研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


『東京文化財研究所蔵書目録8 漢籍編』の刊行

『東京文化財研究所蔵書目録8 漢籍編』

 企画情報部の研究プロジェクト「専門的アーカイブの拡充(資料閲覧室運営)」の一環として2002年3月に『東京文化財研究所蔵書目録1 西洋美術関係 欧文編・和文編』を刊行して以来、順次刊行を進めてきた蔵書目録の第八冊目にあたる『同目録8 漢籍編』を刊行いたしました。これは東京文化財研究所が所蔵する約12,000冊の漢籍を収録した目録で、この目録の刊行により研究所所蔵の漢籍の全容が明らかとなり、広く活用されることが期待されます。

『美術研究』400号、『美術史論壇』30号記念日韓共同シンポジウム「人とモノの力学-美術史における『評価』」開催

洪善杓氏による基調講演「国史形美術史の栄辱―朝鮮後期絵画の解釈と評価の問題」
ディスカッションの様子

 2月27日に、当研究所において表題にあるシンポジウムを開催しました。『美術研究』(1932年創刊)は、当研究所企画情報部が、また『美術史論壇』(1995年創刊)は、星岡文化財団韓国美術研究所が刊行している学術誌です。韓国美術研究所長の洪善杓博士は、『美術研究』の海外編集委員を委嘱している関係から交流があり、実現したシンポジウムでした。当日は、はじめに洪博士の基調講演があり、韓国側からは、張辰城(ソウル大学校)、文貞姫(韓国美術研究所)両氏に発表願い、また当研究所からは、綿田稔、江村知子の両名の発表があり、その後ディスカッションが行われました。美術史における「評価」という重要な問題をとりあげ、意見交換する機会となりました。
 なお、3月12日には、同じ発表者による、韓国ソウル市(梨花女子大学校)にてシンポジウムを開催する予定です。

近世風俗画共同研究調査報告会

近世風俗画調査研究報告会ディスカッションの様子
地下1階ロビーでの高精細画像展示

 企画情報部では2009年度より徳川美術館との共同研究として、近世風俗画の調査を実施しています。2011年1月29日には東京文化財研究所において報告会を開催しました。冒頭には徳川黎明会会長・徳川美術館館長の徳川義崇氏に近年のIT技術の情勢をふまえてご挨拶頂きました。そして江村が「歌舞伎図巻の描写について」と題して、「歌舞伎図巻」(徳川美術館蔵・重要文化財)の細部描写にはこれまでの美術史研究において見過ごされてきた特徴的な表現が認められることを中心に報告しました。次に徳川美術館学芸員・吉川美穂氏が「本多平八郎姿絵屏風の表現について」と題して、「本多平八郎姿絵屏風」(同館蔵・重要文化財)の人物描写を高精細画像のスライドとともに紹介し、画中の葵文小袖を着た女性には、高貴な女性の風俗儀礼・化粧方法の一つである置き眉の痕跡が認められることなどを報告しました。つづいて徳川美術館副館長・四辻秀紀氏による司会でディスカッションを行い、画像情報に関しては国立情報学研究所研究員の中村佳史氏にも議論にご参加いただきました。美術史だけでなく、音楽史、芸能史、服飾史、さらに文化財修復に関係する方々など110名を超える参加者を得て、盛況のうちに閉会しました。また会場としたセミナー室前のロビーでは上下巻で15mに及ぶ「歌舞伎図巻」の原寸大出力画像も展示し、参加者にご覧頂きました。今後もさらなる調査研究とその情報発信をつとめて参ります。

2010度第7回企画情報部研究会開催

2010年12月17日に、今年度第7回目の企画情報部研究会を行いました。発表者と題目は以下の通りです。
 ・皿井舞(企画情報部研究員)
  「平安初期神仏習合彫刻史試論
   京都・神光院薬師如来立像をめぐって」
 ・佐々木守俊氏(町田市立国際版画美術館学芸員)
  「“北宋風作善”の受容と印仏・摺仏の像内納入」
 皿井は、10月初旬に京都・神光院でおこなった調査をふまえ、これまであまり知られてこなかった、本院の薬師如来立像について紹介をしました。またあわせて、本像が、平安時代初期の神仏習合を考えるうえでも、重要な作例である可能性を指摘しました。本像の紹介は、当研究所が刊行している『美術研究』誌上でおこなう予定です。
 佐々木氏は、平安時代後期よりさかんになる、仏像の像内に版画(印仏・摺仏)を納入する信仰について、中国・北宋時代の信仰の受容という観点から、読み解かれました。すなわち、印仏・摺仏の像内納入が北宋期の『地蔵菩薩応験記』所収の説話にもとづいたものであること、またそれが「奇瑞を期待する営為」という意味であったことなど、貴重な指摘がなされました。大陸文物の受容のあり方を考える上でも、重要な報告をしていただきました。
 本研究会では、水野敬三郎先生(東京芸術大学名誉教授)や浅井和春先生(青山大学教授)をはじめ、彫刻史を専門とする先生方にもお越しいただき、活発な討議をおこないました。
 討議で出された意見は、今後、研究をすすめていく上での重要な論点ばかりでした。こうした問題意識の共有化は、研究を活性化させる原動力となります。本研究会が、原動力を生み出す場として機能し続けるよう、今後も研究会開催のあり方を模索していきたいと思います。

横山大観《山路》の調査

横山大観《山路》、蛍光X線分析の様子

 近代日本画の巨匠、横山大観が43歳のときに描いた《山路》(明治44年作、永青文庫所蔵・熊本県立美術館寄託)は、発表当時、西洋の印象派と南画の融合と評されたタッチを多用することで、明治30年代に大観らが試みた朦朧体を脱し、大正期に流行した“新南画”の先駆けとなった重要な作品です。くわえて近年、荒井経氏(東京藝術大学)により、同作品において当時新出の岩絵具が使用された可能性が指摘され、近代日本画の材質を考える上でも注目すべき作といえます。
 このたび《山路》が修理されるにあたり、同作品を所蔵する永青文庫と当研究所で共同研究を立ち上げ、同文庫の三宅秀和氏と多角的に調査研究を行うことにしました。その手始めとして10月10日に《山路》寄託先の熊本県立美術館で、同館の林田龍太氏のご協力のもと、上記の荒井氏と平諭一郎氏(東京藝術大学)・小川絢子氏(同)により、近赤外線反射撮影、および蛍光X線分析による定性分析を実施しました。調査の結果、それまで伝統的に使用されてきた在来顔料とは異なる、近代的な顔料が豊富に用いられていることがわかりました。これから一年ほどかけて修理が行なわれますが、今回の調査結果や修理の経過、さらに発表当時の批評など《山路》にまつわる諸情報を集成して、基礎資料として公にできればと思っています。

第44回オープンレクチャー「人とモノの力学」の開催

1日目の須賀みほ氏の発表風景
2日目の髙橋利郎氏の発表での質疑応答

 当研究所企画情報部では、美術史研究の成果を広く知っていただくため、毎年秋に公開学術講座「オープンレクチャー」を開催しています。昭和41年(1966)の第1回目から数えて、今年で44回目を迎えます。平成18年(2006)より、「人とモノの力学」という共通テーマを設定しており、今年は10月15日、16日の日程で所内外の研究者4名が発表を行いました。
 10月15日は、津田徹英(企画情報部文化財アーカイブズ研究室長)が「中世における真宗祖師先徳彫像の制作をめぐって」と題して、等身であらわされた中世真宗祖師彫像の制作背景と造像の意義についての発表を行いました。須賀みほ氏(岡山大学准教授)は「草花の美─都久夫須麻神社社殿の空間─」と題した発表で、同社殿の詳細な調査に基づいて、その造形表現と空間構成について豊富な画像とともに明らかにしました。 翌16日は、髙橋利郎氏(成田山書道美術館学芸員)が「御歌所の歌人と書」と題した発表で、明治21年(1888)宮内省に開設された御歌所に集まった歌人たちの活動について、近代天皇制の整備と拡張という背景に位置づけながら、その文化的役割を解明しました。塩谷純(企画情報部文化形成研究室長)は、「秋元洒汀と明治の日本画」と題した発表で、明治期の日本画をリードした菱田春草のパトロンとして重要な役割を果たした流山の醸造家・秋元洒汀の活動に焦点をあて、明治期の作品受容のありかたを明らかにしました。
 各日114名、86名の聴講者を得て、初日には須賀氏の発表に関連して竹生島神社宮司の生嶋嚴雄様ご夫妻に、また二日目には塩谷の発表に関連して洒汀のお孫様にあたる水彩画家の秋元由美子様にご臨席いただきました。お二方には会場からの質問にもお答えいただくなど、盛会のうちに終了しました。閉会後に実施したアンケート結果においても、多くの方々から大変満足いただけたとの回答を得ることができました。今後とも、当研究所の研究成果を発信するこのような企画を積極的に行っていきたいと思います。

東京都台東区立上野中学校学芸発表会における研究所のパネル展示

台東区立上野中学校学芸発表会でのパネル展示
タッチパネルを使って、東京文化財研究所の説明を見ている中学生

 10月30日、東京都台東区立上野中学校の学芸発表会において、東京文化財研究所はパネル展示を行いました。その内容は「X線透過撮影による能管・龍笛の構造解明」と「X線透過撮影による仏像の調査・研究」の二つです。
 これらの展示はいずれも以前、研究所のエントランスで展示されていたパネルを二次活用したものですが、どちらもX線透過撮影を通して調査を行い、成果を得たという点が共通していました。
 中学生のみなさんも健康診断の際にX線透過撮影によって胸部の状態を知ることはよく知っています。したがって今回のパネル展示を通じて、この方法がどのような材質の文化財に対して有効なのか、またその結果何がわかるのかなどを理解してもらえたかと思います。
 東京都台東区立上野中学校学芸発表会で研究所のパネルが展示されたのも2回目となりました。たった1日の展示ではありましたが、上野中学校生徒、教職員、そして保護者など約300名の方々に対し、文化財を守り、未来に伝えようとしている研究機関が上野中学校のすぐ近くにあることを知っていただくよい機会になったと思います。
 今後もこの活動が学校教育との連携、あるいは地域社会との連携を表す一つの形として続いていくことを願ってやみません。

故鈴木敬先生の蔵書の追加寄贈

 中国絵画史の泰斗であり、東京大学名誉教授であった故鈴木敬先生(平成19年10月18日逝去)の蔵書中から、『景印文淵閣四庫全書』、『四部叢刊初編宿本』『大清歴朝実録』が、ご遺族の輝子夫人より、平成21年12月に当研究所へご寄贈いただいたことについては『東文研ニュース』36号において報告いたしましたが、このたび、輝子夫人より、同先生の蔵書のうち、『欽定古今図書集成』、『天一閣明代方志選刊』等の叢書類が10月26日に追加寄贈となりました。追加寄贈となったこれらの叢書類は、研究所の架蔵図書の充実に直結するものであり、今後、順次、整理・登録を行い、多くの方々にご利用・ご活用いただけるようにしたいと考えております。

徳川美術館との共同研究調査パネル展示

「本多平八郎姿絵屏風」パネル展示風景
「歌舞伎図巻」パネル展示風景

 企画情報部では、徳川美術館との共同研究として、「本多平八郎姿絵屏風」などの近世風俗画の調査を行っています。今年2010年は、同館の開館75周年にあたり、特別展「尾張徳川家の名宝」(10月2日~11月7日)が開催されています。この機会に合わせて、9月28日から調査研究成果の一環として「本多平八郎姿絵屏風」と「歌舞伎図巻」(ともに重要文化財)の拡大画像パネルを展示しています。「本多平八郎姿絵屏風」は、縦72.2cmの比較的小振りの二曲屏風ですが、本多平八郎を江戸期の将軍・大名家クラスの男性の遺骨から推定した平均身長157cm程度に合わせて、約3.5倍で出力しました。右隻も同倍率にしてみると、中心的人物である葵紋小袖の女性が、同様に将軍・大名家の正室・側室の女性の平均身長146cm程度に合致し、実際の男女の体格差が身体描写において正確に反映されていることがわかります。「歌舞伎図巻」は上下2巻、絵6段からなる、縦36.7cmの絵巻物ですが、こちらは実際の大きさの2.5倍程度で出力しました。繊細なグラデーションが施された彩色表現、緻密に描き分けられた質感描写を手に取るように確認することができ、これまで見過ごされてきたような細部の描写にも着目することができます。線描や彩色状態を詳細に観察すると、その表現技法の意図や理由が浮かび上がってきます。このようにして得られた情報を作品研究に応用し、広く作品に対する理解を深めることにつなげていきたいと考えています。

「近代日本洋画の巨匠 黒田清輝展」を岩手県立美術館で開催

 黒田清輝の功績を記念し、あわせて地方文化の振興に資するために、1977(昭和52)年から年1回、開催館と共催で行なっている「近代日本洋画の巨匠 黒田清輝」展は、今年度、岩手県立美術館を会場として、7月17日(土)より8月29日(日)まで開催されました。重要文化財≪湖畔≫≪智・感・情≫をはじめ油彩画・デッサン等147点、写生帖、書簡などのほか、昨年度ご寄贈を受けた≪舟≫≪芍薬≫≪日清役二龍山砲台突撃図≫、二点の≪林政文肖像≫も出品され、初期から晩年までの黒田の画業を跡づける展観となりました。
 岩手県は、東京美術学校で黒田清輝に師事し、アカデミックな絵画教育を受けた後、西欧の新しい芸術運動に学んで日本近代絵画に新風をもたらした萬鉄五郎や松本竣介の出身地です。岩手県立美術館はそれらの作家の作品を常設展で紹介しており、黒田展と合わせて、日本近代絵画の流れを追えるよい機会となりました。同展は11942名の入場者を得て、盛会のうちに終了しました。

企画情報部研究会

村越向栄筆「十二ヶ月花卉図屏風 右隻」
足立区郷土博物館蔵
村越向栄筆「十二ヶ月花卉図屏風 左隻」
足立区郷土博物館蔵

 2010年度4回企画情報部研究会を7月28日に行いました。発表者と題目は下記の通りです。
・江村知子(企画情報部研究員)
「鈴木其一の草花図について―ポートランド美術館所蔵・鈴木其一筆草花図小襖を中心に」
・真田尊光氏(足立区立郷土博物館学芸員)
「千住と江戸琳派]
 江村は、上記作品の表現技法に、其一の光琳画学習が密接に関与していることを作品と文献の双方から検証し、未だ不明な点の多い其一のパトロン層にも考察を加えました。真田氏には、2011年3月に足立区郷土博物館で開催予定の企画展「江戸琳派」展にちなんで、其一の門弟筋にあたり、千住で活躍した村越其栄・向栄父子の活動と作品について発表していただきました。コメンテーターとして、玉蟲敏子先生(武蔵野美術大学教授)をお招きし、研究討議を行いました。今回の発表および討議で得られたことは、今後、論文や展覧会のかたちで成果公開し、さらなる研究交流・推進に努めて参ります。

佐藤多持氏所蔵資料の受贈

佐藤多持氏と第22回知求会展出品作
《水芭蕉曼陀羅》(1978年)

 企画情報部では、2004年に逝去された日本画家、佐藤多持氏の所蔵していた資料の一部を、多持氏の奥様である美喜子氏よりご寄贈いただきました。多持氏は墨線による大胆な円弧で水芭蕉を抽象的に表現した「水芭蕉曼陀羅」のシリーズにより、戦後日本画の新生面を拓きました。この度いただいた資料は、多持氏所蔵の資料のうち美術雑誌、および多持氏が仲間と昭和32年に結成したグループ「知求会」をはじめとする諸団体の目録類等です。ひとまず研究所への搬入を終え、今後は整理作業を経て、戦後日本美術の貴重な資料として閲覧・活用できるよう努めて参りたいと思います。

東京国立博物館における在外日本古美術品保存修復協力事業の成果展示

展示の樣子

 在外日本古美術品保存修復協力事業の成果の公開を兼ねて、5月11日(火)から23日(日)まで、東京国立博物館の平成館1階企画展示室において「特集陳列 海外の日本美術品の修復」と題し、日本へ里帰りさせて、国内の工房において平成21年度末に修復が完了した作品の展示公開を行いました。
 今回、展示を行った作品は、アシュモリアン美術館(イギリス)所蔵の歌舞放下芸観覧図屏風、ケルン東洋美術館(ドイツ)所蔵の和歌浦蒔絵将棋盤、市立ヴェルケ・メディジチ博物館(チェコ)所蔵の近江八景蒔絵香棚の3件です。この展示は毎年この時期に東京国立博物館の平成館において行っています。この展示を続けてゆくことで、少しでも多くの人に当研究所の国際協力事業の一端を知っていただくことができればと考えています。

靉光「眼のある風景」光学調査

当研究所2階のおける画像展示風景

 東京国立近代美術館の協力を得て、1月18日に靉光(あい-みつ1907-1948)作の油彩画「眼のある風景」(1938年、102.0×193.5㎝)の光学調査をおこないました。この折には、フルカラー撮影と反射近赤外線撮影をおこないました。この2種類の画像は、現在、原寸大のパネルとして当研究所2階に展示しています。これにつづき、4月27日には、透過近赤外線撮影による調査を実施しました。作品が修復される折から、木枠を外した状態で、作品の裏面から光を透過させて、キャンバス面にもっとも近い、すなわち創作当初の画像を捉えることができました。この作品は、日本の近代美術のなかで、シュルレアリスム絵画受容における独自の表現が認められることから、高い評価を受けています。しかし、創作の過程やモチーフについては、いまだに議論がかさねられています。前回の反射近赤外線、今回の透過近赤外線撮影による画像をもとに、これから詳細に検討しなければなりません。しかし今回の画像をみるかぎり、少なくとも動物とも、植物ともつかない、不可思議なメタモルフォース(変態)をとげていくフォルムに、画家が抱いたイメージの深さとそのイメージをリアリティあるものとして視覚化しようとした模索の跡をみとめることができます。

「想-IMAGINE」東文研版の起ち上げに向けて

「想-IMAGINE」東文研版のブラウザ画面

 企画情報部では、今年度中に連想検索技術を用いた情報探索サービス「想-IMAGINE」東文研版を起ち上げるべく、現在、準備を進めています。
 「想-IMAGINE」とは国立情報学研究所が開発・公開している検索サービスです。それは図書館の蔵書データベース、書店や古書店の在庫データベース、文化財に関するデータベース、百科事典や観光情報など、さまざまなジャンルの情報源から、さらに深く知りたい情報を指定して、それを基点に連想を深めることを可能にしてくれるまったく新しい検索方法です。
 「想-IMAGINE」は国立美術館版、早稲田大学演劇博物館版など、機関独自のデータベースを組み合わせた検索サービスもすでに運用が始まっています。東文研版もこれらと同様に、「東文研・美術関係文献」「東文研・尾高コレクション」などを組み合わせた独自の検索サービスになります。「東文研・美術関係文献」では約40万件のデータを、「東文研・尾高コレクション」では日本人研究者として初めてアフガニスタン、バーミヤーンを調査した尾高鮮之助の撮影写真約2,000枚を公開します。
 文化財研究にとってはたいへん有益な情報が発信されると期待されます。

美術家・美術関係者資料データベース・画廊資料データベースの公開

 当研究所では、調査研究や資料整理のため、作家名や画廊名のリストを作成していますが、このたび、美術家・美術関係者資料データベース・画廊資料データベースとして「研究資料データベース検索システム」(http://archives.tobunken.go.jp/internet/index.html)上で公開を開始いたしました。前者は、19,947名の人名を収載し、その人の号名、出品歴、物故日などをご確認いただけます。後者は、 521件の画廊名を収載し、画廊史のタイトルや、展覧会の開催情報の有無などをご確認いただけます。
 また、当研究所では、美術家・美術関係者・画廊や、笹木繁男氏主宰現代美術資料センターよりご寄贈いただいております資料のうち、薄手のカタログ、画廊ニュース、DM、チラシ、新聞記事などを作家資料ファイル、画廊資料ファイルに分けて収めています。現在公開中のデータベースでは、資料ファイルの有無のみ表示していますが、資料の細目についても、順次公開していく予定です。なお資料の閲覧については「資料ファイルの利用について」をご覧ください。

文化財デジタルイメージギャラリーの新設

文化財デジタルイメージギャラリー

 2010年4月、当研究所のホームページに文化財デジタルイメージギャラリーを新設しました。
 現在、そのコンテンツには「赤外線の眼で見る《昔語り》」「菊花に覆われた未完の武者絵」「国宝彦根屏風の共同調査」が掲載されております。
 「赤外線の眼で見る《昔語り》」では、1945年の空襲によって焼失した黒田清輝筆《昔語り》に関し、わずかに残った油彩による下絵を対象に、近赤外線撮影などの調査を行った結果を公表しています。
 また「菊花に覆われた未完の武者絵」では、ポーラ美術館の協力を得て、同館が所蔵する黒田清輝作品3点(「野辺」、「菊」、「赤小豆の簸分」)に関する光学的調査の研究成果を公表しています。
 そして「国宝彦根屏風の共同調査」では2006年度から2007年度までの間、彦根屏風が修理されるのに伴い、彦根城博物館と東京文化財研究所が実施した共同研究調査の成果の一部をご紹介します。
 今後、「古写真 名古屋城本丸御殿」などが掲載される予定です。

村松画廊資料受贈と感謝状贈呈

川島良子氏に感謝状を贈呈する鈴木所長

 1960年代以降、我国の現代美術を牽引する作家たちの作品発表の場となった村松画廊の画廊主、川島良子氏は、2009年12月に閉郎するにあたり、展覧会記録写真を納めたアルバム等の資料を、当研究所にご寄贈くださいました。同画廊は、1913年に銀座に開店した村松時計店の画廊として1942年頃に始まり、1968年に川島氏に引き継がれました。その後、40年に及ぶ画廊活動の資料は、戦前から当所が収集、整理、公開してきた現代美術作家資料を補う貴重なものです。その篤志に対し当所では感謝状をお贈りすることとし、3月12日に所長より贈呈しました。受贈資料は、末永く保存し、活用・公開していく所存です。

『平等院鳳凰堂仏後壁調査資料目録―近赤外線画像編』の刊行

 平等院では、平成15年から20年までの間、鳳凰堂の平成大修理が行われ、阿弥陀如来坐像、および、その光背・台座等を境内の特設工房に遷されました。これを機に、平成16・17年に平等院のご理解とご協力のもとに、仏後壁前面画の詳細な光学調査を実施し、高精細デジタル撮影技術を駆使して詳細に壁画の現状を記録することができました。その成果報告として2月26日に『平等院鳳凰堂仏後壁調査資料目録―近赤外線画像編』を刊行いたしました。本書は昨年度刊行の『平等院鳳凰堂仏後壁調査資料目録―カラー画像編』に続くものです。周知の通り、平等院鳳凰堂の仏後壁前面に描かれた板絵は、普段、本尊・阿弥陀如来像の背後に位置するため、画面の全貌を詳細に把握することは容易なことではありません。本書はこれからの平等院鳳凰堂仏後壁前面画の研究のとどまらず、広く平安仏画の研究に大いに活用されることになるものと思われます。なお、来年度は『平等院鳳凰堂仏後壁調査資料目録―蛍光線画像編』の刊行を予定しています。

『“オリジナル”の行方―文化財を伝えるために』の刊行

『“オリジナル”の行方―文化財を伝えるために』表紙

 昨年度に東京文化財研究所は、第32回文化財の保存及び修復に関する国際研究集会「“オリジナル”の行方―文化財アーカイブ構築のために」を開催しましたが、まる一年の編集期間を経て、このたび、その報告書を刊行する運びとなりました。国内外の25名の研究者による発表と討論を収録した同書は、日本・東洋の美術を中心に西洋の美学や現代美術、無形文化財をも視野に入れ、“オリジナル”の姿を志向しつつ、いかに文化財を伝えるべきかを探る内容となっています。発表の各タイトルについては、企画情報部刊行物のページをご覧ください。
http://www.tobunken.go.jp/~joho/japanese/publication/book/report_sympo32th.html
 有名な北斎の《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》を左右反転させた表紙の作品は、同研究集会のPRイメージにも使わせていただいた現代美術家、福田美蘭氏によるものです。同書は『“オリジナル”の行方―文化財を伝えるために』のタイトルで、平凡社より市販されています。
http://www.heibonsha.co.jp/catalogue/exec/frame.cgi?page=newbooks.html

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