国際研修「漆工品の保存と修復」
保存修復科学センターでは、9月17日から10月15日にかけて国際研修「漆工品の保存と修復」を行いました。この研修は、先にICCROM(文化財保存修復国際センター)との共同で開催した国際研修「漆の保存と修復」に引き続いて保存修復科学センターが独自に行なう研修プログラムです。この研修では、先行して開催した2週間の「漆の保存と修復」で日本の漆文化の基礎を勉強した研修生の中から若干名の修復技術者をえらび、一ヶ月かけて実際の漆工品を教材とした保存修復の実地訓練を行ないました。今回は、ドイツのアントンウルーリッヒ公美術館のガスナー・アッダ氏とハンガリー国立博物館のバラシュ・レンツ氏の2名が、漆工品修復技術者の山下好彦氏による実地訓練、その間9月21日から9月23日にかけての姫路・京都・奈良における漆文化財の現地見学、また10月5日には教材を提供してくださった東京都港区の實相寺(江戸時代には会津松平家縁の江戸菩提所の一つ)を尋ね、実際の大名諸道具などの漆工品を見学しました。そして、研修の締めくくりに今回の研修に関するプレゼンテーションを行いました。さて、今回の教材は、汚れや痛みが激しい三葉葵金御紋付の朱塗り常香盤(江戸時代後期頃の会津松平家什器:)です。これをお借りして保存修復科学センター内の漆修復アトリエに搬入し、事前調査・写真撮影・科学分析・養生・クリーニング・漆や膠などの伝統修復材料を用いた漆塗膜や破損部分の接着作業など、研修生は一連の作業を経験しました。彼らは今後自分が所属する美術館や博物館で漆工品の保存修復の実務に携わる予定の修復技術者であるだけに、問題意識はとても高く、大変熱心でした。なお、それまでは移動も困難であるくらい痛みが激しかったこの常香盤は、一ヶ月という短い期間内で可能な緊急措置としての修復作業を終え、今年度末には東京都港区文化財に指定される予定です。