研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


キトラ古墳の漆喰集中取り外し作業終了

側壁における取り外し作業
取り外した漆喰片

 保存修復科学センターでは文化庁からの受託事業「特別史跡キトラ古墳保存対策等調査業務」の一環としてキトラ古墳壁画の取外しを行っています。5月に行った今年度第一回の集中取り外しをふまえ、秋の集中取り外しは10月19日〜11月6日までと11月16日〜12月4日の日程で、間に1週間をはさみ、3週間ずつ二度に分けて行いました。前回よりも長期にわたったものの、3週間ずつ行ったことで、取り外しを効率よく進捗させることができました。今回の作業で天井のすべての漆喰が取り外され、2年ぶりに周囲の側壁の漆喰取り外し作業を再開することができました。今後は、紫外線照射による微生物の制御を行いつつ、定期的に点検を行い、来年度に再び集中取り外しを行う予定です。

講演会「イラクの文化財保護の現状」

講演を行うアミーラ・イダーン・アル=ダハブ女史

 12月2日、東京文化財研究所地下一階会議室において、イラク国立博物館事務局長アミーラ・イダーン・アル=ダハブ女史による講演会を開催しました。 2003年、イラク戦争終戦後の混乱のさなか、イラク国立博物館が略奪の対象となったというニュースは、世界に衝撃を与えました。その後、日本やイタリアをはじめとする国際社会の支援を受け、イラク国立博物館は2009年2月にようやく再開されました。
 今回、アミーラ女史は、外務省の「21世紀パートナーシップ促進招聘」事業により来日し、この機会を利用して講演会を開催することができました。アミーラ女史は、多くの写真を示しながら、博物館の略奪から再開にいたる長い道程とその苦労について報告しました。また、文化遺産国際協力センターがユネスコ文化遺産保存日本信託基金および運営費交付金で行っているイラク人の保存修復家の人材育成事業にも触れ、イラクの文化遺産の復興には、今後とも日本からの支援が必要不可欠であることを繰り返し訴えました。

アジャンター壁画の保存修復に関する調査研究事業~第3次ミッション報告

第2窟における三次元測量
コウモリの排せつ物を起因とする付着物の洗浄作業

 東京文化財研究所とインド考古局は、文化庁委託「文化遺産国際協力拠点交流事業」および運営費交付金「西アジア諸国等文化遺産保存修復協力事業」の枠組みにおいて、アジャンター壁画の保存にむけた共同研究を行っています。
 平成21年11月~12月に派遣された第3次ミッションでは、コウモリの排せつ物による害、過去に用いられたニスの黄化による色調変化や彩色層の亀裂、浮き上がりといった問題の解決に取り組み、インド考古局の専門家とともに壁画の試験的な洗浄を行いました。
 また、壁画の保存にむけたデジタルドキュメンテーションとして、同志社大学と共同研究契約を結び、第2窟、第9窟の現状図面作成を目的とした三次元測量を共同で行いました。
 このような保存修復・計測作業をインド人専門家と共同で行うことで、文化財保存に関する知識の共有、技術交換を行い、人材育成と技術移転を目指しています。

文化遺産国際協力コンソーシアム シンポジウム「観光は文化遺産を救えるか―国際協力の新たな展開」開催

会場
総合討議の様子

 文化庁委託事業文化遺産国際協力コンソーシアム事業の一環として、12月14日東京国立博物館平成館大講堂において、シンポジウム「観光は文化遺産を救えるか―国際協力の新たな展開」を開催いたしました。基調講演としてユネスコによる世界遺産保護と観光開発の両立への取り組みについての講演があり、また、2名の専門家から文化遺産と観光を捉えるうえでのリビングヘリテージという視点の重要性を指摘した報告(西山徳明氏)と、地域社会の力で文化遺産の保護と博物館建設が進められたペルーの事例について(関雄二氏)の報告が続きました。国際協力機構からは観光開発への取り組みをヨルダンでの事例を含めて報告があり、さらに、テレビ番組のレポーターとして世界各地を訪れる浜島直子さんからは、文化遺産を楽しむ観光の方法が提案されました。
 専門の方々以外にも多く出席いただき、会場からは質問も寄せられ、文化遺産保護と対立しない観光に注目が集まるなか、国際協力を通してどのように地域社会に貢献するのか、また、観光を活かした文化遺産保護の具体的方法と課題などが議論されました。

シルクロード人材育成プログラム博物館技術研修コース

紙製収納容器制作実習を終えて
(木部徹講師、島田要講師とともに)
展示照明についての授業(木下史青講師)

 平成18年度から5カ年の計画で進められているシルクロード人材育成プログラムは、第4年目となり、春から夏に実施した古建築保存修復研修コースに引き続き、今年度の二つめのプログラムとして、9月14日から12月11日までの3カ月間の日程で博物館技術研修コースを実施しました。中国のシルクロード沿線に位置する新疆、甘粛、寧夏、陝西、河南の各省・自治区から集まった計14名の研修生は、2カ月間北京での理論コースに参加した後、11月中旬から1カ月間、寧夏回族自治区銀川の寧夏博物館で、実践コースに参加しました。期間中、日本からは当研究所、東京、九州の両国立博物館、大学、さらには文化財保護材料制作の工房から合計15名の講師が参加し、中国側講師とともに授業を行いました。
 寧夏博物館での実習授業は、収蔵・展示環境の測定と分析、実際の博物館の収蔵品と展示室の情況をもとにしたテーマ展示設計案作成を行いました。研修生たちは、それまで日中双方の講師による長時間の授業を通して膨大な量の理念や技術論を学んできましたが、この実習を通してそれを確実な知識として身につけることができたはずです。今回のような体系的で理論と実践の両方を具えた博物館学研修コースは、中国において初めて実現したものです。また、2007年に完成し現在の中国において設備面では最先端の内容をもつ寧夏博物館ですが、実際の日常の作業をどのように行うかということが未だ十分な状態になっていないというのが課題であり、今回の研修コースを受け入れたことにより、館員にとっても強い刺激になったとして、感謝をしていただくことができました。12月11日の修了式は、館員の皆さんが50名以上も参加するという盛大なものとなりました。
 シルクロード人材育成プログラムは来年度に染織品と壁画の保護修復研修コースを実施して終了となります。

「サムライの美術」展併催のシンポジウムに参加して

メトロポリタン美術館
シンポジウム会場の風景
「サムライの美術 ART OF THE SAMURAI-Japanese Arms and Armor,1156-1868」展会場入口
発表を行う鈴木規夫
The Scholars' Dayで研ぎの実演と解説を行う研師藤代興里・龍哉両氏 (父子)

 昨年の秋から正月にかけて、米国のメトロポリタン美術館(以下Met.)で開催された(2009.10.21~2010.1.10)「サムライの美術 ART OF THE SAMURAI-Japanese Arms and Armor,1156-1868」展には、日本の古代から近世にわたる武器・武具の名品が出陳され、米国内だけではなく国際的にも高い評価を得て、3ケ月の会期中約30万余の入場者が訪れたそうです。また、この展覧会には、東京文化財研究所の「在外日本古美術品保存修復協力事業」により修復された、Met.所蔵の刀剣類や兜・鞍・矢筒なども展示されました。このような日本の文化財の修復に関連して開催された「The Sunday at the Met」(2009.11.8)と称するシンポジウムでは、展覧会の責任者であるMet.の小川盛弘氏による展覧会の解説と刀剣の取り扱い、英国・大英博物館元日本部長のヴィクター・ハリス氏から日本の刀剣とその美について、さらに日本からは、研師である藤代興里(ふじしろおきさと)・龍哉(たつや)両氏(父子)による研ぎの実演と解説、鈴木からは、在外修復事業の概要及び日本における漆工品の修復の理念と手法について発表しました。シンポジウムには、米国内外から700余の参加があり、Met.始まって以来のことと関係者一同大変驚嘆していました。また、翌日は、展示室内で「The Scholars’ Day」(11.9)と称する全米の修復や学芸関係者を対象とした催しがあり、同様の発表を行いました。このところ、米国内における日本美術・文化研究の退潮や日本の存在感の低下が懸念されていますが、その回復・進展を図る意味でも画期的な事業であったと感じます。この展覧会を十年余をかけて企画・実行され、Met.のみならず日本文化・芸術の国際交流と普及に多大のご貢献をされたメトロポリタン美術館武器武具部特別顧問小川盛弘先生に対し、心からの敬意と感謝を申し上げます。

11月施設訪問

 文化庁主催 文化財行政講座受講生ほか 20名
 11月6日に、文化庁が主催する、都道府県および市(区)町村教育委員会等の文化財行政担当職員を対象とした講座において、文化財修復現場を見学することにより担当職員の資質の向上を図る目的で来訪し、井手企画渉外係員の概要説明ののち、4階保存修復科学センター化学実験室、3階保存修復科学センター修復アトリエ、2階資料閲覧室を見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。

奈良国立博物館との共同研究協議会の開催

奈良国立博物館との共同研究協議会

 企画情報部では奈良国立博物館と行っている共同研究の成果の確認やこれから刊行を予定している『報告書』の編集をすすめるため、研究協議会を11月5日(木曜日)に企画情報部会議室において開催しまさいた。奈良国立博物館から担当者三名の出席を得て、当部からは田中部長、城野、鳥光、津田、江村、土屋の六名が出席しました。昨年秋に調査を行った春日大社所蔵の披見台、法隆寺金堂所在の釈迦三尊および薬師如来坐像の台座(上座)の板絵、および、今年度の五月と九月に行った大徳寺五百羅漢図などについて、どのように成果報告を行うかについて話し合いました。このうち、春日大社所蔵の披見台、法隆寺金堂所在の釈迦三尊および薬師如来坐像の台座(上座)の板絵についての成果報告は、この協議会を踏まえ今年度末の刊行をめざして目下、編集作業を行っております。

黒田記念館特別公開

 黒田記念館では毎年「上野の山文化ゾーン・フェスティヴァル」の一環として、通常の週2回の公開とは異なり、文化の日の前後に特別公開期間を設け、毎日9:30から17:00まで開館しています。今年は11月3日(火)から8日(日)までの6日間、特別公開を行い、1895名の入場者がありました。洋画家黒田清輝の遺言で造られた黒田記念館は1928年の竣功になり、建築家岡田信一郎の洋風美術館建築として重要な建物の中に、重要文化財≪湖畔≫≪智・感・情≫を含む黒田清輝作品のまとまったコレクションが常設展示されています。通常は木曜日、土曜日の13時から16時までの開館です。

第4回無形民俗文化財研究協議会

第4回無形民俗文化財研究協議会の様子

 無形文化遺産部では毎年、無形の民俗文化財の保護と継承に関わる諸問題について話し合う研究協議会を開催しております。その第4回を、「無形の民俗の伝承と子どもの関わり」をテーマとして、2009年11月19日に当研究所セミナー室において開催しました。少子高齢化の影響は民俗の伝承にも大きな影響を与えています。しかしそんな状況の中でも、学校や博物館をはじめとする様々な組織との連携によって、子どもたちが地域の伝統的な行事や祭りに親しみ、参加できるようにするための様々な支援の取り組みがなされています。協議会では、そうした先進的な事例について報告をしていただき、それをもとに活発な討議が行われました。この協議会の内容は、2010年3月に報告書として刊行される予定です。

研究会「文化財の生物劣化の非破壊調査と虫害調査、および修理における利用」

2009年11月20日の研究会の様子

 保存修復科学センターでは、文化財の生物劣化対策の研究の一環として、平成21年11月20日、研究所地下会議室において研究会を行いました。今回は、実際に現場に携わる専門家メンバー向けの研究会で、具体的な議論を十分に行えるよう円卓形式で行われました。まず、「日光山輪王寺本堂での隠れた虫害-対応と修理について」と題して、(財)日光社寺文化財保存会の原田正彦氏から、重要文化財でおそらく始めての例であるオオナガシバンムシの被害実例についてお話をいただき、また、(財)文化財虫害研究所の小峰幸夫氏より、虫害調査の実例について、詳細な報告が行われました。京都大学大学院の藤井義久氏からレジストグラフやアコースティックエミッションを用いた現場の調査について、そして九州国立博物館の鳥越俊行氏からは、文化財用X線CTによる実際の被害材の解析事例での内部の虫の検出についてお話いただきました。以上のことを踏まえ、今後の調査とどのように殺虫処理を行うかについて、基礎実験計画の立案や、今後の修理にどのようにそれらの結果を活用していくかについて活発に議論が行われました。(参加者15名)

国際研究集会「日本絵画の修復 ―先端と伝統―」の開催

総合討論会

 11月12日~14日の3日間、第33回文化財の保存及び修復に関する研究集会「日本絵画の修復 ―先端と伝統―」を東京国立博物館平成館において開催しました。日本絵画の修復に関して、国内外での現状を科学的・客観的に確認することで、材料・技法を再認識し、ここで得られた知識を共有することで、広く世界で所有されている日本絵画の保存と活用を促進することを目的して、海外から4件、国内から11件の講演が行われました。修復技術者、保存科学者、学芸員、伝統材料の製造元などの分野から、350名を超える参加がありました。講演・討論会に関する詳細な内容については、来年度、報告書を刊行する予定にしております。

タジキスタンにおける壁画片の保存修復と人材育成(第6次ミッション)

壁画片の側面の処置
展示された壁画片

 平成21年10月4日から11月17日まで、文化庁委託文化遺産国際協力拠点交流事業の一環として「タジキスタン国立古物博物館が所蔵する壁画片の保存修復」の第6次ミッションを派遣しました。前回のミッションに引き続き、タジキスタン北部のカライ・カフカハ(シャフリスタン)遺跡から出土した壁画片の修復作業を、タジク人研修生4名と共同で行いました。前回までに、同遺跡から出土した植物文の壁画片の接合、クリーニングを終え、新しい支持体に固定する作業(マウント)を完了しました。今回は仕上げの作業として、表面の欠損部分と側面に充填材を塗布し、背面に金具をとりつけました。
 10月28日に、在タジキスタン日本大使館臨時代理大使、ワークショップ「中央アジア出土壁画の保存修復2009」の参加者が見守るなか、壁画を博物館の展示室に設置しました。タジク人研修生が自分たちの手で接合しクリーニングした壁画を初めて展示した喜びを、参加者全員で分かち合いました。今後も保存修復作業をとおして、タジキスタンにおける保存修復家の育成に協力していきます。

西スマトラ地震にともなう被災文化遺産状況調査の実施

被災したパダンの歴史的建造物と町並み

 ユネスコ(ジャカルタ事務所)およびインドネシア政府の要請を受け、2009年9月30日に発生した西スマトラ地震で被災したパダンにおける文化遺産被災状況調査を11月11日から25日にかけ実施しました。調査は、清水真一、秋枝ユミイザベル(以上、文化遺産国際協力センター)、武内正和(文化庁)による歴史建造物調査、布野修司(滋賀県立大学)、竹内泰(宮城大学)による都市計画調査にわけて行われ、これら調査成果はユネスコを通し、インドネシア政府が作成するパダン復興計画に組み込まれる予定です。
 パダンは西スマトラ州の州都であり、その都市形成の歴史は17世紀まで遡ります。地震では大規模で3階以上、RC構造の多くの公共建築、学校建築が多く被害を受けると同時に、現在も住民が生活をしている歴史的建造物への被害も多くみられました。今後、どのように地域住民の参画を促しつつ復旧に取り組むかが大きな課題です。

10月施設訪問(1)

 台東区立御徒町台東中学校・柏葉中学校・上野中学校・忍岡中学校・浅草中学校・駒形中学校教諭8名
 10月1日に、台東区内の中学校教諭8名が、学校の授業へ活用するため、研究所の事業および施設を見学に来訪し、4階文化遺産国際協力センター、3階保存修復科学センター修復アトリエ、地階保存修復科学センターX線室および無形文化遺産部実演記録室、2階企画情報部資料閲覧室を見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。

10月施設訪問(2)

 武蔵野市なないち会23名
 10月5日に、保存・修復に関する実態を見聞・勉強し、文化財継承の重要性についての認識を深めるため来訪し、井手企画渉外係員の概要説明ののち、1階パネル展示、3階保存修復科学センター修復アトリエ、地階無形文化遺産部実演記録室および保存修復科学センターX線室を見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。

東京都台東区立上野中学校学芸発表会における研究所のパネル展示

東京都台東区立上野中学校でのパネル展示

 10月31日、東京都台東区立上野中学校の学芸発表会において、東京文化財研究所はパネル展示を行いました。その内容は「[キトラ古墳壁画]-壁画の取り外しと修復作業について-」と「洛中洛外図屏風(カナダ・ロイヤルオンタリオ美術館蔵)の修理 –平成18年度在外日本古美術品保存修復事業-」の二つです。
 これらの展示はいずれも以前、研究所のエントランスで展示されていたパネルを二次活用したものです。ただしキトラ古墳壁画の取り出しと修復作業に関する展示では、ダイヤモンドワイヤーソー、へら、作業着など、作業に使用する道具も出品するとともに、壁画の取り外しに関する記録映像も上映しました。
 研究所のエントランスで展示されたパネルが、従来、研究所の外で展示されたことはありませんでした。たった1日の展示ではありましたが、上野中学校生徒、教職員、そして保護者など約400名の方々にパネル展示をご覧いただくことできました。
 キトラ古墳壁画は近年、マスメディアによく取り上げられており、また洛中洛外図も社会科の教科書に図版としてよく掲載されています。上野中学校のみなさんにとっても、よく知られた文化財であったはずです。こうした文化財を守り、未来に伝えようとしている研究機関が上野中学校のすぐ近くにあることを知っていただくよい機会になったと思います。 

子供向けパンフレットの刊行

子供向けパンフレット
『東京文化財研究所ってどんなところ?』

 東京文化財研究所は今年度、子供向けパンフレット『東京文化財研究所ってどんなところ?』を刊行しました。これは小学生や中学生などを対象にした研究所の案内です。
 2009年度版は2008年度版に比べ、判型をB5判に、またページ数を16ページに改めたほか、内容も研究所の活動をトピックスとして紹介するように変更しました。
 今後、子供向けパンフレットは台東区内の小学校や中学校に配布する予定です。もちろん一般の方々にもご利用いただけるように、研究所や黒田記念館でも配布しています。ぜひご利用ください。
 また子供向けパンフレットのPDFファイルは、研究所のホームページ、下記URLからダウンロードすることも可能です。
http://www.tobunken.go.jp/~joho/japanese/publication/kids/2009.pdf

第43回オープンレクチャー「人とモノの力学」の開催

企画情報部土屋貴裕の講演
大和文華館塚本麿充氏の講演
副所長中野照男の講演
広島大学白須浄真氏の講演

 当研究所では、美術史研究の成果を広く知っていただくため、毎年秋に公開学術講座「オープンレクチャー」を開催しています。昭和41年(1966)の第1回目から数えて、今年で43回目を迎えます。平成18年(2006)より、「人とモノの力学」という共通テーマを設定してきましたが、今年は10月2日、3日にわたって、所内外の研究者4名が発表を行いました。
 10月2日は、土屋貴裕(企画情報部研究員)が「「異国」をこしらえる―「玄奘三蔵絵」をめぐって―」、塚本麿充氏(大和文華館学芸部員)が「宋朝からみた日本僧―仏法・国土と文物交流の世界―」と題し、中世の日本、および宋代の中国が、互いをそれぞれどのように眼差し、認識していたのかを、鎌倉時代の絵巻作品、そして中国-日本を含めた東アジアの文物の移動/交流、そして当時の社会的なコンテクストから探るものでした。
 翌3日は、中野照男(当所副所長)が「大谷探検隊収集西域壁画の光学的調査」、白須淨眞氏(広島大学講師)が「チベット宗教世界と大谷探検隊」と題して、大谷探検隊によって見出された作品の、近年の研究成果を踏まえた美術史的位置の再評価と、大谷隊の活動をめぐる日英中露の人々の動きを、当時の政治的状況を踏まえて捉えなおすものでした。
 この度の4人の発表は、前近代/近代それぞれの、中国・チベット・インドなど「アジア」と「日本」の関係を、美術作品/文物/文化財といった「モノ」の広範な作用や働き、そしてそれをとりまく「人」の様々な営みを読み直すという、まさに「人とモノの力学」という共通テーマに相応しい、大変刺激的な内容となりました。聴講者はそれぞれ133名、125名を数え、両日にわたって行われたアンケート結果においても、多くの方々から大変満足いただけたとの回答を得ることができました。今後とも、当研究所の研究成果を発信するこのような企画を積極的に行っていきたいと思います。

梅村豊撮影歌舞伎写真

梅村豊撮影歌舞伎写真より

 無形文化遺産部では、2007年秋に寄贈を受けた、梅村豊撮影歌舞伎写真の整理を進めています。
 この資料は、昭和30年代以降の俳優のインタビュースナップや、舞台の裏側で活躍するスタッフに着目した写真なども含まれており、芸能史研究上非常に資料的価値の高いものです。
 この資料の整理作業は2008年度に始まり、その成果の一部はすでに、同年度末に刊行された『無形文化遺産研究報告』第3号に資料紹介の形で報告されています。
 膨大な記録のため、現在では上演中の舞台を撮影した歌舞伎写真を優先し、時系列にその上演年月や出演俳優を確認しつつ整理を進めています。本年度は10月までに1,041枚を整理し、右記報告書に掲載した前年度の作業と併せ、年度内には昭和30年代のモノクロ舞台写真の整理を完了する予定です。

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