旧機那サフラン酒製造本舗土蔵鏝絵の保存修復に係る調査研究(その3)

機那サフラン酒製造本舗鏝絵蔵全景
良好な状態が確認された鏝絵

 東京文化財研究所では、「スタッコ装飾及び塑像に関する研究調査」の一環として、新潟県長岡市に所在する旧機那サフラン酒製造本舗土蔵鏝絵の保存修復に関する調査研究を継続して行っています。令和6(2024)年度までに、鏝絵を構成する漆喰に対する無機修復材料を用いた補強処置および補彩技法の検討を進め、その成果をもとに保存修復を実施しました。
 これを受け、令和8(2026)年4月20日から23日にかけて、処置後の保存状態を確認するため現地調査を行いました。本鏝絵は、日本海側特有の高温多湿な夏季環境に加え、冬季には積雪や凍結の影響を強く受ける、過酷な条件下に置かれています。今回の調査では、補強処置を施した箇所を中心に詳細な観察を行いましたが、鏝絵自体に大きな損傷や新たな剥離・剥落は認められず、無機修復材料による補強が良好な状態が維持されていることを確認しました。
 本鏝絵に対しては、従来も損傷に応じた修理が繰り返し行われてきました。しかし、その多くは応急的な補修にとどまり、とりわけ合成樹脂系材料を用いた処置では、その後の経年劣化によって硬化や変色を生じて鏝絵自体に負担を与える結果に至った箇所も確認されました。これに対し、本研究では、文化財としての価値を長期的に守り伝える「保存修復」という理念に基づき、地域特有の気候環境や材料特性を考慮した恒久的処置方法の確立を目指しました。特に、耐久性と安定性に優れた無機修復材料の使用は、国内の鏝絵保存修復においては初めての本格的導入事例であり、今回の経過観察によって、その有効性を示す重要な知見が得られました。
 今後も継続的に経過観察を行いながら、さらに検証を重ねていく予定です。本研究の成果が、国内各地に残る鏝絵文化財の保存修復に向けて、新たな指針の一つとなることを期待しています。

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