岩窟内の木造建造物の保存のための冬季の湿害対策の新たな試み

岩窟内のシート養生と計測器設置の様子
2月の現地調査時の那谷寺本堂

 保存科学研究センターでは、那谷寺なたでらからの依頼を受けて岩窟内に建てられた木造建造物の保存環境整備に関する調査研究を行っています。石川県小松市の那谷寺は、土着の白山信仰と仏教が融合した寺院であり、重要文化財である木造の本殿は自然の浸食によって形成された岩窟内に建てられています。このような環境では、地盤からの水分供給や岩盤の高い熱容量の影響により高湿度状態となりやすく、結露や木材腐朽といった湿害リスクが生じます。
 これまで、岩窟内の温湿度の長期計測により高湿度の要因を分析し、その結果に基づいて季節に応じた換気対策を実施してきました。その成果は「保存科学」第65号にまとめています。これらの対策により、岩窟内の湿気環境の改善に一定の効果を確認しています。特に冬季には、気密性を上げて冷たい外気の侵入を抑制することで、木造本殿での結露抑制と岩窟内の湿度低下に効果があることが分かりました。一方で、地盤からの水分蒸発の影響が相対的に大きくなる点が課題として残されています。
 そこで令和7(2025)年秋より、冬季限定の新たな対策として、地盤からの水分蒸発を抑えるための簡易的なシート養生を開始しました。令和8(2026)年2月には設置後の状況確認を行い、現時点では問題が生じていないことを確認しています。今後は測定データの分析を進め、その効果の検証と適切な運用方法の提案を行う予定です。
 2月の現地調査は積雪下での実施となりましたが、岩窟内は屋外に比べて暖かく、自然のシェルターとしての特性を体感する機会ともなりました。文化財の保存環境整備は、気候や立地など多様な要因と向き合う必要があります。今後も環境との調和を図りながら、最適な環境制御手法の検討を進めていきます。

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