近世絵師と文芸的実践の考察―令和8年度第2回文化財情報資料部研究会の開催―

研究会の様子

 令和8(2026)年6月5日に開催された令和8年度第2回文化財情報資料部研究会では、静岡県富士山世界遺産センターの松島仁氏をコメンテーターに招き、日本東洋美術史研究室長の小野真由美が「歌人としての狩野常信―詠歌・鑑定・絵画をめぐって―」と題した研究発表を行いました。
 江戸幕府の御用絵師として知られる狩野常信(1636~1713)は、これまで主に狩野派を代表する絵師として評価されてきました。本発表では、そうした従来の理解に加え、常信が和歌を詠み、公家や儒学者らと交流する「歌人」としての側面に着目し、その画業を新たな視点から考察しました。
 歌会記録や『國史館日録』などの史料をもとに検討した結果、常信は若い頃から和歌を中心とする知的・文化的な交流の場に参加し、公家や学者、大名との交流を深めながら、和歌・古典・絵画に関する幅広い教養を身につけていたことが明らかになりました。また、こうした知識は、古画鑑定や画題の理解にも深く関わり、絵師としての活動を支える重要な基盤となっていたことを示しました。
 本発表では、木挽町狩野家の発展は制度的な地位の向上だけでなく、常信自身が築いた知的ネットワークと文化的実践によって支えられていたことを指摘しました。絵師を単なる制作者ではなく、和歌や古典、鑑定を横断する知識人として捉え直すことで、江戸時代における文化形成の新たな側面を提示することができました。
 当日は多くの研究者から貴重なご意見・ご質問をいただき、今後の研究をさらに発展させるうえで有意義な機会となりました。いただいたご助言を踏まえ、当研究室では引き続き狩野派研究と近世日本における文化的ネットワークの解明に取り組んでまいります。

(202606 / 小野真由美)