木村荘八自筆資料に見る昭和初期の油彩画制作:令和7年度第11回文化財情報資料部研究会の開催

研究会風景

 東京文化財研究所の所蔵資料は、主に研究者に向けて公開され活用されていますが、収集経緯を含めた資料の歴史に光があたることは、実はそう多くありません。今回は「木村荘八自筆資料」という大正から昭和を通じて活動した洋画家の木村荘八が遺した資料を対象に、在職中に資料収集を主導した田中淳氏(客員研究員、大川美術館館長)と、文学研究の立場に基づいて近年調査を進めてきた新井由美氏(奈良工業高等専門学校准教授)に登壇頂き、この資料の意義を解き明かし、研究成果を報告して頂きました。演題は「東京文化財研究所における木村荘八資料の収集経緯について」(田中淳氏)、「木村荘八「パンの会」制作に関する諸問題 ―東文研所蔵資料「木村荘八制作ノート 自昭和五年至昭和廿一年」を中心として」(新井由美氏)です。
 まず田中淳氏は、木村荘八資料を東文研で所蔵し、他機関と連携して翻刻・研究を行ってきた30年近くにわたる経緯を報告し、また家中に手帳を置き手当たり次第に書くメモ魔であったという、木村本人と交流のあった資料旧蔵者による証言などを紹介しました。
 次に新井由美氏は、資料の中で昭和初期の日記を対象とし、時系列が錯綜する資料の状況を整理した上で、木村の代表作のひとつである油彩画《パンの会》(1928年、北野美術館蔵)を中心に、絵画制作に関係する記述について論じました。
 田中氏の語った「メモ魔」というイメージと、新井氏の指摘した、同じ日記帳の中で別時期に書かれた内容が入り混じる木村の記述スタイルとが完全に一致していたこともあり、質疑応答の時間には、実際の資料を見ながら木村荘八の人間像に迫る意見が活発に交わされました。
 本研究会は、美術史研究者と文学研究者が集い、ひとりの画家の記録を通して昭和初期の状況について意見を交換する、貴重な機会となりました。

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