研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


大徳寺蔵「五百羅漢図」の光学的調査 (その2) 研究協議会の開催

大徳寺五百羅漢検討会

 企画情報部では、美術史研究に欠くことのできない画像資料の形成とその発展的利活用を目指し、「高精細デジタル画像の応用に関する調査研究」というプロジェクトを立ち上げ、調査研究を進めています。本プロジェクトの一環として、奈良国立博物館と研究協定を結び、本年5月に大徳寺蔵「五百羅漢図」の調査・撮影を行いましたが(詳細は活動報告2009年5月の記事をご覧ください)、本調査によって得られた研究成果をさらに深めるべく、研究協議会が6月15日に開かれました。奈良国立博物館より、谷口耕生氏、北澤菜月氏、井手誠之輔氏(奈良博客員研究員・九州大学教授)に来所いただき、当部からは田中、津田、城野、鳥光、土屋が参加しました。
 5月の調査後、撮影画像一点一点に画像処理を施すことで、調査時には不鮮明であった銘文もほぼ判読可能な状況となりました。今回の協議会は、これら補正処理を施した画像をもとに、銘文の確認とそこに記された年紀、絵師、寄進者等の解釈、また来たる秋の第二次調査、および次年度以降予定している報告書の方針を立てるべく、終日討議が重ねられました。とりわけ、画像処理の過程で明らかとなった本図銘文の「欠失」の要因等について城野から報告があり、本調査が極めて重要な意義を有することが再確認されました。
 本調査および協議会の成果の「速報」は、先にお知らせした奈良国立博物館開催の「聖地寧波 日本仏教1300年の源流~すべてはここからやって来た~」(http://www.narahaku.go.jp/exhibition/2009toku/
ningbo/ningbo_index.html
)の会場にてご覧いただけることと存じます。
 大徳寺蔵「五百羅漢図」にほどこされた銘文の全貌、ひいては本図制作の背景が明らかになりつつあります。

宝生流謡曲百番収録へ向けて

今井泰男師による謡の録音

 宝生流の能楽師で、流派最長老の今井泰男師に、番謡(囃子なしで一番の謡曲を通して謡うこと)の録音を初めてお願いしたのは、2005年度のことでした。無形文化遺産部では、師による宝生流謡曲百番(現行は180曲)の収録を目指し、毎月2回ほどのペースで記録作成を行っています。6月29日に録音した『放下僧』で、収録数は83曲になりました。
 謡の技法は時代によって少しずつ変化します。今井泰男師は、大正10年(1921)3月生まれで、現在88歳。明治大正期を生きた名人たちの技芸を受け継ぎながら、今なお舞台で旺盛な活躍を続けている師の謡の全貌を収録することは、卓越した技の記録というだけでなく、能楽の伝承を考えてゆく上でも大きな意味を持つ、と考えています。

保存担当学芸員フォローアップ研修

石崎センター長による講義

 この研修は、毎年実施している「美術館・博物館等保存担当学芸員研修」の修了生を対象に、資料保存に関する最新の研究やトピックスをお伝えするもので、今年は6月22日、69名の参加者を得て開催しました。
 今回は資料保存の現場をとりまく、最近の2つの大きな流れをもとにテーマを設定しました。ひとつは、地球温暖化が懸念され、省エネ化があらゆる所で求められている現在における内外の文化財施設の取り組みについて、石崎保存修復センター長が講義を行いました。
 また、大学における学芸員課程が改訂され、3年後より「資料保存環境論」が必須となります。これは今後、学芸員には資料保存に関する自然科学的な知識が例外なく要求されることを意味します。これを踏まえ、保存環境論のうち「温湿度」「空気環境」「照明」に関する最新の基礎に関する講義をそれぞれ、犬塚主任研究員、佐野保存科学研究室長、そして吉田が担当しました。
 どちらの内容も、参加者の皆様にとっては、自身のフィールドに直接かかわる問題だけに、真剣そのものでした。と同時に、我々にとっても保存環境を研究する機関の人間として、責任ある研究と情報提供を心掛けねばならないと実感した今回の研修でした。

海外工房における平成21年度在外修復事業

唐子図引き取り
修復前の調査

 保存修復科学センターでは、平成21年度の在外修復事業の一環として、今年もベルリンのドイツ技術博物館内のアトリエにて絵画の修復作業を始めました。修復している作品は昨年度から継続している朱衣達磨図(ケルン東洋美術館所蔵)と今年度始まった唐子図(ベルリン国立アジア美術館所蔵)の2点です。修復アトリエの広さの関係から同時に二つの作品の修復作業はできませんが、修復作業者同士うまく連携しながら修復作業を進めました。今年は、ベルリンも若干日本の梅雨のように雨が多く湿度が高い日が多くむしむしした日が多かったようです。今回の修復作業は7月8日でいったん終了となります。なお、達磨図に関しては今回の修復で終了の予定です。

イラク人専門家の人材育成事業

日本語の研修

 文化遺産国際協力センターでは運営費交付金「西アジア諸国等文化遺産保存修復協力事業」およびユネスコ日本文化遺産保存信託基金「バクダードにあるイラク国立博物館の保存修復室復興」を基に、イラク人保存修復家を日本へ招へいして、文化財の保存修復にかかる人材育成・技術移転のための研修を実施しています。本年度は、イラク国立博物館よりスィーナー・C・A・アルティミーミー氏、ファドゥヒル・A・A・アラウィ氏、モハンマド・K・M・J・アルミマール氏、バーン・A・M・A・アルジャミール氏の4名の保存修復専門家を招へいし、2009年6月19日から9月18日までの3ヶ月間にわたり、主に染織品の保存修復実習と文化財保存修復や材質分析に必要な機器に関する研修を開始しました。本研修では、女子美術大学、奈良文化財研究所、静岡県埋蔵文化財調査研究所など、国内の大学・保存修復専門機関の協力を得て行います。

タジキスタンにおける壁画片の保存修復と人材育成(第5次ミッション)

新しい支持体の作成の様子
壁画片の接合作業

 平成21年5月13日から6月12日まで、「タジキスタン国立古物博物館が所蔵する壁画片の保存修復」の第5次ミッションが派遣されました。昨年度のミッションに引き続き、タジキスタン北部のカライ・カフカハ(シャフリスタン)遺跡から出土した壁画片の修復作業を、タジク人研修生4名と共同で行いました。今回のミッションでは、壁画片の接合、貼付されたガーゼの取り外し作業を指導し、タジク人研修生に実践してもらいました。また、これまでにクリーニングと接合作業を完了した壁画片1点を新しい支持体に固定する作業(マウント)を行いました。接合部分を含め、全体を保持するための裏面からの補強には、炭素繊維で織られた三軸織物(サカセ・アドテック社製)を使用しました。従来、支持体には、石膏や木材などを用いていましたが、今回は、炭素繊維と合成樹脂を用いて、より軽量で取り扱いのしやすい支持体の作成方法を採用しました。これら一連の作業をタジク人研修生と一緒に行い、技術移転を図り、現地の人材育成にも貢献しています。

平成20年度自己点検評価の結果

 4月15日に独立行政法人国立文化財機構外部評価委員会の研究所調査研究等部会が、5月11日に同総会が開催されました。前者は、東京と奈良の文化財研究所が平成20年度に実施した事業の実績をまとめ、それらを自ら点検、評価したものに対し、外部評価委員から意見等をいただく会です。また、後者は、調査研究等をふくめ、機構の事業全体と財務について意見をいただく会です。自己点検評価では、東京文化財研究所は、すべての事業について、当該の年度計画を100%達成し、充分に成果をあげたと判断しました。また中期計画の実施状況に関しては、ほぼすべての事業において、計画通り順調に達成しつつあると判定しました。東京文化財研究所の自己点検評価に対する外部評価委員の意見、評価は以下の通りです。
 調査、研究に関しては、高精細デジタル画像撮影を使った調査研究や無形文化遺産の研究をはじめとして、多方面で多大な成果をあげていると認められました。しかし、一方で、東京と奈良の文化財研究所が共同して取り組んだ高松塚古墳やキトラ古墳の保存活用のための研究、保存修復科学センターが企画、実施した研究会「文化財の保存環境を考慮した博物館の省エネ化」のように、機構の各施設が共同して取り組む研究を一層拡大させて欲しいと要望されました。国際協力の推進に関しては、アジア諸国を中心に、文化財の保存修復や専門家の養成の場面で大きな成果をあげたと認められました。また、文化財保護法の英語による試訳、諸外国の文化財関連法令の刊行などが高く評価されました。調査研究成果の積極的な発信に関しては、子供向けのパンフレットの作成、研究成果物のウェブへの掲載などが高く評価されましたが、今後は、成果を一般に向けてさらにわかりやすい形で発信して欲しいと要望されました。国、地方公共団体等に対する助言、協力、教育等への寄与に関しては、幅広い成果を挙げていると認められました。 他にもたくさんの意見をいただきました。自己点検評価の結果や外部評価委員のご意見は、今後の事業計画の策定や法人運営の改善に役立てます。

国立文化財研究所(大韓民国)金奉建所長ほか2名来訪

東京文化財研究所・所長室にて
質疑応答
奈良文化財研究所都城発掘調査部
(飛鳥・藤原地区)にて

 国立文化財研究所(大韓民国)金奉建所長ほか2名
 平成21年5月13日(水)から20日(水)までの一週間、国立文化財研究所(大韓民国、韓文研)の金奉建所長、李奎植保存科学研究室長、研究企画課・李鍾勳学芸研究官の三名が東京文化財研究所の招へいにより来日、当研究所の事業などを視察されました。
 13日は4階文化遺産国際協力センター、3階保存修復科学センター修復アトリエ、2階企画情報部資料閲覧室、地階無形文化遺産部実演記録室について見学し、当研究所と同様に文化財保護研究を幅広く実施している韓文研の事例を交えながら、それぞれの担当者から説明および質疑応答を行いました。14日は奈良へ移動し、文化庁・奈良文化財研究所で行われている平城宮跡大極殿復元事業の視察、翌日は特別史跡・高松塚古墳の発掘現場や世界遺産・法隆寺の視察を行いました。
 翌週18日には大分県へ移動し、当研究所と韓文研の国際共同研究「文化財における環境汚染の影響と修復技術の開発研究」の日本側サイトである国宝・臼杵磨崖仏を訪問し、共同で実施している現地観測や実験について踏み込んだ議論を行いました。その後、19日は九州国立博物館のバックヤード等の視察を行い、20日午前、福岡空港発の大韓航空機にて無事帰国の途につかれました。
 短期間で数多くの視察地を訪れる非常にハードなスケジュールとなりましたが、金奉建所長は全ての視察地で強い興味を持ち、満足してお帰りになられました。
 また、国際共同研究についてもより緊密に行い、もっと発展させるべきだとの強いメッセージも頂きました。今後、両研究所の研究者による交流をさらに活発にし、良い研究成果を報告できるよう努力してまいりたいと考えています。

大徳寺蔵「五百羅漢図」の光学的調査

奈良国立博物館での調査の様子(様々な波長の光を発生させる光源装置を用いて、銘文の有無を確認しています)

 企画情報部では、奈良国立博物館と「仏教美術等の光学的調査および高精細デジタルコンテンツ作成に関する協定」を結び、共同研究を進めています。その一環として、平成21年5月11日から17日までの日程で、大徳寺蔵「五百羅漢図」の調査・撮影を奈良国立博物館において行いました。
 大徳寺蔵「五百羅漢図」は、南宋の寧波において、淳煕5年(1178)からほぼ十年をかけ、林庭珪・周季常という絵師により全100幅が制作された美術史上大変重要な作品です。現存する94幅(江戸期の補作を除く)のうち、計37幅に銘文の存在が確認されていましたが、経年劣化等により肉眼では判読困難な状況でした。
 今回の調査は、これらの銘文を蛍光撮影等の光学的手法を用いて明らかにすることを目的として開始されましたが、新たに11幅、計48幅に銘文を確認することができました。美術史のみならず、当時の歴史や宗教史を考える上でも非常に大きな発見と言えます。
 今回撮影した画像をもとに、6月中旬には両機関の関係者を交えての協議会を開き、秋に行う第二次調査のための検討材料としていきます。また、今回の調査の成果の一端は、今年7月より奈良国立博物館にて開催される「聖地寧波 日本仏教1300年の源流~すべてはここからやって来た~」(http://www.narahaku.go.jp/
exhibition/2009toku/ningbo/ningbo_index.html
) において提示するほか、さらなる調査・検討を加えつつ、来年度以降、報告書としてまとめていく予定です。

滋賀・百済寺銅造半跏思惟菩薩像の光学調査

 企画情報部の津田徹英・皿井舞は、出光文化福祉財団よりの調査・研究助成を得て、二カ年計画で開始した「秘仏等非公開作例を中心とする近江古代・中世の彫像の調査研究」の一環として、保存科学修復技術センターの犬塚将英、早川泰弘の協力を得て、5月12日(火)に滋賀・百済寺銅造半跏思惟菩薩像のX線透過撮影ならび蛍光X線非破壊分析を東京文化財研究所にて行いました。当日、像は13時に共同研究を行っているMIHO MUSEUMの学芸員二名と百済寺住職によって研究所に到着し、調査がはじまりました。今回の調査は胸部で再接合が認められる頭と体部が同時期の造像かどうかを確認すべく、X線透過撮影によって構造を把握し、蛍光X線非破壊分析で両か所における銅の成分を確認することを目的に実施しました。その調査を踏まえて、本像はこの夏にMIHO MUSEUMで公開される予定です。

キッズページの新設

 2009年5月、小・中学生を対象としたキッズページを新設しました。とくに「とうぶんけんのしごとぜんぶ」では、東京文化財研究所のさまざまな活動をカード形式でご覧いただけます。  昨年7月に刊行しました子供向けパンフレット『東京文化財研究所ってどんなところ?』(http://www.tobunken.go.jp/~joho/japanese/publication
/kids/2008.pdf)とともに、キッズページを夏休みの自由研究などにご利用いただければ幸いです。ぜひ一度、キッズページhttp://www.tobunken.go.jp/kids/index.htmlまでアクセスしてみてください。

韓国国立文化財研究所での研修

韓国国立国楽院、伝統芸術アーカイブについての聞き取り

 昨年6月に韓国国立文化財研究所無形文化財研究室との間で合意に達した「無形文化遺産の保護に関する日韓研究交流」にもとづき、無形文化遺産部の俵木が、5月25日から6月8日まで、韓国において二週間の研修を行いました。昨年度の研修では、主に韓国文化財研究所が製作する重要無形文化財記録のアーカイブ化と活用について調査しましたが、今回は、韓国のその他の機関における無形文化遺産関連の記録のアーカイブ化について調査を行いました。とくに国立国楽院の伝統芸術アーカイブと、国立民俗博物館の民俗アーカイブの現状について詳しく聞き取りを行いましたが、両機関とも、記録資料の整理のための分類やメタデータを、将来の各アーカイブの連携も見越して綿密に構築しており、日本の同種の事業にも参考になる点が多いと思われました。また、研修期間中には、江陵の端午祭と、ソウル近郊での霊山斎という、二つの無形文化遺産を見学する機会にも恵まれました。

キトラ古墳壁画の漆喰取外し

ワイヤソーによる漆喰取外しの様子
現在のキトラ古墳天井(紫は石材露出部分)

 保存修復科学センターでは文化庁からの受託事業「特別史跡キトラ古墳保存対策等調査業務」の一環としてキトラ古墳壁画の取外しを行っています。現在、石室内は微生物による汚染の増大が懸念されており、より早期に漆喰を取外すことが求められています。そこでこれまで月に1回、3日間程度実施していた取外し作業を、今年度からは1ヶ月間連続して行うことにしました。第1回目は5月11日からスタートし、主に天井南側の漆喰を取り外しました。1ヶ月間集中的に作業を行うことで効率を上げて取り外すことが可能となりました。また、図像のある漆喰は全て取外されていることから、紫外線照射による微生物の制御を行い、良好な結果が得られています。今回の作業の成功を踏まえ、今秋にも集中的な取外しが実施される予定です。

シルクロード人材育成プログラム・古建築コース実施

現場実習の様子

 中国文化遺産研究院と共同の「シルクロード沿線文化財保存修復人材育成プログラム」の一環として、古建築保護修復コース(後期)を4月初旬から青海省のチベット仏教僧院、塔爾(タール)寺で実施しています。修復理論や実測調査を学んだ昨年に続く今回は、保存管理計画策定から修理の基本設計、実施設計へと至る流れを実習する課程としました。同時に、調査・設計・監理を一貫して行う日本独自の修理システムを紹介することで、ともすればマニュアルに頼りがちな保存のあり方を考える契機になればとの意図も込めました。
 5名の講師を交替で派遣した日本側の講習は5月末で終了し、以後は中国側による講習が7月末まで続きます。12名の研修生は熱心に学んでいますが、課題点も浮き彫りになりました。まず、同じ木造と漢字の文化でありながら、日中の建築には意外に大きな相違があり、用語や修復観をめぐって意思疎通に手間取る場面にしばしば遭遇しました。また、境内各所では修復工事が進行中で、その一角を借りての現場実習でしたが、迅速な施工を求める寺側と調整がつかず、途中で実習対象建物の変更を余儀なくされることもありました。カリキュラムと実施行程のいずれにおいても、研修計画段階での綿密な検討の必要性を痛感させられました。

4月施設訪問

 文部科学省独立行政法人評価委員会委員2名ほか来訪
 4月9日に、文部科学省独立行政法人評価委員会委員が、視察のため訪問されました。東文研で行なわれている調査・研究について、地階無形文化遺産部実演記録室、3階保存修復科学センター第1修復実験室、4階保存修復科学センター生物科学研究室、文化遺産国際協力センター国際資料室および黒田記念館を見学し、それぞれの担当者が説明および質疑応答を行ないました。

稗田一穂氏へのインタビュー

インタビューに応じる稗田一穂氏
山形県酒田市に疎開した文部省美術研究所にて右端が稗田氏、左端が所員であった梅津次郎

 文化功労者であり、東京芸術大学名誉教授、創画会の創立会員である日本画家稗田一穂氏(1920年生まれ)は、1943(昭和18)年に東京美術学校を卒業し、翌年から当研究所の前身である美術研究所に一年間、嘱託として勤務されていました。
 現在、当研究所では、『東京文化財研究所75年史 本文編』を年内に刊行すべく編集をすすめています。そのため、これまでにも多数の関係者の方々にインタビューをして、記録として残すようにし、当研究所の歴史を語っていただいてきました。
 今回は、4月14日に都内の稗田氏のご自宅をお訪ねし、当時の研究所のお話をうかがうことができました。1944(昭和19)年という時期は、空襲などで戦禍がひろがるなか、研究所も資料等の疎開を余儀なくされたときで、稗田氏はその疎開作業にあたられました。同氏は、疎開先である山形県酒田市に資料を守るべく半年間滞在され、1945年8月に召集礼状を受けとり、入隊すべく奈良まで帰郷することになったそうです。まさにその車中で、終戦を知ったと語られていました。ご高齢ながら90分を超えるインタビューの応じてくださり、当時の貴重な証言を残すことができました。

連想検索サイト「想―IMAGINE」と美術関係文献検索データベース

想―IMAGINE

 企画情報部では、昨年10月から、268,000件からなる「美術関係文献検索データベース(試験運用中)」を公開しています。このデータベースは、1966年から2004年までの美術関係文献を「編著者」、「キーワード」「雑誌名等」の三つの窓口から検索できるもので、データ数からいっても圧倒的なものです。情報の蓄積と公開、発信を研究業務の大きな柱のひとつとしてとらえている当部では、今以上に発信できるように、他のサイトとの連携を現在すすめてようとしています。そのひとつが、国立情報学研究所によって立ち上げられたユニークな連想検索サイト「想―IMAGINE」との連携です。今年度より、当部の客員研究員となった中村佳史氏(国立情報学研究所研究員)が、4月21日にそのデモンストレーションを行い、今後の進め方等について研究協議会を開催しました。このデモンストレーションによって、「美術」というひとつの分野だけではなく、さまざまな分野からの情報が同時にあらわれ、思いがけない広がりと可能性があるのではないかと期待されます。

『昭和期美術展覧会の研究 戦前篇』の刊行

「武人雅心あり。…」(『支那事変画報』第10輯)河田明久「描く兵士―日中戦争と「美術」の分際」より。日中戦争期の戦場には多くの「描く兵士」がおり、彼らの作品は真に迫る戦争画として喧伝されました。

 企画情報部では、国内の研究者26名による論文集『昭和期美術展覧会の研究 戦前篇』を刊行しました。本書はプロジェクト研究「近現代美術に関する総合的研究」の成果であり、2006年に刊行した基礎資料集成『昭和期美術展覧会出品目録 戦前篇』の研究篇として、昭和戦前期の美術について各研究者の視点から多角的に論じたものです。展覧会や美術団体の動向を軸に、絵画や彫刻、版画、写真、工芸等の諸ジャンルを対象とし、プロレタリア美術や戦争美術といった昭和戦前期ならではのテーマも盛り込まれています。昭和期の美術をめぐるさまざまな論点を通覧していただきながら、さらに新たな発見や問題意識の端緒となれば幸いです。
 各論文のタイトルと執筆者については、企画情報部刊行物のページをご覧ください。
http://www.tobunken.go.jp/~joho/japanese/
publication/book/showaki.html

本書は中央公論美術出版より市販されています。
http:/www.chukobi.co.jp/kikan/index.html

平安時代の丈六木造仏像の調査

 今年度より企画情報部の津田徹英・皿井舞は出光文化福祉財団よりの調査・研究助成を得て、二カ年計画で「秘仏等非公開作例を中心とする近江古代・中世の彫像の調査研究」(研究代表者:津田徹英)をテーマに掲げ、MIHO MUSEUMに中心に構成された滋賀県ゆかりの研究スタッフとともに滋賀県内の重要彫刻作例の調査・研究を行います。その第1回目として4月26日(日)の早朝より夕刻に及んで甲賀市岩根山中の天台宗寺院善水寺観音堂の観音菩薩坐像(像高245.3㎝)の調査を行いました。本像はこれまで存在は一般に知られておらず、移坐に及んでの学術調査も今回がはじめてとのことでした。作風から平安後期の造像が推定されましたが、保存状況も比較的良好でした。このような本格的な大作がまだ人知れず存在しているところに滋賀県の文化財の懐の深さの一端を垣間見たように思いました。

第3回無形民俗文化財研究協議会報告書『無形民俗文化財に関わるモノの保護』

第3回無形民俗文化財研究協議会報告書
『無形民俗文化財に関わるモノの保護』

 無形文化遺産部では、毎年テーマを定め、保存会関係者・行政担当者・研究者などが一堂に会して無形の民俗文化財の保護と継承について研究協議する会を開催しています。昨年度は11月20日(木)に、「無形民俗文化財に関わるモノの保護」をテーマとして、当研究所セミナー室にて開催いたしましが、この協議会の内容をまとめた報告書を、平成21年3月に刊行し、関係者・機関に配布いたしました。なおこの報告書は、無形文化遺産部のウェブサイトからPDFファイルでダウンロードすることも可能です。
http://www.tobunken.go.jp/ich/public/kyogikai/mukeikyogikai_03

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