研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


徳川美術館との共同研究調査パネル展示

「本多平八郎姿絵屏風」パネル展示風景
「歌舞伎図巻」パネル展示風景

 企画情報部では、徳川美術館との共同研究として、「本多平八郎姿絵屏風」などの近世風俗画の調査を行っています。今年2010年は、同館の開館75周年にあたり、特別展「尾張徳川家の名宝」(10月2日~11月7日)が開催されています。この機会に合わせて、9月28日から調査研究成果の一環として「本多平八郎姿絵屏風」と「歌舞伎図巻」(ともに重要文化財)の拡大画像パネルを展示しています。「本多平八郎姿絵屏風」は、縦72.2cmの比較的小振りの二曲屏風ですが、本多平八郎を江戸期の将軍・大名家クラスの男性の遺骨から推定した平均身長157cm程度に合わせて、約3.5倍で出力しました。右隻も同倍率にしてみると、中心的人物である葵紋小袖の女性が、同様に将軍・大名家の正室・側室の女性の平均身長146cm程度に合致し、実際の男女の体格差が身体描写において正確に反映されていることがわかります。「歌舞伎図巻」は上下2巻、絵6段からなる、縦36.7cmの絵巻物ですが、こちらは実際の大きさの2.5倍程度で出力しました。繊細なグラデーションが施された彩色表現、緻密に描き分けられた質感描写を手に取るように確認することができ、これまで見過ごされてきたような細部の描写にも着目することができます。線描や彩色状態を詳細に観察すると、その表現技法の意図や理由が浮かび上がってきます。このようにして得られた情報を作品研究に応用し、広く作品に対する理解を深めることにつなげていきたいと考えています。

宝生流:今井泰男師の謡曲録音 100曲達成

 無形文化遺産部では、2005年度より宝生流の最長老今井泰男師の番謡の記録作成をおこなっていますが、この9月でそれが100曲に達成しました。宝生流のレパートリーは210番ありますが、そのうちの主要な曲目の記録を作成したことになります。能としては上演されず謡だけ伝承されている最奥の秘曲「檜垣」が記念すべき100曲目でしたが、年老いて零落したかつての美しい白拍子(舞人)が過去の罪業を僧の前で懺悔する内容を、今年90歳になられる今井氏は静かに淡々と謡われました。昭和後半の宝生流を代表するおひとりの記録を、まとめて残した意味は大きいと言えるでしょう。この録音は、このあとももう少し続く予定です。
(無形文化遺産部・高桑いづみ)

国際研修「紙の保存と修復」の開催

実習

 国際研修「紙の保存と修復」を8月30日~9月17日まで行いました。今回は世界中の文化財関係者およそ80名の応募者がありましたが、アイルランド、オーストラリア、マレーシアなどからの参加者(10名)を選抜しました。この研修では、材料学から書誌学まで様々な観点からの講義を行いました。同時に実習では、欠損部の補填から、裏打、軸付けなどを行い巻子を仕上げ、さらに和綴じ冊子の作製も行いました。見学では、修復にも使用される手すき紙の産地として美濃を訪れ、また伝統的な表装工房および京都国立博物館文化財保存修理所などの修復現場を訪問しました。伝えられた技術や知識は海外で所蔵されている日本の紙文化財の保存修復や活用の促進につながり、さらには海外の作品の保存修理にも応用されることが期待されます。

所沢飛行場における、日本航空史の黎明期の写真の公開

日本陸軍 会式一号飛行機(1911年)

 保存修復科学センターでは、2009年1月に所沢の喜多川方暢氏より寄贈を受けた、所沢飛行場における日本の航空の黎明期のファルマン他の飛行機関連の写真を東京文化財研究所のホームページ上にて公開を始めました。これらの写真は喜多川方暢氏の父君である故喜多川秀男氏が主に所沢飛行場にて撮影した写真であり記録メディアはガラス乾板が主な物です。このガラス乾板の保存をすると供に、デジタル化した写真を日本航空100年の記念すべき年に公開を始められたのはひとえに喜多川方暢氏及び関係各位の協力の賜物であると思っています。今回公開した写真の中には、日本で初めて飛んだ航空機を始めとして、愛国号等、数多くの貴重な写真が含まれており、研究者の方々、あるいは、興味をお持ちの方々にとって非常に貴重な資料になる事は間違い有りません。今後とも、保存修復科学センターでは、このような貴重な資料を公開すべく努力していく所存です。

大エジプト博物館保存修復センタープロジェクト 招聘研修

東文研内における保存科学機器分析研修(日本電子株式会社による最新ハンドヘルド蛍光X線分析計の研修)
カビ相談センターにおけるIPM研修(防カビ試験の研修)

 文化遺産国際協力センターでは、国際協力機構(JICA)が行う大エジプト博物館保存修復センター技術支援プロジェクトへの協力を続けています。
 9月14日から10月7日(一部の研修は9月24日)までの日程で、大エジプト博物館保存修復センターに所属するエジプト人保存修復専門家6名を日本へ招聘し、稼働し始めた現地のセンター内の現状と問題に対応すべく、3つの研修を並行して実施しました。
 「保存修復マネジメント」研修(9月24日まで)では、大エジプト博物館保存修復センター館長代理のオサマ氏がセンター運営管理の向上のために、九州国立博物館、国立民族学博物館、奈文研および正倉院事務所の視察や管理責任者との議論を行いました。
 「保存科学機器分析」研修では、保存科学者3名が九州国立博物館や国立歴史民俗博物館および東文研での講義と実習を通して、保存修復における機器を利用した分析の手法、目的に応じた機器の選択、保存修復への応用に関する知識と技術を学びました。
 また、「IPM(微生物)」研修では微生物ラボに所属するエジプト人専門家2名が、NPO法人カビ相談センターに加え、国立医薬品食品衛生研究所と大阪府立公衆衛生研究所で、カビやバクテリアの培養、分離、同定などを行いました。
 保存科学機器操作や保存修復技術の習得だけでなく、保存修復の各分野が連携、補完して仕事を行えるよう、今後とも継続的に研修を行う予定です。

アジャンター壁画の保存修復に関する調査研究事業~第4次ミッション報告

アジャンター第2窟における高精細写真撮影
アジャンター第9窟における高精細写真撮影

 東京文化財研究所とインド考古局は、文化庁委託「文化遺産国際協力拠点交流事業」および運営費交付金「西アジア諸国等文化遺産保存修復協力事業」の枠組みのもと、アジャンター壁画の保存修復に関する共同研究を行い、保存修復に関する知識の共有と技術交換を目指しています。
 アジャンター壁画は、基岩の亀裂からの浸水や、生物被害、人為的損傷に加え、過去の修復に起因する色調変化や彩色層の劣化といった多くの問題を抱えています。このような問題に対処するためには、膨大な量の壁画の状態を詳細に把握・分析することが必要ですが、そのための効果的なドキュメンテーション手法は未だ確立されていないのが現状です。
 そこで昨年度より、アジャンター石窟では初の試みとして、高画素デジタルカメラを使用して壁画の状態を高精細写真で記録する作業を開始しています。今回の第4次ミッション(平成22年9月8日~10月2日)では、第2窟および第9窟の壁画を対象に、高精細写真記録および色彩計測をインド人専門家と共同で行いました。得られたデータは今後、インド考古局と協力しながら、適切な壁画保存修復方法の確立にむけた検討の基礎データとして活用していきます。

8月施設見学

業務内容の説明(8月5日)

 香港特別行政区政府・立法議会 内政委員ほか15名
 8月5日に、日本における文化・芸術振興の手法を学ぶために来訪。亀井所長への表敬訪問後、宮田無形文化遺産部長から同部の業務内容について説明及び質疑応答を行いました。

「近代日本洋画の巨匠 黒田清輝展」を岩手県立美術館で開催

 黒田清輝の功績を記念し、あわせて地方文化の振興に資するために、1977(昭和52)年から年1回、開催館と共催で行なっている「近代日本洋画の巨匠 黒田清輝」展は、今年度、岩手県立美術館を会場として、7月17日(土)より8月29日(日)まで開催されました。重要文化財≪湖畔≫≪智・感・情≫をはじめ油彩画・デッサン等147点、写生帖、書簡などのほか、昨年度ご寄贈を受けた≪舟≫≪芍薬≫≪日清役二龍山砲台突撃図≫、二点の≪林政文肖像≫も出品され、初期から晩年までの黒田の画業を跡づける展観となりました。
 岩手県は、東京美術学校で黒田清輝に師事し、アカデミックな絵画教育を受けた後、西欧の新しい芸術運動に学んで日本近代絵画に新風をもたらした萬鉄五郎や松本竣介の出身地です。岩手県立美術館はそれらの作家の作品を常設展で紹介しており、黒田展と合わせて、日本近代絵画の流れを追えるよい機会となりました。同展は11942名の入場者を得て、盛会のうちに終了しました。

都久夫須麻神社本殿における蒔絵および漆塗装の劣化に関する調査

蒔絵部分における劣化状態の拡大観察

 保存修復科学センターでは、都久夫須麻神社本殿における蒔絵および漆塗装の劣化に関する調査を行っています。都久夫須麻神社本殿は、滋賀県の琵琶湖に浮かぶ竹生島に所在し、伏見城の御殿の一部を移築したとされる桃山文化を代表する建造物の一つです。この本殿内部には、七五桐紋や菊紋、花鳥文様などを蒔絵技法で加飾した漆塗装の柱や長押、外陣壁面や扉には極彩色を施した木彫などが配置されていることでも有名ですが、前回の修理からすでに75年ほどが経過したため屋根や塗装などに傷みが目立つようになってきました。さらに京都の高台寺霊屋と双壁をなす建造物内部の華麗な蒔絵技法の加飾の劣化が著しくなってきたことが関係者の間で問題となってきました。そこで保存修復科学センターでは、現在、滋賀県教育委員会と都久夫須麻神社によって進められている修理工事に協力して、劣化現象の原因を追求するための基礎調査と、琵琶湖の湖上という特殊な環境の中でこの劣化を食い止めるための検討を行いました(写真)。この成果を、都久夫須麻神社本殿の貴重な蒔絵および漆塗装の劣化を少しでもよりよい状態で保守管理するうえで役立てたいと考えています。

2010年度シルクロード人材育成プログラム開講

清水真一文化遺産国際協力センター長による日本の文化財保護制度についての授業

 2006年から東京文化財研究所と中国文化遺産研究院が共同で実施しているシルクロード沿線文化財保存修復技術者育成プログラムは、今年が最終年度となり、8月16日、北京市の中国文化遺産研究院において、最後の壁画保存修復コースと染織品保存修復コースがスタートしました。シルクロード沿線に位置する新疆・甘粛・青海・寧夏・陝西・河南の各省自治区から、壁画コース14名、染織品コース12名の研修生が参加して、12月17日までの4カ月間、理論講座と修復実習講座を学ぶことになります。日本からは両コース合わせて12名の講師が参加するほか、最終年度は両コースに韓国からの講師を招くことになっています。これまで4年間に実施した6つのコース同様に大きな成果があがるものと期待されます。

拠点交流事業モンゴル:アマルバヤスガラント寺院保存への協力

背後に仏塔や大仏が新たに建立された伽藍の全景
ワークショップの模様
建造物保存調査の模様

 6月末から7月初旬、および8月下旬の2次にわたって、北部セレンゲ県所在のチベット仏教寺院、アマルバヤスガラントでのワークショップおよび保存調査をモンゴル教育文化科学省と共同で実施しました。
 今年度ワークショップのテーマは、文化遺産としての保存管理に万全を図るための計画づくりで、当面は保存区域の設定を目標としました。当寺院での宗教活動再開から20年の節目にあたる本年は、寺院関連施設の新築・整備が加速し、遺産価値の大きな要素である歴史的景観が急激に変化しようとしています。また、旧伽藍建物跡などの地中遺構の保存への影響も懸念される状況にあります。このため、県や郡、地元住民代表とも実地踏査や討議を重ね、信仰の対象となっている周囲の山々や伽藍建設時の材料生産遺跡なども含む広範囲を文化遺産法に基づく保存区域とする方向で基本的合意に達しました。
 一方、多数の木造建造物で構成されている伽藍本体については、経年や不十分な維持管理のために劣化・破損が進行しており、人命の安全を脅かしかねないような状況も一部で発生し始めています。このため、8月ミッションでは上記ワークショップと並行して、モンゴル人若手技術者の養成研修を兼ねた、全建物の保存状況に関する基礎調査を実施しました。昨年度の実習にも参加した4名の研修生とともに行った調査の結果はレポートとしてモンゴル政府側に提出する予定で、今後の応急措置や本格的修理計画立案に活かされることが期待されます。

拠点交流事業モンゴル:ヘンティ県所在の石質文化財保存修復に関する研修

赤外線温度計による岩石表面温度の計測実習
(セルベン・ハールガ遺跡)
過去の発掘坑を利用した地層はぎ取りの実習
(アラシャーン・ハダ遺跡)

 8月下旬に、文化庁委託文化遺産国際協力拠点交流事業の一環として、モンゴル文化遺産センターの専門家を対象とする石碑・岩画の保存に関する現地ワークショップを、奈良文化財研究所の専門家とともに実施しました。昨年に引き続き、ヘンティ県のセルベン・ハールガおよびアラシャーン・ハダで行ったワークショップでは、石質文化財の保存方法検討のために必要な、石の材質や劣化状態、周辺環境に関する一連の調査を行い、またモンゴル側の専門家と共同で作業することを通じてその具体的方法を伝えていきました。これと併せて、モンゴル側から要望のあった地層はぎ取りの実習も行いましたが、これは同国では初めてのことだそうです。
 今後も引き続き、保存処理実験やその評価方法に関する研修を日本やモンゴルで実施するとともに、国内外の機関と連携を図ることによって、対象遺跡に関する理解を深め、より適切な保護手法について検討していく予定です。

7月施設見学(1)

実演記録室での説明(7月21日)

 独立行政法人国立文化財機構新任職員36名
 7月21日及び22日に、独立行政法人国立文化財機構新任職員研修会の一環で、各日17名及び19名が来訪。4階保存修復科学センター化学実験室、2階企画情報部資料閲覧室、地階保存修復科学センターX線撮影室及び無形文化遺産部実演記録室を見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。

7月施設見学(2)

資料閲覧室での説明(7月26日)

 文化女子大学服飾文化コース服飾史専攻学部生ほか10名
 7月26日に、美術作品等の科学的研究の現状を学ぶために来訪。4階保存修復科学センター化学実験室及び文化遺産国際協力センター、2階企画情報部資料閲覧室、地階無形文化遺産部実演記録室を見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。

企画情報部研究会

村越向栄筆「十二ヶ月花卉図屏風 右隻」
足立区郷土博物館蔵
村越向栄筆「十二ヶ月花卉図屏風 左隻」
足立区郷土博物館蔵

 2010年度4回企画情報部研究会を7月28日に行いました。発表者と題目は下記の通りです。
・江村知子(企画情報部研究員)
「鈴木其一の草花図について―ポートランド美術館所蔵・鈴木其一筆草花図小襖を中心に」
・真田尊光氏(足立区立郷土博物館学芸員)
「千住と江戸琳派]
 江村は、上記作品の表現技法に、其一の光琳画学習が密接に関与していることを作品と文献の双方から検証し、未だ不明な点の多い其一のパトロン層にも考察を加えました。真田氏には、2011年3月に足立区郷土博物館で開催予定の企画展「江戸琳派」展にちなんで、其一の門弟筋にあたり、千住で活躍した村越其栄・向栄父子の活動と作品について発表していただきました。コメンテーターとして、玉蟲敏子先生(武蔵野美術大学教授)をお招きし、研究討議を行いました。今回の発表および討議で得られたことは、今後、論文や展覧会のかたちで成果公開し、さらなる研究交流・推進に努めて参ります。

女子美アートミュージアムにおける調査

女子美アートミュージアムにおける調査風景

 服飾文化共同研究拠点における共同研究の一環で、平成22年7月12日に女子美アートミュージアムにおいて染織品調査を行いました。この共同研究は平成20年11月より開始され、文化服飾博物館に所蔵される三井家伝来小袖服飾類とそれに付随する円山派衣装下絵との関係を服飾文化史的視点から明らかにすることを目的としています。今回の調査は、女子美アートミュージアムに所蔵されている旧鐘紡株式会社所蔵の小袖の中から本研究テーマである三井家伝来小袖と類似するものを中心として、技法・意匠構成、仕立てを含めた詳細な調査を行いました。これらの調査で得られた知見は来年度の報告書刊行に向けて更なる精査を進めていきます。

博物館・美術館等保存担当学芸員研修の開催

ケーススタディの様子

 27回目となる表題の研修を、7月12日より2週間開催し、全国から32名の学芸員や文化財行政の担当者が参加しました。本研修では、あらゆる文化財資料を対象に、保存環境や劣化、修復などに関する基礎的な知識や技術を、講義と実習を通して学んでいただき、現場での保存に役立てていただくことを目的としています。
 保存環境実習を実地で応用する「ケーススタディ」は袖ヶ浦市郷土博物館をお借りして行いました。参加者が8つのグループに分かれて、それぞれが設定した温湿度や照度、防災設備、屋外文化財の保存環境などの調査を行い、次の日にその結果を発表し、質疑応答を行いました。
 自然科学的見地からの資料保存がますます重要視されていくことは、平成24年度から、大学での学芸員課程において「博物館資料保存論」が必須になることからもわかります。本研修も時代の動向を見据えながら、より充実したものとなるよう、カリキュラムも内容も精査していきたいと考えております。

ロビー展示「国宝高松塚古墳壁画の劣化原因調査」

ロビー展示「国宝高松塚古墳壁画の劣化原因調査」

 現在、研究所1階のエントランスホールでは、表題のパネル展示を行っています。これは、昭和47年の発見以来、現地保存が行われていた高松塚古墳壁画が、平成19年に解体されるきっかけとなった図像の劣化原因を、平成20年7月に設置された「高松塚古墳壁画劣化原因調査検討会」のもとで、自然科学的かつ多面的な視点から調査を実施した結果の概略です。調査結果の全体は、「高松塚古墳壁画劣化原因調査報告書」として平成22年3月24日に文化庁より公表されましたが、この展示では、そのうち材料、生物、保存環境調査に関して、図版を多用しながら詳しく解説しています。多くの方にご覧いただければ幸いです。

第24回国際文化財保存修復研究会の開催

総合討議風景

 2010年7月8日に、71名の参加を得て、第24回国際文化財保存修復研究会「覆屋保存を考える」を開催しました。遺跡の保存を目的として覆屋がかけられることがありますが、そのメリット・デメリットを理解するためには、建設から既にある程度の年数が経過した覆屋について、その後の状況を知る必要があります。こうした理由から、タイ芸術局のアナト・バムルンウォンサ氏による「プラーチンブリー県の二つ一組の仏足跡の覆屋:その問題と解決への指針」、福岡県文化財保護課の入佐友一郎氏による「福岡県における覆屋の諸形態と現状」、韓国国立文化財研究所のシン・ウンジョン氏による「韓国の石造文化財における覆屋の現状と事例研究」という3件の発表をお願いし、その後、総合討議が行われました。遺跡を保存するためには、遺跡の周辺環境まで含めた条件を理解した上で、覆屋の仕様を適切に考えていく必要があるのはもちろん、覆屋建設後も継続してモニタリングを行うことが重要であることが認識されました。

大エジプト博物館保存修復センター 人材育成研修の開催

様々な素材や形状の遺物梱包実習
重量物の移送実習

 文化遺産国際協力センターでは、国際協力機構(JICA)が行う大エジプト博物館保存修復センターの設立と稼働に向けた技術支援プロジェクトへの協力を続けています。
 その一環として、7月3日から19日の日程で、JICAが日本通運社員から4名の講師を現地へ派遣して「移送梱包研修」を保存修復センター内で開催しました。昨年10月にエジプト人保存修復専門家7名を日本に招聘し、東文研内で1週間の研修を行いましたので、今回の研修は2回目となります。
 できる限り現地調達可能な資材や教材を用い、保存修復センター内に設置された機材に加え、日本から輸送した最新の機材を使用して実習を行いました。また、研修で梱包する対象物は、小さな物から200kg前後の重量物までを扱い、レプリカだけでなく本物の遺物も使用しました。研修内容としては、外部収蔵庫や博物館から保存修復センターへ移送するための厳重な梱包、移送のためのトラックへの積み下ろし、センター内のラボ間で移動するための簡易梱包と移動の練習も行いました。前回同様、技術移転だけでなく、遺物を愛しむ心を持って仕事にあたる日本の精神を伝えることにも意を払いました。今回の研修で技術と心を学び、実際の移送梱包作業でも丁寧かつ迅速な作業が行われることを望みます。
 今後も、センターの本格的稼働に向けて、多様な専門家各個人のレベルにあわせた効果的な人材育成への協力を進めていきます。

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