スタッコ装飾及び塑像に関する研究調査(その9)
文化遺産国際協力センターでは、「スタッコ装飾及び塑像に関する研究」の一環として、イタリア・フィレンツェ大聖堂においてオペラ・ディ・サンタ・マリア・デル・フィオーレ(Opera di Santa Maria del Fiore)が所蔵・管理する塑像を対象に、各分野の専門家と共同で調査研究を進めてきました。このたび、その成果をまとめた報告書『SAN ZANOBI nel Duomo di Firenze – Uno studio sulla scultura in terra cruda』を刊行しました。
本報告書では、1589年、トスカーナ大公フェルディナンド1世・デ・メディチの婚礼祝祭のために制作された仮設ファサードを飾った彫刻群のうち、ピエトロ・フランカヴィッラ(Pietro Francavilla)作とされる「聖ザノビウス像(San Zanobi)」を中心に、粘土などの可塑性のある素材を盛り上げたり削ったりしながら造形される「塑像(そぞう)」について、当時における内部構造や表面仕上げ、装飾、現在の保存状態など、多角的な調査を行った成果をまとめています。
調査は、まず16世紀の文献であるGualterottiの記述やScarabelliによる版画資料との比較を通じて、聖ザノビウス像が制作された歴史的背景や、当時の仮設ファサードにおける彫刻の位置づけについて検討しました。加えて、平成26(2014)年に実施された過去の修復についても検証を行い、現在の保存状態に至るまでの経緯を考察しました。
続いて、こうした文献・資料調査を踏まえて研究計画を立案し、実際の作品を対象とした調査を行いました。携帯型X線デジタル撮影による内部構造の可視化では、荷重を支える木製の骨組みや金属製の釘、アシなどの植物繊維を用いた構造など、外観からは確認することのできない内部の特徴を明らかにしました。また、3Dデジタルスキャナーによる高精細な形状記録に加え、紫外線蛍光撮影や顕微鏡観察によって、表面に残る白色層や金箔装飾などについても詳細な観察を行いました。
今回の報告書の刊行をもって、これまで進めてきた共同研究の第一段階は、ひとつの区切りを迎えることとなりました。今後は、得られた知見を礎として、微破壊調査による材料分析へと進んでいきます。大理石彫刻が中心であった16世紀のフィレンツェにおいて、今日まで残されていること自体が稀少な塑像。その材料や制作技法を解明し、得られた成果を今後の保存や修復に生かすことができるように、調査・研究を継続していきたいと考えています。
