聖ミカエル教会(ケシュリク修道院)での保存修復共同研究(その3)

聖ミカエル教会での作業風景
クリーニング処置前の様子
クリーニング処置後の様子

 文化遺産国際協力センターでは、トルコ共和国カッパドキア地方に所在する聖ミカエル教会(ケシュリク修道院)を対象として、トルコ国内外の研究機関や大学と連携し、壁画の保存修復に関する共同研究事業を実施しています。

 令和8(2026)年6月26日から7月19日にかけて現地調査を実施し、これまでの実地調査に基づいて策定した保存修復計画に従い、アプシスおよび身廊を対象に、壁画表面のクリーニング、欠損部の充填、彩色補整を実施しました。
 特に身廊では、長年にわたって使用されてきた蝋燭やオイルランプ、香に由来する煤、油脂成分および樹脂性堆積物が厚く付着しており、事前の目視調査や科学的調査では十分に把握できなかった新たな課題が明らかとなりました。試験クリーニングを繰り返し実施して検討を重ね、パック法を用いた安全かつ効果的なクリーニング方法を確立した結果、壁画本来の色彩や繊細な表現が蘇るとともに、約200年もの間、堆積物に覆われて人の目に触れることのなかった図像や銘文が姿を現しました。これにより、壁画の本来の姿が再認識されるとともに、その図像的・歴史的価値の再評価にもつながる重要な成果を挙げることができました。

 修復作業と並行して、劣化原因の調査や保存処置の効果検証を継続するとともに、技術移転と人材育成を推進してきました。これまで3年間にわたる共同研究の成果として、採用した修復材料および処置方法の有効性と安全性が確認され、この地域の環境や壁画の状態に適した保存修復方法の確立に向けた基盤が構築されました。現地専門家の保存修復技術の向上が認められるとともに、壁画の劣化要因や保存処置に対する理解が深まり、今後の保存活動を担う人材育成の面でも成果が得られています。

 本事業は、文化遺産の保存修復にとどまらず、日本とトルコの研究機関による国際共同研究の深化や人的交流の促進にも大きく寄与しています。また、カッパドキア地方を管轄するネヴシェヒル県知事から称賛の言葉をいただくなど、地域行政からも大きな期待が寄せられています。さらに、今回の調査期間中には、300人を超える人々が保存修復作業を見学に訪れるなど、地域社会からも高い関心が寄せられました。今後は、残された彩色補整や塩類劣化への対応を進めるとともに、継続的なモニタリングを実施し、保存処置の長期的な有効性を検証していく予定です。

(202607 / 前川佳文)