日本科学史学会シンポジウムへの登壇

発表の様子
パネルディスカッションの様子

 令和8(2026)年5月31日に開催された日本科学史学会公開シンポジウム「近現代日本の科学技術史資料の保存を考える:何を、どうやって残すのか?」(主催:日本科学史学会、一橋大学大学院言語社会研究科)に、保存科学研究センターの千葉毅研究員がパネリストとして登壇しました。千葉研究員は「文化財としての科学技術史資料 —近代交通動産文化財を中心に—」と題した報告を行いました。
 千葉研究員の報告では、まず「科学技術史資料」が日本の文化財保護法においてどのように位置付けられてきたかを概観しました。続いて、交通・輸送に関連する文化財を主な対象に、国・都道府県・市町村それぞれの指定制度における現状を紹介しました。
特に航空機については、高い科学技術的価値を持つと考えられるにもかかわらず、国の重要文化財や都道府県指定文化財となった事例はなく、市町村指定にとどまる例がわずかにあるのみという実態を紹介しました。その背景として、航空機を「文化財として評価する」という考え方が社会に十分浸透していないこと、文化財として適切に評価できるだけの調査・研究が進んでいないこと、軍事・戦争関連の資料への忌避感といった要因の可能性を指摘しました。
 実機(実際の機体)全体が文化財に指定されている唯一の事例として、鹿児島県南九州市指定文化財である陸軍四式戦闘機「疾風(1446号機)」(令和2(2020)年指定)を取り上げ、この指定が型式としての在地性が積極的に評価されたものであると紹介しました。さらに、平成7(1995)年に旧知覧町が購入して以来、南九州市で保存・調査が継続的に行われていることにも触れ、調査による新たな知見だけでなく、所有者が関係者とともに機体を守り続けてきた保存の取り組みそのものが新たな価値を生み出していると指摘しました。これは、機体の歩んできた歴史(ライフヒストリー)の中で、地域との結びつき(在地性)を改めて築き直す営みとも言えると述べました。
また、行政による文化財指定制度に加えて、学術団体や業界団体による認定制度についても言及し、行政の評価と車の両輪として重要な役割を果たすことを指摘しました。
 一方、近現代の科学技術史資料には消耗しやすいものが多く、長期保存がそもそも難しいケースが少なくありません。現在、こうした資料は急速に失われつつある状況にあり、「何を残すのか(裏を返せば、何を残さないのか)」という難しい選択に、行政・研究者・博物館・愛好家など多様な主体が連携して向き合っていくことの重要性を訴えました。
 パネリストによる報告の後、ともに登壇した有賀暢迪氏、齊藤有里加氏、菱木風花氏を交えたディスカッションが行われました。関連資料のまとまりとしての保存、指定を受けていない文化財が大量に失われるリスク、事故などに関する資料の文化財としての評価のあり方、企業博物館の継続性など、幅広いテーマについて、会場の参加者も加わりながら活発な議論が展開されました。
 なお、シンポジウムの概要は日本科学史学会の学術誌『科学史研究』に掲載される予定です。

(202605 / 千葉毅)