海外から4件、国内から11件の講演が行われました。修復技術者、保存科学者、学芸員、伝統材料の製造元などの分野から、350名を超える参加がありました。講演・討論会に関する詳細な内容については、来年度、報告書を刊行する予定にしております。

「東アジア文化遺産保存学会第1回大会」への参加

開会式の様子

 日本、中華人民共和国、そして大韓民国において、文化財保存に携わる研究者が最新の成果を発表する表題の大会が、10月17日から3日間、北京の故宮博物院において開催されました。当研究所からは、石崎武志保存修復科学センター長が寒冷地における石造建築物の劣化に関する招待講演を、また森井順之同研究員が溶結凝灰岩の非破壊的劣化調査について、さらに吉田が高松塚古墳壁画の状態調査に関してそれぞれポスター発表を行いました。その他、国内他機関からも多くの参加があり、各国の研究者間で活発な議論が行われました。歴史的に深い関わりを有する3国には、文化的にも多くの共通点があります。一方、異なる国ですから、文化財保存についての理念などには相違点も多数あります。今後、1大文化圏としての我々がこれらの点について、どのような共通認識を持ち、また協力し合えるかは、この学会のこれからに大きくかかっているとも言えます。次回の大会は2年後、再び中国国内で開催される予定であることがアナウンスされました。

国際研修「漆工品の保存と修復」

一連の修復作業が終了した常香盤(東京都港区實相寺所蔵)
漆を用いた接着作業の実地訓練風解

 保存修復科学センターでは、9月17日から10月15日にかけて国際研修「漆工品の保存と修復」を行いました。この研修は、先にICCROM(文化財保存修復国際センター)との共同で開催した国際研修「漆の保存と修復」に引き続いて保存修復科学センターが独自に行なう研修プログラムです。この研修では、先行して開催した2週間の「漆の保存と修復」で日本の漆文化の基礎を勉強した研修生の中から若干名の修復技術者をえらび、一ヶ月かけて実際の漆工品を教材とした保存修復の実地訓練を行ないました。今回は、ドイツのアントンウルーリッヒ公美術館のガスナー・アッダ氏とハンガリー国立博物館のバラシュ・レンツ氏の2名が、漆工品修復技術者の山下好彦氏による実地訓練、その間9月21日から9月23日にかけての姫路・京都・奈良における漆文化財の現地見学、また10月5日には教材を提供してくださった東京都港区の實相寺(江戸時代には会津松平家縁の江戸菩提所の一つ)を尋ね、実際の大名諸道具などの漆工品を見学しました。そして、研修の締めくくりに今回の研修に関するプレゼンテーションを行いました。さて、今回の教材は、汚れや痛みが激しい三葉葵金御紋付の朱塗り常香盤(江戸時代後期頃の会津松平家什器:)です。これをお借りして保存修復科学センター内の漆修復アトリエに搬入し、事前調査・写真撮影・科学分析・養生・クリーニング・漆や膠などの伝統修復材料を用いた漆塗膜や破損部分の接着作業など、研修生は一連の作業を経験しました。彼らは今後自分が所属する美術館や博物館で漆工品の保存修復の実務に携わる予定の修復技術者であるだけに、問題意識はとても高く、大変熱心でした。なお、それまでは移動も困難であるくらい痛みが激しかったこの常香盤は、一ヶ月という短い期間内で可能な緊急措置としての修復作業を終え、今年度末には東京都港区文化財に指定される予定です。

「東アジア文化遺産フォーラム」への出席

ソウル宣言の共同発表・署名

 平成21年10月27日、韓国ソウルにて「東アジア文化遺産フォーラム(East Asian Cultural Heritage Forum)」が開催され、東京文化財研究所(東文研)からは鈴木規夫所長、岡田健・文化遺産国際協力センター国際情報研究室長、森井順之・保存修復科学センター研究員が出席しました。このフォーラムは韓国・国立文化財研究所(韓文研)の設立40周年記念行事の一環であり、韓文研と共同研究を実施している日本・中国・モンゴル・ロシア極東地域の各研究機関長が一堂に会し、文化遺産保護に関する国際共同研究の将来について議論が交わされました。議論の結果、参加各国の文化遺産が持つ特色を相互に理解したうえで、各研究機関のネットワークづくり、共同での人材育成にむけて努力することで合意し、「(東アジア文化遺産の保護に関する)ソウル宣言」を共同で発表、署名を行いました。

国際研修「漆の保存と修復」

スターディーツアーにおける漆掻き見学
漆工品の修復実技

 保存修復科学センターでは、9月2日から15日にかけて国際研修「漆の保存と修復」をICCROM〔国際保存修復研究センター〕と共同開催で行いました。この研修は、講義、実技、見学からなります。今回の研修には、オーストリア・ドイツ・イギリス・ポ-ランド・ロシア・ポルトガル・カナダ・アメリカから8カ国9名の研修生が参加し、漆工の歴史、漆の科学と調査方法、伝統的な漆工技術、漆工品や漆塗装の修復理念と修復方法などについて、それぞれの専門家から学びました。またスタディーツアーでは、日本産漆の80%ちかくを生産している二戸市浄法寺町周辺を訪れました。まず、八戸市縄文学習館や御所野縄文博物館で日本列島における漆のルーツにあたる縄文時代の出土漆器を見学し、次に浄法寺町での漆掻きと隣の青森県田子町での漆掻き用具作りを見学しました。さらに八幡平市では安代漆工技術センターでは実際の漆精製作業を見学し、現在では珍しくなった大正時代から昭和初期に使われていた古い時代の漆室(塗蔵)と漆工用具も見ました。そして、最後に中尊寺金色堂を見学しました。今回の研修生は、自分の美術館や博物館に日本からもたらされた漆工品を所蔵しておりその対処に苦慮しているか、実際の修復現場にいる人たちが主でした。そのため、問題意識はとても高く、皆、大変熱心でした。とくに「日本の漆のことはある程度本で学んだことはあるが、実際の物や作業を見て勉強できたことは、今後に向けてとても良い経験になった」という言葉はとても印象的でした。

伝統的な漆器生産技術に関する基礎調査

漆室(塗土蔵)
漆室内の環境調査

 保存修復科学センターでは、「伝統的修復材料および合成樹脂に関する調査研究」プロジェクト研究の一つとして、伝統的な漆器生産技術に関する基礎調査を継続して行っています。これまで浄法寺漆の生産で知られる岩手県二戸市周辺の旧安代町岩屋地区(現八幡平市)の小山田盛栄氏所有の漆室(塗土蔵で明治期~昭和初期まで使用)の現地調査を実施しました。この種の小規模で在地性が強い伝統的な漆室は全国的にも極めて稀少です。この土蔵内に残された一連の漆塗料や蒔絵材料、漆工用具の整理作業を通じて、これまであまり知られていなかった一つの工房内に帰着する漆器生産技術の流れが明確になり、ここの作業環境が漆塗りを行うのに適していることもわかりました。この調査結果は、今年度開催予定の国際研修「漆の保存と修復」の教材としても使う予定です。

博物館・美術館等保存担当学芸員研修

学芸員研修における実習の様子

 今回で26回目となる表題の研修を7月13日より2週間行い、北は岩手、南は沖縄から31名の文化財施設に勤務する学芸員が参加しました。参加者の専門は、考古から現代美術まで様々ですが、本研修では、あらゆる文化財資料を対象に、保存環境や劣化、修復などに関する基礎的な知識や技術を、講義と実習を通して学んでいただき、保存に役立てていただくことを目的としています。
 保存環境実習を実地で応用する「ケーススタディ」は千葉県立中央博物館をお借りして行いました。参加者が8つのグループに分かれて、それぞれが設定した温湿度や照度、防災設備などの調査を行い、次の日にその結果を全員の前で発表しました。
 本研修の修了者は今回で597名となりました。皆さん、文化財保存の最前線で活躍しておられます。我々は今後も、現場の声を大事にしながら、更なる研修内容の充実に努めていきたいと思っています。

東大寺法華堂安置仏像群の耐震に関する調査

法華堂安置仏像群の三次元計測

 東大寺法華堂には、国宝・乾漆不空羂索観音立像をはじめ多くの乾漆像や塑像が須弥壇上に安置されております。奈良盆地では高い確率で大地震が発生することが予測されており、法華堂安置仏像群について早急な耐震診断および対策立案が求められています。そこで保存修復科学センターでは、耐震診断に必要な情報を得るため、安置仏像群の三次元計測および法華堂建物および須弥壇の目視調査を実施しました。
 三次元計測では、前回の東大寺戒壇堂の国宝・塑造四天王立像でも使用した「ステレオカメラの移動撮影に基づいた簡易形状計測システム」(凸版印刷株式会社にて開発中)について、法華堂須弥壇内にて安全に計測できるようにケーブルレス化したものを用いました。その結果、調査期間内に6体躯の計測が終了しました。
 また、法華堂建物および須弥壇の目視調査は、木質構造の専門家を招へいのうえで実施しました。今後はその結果をもとに、須弥壇および建物の常時微動調査を進めていきたいと考えています。

保存担当学芸員フォローアップ研修

石崎センター長による講義

 この研修は、毎年実施している「美術館・博物館等保存担当学芸員研修」の修了生を対象に、資料保存に関する最新の研究やトピックスをお伝えするもので、今年は6月22日、69名の参加者を得て開催しました。
 今回は資料保存の現場をとりまく、最近の2つの大きな流れをもとにテーマを設定しました。ひとつは、地球温暖化が懸念され、省エネ化があらゆる所で求められている現在における内外の文化財施設の取り組みについて、石崎保存修復センター長が講義を行いました。
 また、大学における学芸員課程が改訂され、3年後より「資料保存環境論」が必須となります。これは今後、学芸員には資料保存に関する自然科学的な知識が例外なく要求されることを意味します。これを踏まえ、保存環境論のうち「温湿度」「空気環境」「照明」に関する最新の基礎に関する講義をそれぞれ、犬塚主任研究員、佐野保存科学研究室長、そして吉田が担当しました。
 どちらの内容も、参加者の皆様にとっては、自身のフィールドに直接かかわる問題だけに、真剣そのものでした。と同時に、我々にとっても保存環境を研究する機関の人間として、責任ある研究と情報提供を心掛けねばならないと実感した今回の研修でした。

海外工房における平成21年度在外修復事業

唐子図引き取り
修復前の調査

 保存修復科学センターでは、平成21年度の在外修復事業の一環として、今年もベルリンのドイツ技術博物館内のアトリエにて絵画の修復作業を始めました。修復している作品は昨年度から継続している朱衣達磨図(ケルン東洋美術館所蔵)と今年度始まった唐子図(ベルリン国立アジア美術館所蔵)の2点です。修復アトリエの広さの関係から同時に二つの作品の修復作業はできませんが、修復作業者同士うまく連携しながら修復作業を進めました。今年は、ベルリンも若干日本の梅雨のように雨が多く湿度が高い日が多くむしむしした日が多かったようです。今回の修復作業は7月8日でいったん終了となります。なお、達磨図に関しては今回の修復で終了の予定です。

キトラ古墳壁画の漆喰取外し

ワイヤソーによる漆喰取外しの様子
現在のキトラ古墳天井(紫は石材露出部分)

 保存修復科学センターでは文化庁からの受託事業「特別史跡キトラ古墳保存対策等調査業務」の一環としてキトラ古墳壁画の取外しを行っています。現在、石室内は微生物による汚染の増大が懸念されており、より早期に漆喰を取外すことが求められています。そこでこれまで月に1回、3日間程度実施していた取外し作業を、今年度からは1ヶ月間連続して行うことにしました。第1回目は5月11日からスタートし、主に天井南側の漆喰を取り外しました。1ヶ月間集中的に作業を行うことで効率を上げて取り外すことが可能となりました。また、図像のある漆喰は全て取外されていることから、紫外線照射による微生物の制御を行い、良好な結果が得られています。今回の作業の成功を踏まえ、今秋にも集中的な取外しが実施される予定です。

各務原、豊田市での近代文化遺産の保存と修復に関する現地調査

百々貯木場(矢作川左岸)
足助地区の郡界橋

 保存修復科学センターでは、かかみがはら航空宇宙科学博物館において航空機等、屋外保存されている鉄製文化財の保存環境及び劣化の状況を調査しています。今回は、豊田市において、保存されている百々貯木場、ダルマ窯、明治用水旧頭首工と船通し閘門、伊世賀美隧道、旧郡界橋など、石造から土窯、鉄筋コンクリート造まで多彩な近代化遺産について、その保存状況や保存上の問題点など、現地の担当者を交えて議論してきました。豊田市もトヨタ自動車のお膝元というだけでなく、明治の時代から続く養蚕や、矢作川を利用した材木輸送など、幾つかの近代文化遺産を活用すべく頑張っています。私たちも少しでもお役に立つよう頑張っていく所存です。

海上自衛隊鹿屋航空基地での現地調査について

二式大艇
機内の状況

 保存修復科学センターでは、海上自衛隊鹿屋航空基地において航空機等、屋外保存されている鉄製文化財の保存環境及び劣化の状況を調査しています。屋外保存されている鉄製文化財(航空機、鉄道車両、櫓、船舶)は、通常、その大きさゆえに雨露をしのげる屋根もかけることが出来ない為、保存環境としては非常に劣悪な状態となっています。また、屋外展示されている航空機(二式大艇)の機内に関しても、温湿度の計測を継続して実施しております。機内の保存環境は閉所であるがゆえに、屋外よりもさらに過酷な状況になっており、機体内部の鉄以外の材料(電線の樹脂製被覆等)が溶け出して機内を汚損するなど非常に憂慮すべき状態となっています。今後も注意深く状況を把握し、必要と思われる措置をとっていただくよう、働きかけていく所存です。

フランス・歴史記念物研究所との研究交流

フランス 歴史記念物研究所 (LRMH)

 フランスのラスコー洞窟の保存を手がけているフランス歴史記念物研究所(LRMH)の招きにより、2009年3月16日~20日、LRMHを訪ね、記念物等の生物劣化対策について研究交流を行いました。LRMHでは、洞窟や石造文化財の生物劣化について先進的な研究活動をしていますが、木造建造物の保存も近年手がけており、生物劣化関係は3名の常勤の研究者により精力的な研究が進められています。この微生物部門の他に、洞窟壁画部門、壁画部門、木材建造物部門、石造文化財部門、コンクリート部門、金属部門、染飾品部門、ステンドグラス部門、分析部門などで多くの研究者が活動しています。東京文化財研究所が現在対象としている分野と非常に近い研究をしており、今後も関連する分野で活発に研究交流や情報交換を進めていければと思います。

『保存科学』48号 発刊

『保存科学』48号

 東京文化財研究所保存修復科学センター・文化遺産国際協力センターの研究紀要『保存科学』の最新号が、平成21年3月31日付けで刊行されました。高松塚古墳・キトラ古墳の保存に関する研究情報、敦煌莫高窟保存のための調査研究など、当所で実施している各種プロジェクトの最新の研究成果が発表・報告されています。ホームページから全文(PDF版)をお読みいただけますので、ぜひご利用ください。(当所HPから保存修復科学センター保存部門に入る
http://www.tobunken.go.jp/~hozon/pdf/48/MOKUZI48.html

THE 31st INTERNATIONAL SYMPOSIUM ON THE CONSERVATION AND RESTORATION OF CULTURAL PROPERTY-Study of Environmental Conditions Surrounding Cultural Properties and Their Protective Measures- (全英文)発刊

THE 31st INTERNATIONAL SYMPOSIUM ON THE CONSERVATION AND RESTORATION OF CULTURAL PROPERTY-Study of Environmental Conditions Surrounding Cultural Properties and Their Protective Measures-

 平成20年2月5-7日、当所で行われた第31回文化財の保存および修復に関する国際研究集会「文化財を取り巻く環境の調査と対策」の報告書が発刊されました。ラスコー洞窟壁画、高松塚古墳壁画など、現地保存における被害事例とその計測・調査・評価方法、シミュレーションを含む環境解析およびその対策事例の報告など、多岐にわたる研究成果をまとめました。イタリア、フランス、ドイツなど諸外国の取り組みをふんだんに盛り込み、特に壁画の保存計画策定について、有用な事例集となりました。今後の研究交流の礎として、充実した研究成果を海外へ情報発信できました。

珍敷塚古墳のカビ対策のための調査

修復のための状態調査

 特別史跡珍敷塚古墳の保存修復のための指導助言及び調査を行いました。珍敷塚古墳は赤やグレーの顔料で文様が描かれた装飾古墳です。長い歴史の中で墳丘は失われ、現在は石室に用いられた石が露出しており、その周囲を覆屋で保護しています。この覆屋内の石の表面に大量のカビが発生し顔料が不鮮明となっていることがわかりました。そこで本格的な修復作業に向けた予備調査として、カビのサンプリングを行い、紫外線や筆などによるカビの除去を試みました。また、石表面温度の測定、近赤外水分計による水分量の測定を行い、処置が石に与える影響を検討しました。これらの調査結果を踏まえ、来年度には本格的な修復作業が実施されます。また、緊急的な処置だけでなく、覆屋内の環境制御を含めた中長期的な保存対策が求められています。

「第13回博物館保存科学研究会」の開催

報告会における質疑応答の様子
(於 三重県立美術館)

 表題の研究会を2月13日、14日の2日間、三重県内で開催しました(主催 博物館保存科学研究会、三重県博物館協会、東京文化財研究所)。この研究会は、担当学芸員研修の受講経験者や開催県内の学芸員などが参加し、主に文化財施設における実践的な保存活動についての講演や情報交換を行うものです。初日は、三重県立美術館において、報告会を行いました(参加者60名)。まず、三浦定俊客員研究員が「保存環境づくりのこれまでとこれから」というタイトルで基調講演を行いました。そして、三重県内の4人の学芸員および犬塚将英研究員が、環境管理や施設改修、整備に関する報告を行い、それぞれに対して、活発な質疑応答が繰り広げられました。2日目は、伊勢市にある皇學館大學佐川記念神道博物館、神宮徴古館、神宮農業館および神宮美術館を見学しました。参加者の皆様はそれぞれの館における保存環境と比べながら、ここでも様々な角度から情報交換や議論を行っていました。この研究会は、旧交を温め、また受講年度の異なる学芸員が交流する機会を持つOB会という側面と、普段はあまり接する機会の少ない、他地方の文化財保存の現場を目の当たりにすることで、自身の勤務館における保存のあり方を見つめなおすという大きな意義があります。本研究会の実現にご協力頂いた多くの皆様に深く御礼申し上げます。

東大寺戒壇堂安置の国宝・塑造四天王立像に関する調査

X線撮影調査風景
三次元計測調査風景

 保存修復科学センターでは、「文化財の防災計画荷関する調査研究」の一環として、塑像の耐震対策に関する研究を行っております。今回、国宝・塑造四天王立像(東大寺戒壇堂安置)を対象に、現状把握および耐震対策の立案を進めました。
 この国宝・塑造四天王立像は、奈良国立博物館により、平成14(2002)年に開催された特別展「東大寺のすべて」に出品する際に調査が行われました。今回は三次元計測および、以前の調査で撮影不可能な部分を補完するためのX線透過撮影を実施し、今後行う予定の耐震診断に必要な情報収集を行いました。
 三次元計測に関しては、凸版印刷株式会社と共同で調査を行いました。複雑に配置された塑像に対して移動させることなく計測可能なシステムとして、凸版印刷株式会社で開発中のステレオカメラの移動撮影に基づいた簡易形状計測システムを採用した結果、レーザー三次元計測では撮影が難しいとされる入り組んだ部分についても情報を得ることができました。今後はこれらの計測結果をまとめたうえで、塑像の耐震診断を行う予定です。

ドイツ・ケルン東洋美術館における漆の修復ワークショップの実施

修復した漆工品を前にした講義
麦漆による接着や刻苧つけの実習

 保存修復科学センターでは、平成20年度在外日本古美術品保存修復協力事業の一環として、ドイツ・ケルン東洋美術館において漆の修復ワークショップを昨年度に引き続き行いました。本年は、ワークショップⅠ(初級実習)を受講者10名で11月5日~11月7日の3日間、ワークショップⅡ(初参加者対象)を受講者10名で11月8日、同(学生対象)を受講者7名で11月9日にそれぞれ1日間、ワークショップⅢ(中級実習)を受講者7名で11月11日~11月14日の4日間の3つのレベル別グループにわけて実施しました。講師は、現地において修復作業を実施してくださった技術者2名です。参加者は、ドイツ国内はもちろん、イギリス、スイス、オーストリア、ポーランドなどヨーロッパ各地から学芸員や文化財の修復技術者など、日本の伝統的な漆工品修理に関心が高い人達ばかりでした。ワークショップでは、在外漆工品における修復事例の報告、漆ヘラつくりや修復実習用の手板を用いた麦漆による接着や刻苧付け、竹ひごによる芯張り実習など多岐に渡りましたが、皆、大変熱心で質問も多く、とても盛況でした。

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