研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


カンボジア出張

微生物除去の薬品塗布風景

 7月24~28日に、カンボジアのアンコール遺跡群で、石造遺跡の劣化に関する調査を行いました。タ・ネイ遺跡では、遺跡で用いられているのと同種の砂岩新材を用いて、その表面に微生物を繁茂させることで、微生物が岩石風化に与える影響に関する調査を続けています。また、表面に地衣類が繁茂している石材の一部に、薬剤を塗布することでクリーニングを試み、その効果や弊害などについても観察を行っています。今回はこうした調査・研究に関する基礎的なデータを現地で収集し、また施工実験を行いました。また、奈良文化財研究所が調査を行っている、西トップ寺院でも、石材表面の微生物をクリーニングする実験に協力し、それに関わるデータの収集も行いました。

タンロン皇城遺跡の保存に関する専門家協議

保存センターにおける全体協議

 ベトナムの首都ハノイの都心に立地するタンロン皇城遺跡では、国会議事堂建て替えに伴う調査で李朝期(11-13世紀)をはじめとする歴代皇宮の建物や区画施設の跡、大量の遺物等が発見され、日越両政府の合意に基づく保存支援協力が継続されています。緊急発掘調査も一応の区切りを迎え、出土遺構および遺物をいかに保存・活用していくかが大きな課題となっています。
 今回は、日越合同専門家委員会の考古・建築・歴史・社会学・保存管理計画の各専門委員が訪越し、越側委員や関係機関と今後の協力につき協議しました。7月28日の全体協議には文化庁と在越日本大使館からも参加を得て、中長期の計画とともに来年のハノイ建都千年祭や3年後の新議事堂竣工に向けた短期的課題についても話し合い、遺跡の価値に関する従来の研究に加え、遺構・遺物の保存措置や整備・展示計画といった分野でも専門的支援を行うことで合意しました。
 なお、この派遣は文部科学省科研費による研究の一環として行いましたが、今後は近々始動予定のユネスコ日本信託基金事業との連動により、さらに効果的な協力を目指していきます。

第33回世界遺産委員会

ル・コルビュジエの作品群登録可否に関する投票の開票作業
審議風景。スクリーン中央に議長、両側に英仏2カ国語で審議内容が映る

 第33回世界遺産委員会は、6月22日~30日にスペインのセビリアで開催されました。40℃を超える暑さの中、時折迷い込んだ野鳥が飛び回る展示場を会場に、連日23時まで議論が行われました。日本からは関係省庁や研究機関、地元の遺産の一覧表への登録を目指す地方自治体関係者などが参加し、当研究所からは筆者を含め2名が参加しました。
 世界遺産一覧表には13件の遺産(自然2件、文化11件)が登録、1件が抹消され890件となりました。登録の傾向として、奴隷貿易関連の遺産が諮問機関の勧告を覆し登録されるなど、人権に関する遺産への高評価が伺えます。今回は情報照会の決議でしたが、国立西洋美術館を含むル・コルビュジエの作品群のような、複数の国にまたがる複数の遺産を1件として推薦することも、国際協調の観点から推奨されているようです。
 また、ドレスデン・エルベ渓谷の一覧表からの抹消が決議されました。登録直後に渓谷を横断する橋の建設が計画され危機遺産とされましたが、建設は中止されず、ドイツ側から具体的な代替案も提案されなかったためです。一覧表からの抹消は2例目ですが、遺産を持つ国が削除を希望していないにもかかわらず抹消されたのは初めてです。
 今回、予定されたいくつかの審議が来年に延期されました。秘密投票を伴う審議が複数あったのも原因ですが、同趣旨の発言の繰り返しも目立ち、議論の進行にも問題があるように思われました。また、国境問題を抱える国同士の対立による審議内容変更など、世界遺産の外交上の重要性を改めて認識することとなりました。

大エジプト博物館保存修復センタープロジェクト 初の在日研修

合成染料による染色実習

 文化遺産国際協力センターでは国際協力機構(JICA)の要請を受けて、エジプトのギザで建設が進んでいる「大エジプト博物館(Grand Egyptian Museum)」の付属機関である「保存修復センター」の設立に向けたプロジェクトにおいて、専門的な見地からの技術支援を行っています。
 2009年7月8日から9月1日までの約2ヶ月間、本プロジェクトにおける日本で初めての研修を、人材育成・技術移転を目的として実施しています。大エジプト博物館保存修復センターに所属するエジプト人保存修復家22名の中から選抜されたダリア・アリー・アブデルアアル・エルサイド氏 とベニス・イブラヒム・シャハタ・アティーア氏 の2名の研修生が、東文研の運営費交付金およびユネスコ文化遺産保存日本信託基金事業の一環として東文研へ招聘しているイラク人研修生と共に、「染織品の保存修復」に関する研修を受講し、その専門性を磨いています。この研修は、女子美術大学を中心とした専門家の協力のもと、講義と実習を組み合わせた実践的な内容で行われています。

拠点交流事業モンゴル:木造建造物の彩色塗装に関する技術交流ワークショップ

日本の彩色塗装修理の事例紹介
実習:図柄の輪郭を目視で把握する
実習:デジタル顕微鏡を使った顔料の調査

 モンゴルにおける拠点交流事業の一環として、7月20日から29日までの日程で、日本より5名の専門家がモンゴルを訪れ、モンゴル東部にあるヘンティ県のベレーヴェン寺院の復原現場において、木造建造物の彩色塗装に関する技術交流ワークショップを開催しました。これは、モンゴルの現状に即した木造建造物の保存修理の技術の向上を目的として、東京文化財研究所とモンゴル教育・文化・科学省(MECS)と共同で企画したものです。
 ワークショップ前半は、彩色塗装の修理復原計画と実施・伝統的な修理と復原の技法・科学的研究分析についての発表と意見交換をしました。後半は、寺院の古材を用いた分析実習と日本の伝統的な彩色技法についての実習を実施しました。モンゴル側は、国立文化遺産センター(CCH)と歴史的建造物の保存修理を請け負うスードゥール社から、それぞれ彩色塗装担当職員4名が参加しました。両国の現場を担う専門家同士が、活発な意見交換を行い、日本とモンゴルの伝統的な技法と材料に関して、基本原則は共通していることを確認するとともに、相違点も明らかとなり、今後の技術交流において有意義な情報の共有を諮ることができました。
 なお、ワークショップ終了後には、日本側の専門家だけでモンゴル北部セレンゲ県のアマルバヤスガラント寺院に立ち寄り、現存する彩色塗装について科学分析調査を行いました。この調査を通して、分析法や結果についてさらに情報共有を図ることの重要さをはじめ、今後も専門家間の交流を続けたいという認識を参加者が感じることができました。日本の経験と技術がモンゴルの文化遺産保護に貢献できる場がひとつ増えたのではないでしょうか。

シルクロード人材育成プログラム古建築保護修復研修コース終了

修了証書授与

 昨年秋の北京での3カ月間の研修に引き続き、中国青海省のチベット仏教寺院、塔爾(タール)寺で4月初旬から4カ月間の日程で実施してきたシルクロード人材育成プログラム古建築保護修復研修コースが無事に終了し、7月31日、中国国家文物局、中国文化遺産研究院、東京文化財研究所、青海省文物局、塔爾寺、そして本事業の資金提供者である中国サムスン社からそれぞれ代表が出席し、修了式を開催しました。新疆、甘粛、寧夏、青海、陝西、河南の各省・自治区から集まった計12名の研修生は、必ずしも全てが同じ建築保護の経験を持っているわけではなく、研修カリキュラムが求めている内容の理解や、成果の達成に苦労しました。しかし各自が持つ能力を活かし、互いに助け合いながら合計7カ月に及ぶ長期研修を乗り切ることができました。日本側講師、中国側講師も研修生が直面している様々な問題について一緒に考え、解決の道を探しました。文化遺産保護が、いかに多くの人々の智恵と技術を結集したものであるかを実感させる7カ月間であったと言えます。その結果、研修生たちは、昨年の北京・故宮紫禁城での調査報告書、今年の塔爾寺での調査報告書、そして個人テーマによる研究論文12本をまとめた実習報告書を完成しました。彼らはすでにそれぞれの所属機関に戻り、日常の作業に従事しています。今回の研修が、彼らがこれから歩む道の足下を照らす、心強い灯りとなってくれることを願っています。

中国新疆地区における遺跡の視察

 6月15日から6月20日まで、所長鈴木、副所長中野、管理部高栁、企画情報部勝木は、中国新疆地区における遺跡の視察を行いました。新疆は中国西北部に位置し、その土地の多くは砂漠です。かつてこの地にはさまざまなオアシス都市国家が栄えていました。今回視察した遺跡の多くはそのころにつくられたものです。
 今回、トルファンでは交河故城、ベゼクリク石窟、アスタナ古墳群、高昌故城を、クチャではスバシ仏教寺院遺跡、クムトラ石窟、キジル石窟を、そしてウルムチでは新疆ウイグル自治区博物館をそれぞれ視察しました。また各地で文化財保護の関係者とも交流する機会に恵まれました。短期間ながら、新疆地区における遺跡の保存状況を知り得たことはたいへん有意義でした。

データベースの有効活用にむけて―「連想でひろがる美術資料の情報発信」

丸川氏研究会

 有形、無形の文化財に関する調査研究を多様な分野で行ってきた当研究所には、調査研究の成果として培われた資料が蓄積されています。企画情報部では国立情報学研究所特任准教授の丸川雄三氏を客員研究員としてお招きし、当研究所がこれまで蓄積してきた資料のデータを有効に活用できるよう、広く公開する方法を検討しています。その一環として6月23日に丸川氏に「連想でひろがる美術資料の情報発信」と題してご発表いただきました。検索者が指定した複数のデータベースを横断検索する連想検索システムや、それを応用した展示の例などが紹介され、当研究所が持つデータを用いた連想検索のデモンストレーションも行なわれました。データのもととなるモノとしての資料の収集、保管についても考えつつ、電子空間での情報公開の方法についてこれからも検討を重ねていく予定です。

大徳寺蔵「五百羅漢図」の光学的調査 (その2) 研究協議会の開催

大徳寺五百羅漢検討会

 企画情報部では、美術史研究に欠くことのできない画像資料の形成とその発展的利活用を目指し、「高精細デジタル画像の応用に関する調査研究」というプロジェクトを立ち上げ、調査研究を進めています。本プロジェクトの一環として、奈良国立博物館と研究協定を結び、本年5月に大徳寺蔵「五百羅漢図」の調査・撮影を行いましたが(詳細は活動報告2009年5月の記事をご覧ください)、本調査によって得られた研究成果をさらに深めるべく、研究協議会が6月15日に開かれました。奈良国立博物館より、谷口耕生氏、北澤菜月氏、井手誠之輔氏(奈良博客員研究員・九州大学教授)に来所いただき、当部からは田中、津田、城野、鳥光、土屋が参加しました。
 5月の調査後、撮影画像一点一点に画像処理を施すことで、調査時には不鮮明であった銘文もほぼ判読可能な状況となりました。今回の協議会は、これら補正処理を施した画像をもとに、銘文の確認とそこに記された年紀、絵師、寄進者等の解釈、また来たる秋の第二次調査、および次年度以降予定している報告書の方針を立てるべく、終日討議が重ねられました。とりわけ、画像処理の過程で明らかとなった本図銘文の「欠失」の要因等について城野から報告があり、本調査が極めて重要な意義を有することが再確認されました。
 本調査および協議会の成果の「速報」は、先にお知らせした奈良国立博物館開催の「聖地寧波 日本仏教1300年の源流~すべてはここからやって来た~」(http://www.narahaku.go.jp/exhibition/2009toku/
ningbo/ningbo_index.html
)の会場にてご覧いただけることと存じます。
 大徳寺蔵「五百羅漢図」にほどこされた銘文の全貌、ひいては本図制作の背景が明らかになりつつあります。

宝生流謡曲百番収録へ向けて

今井泰男師による謡の録音

 宝生流の能楽師で、流派最長老の今井泰男師に、番謡(囃子なしで一番の謡曲を通して謡うこと)の録音を初めてお願いしたのは、2005年度のことでした。無形文化遺産部では、師による宝生流謡曲百番(現行は180曲)の収録を目指し、毎月2回ほどのペースで記録作成を行っています。6月29日に録音した『放下僧』で、収録数は83曲になりました。
 謡の技法は時代によって少しずつ変化します。今井泰男師は、大正10年(1921)3月生まれで、現在88歳。明治大正期を生きた名人たちの技芸を受け継ぎながら、今なお舞台で旺盛な活躍を続けている師の謡の全貌を収録することは、卓越した技の記録というだけでなく、能楽の伝承を考えてゆく上でも大きな意味を持つ、と考えています。

保存担当学芸員フォローアップ研修

石崎センター長による講義

 この研修は、毎年実施している「美術館・博物館等保存担当学芸員研修」の修了生を対象に、資料保存に関する最新の研究やトピックスをお伝えするもので、今年は6月22日、69名の参加者を得て開催しました。
 今回は資料保存の現場をとりまく、最近の2つの大きな流れをもとにテーマを設定しました。ひとつは、地球温暖化が懸念され、省エネ化があらゆる所で求められている現在における内外の文化財施設の取り組みについて、石崎保存修復センター長が講義を行いました。
 また、大学における学芸員課程が改訂され、3年後より「資料保存環境論」が必須となります。これは今後、学芸員には資料保存に関する自然科学的な知識が例外なく要求されることを意味します。これを踏まえ、保存環境論のうち「温湿度」「空気環境」「照明」に関する最新の基礎に関する講義をそれぞれ、犬塚主任研究員、佐野保存科学研究室長、そして吉田が担当しました。
 どちらの内容も、参加者の皆様にとっては、自身のフィールドに直接かかわる問題だけに、真剣そのものでした。と同時に、我々にとっても保存環境を研究する機関の人間として、責任ある研究と情報提供を心掛けねばならないと実感した今回の研修でした。

海外工房における平成21年度在外修復事業

唐子図引き取り
修復前の調査

 保存修復科学センターでは、平成21年度の在外修復事業の一環として、今年もベルリンのドイツ技術博物館内のアトリエにて絵画の修復作業を始めました。修復している作品は昨年度から継続している朱衣達磨図(ケルン東洋美術館所蔵)と今年度始まった唐子図(ベルリン国立アジア美術館所蔵)の2点です。修復アトリエの広さの関係から同時に二つの作品の修復作業はできませんが、修復作業者同士うまく連携しながら修復作業を進めました。今年は、ベルリンも若干日本の梅雨のように雨が多く湿度が高い日が多くむしむしした日が多かったようです。今回の修復作業は7月8日でいったん終了となります。なお、達磨図に関しては今回の修復で終了の予定です。

イラク人専門家の人材育成事業

日本語の研修

 文化遺産国際協力センターでは運営費交付金「西アジア諸国等文化遺産保存修復協力事業」およびユネスコ日本文化遺産保存信託基金「バクダードにあるイラク国立博物館の保存修復室復興」を基に、イラク人保存修復家を日本へ招へいして、文化財の保存修復にかかる人材育成・技術移転のための研修を実施しています。本年度は、イラク国立博物館よりスィーナー・C・A・アルティミーミー氏、ファドゥヒル・A・A・アラウィ氏、モハンマド・K・M・J・アルミマール氏、バーン・A・M・A・アルジャミール氏の4名の保存修復専門家を招へいし、2009年6月19日から9月18日までの3ヶ月間にわたり、主に染織品の保存修復実習と文化財保存修復や材質分析に必要な機器に関する研修を開始しました。本研修では、女子美術大学、奈良文化財研究所、静岡県埋蔵文化財調査研究所など、国内の大学・保存修復専門機関の協力を得て行います。

タジキスタンにおける壁画片の保存修復と人材育成(第5次ミッション)

新しい支持体の作成の様子
壁画片の接合作業

 平成21年5月13日から6月12日まで、「タジキスタン国立古物博物館が所蔵する壁画片の保存修復」の第5次ミッションが派遣されました。昨年度のミッションに引き続き、タジキスタン北部のカライ・カフカハ(シャフリスタン)遺跡から出土した壁画片の修復作業を、タジク人研修生4名と共同で行いました。今回のミッションでは、壁画片の接合、貼付されたガーゼの取り外し作業を指導し、タジク人研修生に実践してもらいました。また、これまでにクリーニングと接合作業を完了した壁画片1点を新しい支持体に固定する作業(マウント)を行いました。接合部分を含め、全体を保持するための裏面からの補強には、炭素繊維で織られた三軸織物(サカセ・アドテック社製)を使用しました。従来、支持体には、石膏や木材などを用いていましたが、今回は、炭素繊維と合成樹脂を用いて、より軽量で取り扱いのしやすい支持体の作成方法を採用しました。これら一連の作業をタジク人研修生と一緒に行い、技術移転を図り、現地の人材育成にも貢献しています。

平成20年度自己点検評価の結果

 4月15日に独立行政法人国立文化財機構外部評価委員会の研究所調査研究等部会が、5月11日に同総会が開催されました。前者は、東京と奈良の文化財研究所が平成20年度に実施した事業の実績をまとめ、それらを自ら点検、評価したものに対し、外部評価委員から意見等をいただく会です。また、後者は、調査研究等をふくめ、機構の事業全体と財務について意見をいただく会です。自己点検評価では、東京文化財研究所は、すべての事業について、当該の年度計画を100%達成し、充分に成果をあげたと判断しました。また中期計画の実施状況に関しては、ほぼすべての事業において、計画通り順調に達成しつつあると判定しました。東京文化財研究所の自己点検評価に対する外部評価委員の意見、評価は以下の通りです。
 調査、研究に関しては、高精細デジタル画像撮影を使った調査研究や無形文化遺産の研究をはじめとして、多方面で多大な成果をあげていると認められました。しかし、一方で、東京と奈良の文化財研究所が共同して取り組んだ高松塚古墳やキトラ古墳の保存活用のための研究、保存修復科学センターが企画、実施した研究会「文化財の保存環境を考慮した博物館の省エネ化」のように、機構の各施設が共同して取り組む研究を一層拡大させて欲しいと要望されました。国際協力の推進に関しては、アジア諸国を中心に、文化財の保存修復や専門家の養成の場面で大きな成果をあげたと認められました。また、文化財保護法の英語による試訳、諸外国の文化財関連法令の刊行などが高く評価されました。調査研究成果の積極的な発信に関しては、子供向けのパンフレットの作成、研究成果物のウェブへの掲載などが高く評価されましたが、今後は、成果を一般に向けてさらにわかりやすい形で発信して欲しいと要望されました。国、地方公共団体等に対する助言、協力、教育等への寄与に関しては、幅広い成果を挙げていると認められました。 他にもたくさんの意見をいただきました。自己点検評価の結果や外部評価委員のご意見は、今後の事業計画の策定や法人運営の改善に役立てます。

国立文化財研究所(大韓民国)金奉建所長ほか2名来訪

東京文化財研究所・所長室にて
質疑応答
奈良文化財研究所都城発掘調査部
(飛鳥・藤原地区)にて

 国立文化財研究所(大韓民国)金奉建所長ほか2名
 平成21年5月13日(水)から20日(水)までの一週間、国立文化財研究所(大韓民国、韓文研)の金奉建所長、李奎植保存科学研究室長、研究企画課・李鍾勳学芸研究官の三名が東京文化財研究所の招へいにより来日、当研究所の事業などを視察されました。
 13日は4階文化遺産国際協力センター、3階保存修復科学センター修復アトリエ、2階企画情報部資料閲覧室、地階無形文化遺産部実演記録室について見学し、当研究所と同様に文化財保護研究を幅広く実施している韓文研の事例を交えながら、それぞれの担当者から説明および質疑応答を行いました。14日は奈良へ移動し、文化庁・奈良文化財研究所で行われている平城宮跡大極殿復元事業の視察、翌日は特別史跡・高松塚古墳の発掘現場や世界遺産・法隆寺の視察を行いました。
 翌週18日には大分県へ移動し、当研究所と韓文研の国際共同研究「文化財における環境汚染の影響と修復技術の開発研究」の日本側サイトである国宝・臼杵磨崖仏を訪問し、共同で実施している現地観測や実験について踏み込んだ議論を行いました。その後、19日は九州国立博物館のバックヤード等の視察を行い、20日午前、福岡空港発の大韓航空機にて無事帰国の途につかれました。
 短期間で数多くの視察地を訪れる非常にハードなスケジュールとなりましたが、金奉建所長は全ての視察地で強い興味を持ち、満足してお帰りになられました。
 また、国際共同研究についてもより緊密に行い、もっと発展させるべきだとの強いメッセージも頂きました。今後、両研究所の研究者による交流をさらに活発にし、良い研究成果を報告できるよう努力してまいりたいと考えています。

大徳寺蔵「五百羅漢図」の光学的調査

奈良国立博物館での調査の様子(様々な波長の光を発生させる光源装置を用いて、銘文の有無を確認しています)

 企画情報部では、奈良国立博物館と「仏教美術等の光学的調査および高精細デジタルコンテンツ作成に関する協定」を結び、共同研究を進めています。その一環として、平成21年5月11日から17日までの日程で、大徳寺蔵「五百羅漢図」の調査・撮影を奈良国立博物館において行いました。
 大徳寺蔵「五百羅漢図」は、南宋の寧波において、淳煕5年(1178)からほぼ十年をかけ、林庭珪・周季常という絵師により全100幅が制作された美術史上大変重要な作品です。現存する94幅(江戸期の補作を除く)のうち、計37幅に銘文の存在が確認されていましたが、経年劣化等により肉眼では判読困難な状況でした。
 今回の調査は、これらの銘文を蛍光撮影等の光学的手法を用いて明らかにすることを目的として開始されましたが、新たに11幅、計48幅に銘文を確認することができました。美術史のみならず、当時の歴史や宗教史を考える上でも非常に大きな発見と言えます。
 今回撮影した画像をもとに、6月中旬には両機関の関係者を交えての協議会を開き、秋に行う第二次調査のための検討材料としていきます。また、今回の調査の成果の一端は、今年7月より奈良国立博物館にて開催される「聖地寧波 日本仏教1300年の源流~すべてはここからやって来た~」(http://www.narahaku.go.jp/
exhibition/2009toku/ningbo/ningbo_index.html
) において提示するほか、さらなる調査・検討を加えつつ、来年度以降、報告書としてまとめていく予定です。

滋賀・百済寺銅造半跏思惟菩薩像の光学調査

 企画情報部の津田徹英・皿井舞は、出光文化福祉財団よりの調査・研究助成を得て、二カ年計画で開始した「秘仏等非公開作例を中心とする近江古代・中世の彫像の調査研究」の一環として、保存科学修復技術センターの犬塚将英、早川泰弘の協力を得て、5月12日(火)に滋賀・百済寺銅造半跏思惟菩薩像のX線透過撮影ならび蛍光X線非破壊分析を東京文化財研究所にて行いました。当日、像は13時に共同研究を行っているMIHO MUSEUMの学芸員二名と百済寺住職によって研究所に到着し、調査がはじまりました。今回の調査は胸部で再接合が認められる頭と体部が同時期の造像かどうかを確認すべく、X線透過撮影によって構造を把握し、蛍光X線非破壊分析で両か所における銅の成分を確認することを目的に実施しました。その調査を踏まえて、本像はこの夏にMIHO MUSEUMで公開される予定です。

キッズページの新設

 2009年5月、小・中学生を対象としたキッズページを新設しました。とくに「とうぶんけんのしごとぜんぶ」では、東京文化財研究所のさまざまな活動をカード形式でご覧いただけます。  昨年7月に刊行しました子供向けパンフレット『東京文化財研究所ってどんなところ?』(http://www.tobunken.go.jp/~joho/japanese/publication
/kids/2008.pdf)とともに、キッズページを夏休みの自由研究などにご利用いただければ幸いです。ぜひ一度、キッズページhttp://www.tobunken.go.jp/kids/index.htmlまでアクセスしてみてください。

韓国国立文化財研究所での研修

韓国国立国楽院、伝統芸術アーカイブについての聞き取り

 昨年6月に韓国国立文化財研究所無形文化財研究室との間で合意に達した「無形文化遺産の保護に関する日韓研究交流」にもとづき、無形文化遺産部の俵木が、5月25日から6月8日まで、韓国において二週間の研修を行いました。昨年度の研修では、主に韓国文化財研究所が製作する重要無形文化財記録のアーカイブ化と活用について調査しましたが、今回は、韓国のその他の機関における無形文化遺産関連の記録のアーカイブ化について調査を行いました。とくに国立国楽院の伝統芸術アーカイブと、国立民俗博物館の民俗アーカイブの現状について詳しく聞き取りを行いましたが、両機関とも、記録資料の整理のための分類やメタデータを、将来の各アーカイブの連携も見越して綿密に構築しており、日本の同種の事業にも参考になる点が多いと思われました。また、研修期間中には、江陵の端午祭と、ソウル近郊での霊山斎という、二つの無形文化遺産を見学する機会にも恵まれました。

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