アルメニア共和国における無形文化遺産の調査

家畜や子どもに掛けて「悪魔の眼」から守る木製お守り
様々な形、大きさのスプーン

 2012年1月、アルメニア共和国において無形の文化に関わる調査を行ないました。文化遺産国際協力センターでは、これまでもコーカサスや西アジア諸国において、主に有形の文化遺産に関わる国際協力事業を行なってきましたが、今回は無形文化遺産部の今石がこれらの地域における無形の文化遺産に関する基礎調査を行ない、今後、無形の文化に関わる国際的な研究交流や協力の可能性について探りました。
  滞在中にはアルメニア歴史博物館や国立民族博物館等を訪問し資料調査を行なうと共に、民族学研究者とも懇談し、研究や文化伝承の現状について調査しました。アルメニアでは旧ソ連時代に多くの“伝統的文化”が失われたと認識されていますが、その断片は今日まで伝承されていたり体験として記憶されており、特にキリスト教と融合・併存しながら生き延びてきた土着的な信仰や慣習には興味深いものがあります。食に関する風俗・慣習や民俗技術はそのひとつで、例えば塩には、関連する様々な慣習や、特徴的な塩入れ容器(女性か鳥を象る)が伝承されており、その文化的重要性が窺われます。また食器のひとつである木製スプーンは、日本における箸と同じく個人所有となっており、家族の一人一人を象徴するほか、ここに家の精霊が宿るという考え方もあったと報告されています。主婦権の象徴ともなり、その他、様々な呪術的な用途にも使われたことは、日本におけるシャモジや箸とも共通します。本格的な調査はこれからですが、現地の研究者とも連携を取りながら、どういった形で調査研究や研究交流を進めていくことが可能なのか、これからも模索していく必要があります。

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