ブータン王国の歴史的建造物保存活用に関する拠点交流事業III

ワークショップ前の現地確認(カベサ集落を望む)
ワークショップでの議論の様子(DCHS会議室)

 東京文化財研究所(東文研)では本年度、文化庁の文化遺産国際協力拠点交流事業を受託し、ブータン王国の民家を含む歴史的建造物の文化遺産としての保存と持続可能な活用のための技術支援及び人材育成に取り組んでいます。令和2年1月16日、同国内務文化省文化局遺産保存課(DCHS)が開催したラモ・ペルゾム邸の保存活用に関するワークショップに、外部専門家3名を含む計6名を派遣しました。
 ラモ・ペルゾム邸は、首都ティンプー近郊のカベサ集落に所在する同国内の現存最古級と目される民家で、ブータン政府が成立を目指している文化遺産基本法(新法)のもとでの民家建築の保存候補の筆頭に挙げられるものです。いっぽう無住となって久しく、また経年劣化の進行も著しいことから、その保存の可能性や活用の方向性について、行政や所有者、地域コミュニティといった関係者間での予備的な合意形成が求められる状況でした。そのような問題意識から、ワークショップはラモ・ペルゾム邸の保存活用に対する様々な見解を共有し、実現可能性が高い方向性を探ることを目的に、利害関係者として所有者と地域コミュニティの代表者のほか、公共事業定住省の地域計画担当者、観光庁の観光開発担当者を召集し、東文研は文化遺産に関する理念的・技術的な見地からの助言を行うために参加しました。
 ワークショップの前半は、文化遺産保護を進める立場から、東文研が現地調査に基づく保存の方針と修復の方法に関する提案、DCHSが行政による資金面を含む支援のあり方に関する報告を行いました。対して保存を担う立場からは、文化遺産としての高い評価に対する理解が示されたいっぽう、所有者から現代に即した活用による経済的利益の確保、また地域コミュニティ代表者から保存に対する行政の積極的な関与の必要性が強く要望されました。そして後半には、前半の発表や意見をもとにした活発な議論が行われ、(1)新法による指定など文化遺産としての価値付けのための手続きを加速すること、(2)修復に対する行政の支援や保存に対する所有者の義務など保護に係る枠組みを明確にすること、(3)文化遺産として適切かつ所有者の意向に配慮した活用案を検討することなど、ラモ・ペルゾム邸の保存活用を進めていく方向で参加者間の合意が図られました。
 東文研では今後もDCHSに協力し、ブータンにおける民家建築等の文化遺産としての保存活用の実現に向けて、現地調査や研究活動を継続していく予定です。

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