「文化財保存修復に関するワークショップ―額縁の歴史・技法と保存修復について―」および「文化財保存修復に関する講演会―イギリスと日本における額縁の歴史と保存―」の開催報告
保存科学研究センターでは、令和元(2019)年度以降、文化財の保存修復に関する研修事業に力を入れており、海外の専門家を招聘し、関係機関と連携して研修を実施してきました。昨年度までは国立アートリサーチセンターとの共催でしたが、本年度は新たに国立西洋美術館とも協働し、三機関による共同開催として本研修を実施しました。
本年度の研修テーマには、東洋絵画における表装と同様、古くから絵画作品と深い関わりを持つ「額縁」を取り上げました。額縁は、絵画を鑑賞するうえで作品と切り離すことのできない存在でありながら、国内ではその重要性に対する理解が十分に浸透しておらず、保存修復に関する情報も極めて限られているのが現状です。こうした状況を踏まえ、イギリスのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館修復課の上級修復士であるバロウ由紀子氏を講師としてお招きし、令和7(2025)年10月29日から31日の3日間にわたり、文化財保存修復に関するワークショップ「額縁の歴史・技法と保存修復について」を開催しました。
午前の講義は当研究所セミナー室で行い、イギリスにおける額縁の歴史や製作技法から、現代の保存修復の実際に至るまで幅広くご講義いただきました(参加者67名)。午後は国立西洋美術館の保存修復室に会場を移し、事前に選ばれた15名の参加者がギルディング、色合わせ、クリーニングなど、イギリスで行われている保存修復技術を実践的に学びました。
また、11月1日には講演会「イギリスと日本における額縁の歴史と保存」を併催し、バロウ氏からはイギリスにおける額縁修復の歴史や修復士の仕事について、東京都美術館学芸員の中江花菜氏からは日本における洋風額縁の歴史についてご講演いただきました(参加者69名)。
三機関の協力によるワークショップ開催は初めての試みでしたが、額縁に関する理論と実践の両面を包括的に学ぶことができ、今後の保存修復の発展に資する有意義な研修となりました。
