片側開放型H-NMRの導入と煉瓦造建築の非破壊含水率測定への適用

煉瓦造建築における現場計測の様子
実験室での予備測定の様子

 保存科学研究センターでは、令和7(2025)年度に片側開放型H-NMRを導入しました。材料中に含まれる水分は、塩の析出や凍結による物理的破壊、膨張・収縮に伴う損傷、さらにはカビの生育など、さまざまな劣化現象を引き起こします。そのため、材料内部の水分状態を把握することは、文化財の損傷リスク評価や適切な保存方法を検討するうえで重要な要素の一つです。片側開放型H-NMRでは、装置から磁場を与えることで、水分に含まれる水素のNMR信号を検出します。この信号の強さや変化を解析することで、水分量や水の運動性の違いを、把握することが可能です。
 令和8(2026)年3月には、海水の毛管上昇に伴う塩類析出により壁面の劣化が進行している煉瓦造建築を対象として、片側開放型H-NMRを用いた現地調査を実施しました。本調査では、装置導入後初の現場適用事例として、非破壊で深さ方向の含水率分布の測定を行いました。従来の非破壊による含水率測定手法では、取得できる情報が材料表面に限られるものや、平滑な面にしか適用できないといった制約があり、劣化した壁面の内部情報を把握することが困難でした。これに対し、本手法では表面状態に依らず、材料内部の深さ方向の含水率分布を取得することが可能となりました。本調査は、東京文化財研究所保存科学研究センター、京都大学、名古屋大学、奈良文化財研究所による共同研究として実施している、煉瓦造建築の塩類風化対策を目的とした材料施工および環境調整手法に関する研究の一環として行われたものになります。
 今後は、水分量の把握にとどまらず、適切な保存対策手法を検討するうえで必要な材料物性を非破壊で評価する手法へと応用を広げるとともに、その他の材料や文化財への展開を図っていきます。

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