研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


シンポジウム「美術資料情報における大規模化と高度化」への登壇

シンポジウム「美術資料情報における大規模化と高度化」への登壇

 6月6日(土)、アート・ドキュメンテーション学会の年次大会の一環として、シンポジウム「美術資料情報における大規模化と高度化 ── グローバルなデジタル化戦略と学術的専門研究の接点を問う」が国立西洋美術館講堂で開催され、当研究所から田中淳副所長、皿井舞企画情報部主任研究員が発表者として参加しました。本シンポジウムは、国際的に要請されている美術資料情報の大規模化を視野に入れ、国内の情報の専門化・高度化という課題について、関連機関の状況を確認しつつ、議論を深めることを目的としたものでした。
 まずは、国立西洋美術館、オランダ国立美術史研究所(RKD)および当研究所の3アーカイブの構築―東京文化財研究所の取り組み」と題して、当研究所の歴史、アーカイブ活動やデジタル・コンテンツを紹介し、グローバルな水準での情報提供の試み(セインズベリー日本藝術研究所、ゲッティ研究所との連携など)について報告をしました。個々の報告ののちに、報告者によるパネル・ディスカッション、馬渕明子氏(独立行政法人国立美術館理事長)による基調講演などが行われました。
 本シンポジウムは、美術資料情報をめぐる今日の状況において、本研究所が長年に渡って蓄積・保存してきた美術や文化財に関する情報・資料を、いかに研究活動において有効なものであるかを国内外の関係者に改めて提示するとともに、他機関の先駆的な活動を知ることによって、グローバルな水準での情報提供について多くの示唆を得るものでありました。

企画情報部研究会の開催

研究会の様子

 3月24日(火曜日)午後2時より、部内の研究会室において、企画情報部アソシエイトフェロー・河合大介が「反芸術・脱主体化・匿名性―山手線事件と赤瀬川原平を中心に―」、同・橘川英規が「観光芸術多摩川展パノラマ図を観る―富士山、機関車、少女、井戸―」というタイトルで研究発表を行いました。
 河合の発表では、1960年代の美術に国際的に共通して見られる特徴のひとつとして「作品の〈脱主体化〉」があることを指摘し、同時代の日本美術においてはそれが〈匿名性〉というかたちをとってあらわれたことを、1962年に中西夏之らが行った山手線事件およびその影響をうけた当時の赤瀬川原平の活動に関する資料の分析を通じて検証しました。
 橘川の発表では、観光芸術研究所が行った最初のイベント「観光芸術多摩川展」を、ドローイング《観光芸術多摩川展パノラマ図》と中村宏氏制作映像作品《Das Kapital》を用いて、その様子をふり返りました。これは昨年9月に開催されたPoNJA-GenKon設立10周年記念シンポジウムで行った発表内容に加えて、その後の調査により構成したものでした。
 当日、研究会には、画家の中村宏氏、美術作家で戦後美術研究者の嶋田美子氏にもご参加いただきました。中村氏は、橘川の発表からご臨席いただき、発表後の質疑応答のなかで、観光芸術研究所や中村氏ご自身の当時の作品および活動について説明いただく機会を得ました。

海外日本美術資料専門家(司書)の招へい・研修・交流事業2014(通称JALプロジェクト)への視察受入など

JALプロジェクト 当研究所視察の様子

 JALプロジェクト(実行委員長:加茂川幸夫東京国立近代美術館館長)は、海外で日本美術資料を扱う専門家(図書館員、アーキビストなど)を日本に招へいして、日本美術資料専門家のネットワーク構築を促進するとともに、招へい者の所見をもとに、日本の美術情報資料や関連情報提供サービスのあり方を再考することを目的とした、今年度新たにスタートした事業です。このJALプロジェクト実行委員会に、当研究所から田中淳副所長、橘川アソシエイトフェローが実行委員を委嘱され、橘川は招へい者への事前現地ヒアリング、研修ガイダンス、国内関連機関視察への随行を行いました。
 事前現地ヒアリングでは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)グローバル・リサーチC-MAPのプログラム・コーディネーターを務めた足立アン氏を担当して、水谷長志氏(本プロジェクト実行委員、東京国立近代美術館主任研究員)とともに、11月12日にニューヨーク近代美術館クイーンズ分館と、ビデオアート・アーカイブ「EAT」の2機関を視察しました。
 日本に招へいした資料専門家7名は、12月1日から東京、京都、奈良にある関連機関で研修をしていただきました。当研究所には同月3日に来訪され、当研究所および文化財アーカイブ構築事業の概要などを紹介し、資料閲覧室などで図書資料、作品調査写真、近現代美術家ファイルを視察したのち、最後に当研究所研究員らと情報交換を行いました。このなかで、海外での情報流通を想定したローマ字化されたコンテンツの充実、調査写真のオープンアクセスについてなど提言をいただきました。研修最終日となった同月11日に、東京国立近代美術館講堂で公開ワークショップが開催され、アメリカやヨーロッパで求められる文化財情報のあり方について、改めて検討するよい契機となりました。

ポンジャ現懇創立10周年記念シンポジウム「For a New Wave to Come Post-1945 Japanese Art History Now」への参加と美術関係図書館・アーカイブ関連施設の視察

シンポジウム2日目(ジャパン・ソサエティ)の様子

 2014年9月12日と13日にわたって、ニューヨーク近代美術館研修室、ニューヨーク大学およびジャパン・ソサエティーにおいて、ポンジャ現懇(PoNJA-GenKon)創立10周年記念シンポジウム「For a New Wave to Come: Post-1945 Japanese Art History Now」が開催されました(ニューヨーク大学東アジア研究部門[トム・ルーサー教授]とポンジャ現懇の共催)。ポンジャ現懇は、日本の現代美術に関心のある英語圏の専門家らに、対話やフォーラムの場を提供することを目的とし、これまでにミシガン大学やゲッティ研究所、グッゲンハイムなど大学や研究機関、美術館などと協力してシンポやパネルディスカッションを開催してきました。筆者は、1日目のワークショップにおいて、「Seeing A Panorama of Sightseeing Art at Tama: Nakamura Hiroshi’s Notebook at Tobunken」と題して、東京文化財研究所が所蔵する観光芸術研究所《観光芸術多摩川展パノラマ図》やその関連の映像を用いて、1964年に開催されたこの野外展を詳細に紹介し、また、当時の美術界における意義についての考察を発表しました。このシンポジウムは、大学院生から第一線の専門家まで16人の研究発表があり、各セッションのパネルディスカッションでは活発な議論が展開されました。
 また、このシンポジウムへの参加と合わせて、美術関係図書館およびアーカイブ関連施設(コロンビア大学C. V. スター東アジア図書館、メトロポリタン美術館ワトソンライブラリー、ニューヨーク近代美術館アーカイブ、ニューヨーク公共図書館アート&アーキテクチャーコレクション)などを視察し、それぞれの機関の担当者と日本美術研究資料についての情報交換を行いました。
 なお今回は、国際交流基金の派遣により、シンポジウムでの発表、関連施設の視察をさせていただきました。

研究資料データベース検索システムのリニューアル

研究資料データベース検索システム トップページ

 「研究資料データベース検索システム」
 (http://www.tobunken.go.jp/archives/)をリニューアルしました。これは、昨年度、当所アーカイブズ運営委員会のもとに組織されたアーカイブズ・ワーキング・グループで取り組んでいる全所横断的な研究資料アーカイブズ構築の成果の一端が反映されたものです。今回のリニューアルでは、検索システムの操作性、コンテンツの両面で大幅な改定がありました。
 当所の研究資料データベースは、2002年に和漢書と売立目録の所在情報をインターネット上に公開して以来、各部署の蔵書情報や、関連分野の文献 情報・展覧会開催情報・伝統楽器情報などを公開し、文化財研究機関ならではの有効なコンテンツを発信する役割を担ってきました。その一方で、サイト利用者からは「システム内の複数データベースの横断検索」、「複数のキーワードによる掛け合わせ検索」、「検索結果の並び替え」などができるようにしてほしいなど、操作性の改善を望む声が寄せられていました。これまでのサイトは、データベース言語「SQL」とWebアプリケーションフレームワーク「Microsoft aspx」で構築してものでしたが、それを「MySQL」と「WORDPRESS(PHP)」の組み合わせに改め、それらの問題を解決し、操作性を向上させました。
 さらにコンテンツ面では、当所刊行物の掲載論文や記事の情報の収録件数を53万件に増やしました。これまでの収録対象は研究誌『美術研究』、『芸能の科学』、『保存科学』に掲載された論文のみでしたが、さらに各種研究成果報告書、『日本美術年鑑』、『東文研ニュース』、『年報』などを含め、また論文以外の彙報記事も収録したためです。これによって当研究所の研究成果に加えて、研究プロジェクトの進捗状況を伝える記事などへのアクセスも改善されました。
 引き続き、専門性の高い情報にアクセスしやすい環境を整え、効率よく活用できる方向を検討しております。ご利用いただき、お気づきの点がございましたら、本システムの「ご意見・お問い合わせ」フォーム(http://www.tobunken.go.jp/archives/ご意見・お問い合わせ)からご一報いただけますと幸いです。

研究会「アート・アーカイヴの諸相」の開催

 研究プロジェクト「文化財の研究情報の公開・活用のための総合的研究」の一環として、2月25日に加治屋健司氏(広島市立大学)、上崎千氏(慶応 義塾大学アートセンター)を招へいし、企画情報部アソシエートフェロー橘川英規を加えて、日本及びアメリカの現代美術のアーカイヴに関する研究会 を当研究所セミナー室で開催しました。
 第1部の個別発表では、加治屋氏がアメリカにあるアーカイヴ機関(スミソニアン美術アーカイヴ、ゲッティ研究所、MoMAなど)を美術史家という 利用者の視点からその利用について、クレメント・グリンバーグの書簡を挙げて紹介、上崎氏は草月アートセンターのエフェメラ資料群データベースを 用いてアーキヴィストの思考性について発表、橘川は画家中村宏氏作成ノートを例に「ライブラリアンによるアーカイヴ資料紹介」を試みました。第2 部では、個別発表を踏まえ、ディスカッションを行い、その中で、それぞれの立場でのアーカイヴの考え方の共通性と差異性が明確に提示されまし た。本研究会には外部聴講者を含めて95名の方に参加していただき、会場の専門家らからも活発に意見が交わされ、改めて「美術研究にとって有益な アーカイヴの在り方」を考え直す良い機会となりました。

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