実演記録「平家」第八回の実施

菊央雄司氏
田中奈央一氏
日吉章吾氏

 無形文化遺産部では、継承者がわずかとなり伝承が危ぶまれている「平家」(「平家琵琶」とも)の実演記録を、平成30(2018)年より「平家語り研究会」(主宰:武蔵野音楽大学教授薦田治子氏、メンバー:菊央雄司氏、田中奈央一氏、日吉章吾氏)の協力を得て実施しています。第八回は、令和8(2026)年2月19日、東京文化財研究所 実演記録室で《紅葉》(前半)と《横笛》(全曲)を収録しました。
 《紅葉》の前半は、題名にもなっている紅葉をめぐる高倉天皇のエピソードが中心です。高倉天皇即位当初のこと、紅葉する木を植えて愛でるほど紅葉を好んでいた高倉天皇ですが、ある日役人が、こともあろうに紅葉が風で散っていたものを集めて焚き火をし、その火で燗酒を楽しんでしまいました。その不始末を、高倉天皇は咎めないばかりか笑みをたたえ、風流だと感じ入ったというのです。役人の不始末に気を揉む蔵人の描写は、平家の物語としてはおかしみも感じるやや珍しい部分です。このエピソードの最後は「林間に酒を煖めて紅葉を焼く」という白居易の詩を引き合いに、役人の行動に感じ入る高倉天皇の柔和さを象徴するようにして、ゆっくりと締めくくられます。
 《横笛》は、滝口入道と横笛の悲恋がテーマです。滝口入道は、恋人である横笛との仲を許されないことから出家を決心して旅立ちます。後を追ってきた横笛にも、滝口入道は心が揺らぐのを恐れて会いません。この心の葛藤を描く場面が《横笛》のクライマックスですが、平家ではここを「白声しらこえ」という曲節で語ります。白声は、節(旋律)があまりなく平坦で、淡々とした語り口で語られます。このように劇的な場面を、どちらかというと平坦な表現で語ることによって、かえって悲劇性が際立ちます。非常に情緒的な場面を表現する際に、逆に粛々と詞章や音を運ぶような表現手法は、三味線音楽でも時折みられます。
 無形文化遺産部では、現在伝わっている平家の前田流のうち、当道の流れを汲む名古屋の伝承曲の習得、その上で行われている復元に注目して実演記録「平家」を実施してきましたが、いよいよこの事業も最終盤です。次年度の第9回をもって実演記録「平家」の一区切りとし、令和8(2026)年12月8日(火)に、この収録を含めた公開研究会を企画しています。どうぞご注目ください。

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