研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


アジャンター石窟壁画の保存修復に向けた調査研究事業に関する合意書の締結

アジャンター石窟外観
合意書調印式(ASI、ニューデリー)

 平成20年11月21日、インド・ニューデリーにおいて、東京文化財研究所とインド考古局(ASI)は、アジャンター石窟壁画の保存に向けた調査研究事業の合意書を締結しました。
 アジャンター石窟には、前期は紀元前1世紀から紀元後2世紀にかけて、後期は5世紀後半から6世紀にかけての貴重な仏教壁画が数多く残されています。しかしながら、岩盤自体の構造的な問題、雨期の大量の冠水による損傷、こうもりの排せつ物や煙によると考えられる黒色付着物などが原因で、劣化が進んだ状態にあります。
 このような問題に対処すべく、東京文化財研究所は、文化庁の委託による「文化遺産国際協力拠点交流事業」の枠組みにおいて、平成20年度から平成22年度にかけて、アジャンター第2窟及び第9窟を対象とした調査を実施します。保存修復のための技術および材料に関する知識、専門的技術、経験をインドと日本の専門家が交換・共有することで、双方の技術と能力の向上を目指します。

陝西唐代陵墓石彫像保存修復に関する研究会(西安)

研究会
順陵の視察

 2004年度以来、西安文物保護修復センターと共同で推進してきた「唐代陵墓石彫像保護修復事業」は、いよいよ本年度をもって終了します。この共同事業においては、毎年一回日中専門家による研究会を開催してきました。第5回目となる今回は、その最終回として、事業の成果を中国各機関・大学等の専門家に披露するとともに、これを機会に石造文化財の保存に関する各種の問題について意見交換と交流を図ることを目的として、11月17日、18日間の日程で、今までより規模の大きな研究会を西安市において開催しました。約40名の専門家が参加し、17日の現地視察に続いて、18日には活発な発表と討論が行われました。研究会の主な内容は以下の通りです。
森井順之(東文研)
 九州臼杵摩崖石仏覆い屋建造後の環境観測
友田正彦(東文研)
 石造遺跡の保存管理―アンコール遺跡群の場合―
津田豊((株)ジオレスト
 :UNESCO龍門プロジェクト専門家)
 龍門石窟の結露現象
方雲(中国地質大学・武漢)
 順陵石刻の亀裂変形観測
甄広全(西安文物保護修復センター)
 石質保護材料研究
朱一清(中衛康隆ナノ科技発展公司)
 石質文物保護材料とその評価体系
万俐(南京博物院)
 江蘇句容貌山華陽洞摩崖題刻の保護
馬濤(西安文物保護修復センター)
 乾陵石刻の表面保護処理

10月施設訪問

 開智高等学校1名
 10月10日に、同校の教育活動「首都圏フィールド・ワーク」の一環として調査活動のため来訪し、研究テーマ「世界遺産」について文化遺産国際協力センターを見学し、担当者が説明及び質疑応答を行いました。

第42回オープンレクチャー「人とモノの力学」

青木茂教授の発表(第2日)

 10月8日、9日の2日間にわたり、研究所地下セミナー室を会場に、上記の公開講座を開催しました。第1日目は、勝木言一郎(企画情報部)「鬼子母神の源流をたずねる」、中川原育子(名古屋大学文学部)「クチャ地域の石窟に描かれた供養者像とその信仰について」の2発表があり、いずれも仏教美術の源流とたずねるテーマでした。翌日は、田中淳(企画情報部)「写真のなかの芸術家たち―黒田清輝を中心に」、青木茂(文星芸術大学)「明治10年・西南戦争と上野公園地図」があり、前者の発表は、写された写真をもとに画家の創作と生活を考える内容であり、後者の発表は、明治10年に制作されたう「上野公園地実測図」(銅版画)をもとに、同地の歴史の変遷をたどるものでした。一般の聴講者は、第1日が150名、第2日が127名を数え、アンケートの結果をみても、好評だったことがわかりました。

“オリジナル”研究通信(6)―福田美蘭《湖畔》の展示

黒田記念館での福田美蘭《湖畔》展示風景

 今年7月の活動報告でもお知らせしたように、12月6~8日に開催する国際研究集会「“オリジナル”の行方―文化財アーカイブ構築のために」の関連企画として、現代美術家の福田美蘭氏による《湖畔》(1993年作)を10月9日より東京国立博物館黒田記念館で展示しました(12月25日まで)。「湖畔VS湖畔」と題したこの企画は明治の洋画家、黒田清輝の代表作《湖畔》にもとづく福田氏の作品を、黒田記念館で常時公開されるオリジナルとともに展示したものです。気鋭の現代美術家である福田美蘭氏は古今東西の美術品を素材に作品を制作、その“オリジナル”イメージを揺さぶる活動で知られています。今回展示した福田氏の《湖畔》も、黒田の《湖畔》の背景を延長して描くことによって、教科書や切手などですっかり見慣れた名画のイメージを一度くつがえし、再度新たなまなざしで原画に接するよう促しています。廊下をはさんで、向かいあうように飾られた黒田の《湖畔》と福田氏の《湖畔》のコラボレーションを、来館者の方々もやや戸惑いながら楽しまれていたようです。
 なお10月8日には森下正昭氏(当研究所客員研究員)の発表による、国際研究集会に向けての部内研究会を行いました。「美術館とオリジナル―コンテンポラリーアートをめぐる問題」と題した発表では、主にイギリスの現代美術を中心に、作家自らが制作したモノ、という旧来の作品概念を超えた活動を紹介し、それらをどのように伝えていくのか、という現代美術館の課題が浮き彫りにされました。作品がコンセプト化するなかで、とくに作家へのインタヴュー等を記録して現代美術を伝えようとするInternational Network for the Conservation of Contemporary Art (INCCA)の活動は、作品保存の今日的なあり方として興味深いものがありました。

韓国国立文化財研究所での研修

 本年6月に韓国国立文化財研究所無形文化財研究室との間で合意に達した「無形文化遺産の保護に関する日韓研究交流」にもとづき、無形文化遺産部の俵木が、本年10月、韓国において二週間の研修を行いました。今回の研修の目的は、韓国における無形文化遺産の映像記録のアーカイブの現状を調査し、それを日本の無形文化遺産の記録の管理と活用に役立てることです。韓国では国立文化財研究所が積極的に無形文化遺産の映像記録作成を行っており、それらは国家記録院や韓国映像資料院といった機関と連携して管理されています。その組織的な管理体制には学ぶべき点が多いと感じました。また、研究所が作成した記録映像がテレビ放送の素材になるなど、積極的な活用の実態も印象的でした。無形文化遺産部では現在、日本の無形文化遺産の記録の所在情報のデータベース化の作業を行っており、今後はこうした方面での両国の情報共有などについても検討していきたいと思っています。

研究会「屋外等の木質文化財の維持管理」

10月6日研究会風景

 保存修復科学センターでは、文化財の生物劣化対策の研究の一環として、平成20年10月6日、研究所セミナー室において表記の研究会を行いました。今回は「屋外等の木質文化財の維持管理 問題点と今後」をテーマに、寺社等建造物や木彫像の管理の生物被害上の最近の問題点について、奈良県教育委員会の神田雅章氏から、わかりやすく、かつ明確な問題提起をいただきました。また、京都大学の藤井義久氏(当研究所客員研究員)から、文化財建造物の劣化診断と維持管理体制の課題について、的確なご指摘をいただきました。九州国立博物館の本田光子氏からは、屋外で公開された文化財などを博物館内で展示・収蔵する際の対応について具体的なお話をいただきました。さらに、建築家の河上信行氏より、「弥生時代等の復元建物における維持管理の現状と課題」についてお話いただき、吉野ヶ里遺跡などを例に、非常に掘り下げた議論を行う機会となりました。屋外の木質文化財の保存には、難しい問題が山積しており、今後、プロジェクトの中で具体的方策を検討していく所存です(参加者79名)

敦煌派遣研修終了

紙本の裏打ち実習(倉橋さん)
壁画の修復実習(佐藤さん)

 6月1日から敦煌研究院へ派遣した佐藤香子さん(東京学芸大学大学院修士課程修了/保存科学専攻)と倉橋恵美さん(筑波大学大学院修士課程修了/日本画専攻)の研修が終了し、10月19日に無事帰国しました。この間、2人は莫高窟の宿舎に泊まりながら、敦煌研究院の全面的な協力を得て、壁画の現場調査、分析研究、保存処理作業の実習、壁画構造の再現制作と模写、世界遺産莫高窟の管理運営に関する講義など、壁画のみならず、文化遺産の保護に関する全面的な内容についての研修を受けました。また個人研究のテーマとして、佐藤さんは壁画に使われた赤色の色料についての分析・比較研究を行い、倉橋さんは科学的研究を根拠としながらの復元模写に挑戦し、その結果は最後の発表会において敦煌研究院の研究者からも高い評価を得ることができました。現場での貴重な体験とともに、同世代の敦煌研究院の仲間たちとの出会いと交流は、今後2人がそれぞれの道を歩む上できっと大きな意味を持つことでしょう。この研修は、あと2年間の実施を予定しています。

シルクロード人材育成プログラム土遺跡保護修復班終了

甘粛省瓜州踏実墓修復現場
日干しレンガの補強作業

 中国文物研究所と共同で実施する「シルクロード沿線文化財保存修復人材育成プログラム」土遺跡保護修復班の第3年目の研修が9月1日から2カ月間、甘粛省瓜州市で実施され、10月31日には3年間合計7カ月の研修を締めくくる修了式が同市においてとりおこなわれました。土遺跡とは日干しのレンガを積んで構築した地上の建造物、考古発掘作業によって地下から出現した土構造の遺跡を指します。日本には考古遺跡の保存例は多数ありますが、地上のものとしては、完全に土を材料として作りそれが乾いただけのものという意味ではほとんど例がなく、自ずから修復保護の経験も乏しいジャンルです。しかし、西アジアから中国に至るシルクロードの各地に残るこれらの遺跡は、まさにその東の果てに位置する日本へ西方の文化が伝えられた、いわば道しるべのような存在ですから、その保護のための人材育成に協力することは、とても重要な意味があります。これまでイランや中央アジアの各国でも日本の専門家による修復協力活動が行われてきました。今回の研修では、瓜州のゴビ灘(砂利の沙漠)に築かれた2,000年前の墓の土製の門柱を対象として修復の実習作業を行いました。12名の研修生は、これまで2年間5カ月の研修によって身につけた概念と理論を駆使し、現場での調査や観察をもとにした検討を通して、この遺跡に最も相応しい修復と保護の状態を考え、実際の修復作業も行い、工事を完成させました。さらに、3年間の研修を集大成する報告書を作成しました。彼らはそれぞれの地域に戻り、地域のリーダーとして土遺跡の保護に従事していくものと期待されています。

タジキスタン、アジナ・テパ仏教遺跡保護プロジェクト

坐像の印影のついた土器片

 文化遺産国際協力センターは、2006年よりユネスコ文化遺産保存日本信託基金による「タジキスタン、アジナ・テパ仏教遺跡保存プロジェクト」に参加してきました。本年は同プロジェクトの最終年にあたることから、今後の報告書の刊行を目指して、これまでの調査によって出土した遺物の整理や得られたデータの分析を実施しました。作業は10月2日から23日にかけて、タジキスタン共和国古物博物館において行いました。出土遺物の多くは、アジナ・テパ遺跡が居住されていた7世紀から8世紀の土器や日干しレンガの破片です。今回、こうした遺物の中に、印章が押された大甕の口縁部の破片を発見しました。押された印面は大小2つ見られます。大きな丸い印面の中央には坐像が描かれ、像から見て右側に水瓶、左側に錫杖と思われるものが配置されています。大甕の破片はアジナ・テパ遺跡から数多く出土していますが、こうした印章が押されたものは他に見られません。何か特別な用途をもった大甕に印章が押されていたのでしょうか。興味深い発見でした。

9月施設訪問(1)

 台東区立御徒町台東中学校6名
 9月18日に、「総合的な学習の時間」の一環として実施されている職場訪問により来訪し、地階無形文化遺産部実演記録室、3階保存修復科学センターアトリエ(漆・紙・金属)、分析科学研究室、文化遺産国際協力センターを見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。

9月施設訪問(2)

 中央区立銀座中学校2名
 同じく9月18日に、「総合的な学習の時間」の一環として実施されている職場訪問により来訪し、3階保存修復科学センター保存科学研究室、修復アトリエ(漆・紙・金属)、文化遺産国際協力センターを見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。

9月施設訪問(3)

 総務省政策評価・独立行政法人評価委員会委員5名ほか
 9月29日に、総務省政策評価・独立行政法人評価委員会委員が、文化財関係の施設を擁する機関について視察のため来訪。東京国立博物館を視察ののち、東文研で行なわれている調査・研究について、3階保存修復科学センター修復材料研究室、保存科学研究室、生物科学研究室および黒田記念館を見学し、それぞれの担当者が説明および質疑応答を行ないました。

モンゴル国教育文化科学省文化芸術局との文化遺産保護のための協力に関する合意書の締結

合意書に署名後、にこやかに握手を交わすエルデネバット文化芸術局長(写真右)と鈴木所長(写真左)

 平成20年9月9日、東京文化財研究所とモンゴル国教育文化科学省文化芸術局の間で、文化遺産保護のための協力に関する合意書が結ばれました。合意書は文化遺産保護のための共同事業の実施、研究交流、人材育成、ワークショップなどの実施を行おうとするもので、両機関の立場を尊重しながら、有形および無形文化遺産保護の分野における協力を目的としています。
 当研究所の鈴木所長がウランバートルのモンゴル国教育文化科学省文化芸術局を訪問し、エルデネバット文化芸術局長と合意書の調印が行われ、当日同行した、清水文化遺産国際協力センター長、宮田無形文化遺産部長ほか当研究所職員数名が同席し、エルデネバット文化芸術局長と鈴木規夫所長により合意書に署名が交わされました。
 合意書の調印に引き続き、本合意書に則り、文化遺産保護に携わる人材育成に関する覚書にも署名が交わされました。
 これらの調印により、今後、さまざまな形で、有形および無形文化遺産保護における協力としての共同事業などを実施しながら、総合的な交流が図られるものと期待されます。

フランス、ベルギーにおける黒田清輝に関する現地調査

グレー・シュル・ロワンの黒田清輝通りにて

 企画情報部では、研究プロジェクト「東アジアの美術に関する資料学的研究」の一環として、当研究所が保管する黒田清輝宛フランス語書簡(約250通)の調査、翻訳をすすめてきました。これらの書簡に、東京国立博物館が保管する黒田のフランス語日記等(1888年)を加えて、次年度に報告書として「黒田清輝宛フランス語書簡集」(仮称)を刊行する予定です。そのための現地調査として、9月10日から15日までの間、黒田が留学中に滞在したパリ、グレー・シュル・ロワン村、バルビゾン村、さらにベルギーのブリュッセル、ブランケンベルグ等の各地をめぐり、当時の場所をロケーションし、あわせて調査をおこないました。その成果は、前記の報告書で発表します。

昭和30年代の古曲の記録

宇治文雅(1881-1975)と二世宇治紫友(六世宇治倭文 1907-1986)による一中節『双生隅田川』

 無形文化遺産部所蔵テープは、現在デジタル化を順次進めています。デジタル化とは、単にメディアをCDに転換するだけではありません。録音の確認(テープの箱書きとの照合等々)の後、内容に即したインデックス(見出し)付与をしなければ、資料として活用する上で、利便性に欠けることになります。
 平成17年度に受け入れ手続きが完了した竹内道敬旧蔵音声資料(以下「竹内コレクション」)には、演奏が昭和30年代に溯る古曲(河東節・一中節・宮薗節・荻江節)のオープンリールテープが数多く含まれていました。そのほとんどが市販を目的とした録音ではなかったようです。
 写真は宇治文雅(1881-1975)と二世宇治紫友(六世宇治倭文 1907-1986)による一中節『双生隅田川』のテープからCD化したものです。演奏時間が約1時間に及ぶ大曲です。今後は、こうした一般に試聴の機会が滅多になかった貴重な録音について、多くの方が活用できるような環境を整えてゆきたいと考えています。
 なお、「竹内コレクション」の内、SPレコードに関しては、整理が完了したものから目録の形で公開しています(『芸能の科学32』『無形文化遺産研究報告2』)。

国際文化財保存学会(IIC)ロンドン大会参加報告

シンポジウム「気候変動と博物館の収蔵品」の様子

 国際文化財保存学会が9月15日から19日まで、ロンドンのクイーンエリザベスⅡ会議場で開催されました。会議のメインテーマはConservation and Access(保存と活用)で、文化財の輸送や取り扱い、壊れやすい資料の公開、管理のあり方など様々な考え方や調査、実践例について報告され情報交換がなされました。会議期間中に、「気候変動と博物館の収蔵品」というテーマのシンポジウムが開催され、地球温暖化による環境の変化により文化財にどの様な影響があるのか、また、対処方法に関して議論がなされました。そのほか、IIC Regional Groupという各国組織の代表者での打ち合わせがあり、日本からは民博の園田氏と石﨑が参加しました。ここでは、各国組織の連携強化について話し合われました。

文化遺産の保存科学に関する国際シンポジウムinソウルへの参加

石崎武志保存修復科学センター長による基調講演

 2008(平成20)年9月29日から10月1日まで、ソウル教育文化会館において開催された「2008年文化遺産の保存科学に関する国際シンポジウム」に、保存修復科学センターから石崎武志・早川泰弘・森井順之の3名が参加し発表を行いました。
 主催者である大韓民国・国立文化財研究所では、2006年より保存科学分野において多額の研究開発予算を韓国政府より獲得しており、本シンポジウムは成果公表の一環で開催されました。シンポジウムでの発表者は2日間で53名(海外:24名(7ヶ国)、韓国内:29名)と多く、様々な分野で活発な討論が行われました。

国際研修

開会式
実習風景(折れ伏)
実習風景(裏打ち)

 世界各国の文化財の保護と活用に携わっている80名近い応募者の中から10名を選抜し、9月8日から26日まで国際研修「紙の保存と修復」をICCROM(国際保存修復研究センター)と共同開催いたしました。
 この研修は、講義、実技、見学からなります。講義では、紙や日本の伝統的接着剤・膠着剤に関する材料学、文化財保護の理念、日本画の技法、装こう技術、表装形態などについて、それぞれの専門家から学びました。実技では、模擬文化財のクリーニング、虫損(虫食い穴)部への補紙(つくろい)、表装を行い、最終的には巻子として仕上げました。また、和とじ冊子の作製も行いました。見学では、まず、岐阜県美濃市を訪れ、長谷川和紙工房、美濃和紙の里会館(MINO-WASHI museum)、美濃史料館(Mino historical museum)において、美濃紙についてその伝統的な製造法から歴史的な流通までを学びました。また、国宝修理装こう師連盟の国立京都博物館文化財保存修理所内およびそれぞれの独自工房において、修復現場の見学を行いました。

四川大地震文化財復興支援に関する現地調査

28mの塔の大半が崩壊(安県文星塔)

 5月12日、中国四川省でぶん川県を震源とするマグニチュード8の地震が発生し、震源地を中心に建物の倒壊、山岳の崩落等によって多数の死傷者が出る大災害となりました。長い歴史があり、多くの文化財を有する四川省では、文化財にも重大な被害が出ました。日本政府は、地震発生直後の人命救助隊の派遣に引き続いて、各省庁から実施可能な項目をリストアップした「支援パッケージ」を中国政府に対して提出しましたが、6月末までにその回答が戻り、文化庁が提出した「文化財復興支援のための日中専門家交流」を実施することになりました。今回東京文化財研究所は、文化庁の委託を受け、9月25日から30日の日程で、今後の日本による文化財復興支援実施のため現状を把握し、現地文化財保護部門の担当者との意見交換を行って、本年度に実施する具体的な支援活動計画作成のための情報収集を行うことを目的とした調査を実施しました。地震発生からすでに4カ月が経過しているものの、被災地にはいまだに被害の生々しい痕跡が見られます。寺院の保存管理事務所では避難した簡易テントをそのままに使用していて、これから冬を迎えようとしているところもありました。今回の視察と専門家同士の話し合いを通じて、以下の方向性が確認されました。
1) 日本の専門家約10名が四川省を訪れ、文化財の地震対策をテーマとした研究会を行い、専門家同士の交流を図る。
2) 内容としては建造物、博物館収蔵品を考える。
3) 時期は来年の春節明けが相応しい。(春節は1月26日)
 文化庁では今回の調査の報告を承け、現在、具体的な実施計画を検討しているところです。

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