ネパール・キルティプル市における歴史的民家の保存活用に向けた共同調査 その2

ネパール・キルティプル市は、首都カトマンズから約4km南西に位置し、ネワール民族による中世集落の遺構をよく残す都市として、世界遺産暫定一覧表に記載されています。しかし、急速な都市化や2015年に発生したゴルカ地震後の被災建物の建替え等によって、歴史的な街並みは大きく変化し続けています。そこには、寺院や王宮など公共的な建築が文化財として国の法的保護の下に位置付けられているのに対し、個人所有の住宅には実効的な保護の枠組みが存在しないという大きな課題が横たわっています。
こうした背景のもと、キルティプル市と東京文化財研究所は、令和5(2023)年秋より、キルティプル旧市街内の歴史的建造物、特に個人所有の歴史的民家の保存と活用に向けた共同調査を開始しました。
令和6(2024)年7月16日~23日にかけて行った職員2名の派遣では、キルティプル市のエンジニアや現地協力者らとの協働のもと、パイロットケースとして位置づけた一棟の歴史的建造物の実測調査やデジタル3次元計測、建物の変遷に関わる痕跡調査等を行いました。また、立命館大学プロジェクト研究員Lata Shakya氏の協力を得て、対象建物の所有者や郷土史家への聞取り調査を実施し、さらに、現地専門家Bijaya Shrestha氏の協力を得て、キルティプル旧市街に現存する個人所有の歴史的建造物の分布について簡易な悉皆調査を行いました。
これらの調査によって、対象建物が、ある時期にはキルティプルの王宮に付随する行政施設であった可能性や、また旧市街の街並みを構成する民家の中でも当初の外観をよく残す、特に重要な建物であることが明らかとなってきました。
対象建物は、雨漏りや蟻害などの破損が進行しており、一刻も早い修理を必要としています。建物の歴史的価値を明らかにし、広い意味で文化遺産としての位置付けを与えることは、建物の維持費用の確保や所有権の問題など様々な現実的課題に直面する歴史的建造物にとって、保存に向けた重要なステップを踏み出すきっかけとなり得ます。
地域の文化的な豊かさを守るだけでなく、持続的な発展にも結びつけられるような保全の在り方を探りながら、建物の所有者、行政機関、現地専門家らと共に今後も対話と試行を重ねたいと思います。