韓国における美術アーカイブの現況調査(2次)

ソウル大学校中央図書館「見える収蔵庫」/手前には資料展示用のケースが設けられている(撮影時は展示替えのため資料なし)。天井照明には調光機能があり、区画ごとに照度を調整できる。
ソウル工芸博物館 工芸図案の保管展示

 文化財情報資料部のプロジェクト「文化財に関する調査研究成果および研究情報の共有に関する総合的研究」(シ01)では、国内外の諸機関と連携しながら、文化財関連資料の保存・活用に関する研究を進めています。その一環として、令和7(2025)年度に引き続き、韓国における美術アーカイブの現況を調査するため、令和8(2026)年9月28日(月)から10月1日(木)まで、橘川英規(文化財アーカイブズ研究室長)と田代裕一朗(同室研究員)の2名が韓国を訪問しました。
 9月29日(火)には、国立中央博物館を訪問し、ジョン・ヘウン主務官、ジョン・ジェホ司書らの案内のもと、図書館を見学しました。特に印象的だったのは、開架エリアの一角に設けられた個人文庫です。金載元(キム・ジェウォン)初代館長や崔淳雨(チェ・スヌ)元館長らの旧蔵書が寄贈者ごとにまとめられており、蔵書を通じて研究者の学問的関心や活動の軌跡を伝える展示方法は、当研究所における研究者アーカイブの公開にも参考となるものでした。また、キム・ヨンミン学芸研究官の案内のもと、1945年以前に撮影された文化財写真のガラス乾板約3万8千点を収める専用収蔵庫を見学しました。同館では、キム氏が中心となり、1987年以降、写真の複製や目録化、デジタル化を段階的に進め、2019年には公開画像の高画質化も実施しています。ガラス乾板は当研究所にも共通する所蔵資料であり、技術の進歩に伴うデジタル画像の再作成や、原板の長期保存をめぐる課題について意見を交わしました。一連の整理事業の経緯は、将来の技術的変化も見据えた原資料の継続的な保存の重要性を示すものでした。
 9月30日(水)には、ソウル大学校中央図書館を訪問し、パク・ソンヒ記録文化遺産チーム長、ジョン・ヘヨン司書らの案内のもと、アーカイブの管理・運営状況を調査しました。同館は1975年竣工の本館と2015年増築の「冠廷館」が一体となった図書館で、令和8(2026)年2月には両館を結ぶ空間に「ヘリテージ・ライブラリー」が新設されました。今回見学した「見える収蔵庫」(보이는 수장고)では、収蔵庫内部をガラス越しに公開し、貴重な文献資料を美術作品のように鑑賞できる空間が設けられていました。資料を単に保存・閲覧の対象とするのではなく、その姿自体を見せることで関心を喚起する発想が印象的でした。研究利用を中心に資料公開を進めてきた当研究所にとっても、展示・鑑賞を通じてアーカイブの価値をより広く伝える可能性を示す事例でした。
 10月1日(木)には、ソウル工芸博物館を訪問し、イ・スンミ学芸研究士の案内のもと、工芸アーカイブの取り組みについて調査しました。令和3(2021)年に開館した同館は、工芸を完成作品のみならず、制作技術や作り手の活動を含めて捉え、図案・図面・文書・写真から制作道具などの実物史料まで、幅広く収集・保存しています。当研究所にも、金工家・金工史家であった香取秀真の意匠図案や日記、金工品の調査記録など、工芸の制作や研究の過程を伝える資料が所蔵されています。今回の訪問では、多様な資料を相互に関連づけながら整理・活用し、工芸をめぐる活動の全体像を捉えようとする同館の取り組みについて意見を交わしました。
 なお、今回の訪韓では、当研究所と韓国国立現代美術館が令和8(2026)年5月に締結した学術・文化交流に関する協定に基づき、9月28日(月)と10月1日(木)に同館の担当者と面会しました。協定初年度にあたる本年度の共同事業について、韓国近代美術関係資料の調査・整理やデジタル化などの進捗状況を共有し、今後の資料情報の共有方法や共同研究の方針について改めて協議をおこないました。
 今回の調査は、資料の保存に加え、その来歴や相互関係をいかに伝え、活用していくかを考える機会となりました。今後も各機関との交流を継続し、得られた知見を当研究所におけるアーカイブの整備・公開に生かしていきたいと考えています。

(202609 / 橘川英規, 田代裕一朗)