ブータン中部地域の伝統的民家に関する建築学的調査

古民家における調査の様子
版築造と石造が混在する民家の一例

 東京文化財研究所では、平成24(2012)年以来、内務省文化・国語振興局(DCDD)との協働事業としてブータンの伝統的民家建築に関する調査研究を継続しています。同局では、従来は法的保護の枠外に置かれてきた伝統的民家を文化遺産として位置づけ、適切な保存と活用を図るための施策を進めており、当研究所はこれを研究・技術面から支援しています。
 令和5(2023)年4~5月の東部地域での調査に続き、今年度第2回目の現地調査を10月29日~11月4日にかけて行いました。当研究所職員4名と奈良文化財研究所職員1名に外部専門家2名を加えた7名を日本から派遣し、DCDD職員2名と共同でブムタン・ワンデュポダンの中部2県において調査を実施しました。
 調査対象とした物件の多くは、昨年度行った予備調査で存在を把握していた古民家で、今回新たに発見した物件も含む計11棟について実測や家人への聞き取りを含む詳細な調査を行いました。このうち2棟は西部地域で一般的な版築造、6棟は東部地域に一般的な石造で、3棟は両者の構法が一つの建物に混在しているものです。特にワンデュポダン県東部では古くは版築造が専ら用いられていたところに、時代が下ると次第に石造が卓越していく傾向が見受けられますが、個々の建物における増改築の過程を考察すると必ずしもそのように単純に割り切れない複雑な様相も見えてきました。
 一方、これまでは建築形式や構築技法、改造変遷などを中心に調査してきましたが、今回からはそれに加えて、建物にまつわる伝承や各室内の使われ方といった民俗学的側面にもより留意しながら聞き取り等を行うこととしました。民家形式の発展や地域性の背景にある生活様式をあわせて考察することで、ブータンの伝統的民家がもつ文化遺産としての価値の多様な側面が明らかになることを期待しています。
 なお今回の調査は、科学研究費補助金基盤研究(B)「ブータンにおける伝統的石造民家の建築的特徴の解明と文化遺産保護手法への応用」(研究代表者 文化遺産国際協力センター長・友田正彦)により実施しました。

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