研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


「臼杵磨崖仏保存環境調査報告会」の開催

国宝及び特別史跡・臼杵磨崖仏(ホキ石仏第二群阿弥陀如来坐像)

 東京文化財研究所は2000年より、国宝及び特別史跡・臼杵磨崖仏の次期保存修理計画策定のための調査研究を臼杵市と共同で進めてきました。11月6日に臼杵市中央公民館にて開催された「臼杵磨崖仏保存環境調査報告会」では、この10年間の研究成果の報告を行いました。
 まずは奥健夫氏(文化庁)より次期保存修理計画の意義について、下山正一氏(九州大学)からは臼杵磨崖仏が彫刻された阿蘇熔結凝灰岩に関する御講演を頂きました。また、Lee, Chan-hee氏(公州大学校)、Kim, Sa-dug氏(国立文化財研究所(大韓民国))からは、大韓民国における石造文化財の劣化状態調査、保存修復に関して御講演頂きました。その後、東京文化財研究所からは、臼杵磨崖仏で行われた調査研究の概要、磨崖仏表面の劣化状態と水環境、大気環境に関する調査結果を報告しました。また、劣化原因調査の結果に基づき、寒冷時の凍結防止策や着生生物制御などの劣化対策、劣化モニタリング手法に関する提案を行いました。最後は臼杵市教育委員会より「臼杵磨崖仏の長期保存計画ビジョン」と題して、次期保存修理事業およびその後のモニタリング・メンテナンスに関して計画案を発表し、聴衆に理解を求めました。
 一つの文化財としては異例の10年にわたる調査研究でしたが、ここで得られた成果も多く、臼杵磨崖仏のみならず多くの石造文化財でこの成果が活用されることを願っています。

在外日本古美術品保存修復協力事業におけるベルリンの紙の修復に関するワークショップ開催

ベルリン技術博物館内紙の修復工房内部

 保存修復科学センターでは、10月5日(火)から13日(水)にかけて、ベルリンの国立ベルリンアジア美術館の講義室において、在外日本古美術品保存修復協力事業の一環として、紙の修復に関するワークショップを実施しました。今年度実施したワークショップは巻物(掛け軸)について、基礎編(20名)、初級(12名)、中級(7名)と3つのコースに分けて、美術館、博物館の保存担当者,紙関係の修復家を対象に行いました。基礎編では材料としての「紙」「接着剤」、「装こう」についての講義を、初級では掛け軸のモデルを使った構造説明、掛け軸の取り扱い等に加え、実技として絹本の作成を、中級では上、下軸の取り外し、取り付け、紐付け等の実技を実施しました。参加者からは充実したワークショップであったと好評頂きました。

文化財の保存と活用に関する研究会「ガス燻蒸剤の現状と今後」

研究会の様子

 平成22年10月19日(火)、東京文化財研究所主催、九州国立博物館共催で、九州・中四国地方の博物館・美術館等保存担当者および地方行政団体の文化財保護担当者向けに標記の研究会を開催しました。この研究会は、文化財燻蒸に用いてはいけないリン化アルミニウムを有効成分とする製剤を用いた倉庫内テント燻蒸で日本画5点が変色した事故を受けて、文化財燻蒸に対する理解を促進することが早急に必要と判断し、保存修復科学センター連携併任研究者と協力して行ったものです。発表内容は以下のとおりです。「展覧会に伴う借用品の管理について」朝賀浩氏(文化庁美術学芸課文化財管理指導官)、「文化財虫害研究所の認定薬剤の詳細について」三浦定俊氏(公益財団法人文化財虫害研究所理事長)、「ガス燻蒸剤の特性と文化財影響について」佐野千絵(東京文化財研究所保存修復科学センター保存科学研究室長)、「博物館等における使用の実際-IPM(総合的有害生物管理)の一環として-」本田光子氏(九州国立博物館学芸部博物館科学課長、保存修復科学センター連携併任)。文化財の安全が第一であることを再確認し、現実的な殺虫殺カビ処置としてガス燻蒸を行う場合には安全に実施できるよう、研修などに参加して情報収集および技術向上に努めて欲しいと訴えました(於:九州国立博物館、参加者126名)。

国際研修「紙の保存と修復」の開催

実習

 国際研修「紙の保存と修復」を8月30日~9月17日まで行いました。今回は世界中の文化財関係者およそ80名の応募者がありましたが、アイルランド、オーストラリア、マレーシアなどからの参加者(10名)を選抜しました。この研修では、材料学から書誌学まで様々な観点からの講義を行いました。同時に実習では、欠損部の補填から、裏打、軸付けなどを行い巻子を仕上げ、さらに和綴じ冊子の作製も行いました。見学では、修復にも使用される手すき紙の産地として美濃を訪れ、また伝統的な表装工房および京都国立博物館文化財保存修理所などの修復現場を訪問しました。伝えられた技術や知識は海外で所蔵されている日本の紙文化財の保存修復や活用の促進につながり、さらには海外の作品の保存修理にも応用されることが期待されます。

所沢飛行場における、日本航空史の黎明期の写真の公開

日本陸軍 会式一号飛行機(1911年)

 保存修復科学センターでは、2009年1月に所沢の喜多川方暢氏より寄贈を受けた、所沢飛行場における日本の航空の黎明期のファルマン他の飛行機関連の写真を東京文化財研究所のホームページ上にて公開を始めました。これらの写真は喜多川方暢氏の父君である故喜多川秀男氏が主に所沢飛行場にて撮影した写真であり記録メディアはガラス乾板が主な物です。このガラス乾板の保存をすると供に、デジタル化した写真を日本航空100年の記念すべき年に公開を始められたのはひとえに喜多川方暢氏及び関係各位の協力の賜物であると思っています。今回公開した写真の中には、日本で初めて飛んだ航空機を始めとして、愛国号等、数多くの貴重な写真が含まれており、研究者の方々、あるいは、興味をお持ちの方々にとって非常に貴重な資料になる事は間違い有りません。今後とも、保存修復科学センターでは、このような貴重な資料を公開すべく努力していく所存です。

都久夫須麻神社本殿における蒔絵および漆塗装の劣化に関する調査

蒔絵部分における劣化状態の拡大観察

 保存修復科学センターでは、都久夫須麻神社本殿における蒔絵および漆塗装の劣化に関する調査を行っています。都久夫須麻神社本殿は、滋賀県の琵琶湖に浮かぶ竹生島に所在し、伏見城の御殿の一部を移築したとされる桃山文化を代表する建造物の一つです。この本殿内部には、七五桐紋や菊紋、花鳥文様などを蒔絵技法で加飾した漆塗装の柱や長押、外陣壁面や扉には極彩色を施した木彫などが配置されていることでも有名ですが、前回の修理からすでに75年ほどが経過したため屋根や塗装などに傷みが目立つようになってきました。さらに京都の高台寺霊屋と双壁をなす建造物内部の華麗な蒔絵技法の加飾の劣化が著しくなってきたことが関係者の間で問題となってきました。そこで保存修復科学センターでは、現在、滋賀県教育委員会と都久夫須麻神社によって進められている修理工事に協力して、劣化現象の原因を追求するための基礎調査と、琵琶湖の湖上という特殊な環境の中でこの劣化を食い止めるための検討を行いました(写真)。この成果を、都久夫須麻神社本殿の貴重な蒔絵および漆塗装の劣化を少しでもよりよい状態で保守管理するうえで役立てたいと考えています。

博物館・美術館等保存担当学芸員研修の開催

ケーススタディの様子

 27回目となる表題の研修を、7月12日より2週間開催し、全国から32名の学芸員や文化財行政の担当者が参加しました。本研修では、あらゆる文化財資料を対象に、保存環境や劣化、修復などに関する基礎的な知識や技術を、講義と実習を通して学んでいただき、現場での保存に役立てていただくことを目的としています。
 保存環境実習を実地で応用する「ケーススタディ」は袖ヶ浦市郷土博物館をお借りして行いました。参加者が8つのグループに分かれて、それぞれが設定した温湿度や照度、防災設備、屋外文化財の保存環境などの調査を行い、次の日にその結果を発表し、質疑応答を行いました。
 自然科学的見地からの資料保存がますます重要視されていくことは、平成24年度から、大学での学芸員課程において「博物館資料保存論」が必須になることからもわかります。本研修も時代の動向を見据えながら、より充実したものとなるよう、カリキュラムも内容も精査していきたいと考えております。

ロビー展示「国宝高松塚古墳壁画の劣化原因調査」

ロビー展示「国宝高松塚古墳壁画の劣化原因調査」

 現在、研究所1階のエントランスホールでは、表題のパネル展示を行っています。これは、昭和47年の発見以来、現地保存が行われていた高松塚古墳壁画が、平成19年に解体されるきっかけとなった図像の劣化原因を、平成20年7月に設置された「高松塚古墳壁画劣化原因調査検討会」のもとで、自然科学的かつ多面的な視点から調査を実施した結果の概略です。調査結果の全体は、「高松塚古墳壁画劣化原因調査報告書」として平成22年3月24日に文化庁より公表されましたが、この展示では、そのうち材料、生物、保存環境調査に関して、図版を多用しながら詳しく解説しています。多くの方にご覧いただければ幸いです。

第4回伝統的修復材料および合成樹脂に関する研究会「膠(Ⅰ)」

研究会会場の樣子(1)
研究会会場の樣子(2)

 保存修復科学センター伝統技術研究室では、6月21日(月)に当研究所の会議室において「膠(Ⅰ)」と題する研究会を開催しました。膠材料は種類も多く、日本のみならず世界的にも古くから広く使用されてきた伝統的な材料の一つです。現在では伝統的な和膠の生産も希少となり、物性を含めた実態については不明な点が多くあります。今回の研究会ではこのような背景を踏まえて、まず当センターの早川典子が修復材料としての膠の物性について概要を述べ、引き続き国宝修理装こう師連盟の山本紀子先生から、装こうにおける膠の用い方という題材で装こう修理をされている技術者の立場からのお話をいただきました。さらに東京芸術大学の関出先生からは、画家というお立場から材料研究の成果について御講演いただきました。そして最後にかつて国立民族学博物館で膠づくりの取材を行われた愛知県立芸術大学の森田恒之先生からは、映像をまじえて膠づくりの工程の解説をいただきました。講師の先生方のお話は、それぞれのお立場での話題提供であっただけに説得力もあり、さらに会場では関先生にお持ちいただいた膠材料を見学することもでき盛会でした。

保存担当学芸員フォローアップ研修

間渕客員研究員による講演の様子

 保存担当学芸員研修修了者を対象に、保存環境に関する最新の知見等を伝えることを目的とした表題の研修会を6月21日に行いました。まず、地球温暖化防止などの観点から、最近急速に普及が進んでいる白色LEDについて、吉田が最新の技術動向を紹介したのち、改築を機に、展示室に導入した根津美術館副館長の西田宏子氏に、そのいきさつについてご講演いただきました。続いて、間渕創客員研究員が、自身の研究テーマでもある文化財施設における微生物調査法に関して、また佐野千絵保存科学研究室長が、木材から放出される有機酸の調査方法について取り上げました。今回は、多くの文化財施設にとっても関心の深い内容でもあり、例年よりも多い約100人が参加しました。フォローアップ研修は毎年行っており、学芸員のニーズにも応えながら、最新かつ重要な情報をこれからもお伝えする場にいたします。

厳島神社における外観塗装材料の劣化に関する調査

曝露試験用手板試料の作成
手板試料の設置

 保存修復科学センターでは、「伝統的修復材料及び合成樹脂に関する調査研究」プロジェクトの一環として、厳島神社における外観塗装材料の劣化に関する調査を行っています。厳島神社といえば青い海に浮かぶ鮮やかな朱色の社殿のコントラストの美しさで広く知られていますが、何分海水と接する厳しい環境下に建造物自体が曝されています。そのため、せっかく塗装した朱色の外観塗装材料の黒化現象が比較的短時間で発生したことが関係者の間で問題となってきました。そこで保存修復科学センターでは、この黒化現象の原因追求を実験室レベルで行うとともに、厳島神社工務所の皆さんと共同で、これまで厳島神社の外観塗装材料として用いられてきたと考えられる数々の歴代の外観塗装材料を再現した手板試料を作成し、5月13日に実際の社殿の床上と海面と接す柱に設置しました。これから少なくとも1年間かけて厳島神社の環境の中で曝露試験を行い、外観塗装材料の劣化の様子を観察していくことにします。 この成果を厳島神社社殿の外観塗装を少しでもよりよい状態で保守管理するうえで役立てたいと考えています。

保存修復科学センター

キクイムシやフナクイムシによる被害状況

 保存修復科学センターでは、「周辺環境が文化財に及ぼす影響評価とその対策に関する研究」プロジェクトの中で、木造建造物の劣化状況についても調査を行っています。屋外の環境にさらされる木造建造物の中でも、特に広島県廿日市市宮島町にある厳島神社は、厳しい気候や海水の影響など過酷な条件のもとに存在しています。強い紫外線や風や雨の影響、海水の存在や波による影響、また、海中のキクイムシやフナクイムシなどの被害も甚大です。現在、このような状況で木材の劣化を軽減する方法や、劣化した木材の修復方法や修復材料などについて、研究中です。そのために、強度試験や硬化試験などの物性試験や、現地での様々な形態での曝露試験を行って最適な手法を検討中です。このような調査によって得られた成果は、他の木造建造物にも活用することが期待されています。

『保存科学』49号 発刊

『保存科学』49号

 東京文化財研究所保存修復科学センター・文化遺産国際協力センターの研究紀要『保存科学』の最新号が、平成22年3月31日付けで刊行されました。高松塚古墳・キトラ古墳の保存に関する研究情報、その他保存科学に関する基礎研究や調査結果など、当所で実施している各種プロジェクトの最新の研究成果が発表・報告されています。ホームページから全文(PDF版)をお読みいただけますので、ぜひご利用ください。(http://www.tobunken.go.jp/~hozon/pdf/49/MOKUZI49.html

2009年度日韓共同研究報告会の開催

臼杵磨崖仏周辺岩盤の樹脂耐候性試験

 保存修復科学センターは、大韓民国・国立文化財研究所保存科学研究室と「文化財における環境汚染の影響と修復技術の開発研究」を進めております。共同研究では、相互の研究サイトで共同調査を行うとともに、年1回の研究会を持ち回りで開催し、意見交換を行っております。
 今年度の研究会は、平成22年3月18日、東京文化財研究所地階会議室で開催しました。韓国から国立文化財研究所および公州大学校の研究者にご参加頂き、日本および韓国の研究者による発表および議論を行いました。研究発表は主に石造文化財の保存修復に関するものでしたが、今回は日韓の研究者による共同発表の成果が目立つようになり、より緊密な関係が築けるようになってまいりました。
 今後もこのような形での研究交流を進めてゆき、両国の文化財保存修復の発展に尽くしてゆきたいと考えております。

東大寺法華堂の常時微動調査

東大寺法華堂建物の常時微動調査(強制加振)

 東京文化財研究所では、文化財の防災計画に関する調査研究の一環として「塑造・乾漆造仏像群の地震対策に関する研究」を進めています。現在調査を実施している東大寺法華堂においては、須弥壇及び建物の揺れ方が把握できることで、万が一強い揺れが観測されたときに、仏像群がどのように揺れるかを推測するこ とができます。
 そこで私たちは三重大学などの協力を得て、法華堂建物および須弥壇の常時微動の計測を実施しました。これから計測結果を解析することで、法華堂建物およ び須弥壇の振動特性や耐震性を評価するとともに、仏像群の地震対策に役立てていきたいと考えています。

第3回伝統的修復材料および合成樹脂に関する研究会「建築文化財における漆塗料の調査と修理-その現状と課題-」

研究会における講演の様子
会場からの質疑応答の様子

 保存修復科学センター伝統技術研究室では、1月21日(木)に当研究所セミナー室において「建築文化財における漆塗料の調査と修理-その現状と課題-」を開催しました。現在、浄法寺漆などの日本産漆塗料のうち、実に80%以上は日光東照宮などの建築文化財の塗装修理に使用されています。確かに日本では建築文化財の塗装材料として古くから漆を用いてきた歴史と伝統がありますが、その一方で漆自体は紫外線や風雨などに弱いという弱点もあり、その現状と課題には数々の問題点があります。今回の研究会ではこの問題を取り上げるため、まず明治大学の本多貴之先生に分析化学の立場から漆の劣化メカニズムについてわかりやすい解説をいただきました。次に伝統技術研究室の北野が塗装技術史の立場から実際の建築文化財で用いられていた漆塗装材料の実例について通史的に述べました。以上の内容を踏まえて日光社寺文化財保存会の佐藤則武先生からは、実際に塗装修理をされている技術者の立場から現在日光東照宮などで行なわれているさまざまな伝統的な塗装修理の状況について詳細なお話をしていただきました。そして最後に文化庁文化財部参事官(建造物担当)の西和彦先生から行政指導を行なっている立場から、漆にとどまらず塗装修理一般に対する文化庁の取り組み方やご自身のお考えなどをご講演いただきました。講師の先生方のお話は、科学、歴史、修復技術、行政指導それぞれのお立場での実践を踏まえての建築文化財の漆塗装に関する話題提供であっただけに、説得力もあり、会場からはさまざまな質問も出て大変盛会でした。

文化財施設内の温湿度解析および建築部材内の熱・水分移動解析に関する研究会の開催

講演するアンドレアス、ニコライ研究員

 1月26日(火)に、標記の研究会を東京文化財研究所で開催いたしました。ドレスデン工科大学のグルネワルド教授、東文研の吉川氏からは、図書館内の環境評価とカビ発生リスクに関するシミュレーション解析、同大学のニコライ研究員からは、不飽和多孔質建築部材内の塩分移動と相変化に関するモデル化と数値解析、同大学のプラーゲ研究員からは、建築部材の水分特性の測定法というテーマで講演頂きました。本研究会では、環境解析を行うための解析手法、解析に必要となる建築部材の水分特性の測定法、および実際の建造物に適用した場合の解析事例などが総合的に紹介され、活発な意見交換がなされました。

博物館の省エネ化

ラトゲン保存研究所ステファン・シモン氏の講演

 2009年12月8日に、東京文化財研究所セミナー室で昨年に引き続き、「文化財の保存環境を考慮した博物館の省エネ化」というテーマで研究会を開催しました。今年は、ドイツ、ラトゲン保存研究所のステファン・シモン氏に「欧州での博物館の省エネ化と展示、収蔵施設内の保存環境」、京都大学の鉾井修一教授に「温熱環境からみた博物館の省エネ化」の講演を頂き、さらに国土交通省の足永晴信氏からは「低炭素社会での持続可能な都市空間実現に向けた取り組み」という題で講演を頂きました。最後に、東京国立博物館の神庭信幸氏から「低炭素社会と共存する文化遺産の保存」という題で、東京国立博物館での取り組みについて紹介頂きました。参加者は、全部で75名であり、活発な意見交換が行われました。

キトラ古墳の漆喰集中取り外し作業終了

側壁における取り外し作業
取り外した漆喰片

 保存修復科学センターでは文化庁からの受託事業「特別史跡キトラ古墳保存対策等調査業務」の一環としてキトラ古墳壁画の取外しを行っています。5月に行った今年度第一回の集中取り外しをふまえ、秋の集中取り外しは10月19日〜11月6日までと11月16日〜12月4日の日程で、間に1週間をはさみ、3週間ずつ二度に分けて行いました。前回よりも長期にわたったものの、3週間ずつ行ったことで、取り外しを効率よく進捗させることができました。今回の作業で天井のすべての漆喰が取り外され、2年ぶりに周囲の側壁の漆喰取り外し作業を再開することができました。今後は、紫外線照射による微生物の制御を行いつつ、定期的に点検を行い、来年度に再び集中取り外しを行う予定です。

研究会「文化財の生物劣化の非破壊調査と虫害調査、および修理における利用」

2009年11月20日の研究会の様子

 保存修復科学センターでは、文化財の生物劣化対策の研究の一環として、平成21年11月20日、研究所地下会議室において研究会を行いました。今回は、実際に現場に携わる専門家メンバー向けの研究会で、具体的な議論を十分に行えるよう円卓形式で行われました。まず、「日光山輪王寺本堂での隠れた虫害-対応と修理について」と題して、(財)日光社寺文化財保存会の原田正彦氏から、重要文化財でおそらく始めての例であるオオナガシバンムシの被害実例についてお話をいただき、また、(財)文化財虫害研究所の小峰幸夫氏より、虫害調査の実例について、詳細な報告が行われました。京都大学大学院の藤井義久氏からレジストグラフやアコースティックエミッションを用いた現場の調査について、そして九州国立博物館の鳥越俊行氏からは、文化財用X線CTによる実際の被害材の解析事例での内部の虫の検出についてお話いただきました。以上のことを踏まえ、今後の調査とどのように殺虫処理を行うかについて、基礎実験計画の立案や、今後の修理にどのようにそれらの結果を活用していくかについて活発に議論が行われました。(参加者15名)

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