研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


シルクロード人材育成プログラム土遺跡保護修復班終了

甘粛省瓜州踏実墓修復現場
日干しレンガの補強作業

 中国文物研究所と共同で実施する「シルクロード沿線文化財保存修復人材育成プログラム」土遺跡保護修復班の第3年目の研修が9月1日から2カ月間、甘粛省瓜州市で実施され、10月31日には3年間合計7カ月の研修を締めくくる修了式が同市においてとりおこなわれました。土遺跡とは日干しのレンガを積んで構築した地上の建造物、考古発掘作業によって地下から出現した土構造の遺跡を指します。日本には考古遺跡の保存例は多数ありますが、地上のものとしては、完全に土を材料として作りそれが乾いただけのものという意味ではほとんど例がなく、自ずから修復保護の経験も乏しいジャンルです。しかし、西アジアから中国に至るシルクロードの各地に残るこれらの遺跡は、まさにその東の果てに位置する日本へ西方の文化が伝えられた、いわば道しるべのような存在ですから、その保護のための人材育成に協力することは、とても重要な意味があります。これまでイランや中央アジアの各国でも日本の専門家による修復協力活動が行われてきました。今回の研修では、瓜州のゴビ灘(砂利の沙漠)に築かれた2,000年前の墓の土製の門柱を対象として修復の実習作業を行いました。12名の研修生は、これまで2年間5カ月の研修によって身につけた概念と理論を駆使し、現場での調査や観察をもとにした検討を通して、この遺跡に最も相応しい修復と保護の状態を考え、実際の修復作業も行い、工事を完成させました。さらに、3年間の研修を集大成する報告書を作成しました。彼らはそれぞれの地域に戻り、地域のリーダーとして土遺跡の保護に従事していくものと期待されています。

タジキスタン、アジナ・テパ仏教遺跡保護プロジェクト

坐像の印影のついた土器片

 文化遺産国際協力センターは、2006年よりユネスコ文化遺産保存日本信託基金による「タジキスタン、アジナ・テパ仏教遺跡保存プロジェクト」に参加してきました。本年は同プロジェクトの最終年にあたることから、今後の報告書の刊行を目指して、これまでの調査によって出土した遺物の整理や得られたデータの分析を実施しました。作業は10月2日から23日にかけて、タジキスタン共和国古物博物館において行いました。出土遺物の多くは、アジナ・テパ遺跡が居住されていた7世紀から8世紀の土器や日干しレンガの破片です。今回、こうした遺物の中に、印章が押された大甕の口縁部の破片を発見しました。押された印面は大小2つ見られます。大きな丸い印面の中央には坐像が描かれ、像から見て右側に水瓶、左側に錫杖と思われるものが配置されています。大甕の破片はアジナ・テパ遺跡から数多く出土していますが、こうした印章が押されたものは他に見られません。何か特別な用途をもった大甕に印章が押されていたのでしょうか。興味深い発見でした。

9月施設訪問(1)

 台東区立御徒町台東中学校6名
 9月18日に、「総合的な学習の時間」の一環として実施されている職場訪問により来訪し、地階無形文化遺産部実演記録室、3階保存修復科学センターアトリエ(漆・紙・金属)、分析科学研究室、文化遺産国際協力センターを見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。

9月施設訪問(2)

 中央区立銀座中学校2名
 同じく9月18日に、「総合的な学習の時間」の一環として実施されている職場訪問により来訪し、3階保存修復科学センター保存科学研究室、修復アトリエ(漆・紙・金属)、文化遺産国際協力センターを見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。

9月施設訪問(3)

 総務省政策評価・独立行政法人評価委員会委員5名ほか
 9月29日に、総務省政策評価・独立行政法人評価委員会委員が、文化財関係の施設を擁する機関について視察のため来訪。東京国立博物館を視察ののち、東文研で行なわれている調査・研究について、3階保存修復科学センター修復材料研究室、保存科学研究室、生物科学研究室および黒田記念館を見学し、それぞれの担当者が説明および質疑応答を行ないました。

モンゴル国教育文化科学省文化芸術局との文化遺産保護のための協力に関する合意書の締結

合意書に署名後、にこやかに握手を交わすエルデネバット文化芸術局長(写真右)と鈴木所長(写真左)

 平成20年9月9日、東京文化財研究所とモンゴル国教育文化科学省文化芸術局の間で、文化遺産保護のための協力に関する合意書が結ばれました。合意書は文化遺産保護のための共同事業の実施、研究交流、人材育成、ワークショップなどの実施を行おうとするもので、両機関の立場を尊重しながら、有形および無形文化遺産保護の分野における協力を目的としています。
 当研究所の鈴木所長がウランバートルのモンゴル国教育文化科学省文化芸術局を訪問し、エルデネバット文化芸術局長と合意書の調印が行われ、当日同行した、清水文化遺産国際協力センター長、宮田無形文化遺産部長ほか当研究所職員数名が同席し、エルデネバット文化芸術局長と鈴木規夫所長により合意書に署名が交わされました。
 合意書の調印に引き続き、本合意書に則り、文化遺産保護に携わる人材育成に関する覚書にも署名が交わされました。
 これらの調印により、今後、さまざまな形で、有形および無形文化遺産保護における協力としての共同事業などを実施しながら、総合的な交流が図られるものと期待されます。

フランス、ベルギーにおける黒田清輝に関する現地調査

グレー・シュル・ロワンの黒田清輝通りにて

 企画情報部では、研究プロジェクト「東アジアの美術に関する資料学的研究」の一環として、当研究所が保管する黒田清輝宛フランス語書簡(約250通)の調査、翻訳をすすめてきました。これらの書簡に、東京国立博物館が保管する黒田のフランス語日記等(1888年)を加えて、次年度に報告書として「黒田清輝宛フランス語書簡集」(仮称)を刊行する予定です。そのための現地調査として、9月10日から15日までの間、黒田が留学中に滞在したパリ、グレー・シュル・ロワン村、バルビゾン村、さらにベルギーのブリュッセル、ブランケンベルグ等の各地をめぐり、当時の場所をロケーションし、あわせて調査をおこないました。その成果は、前記の報告書で発表します。

昭和30年代の古曲の記録

宇治文雅(1881-1975)と二世宇治紫友(六世宇治倭文 1907-1986)による一中節『双生隅田川』

 無形文化遺産部所蔵テープは、現在デジタル化を順次進めています。デジタル化とは、単にメディアをCDに転換するだけではありません。録音の確認(テープの箱書きとの照合等々)の後、内容に即したインデックス(見出し)付与をしなければ、資料として活用する上で、利便性に欠けることになります。
 平成17年度に受け入れ手続きが完了した竹内道敬旧蔵音声資料(以下「竹内コレクション」)には、演奏が昭和30年代に溯る古曲(河東節・一中節・宮薗節・荻江節)のオープンリールテープが数多く含まれていました。そのほとんどが市販を目的とした録音ではなかったようです。
 写真は宇治文雅(1881-1975)と二世宇治紫友(六世宇治倭文 1907-1986)による一中節『双生隅田川』のテープからCD化したものです。演奏時間が約1時間に及ぶ大曲です。今後は、こうした一般に試聴の機会が滅多になかった貴重な録音について、多くの方が活用できるような環境を整えてゆきたいと考えています。
 なお、「竹内コレクション」の内、SPレコードに関しては、整理が完了したものから目録の形で公開しています(『芸能の科学32』『無形文化遺産研究報告2』)。

国際文化財保存学会(IIC)ロンドン大会参加報告

シンポジウム「気候変動と博物館の収蔵品」の様子

 国際文化財保存学会が9月15日から19日まで、ロンドンのクイーンエリザベスⅡ会議場で開催されました。会議のメインテーマはConservation and Access(保存と活用)で、文化財の輸送や取り扱い、壊れやすい資料の公開、管理のあり方など様々な考え方や調査、実践例について報告され情報交換がなされました。会議期間中に、「気候変動と博物館の収蔵品」というテーマのシンポジウムが開催され、地球温暖化による環境の変化により文化財にどの様な影響があるのか、また、対処方法に関して議論がなされました。そのほか、IIC Regional Groupという各国組織の代表者での打ち合わせがあり、日本からは民博の園田氏と石﨑が参加しました。ここでは、各国組織の連携強化について話し合われました。

文化遺産の保存科学に関する国際シンポジウムinソウルへの参加

石崎武志保存修復科学センター長による基調講演

 2008(平成20)年9月29日から10月1日まで、ソウル教育文化会館において開催された「2008年文化遺産の保存科学に関する国際シンポジウム」に、保存修復科学センターから石崎武志・早川泰弘・森井順之の3名が参加し発表を行いました。
 主催者である大韓民国・国立文化財研究所では、2006年より保存科学分野において多額の研究開発予算を韓国政府より獲得しており、本シンポジウムは成果公表の一環で開催されました。シンポジウムでの発表者は2日間で53名(海外:24名(7ヶ国)、韓国内:29名)と多く、様々な分野で活発な討論が行われました。

国際研修

開会式
実習風景(折れ伏)
実習風景(裏打ち)

 世界各国の文化財の保護と活用に携わっている80名近い応募者の中から10名を選抜し、9月8日から26日まで国際研修「紙の保存と修復」をICCROM(国際保存修復研究センター)と共同開催いたしました。
 この研修は、講義、実技、見学からなります。講義では、紙や日本の伝統的接着剤・膠着剤に関する材料学、文化財保護の理念、日本画の技法、装こう技術、表装形態などについて、それぞれの専門家から学びました。実技では、模擬文化財のクリーニング、虫損(虫食い穴)部への補紙(つくろい)、表装を行い、最終的には巻子として仕上げました。また、和とじ冊子の作製も行いました。見学では、まず、岐阜県美濃市を訪れ、長谷川和紙工房、美濃和紙の里会館(MINO-WASHI museum)、美濃史料館(Mino historical museum)において、美濃紙についてその伝統的な製造法から歴史的な流通までを学びました。また、国宝修理装こう師連盟の国立京都博物館文化財保存修理所内およびそれぞれの独自工房において、修復現場の見学を行いました。

四川大地震文化財復興支援に関する現地調査

28mの塔の大半が崩壊(安県文星塔)

 5月12日、中国四川省でぶん川県を震源とするマグニチュード8の地震が発生し、震源地を中心に建物の倒壊、山岳の崩落等によって多数の死傷者が出る大災害となりました。長い歴史があり、多くの文化財を有する四川省では、文化財にも重大な被害が出ました。日本政府は、地震発生直後の人命救助隊の派遣に引き続いて、各省庁から実施可能な項目をリストアップした「支援パッケージ」を中国政府に対して提出しましたが、6月末までにその回答が戻り、文化庁が提出した「文化財復興支援のための日中専門家交流」を実施することになりました。今回東京文化財研究所は、文化庁の委託を受け、9月25日から30日の日程で、今後の日本による文化財復興支援実施のため現状を把握し、現地文化財保護部門の担当者との意見交換を行って、本年度に実施する具体的な支援活動計画作成のための情報収集を行うことを目的とした調査を実施しました。地震発生からすでに4カ月が経過しているものの、被災地にはいまだに被害の生々しい痕跡が見られます。寺院の保存管理事務所では避難した簡易テントをそのままに使用していて、これから冬を迎えようとしているところもありました。今回の視察と専門家同士の話し合いを通じて、以下の方向性が確認されました。
1) 日本の専門家約10名が四川省を訪れ、文化財の地震対策をテーマとした研究会を行い、専門家同士の交流を図る。
2) 内容としては建造物、博物館収蔵品を考える。
3) 時期は来年の春節明けが相応しい。(春節は1月26日)
 文化庁では今回の調査の報告を承け、現在、具体的な実施計画を検討しているところです。

モンゴルでの拠点交流事業・協力相手国調査

アラシャーン・ハダ遺跡での調査
日本およびモンゴルの文化遺産保護に関するワークショップ

 9月3日から13日まで、拠点交流事業によるワークショップ開催、および協力相手国調査のためモンゴルを訪れました。
 9月5日から8日まで、日本に保存修復への協力が要請されているヘンティ県の遺跡を訪れました。アラシャーン・ハダ遺跡では、旧石器時代からモンゴル帝国の時代にわたり、岩石の上に動物の絵やさまざまな言語の文字が残されています。セルベン・ハールガ遺跡には、チンギス・ハーンも参加した戦争に関する記念碑が残っており、いずれもモンゴルの国宝といえる重要な遺跡です。ここでは、写真やGPSによる現状記録、劣化状態の調査を行いました。
 また、9月10日・11日には、モンゴル国教育・文化・科学省文化芸術局との共催、在モンゴル日本大使館の後援で「日本およびモンゴルの文化財保護に関するワークショップ-モンゴル文化遺産保護国家計画-」を開催しました。これに先立ち、東京文化財研究所とモンゴル国教育・文化・科学省文化芸術局は、文化遺産保存に関する協力についての合意書を結びましたが、このワークショップは協力事業の端緒となります。テーマの「国家計画」とは、文化財保護関連法令の整備、歴史的・文化的記念物の保護、観光開発による経済貢献などを目的に昨年12月にモンゴル政府が決定したものです。ワークショップには日本側14名、モンゴル側20名の関係者が参加し、日本・モンゴル各々4件ずつの発表と質疑応答が行われました。

第22回国際文化財保存修復研究会の開催

第22回国際文化財保存修復研究会発表風景

 2008年9月19日に、75名の参加を得て、第22回国際文化財保存修復研究会「遺跡保存と水」を開催しました。遺跡保存コンサルタントのリチャード・ヒューズ氏による「モエンジョダロ遺跡における水文学、水理学、地質工学―水との共存」、仙台市富沢遺跡保存館の佐藤洋氏による「仙台市富沢遺跡保存館における遺構保存の現状と課題」、イタリア・ナポリ及びポンペイ特別考古学局のニコラ・セベリーノ氏による「バイア水中公園:その保存と公開」の3件の発表と、総合討議が行われました。遺跡の保存対策といえば、多くの場合には水を如何にして防ぐかという視点で議論がなされますが、水が存在する前提で保存が図られている遺跡の事例は、そうでない状況にある多くの遺跡の保存を考える上でも参考になると期待されます。

第4回日タイ共同研究成果報告会の開催

第4回日タイ共同研究成果報告会

 文化遺産国際協力センターでは、2006年10月にタイ文化省芸術総局と東京文化財研究所との間で交わされた書簡に基づき、同局との間でタイの遺跡の劣化と保存に関する共同研究を実施していますが、この度バンコクにて、その成果報告会を開催しました。
 報告会は、9月4日と5日の二日間にわたり、バンコク市のタイ・ナショナルギャラリーにて行われました。会では、日本側から6件、タイ側から4件の研究発表が行われ、現地研究者など約30名の参加者により、活発な議論が持たれました。
 バンコク滞在中には、タイ芸術総局を訪問し、2009年1月14~16日にバンコクで開催される予定のアジア文化遺産国際会議に関して打ち合わせを行いました。

第16回ICOMOS総会・国際シンポジウム(カナダ・ケベック)

ケベック旧市街地の修復が終了した地域の見学
ICOMOS総会

 文化遺産保護の国際的な動向についての研究・情報収集活動のひとつとして、9月27日から10月4日までカナダのケベック市において開催された第16回ICOMOS総会に参加しました。世界各地から有形文化遺産の保存に携わる各分野の専門家が集い、日本からは20名ほど(アジア太平洋地域からは2番目)の参加となりました。期間中は総会に加えて、”Finding the Spirit of the Place(場所の精神)”というテーマを掲げ、若手を対象とした国際フォーラム、国際学術委員会(ISC)会議、国際学術シンポジウム、現地視察などが開かれました。若手フォーラム(27-28日)は、今回はじめて行われた新しい試みで、若手研究者が活発な議論を繰り広げました。ISC会議(29日)では23もの専門テーマ会議が設けられましたが、私はその中から、日本がより活発に参加することが望まれている5つの会議に参加しました。9月30日には総会の開会が盛大に行われました。国際シンポジウム(11月1日―2日)ではテーマをめぐり4つのセッションが同時に進行され、ポスターセッションも加えて、世界各地の多様な取り組み事例が紹介されました。3日は7つのグループに分かれてケベックの旧市街地や周辺地域を視察しました。4日の総会と役員選挙の結果、日本人執行委員1名が当選し、また名誉会員1名が承認されました。
 この8日間は、活発な意見交換と貴重なネットワーク作りができ、たいへんに充実した機会となりました。

8月施設訪問

 (財)日本原子力文化振興財団施設見学
 8月19日に、学校教育関係者を対象とする「エネルギーと環境」講座を地階セミナー室にて開催。そののち、文化財の修復に取り入れられている放射線を用いた分析を中心に、地階X線室、保存修復科学センター分析科学研究室、修復アトリエ、1階企画展示について見学。それぞれの担当者から説明を受け、質疑応答を行いました。

韓国文化財庁企画調整官の来訪

韓国文化財庁企画調整官崔泰龍氏(左)と鈴木所長
城野誠治専門職員(左)が韓国文化財庁企画調整官崔泰龍氏(中)、情報化チーム長趙顕重氏(右)に対し、最新の特殊撮影について説明しました。

 8月22日、韓国文化財庁の企画調整官崔泰龍氏、情報化チーム長趙顕重氏、駐日大韓民国大使館韓国文化院の崔炳美氏の三氏が来訪されました。今回の来訪は、文化財アーカイブズの運営と文化遺産のデジタル化を推進するための海外の事例調査と担当者との協議が目的でした。鈴木所長との懇談の後、企画情報部の資料閲覧室やデータ入力の作業を見学し、画像情報室も見学されました。画像情報室では、城野誠治専門職員から、日本、韓国、中国産の絹の蛍光撮影による画像の違いなど最新の特殊撮影についての説明を受け、その高い技術による研究の成果を熱心に聞き入り、また意見交換をしました。現在、大韓民国では、国をあげて文化財アーカイブズの構築とデータのデジタル化をすすめており、たいへんに参考になったということでした。

平成20年度在外日本古美術品保存修復協力事業 中間視察

工房にて修理方針を協議する様子

 今年度修理を行っているカナダ・ヴィクトリア美術館所蔵「松に孔雀図屏風」は、17世紀前半の制作と見られる大型の作品ですが、画面の随所に損傷があり、合成塗料や接着剤、西洋紙による補強など、本来古美術品の修理には不適切な修復材料が多数用いられていました。可能な限り画面を良好な状態に回復させるべく、8月4日(月)に修理工房・墨仁堂(静岡市)において、当所保存修復科学センター副センター長・川野邊渉、同伝統技術研究室研究員・加藤雅人、企画情報部部長・田中淳、同研究員・江村の4名で、詳細な修理方針についての協議を工房担当者と行いました。今年度末の完了を目指し、修理は順調に進行しています。

第23回国際服飾学術会議への参加

第23回国際服飾学術会議の様子

 8月20・21日、飛騨・世界生活文化センター(高山市)において、第23回国際服飾学術会議が開催されました。日本をはじめ、韓国、台湾、モンゴルの研究者、染織家、デザイナーら約200人が参加し、意見交換を行ないました。無形文化遺産部からは菊池が参加し、研究発表を行いました。
 今回の学術会議では、「服飾文化の東西交流」を共通テーマとして、講演、研究発表、ポスターセッション、創作衣装展などが行われました。
 各国からの参加者は染織技術についての研究に触れ、国による技術保存の考え方の違いや、復元という試みに対しての認識を深めていました。
 また、この出張に際して、美濃和紙の里会館(美濃市)と春慶会館(高山市)を視察し、伝統工芸技術に関する情報収集を行いました。無形文化遺産部においては、工芸技術に関する情報収集がはじまったばかりです。今後も、地域や対象を拡大させつつ、積極的に情報収集を行なってまいります。

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