研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


キルギス共和国および中央アジア諸国における文化遺産保護に関する拠点交流事業

土器を実測する実習生

 文化遺産国際協力センターは、中央アジアの文化遺産保護を目的とする標記事業を文化庁より受託し、2011年から2014年までの4年間の予定で、キルギス共和国チュー河流域の都城址アク・ベシム遺跡を対象とした、ドキュメンテーション、発掘、保存修復、史跡整備に関する一連の人材育成ワークショップを開催しています。
 事業の初年度にあたる今年度は、文化遺産のドキュメンテーションに関するワークショップを実施しています。10月に行った第1回目のワークショップでは、おもに遺跡の測量に関する研修を実施しました。
 今回、2月4日から10日にかけて、第2回目のワークショップをキルギス共和国国立科学アカデミー歴史文化遺産研究所にて開催しました。今回のワークショップでは、キルギス人若手専門家8名を対象に、考古遺物の実測に関する研修を行ないました。土器や石器、土製品の実測のほか、拓本、遺物の写真撮影の実習、また伝統的な土器工房の見学なども行いました。
 研修生は意欲的に取り組んでおり、今回の研修を通じて得た技術を将来的に中央アジアの文化遺産保護に役立ててくれることが期待されます。

シルクロード世界遺産登録に向けた支援事業:カザフスタンとキルギスにおける専門家育成のためのワークショップ

ボロルダイ古墳群におけるレーダー探査の研修
データ解析の講義
ケン・ブルン遺跡における測量研修

 シルクロード関連遺跡の世界遺産一括登録を目指して、中央アジア5カ国に中国を加えた各国が国境の枠を超え、様々な活動を目下展開中です(活動報告2010年1月、2月、2011年5月参照)。この活動を支援するため、文化遺産国際協力センターも今年度より、ユネスコ・日本文化遺産保存信託基金による「シルクロード世界遺産登録に向けた支援事業」に参加し、中央アジア各国で各種の事業を開始しています。その一環として、カザフスタン共和国とキルギス共和国において、技術移転と人材育成を目的としたワークショップを開催しました。
 カザフスタンでは、9月27日から10月19日まで、考古遺跡の地下探査に関するワークショップを、奈良文化財研究所およびカザフスタン考古学専門調査研究機関と共同で実施しました。ワークショップには、カザフスタン人専門家の他、他の中央アジア諸国からも考古学専門家が参加しました。実習では、アルマトイ近郊のボロルダイ古墳群(写真1)とトルケスタン北西部のサウラン都城址を調査対象に、レーダー探査(GPR)と電気探査を行いました。研修生達は非常に熱心で(写真2)、限られた時間の中でも多くのことを学ぶことができたと思います。
 地下探査の成果という点でも、カザフスタンの考古遺跡での適用はほぼ初の試みでしたが、埋没している地下の構造物を捉えるのに十分な結果が得られました。今後は、各種の遺跡での試行や発掘調査による検証も行い、その有効性を検討していく必要がありますが、多くの遺跡を限られた人材で調査しなければならない中央アジアの実情から、地下探査への期待が極めて大きいことは間違いありません。
 キルギスでは、10月18日から24日まで、遺跡の測量に関するワークショップを開催しました。文化遺産保護関連分野の人材育成を目的に、キルギス共和国科学アカデミー歴史文化遺産研究所および同志社大学と共同で実施したこのワークショップには、キルギスの若手研究者8名が参加しました。
 測量の原理や方法論に関する座学の後、中世の都城址であるケン・ブルン遺跡を対象に測量実習を行いました(写真3)。一週間と短い研修でしたが、研修生は測量の原理をよく理解し、遺跡の測量技術を着実に身に付けていきました。
 文化遺産国際協力センターでは、今後も、中央アジア諸国において文化遺産保護関連の技術移転や人材育成を目的としたワークショップを開催する予定です。

キルギス共和国および中央アジア諸国における文化遺産保護に関する拠点交流事業

考古測量実習

 文化遺産国際協力センターでは、キルギス共和国チュー河流域の都城址アク・ベシム遺跡を舞台に、ドキュメンテーション、発掘、保存修復、史跡整備に関する人材育成支援を2011年度からの4年間、文化庁委託事業として実施する予定です。中央アジア5カ国の若手専門家を育成し、将来的に中央アジア諸国の文化遺産保護に益することを目的としています。
 今年度は10月6日から10月17日までの12日間、奈良文化財研究所およびキルギス共和国国立科学アカデミー歴史文化遺産研究所と協力して、第1回ワークショップを実施しました。今回のテーマは、遺跡のドキュメンテーションに関するもので、具体的には、遺跡の測量に関する座学を歴史文化遺産研究所で行った後、アク・ベシム遺跡でトータルステーションを用いた遺跡測量を実習しました。ワークショップには、キルギス共和国の8名に加えて、他の中央アジア各国からも1名ずつ、計12名の若手専門家が参加しました。研修生はいずれも測量技術を身につけようと、熱心に研修を受講していました。また、この研修を通じて、中央アジア各国の若手専門家の間にネットワークが構築されたことも、重要な成果の1つだったといえます。
 今後も引き続き、中央アジアの文化遺産保護を目的とした様々なワークショップを実施していく予定です。

キルギス共和国科学アカデミー歴史文化遺産研究所との文化遺産保護のための協力に関する合意書の締結

合意書の締結

 6月27日に、キルギス共和国科学アカデミー歴史文化遺産研究所と東京文化財研究所の間で、キルギスの文化遺産保護のための協力に関する合意書と覚書が締結されました。
 今後、歴史文化遺産研究所と東京文化財研究所は、人材育成事業や文化遺産保護事業の共同実施、文化遺産に関する会議の共同開催を行います。
 今年度より、チュー川流域の都城址アク・ベシムを対象にドキュメンテーション、発掘、保存、史跡整備に関する人材育成事業を実施していく予定です。

シルクロード世界遺産登録に向けたアシュガバード会議への参加

シルクロード世界遺産登録に向けた調整委員会会議

 5月3日から6日にかけて、トルクメニスタンの首都アシュガバードにて、ユネスコ主催のシルクロード世界遺産登録に向けた調整委員会会議が開催されました。東京文化財研究所からは、文化遺産国際協力センターの山内、安倍の2名が参加しました。会議には、中央アジア5カ国、中国のほか、インド、ネパール、イラン、アフガニスタン、韓国、日本などの関係諸国が参加し、2013年2月1日の世界遺産登録申請書提出に向けた今後の作業方針が活発に議論されました。また、山内は同会議において、東京文化財研究所が実施している「シルクロード世界遺産登録のための支援事業」に関して説明を行いました。

イラク人保存修復専門家の人材育成事業

金属の表面クリーニング実習

 文化遺産国際協力センターは、運営費交付金「西アジア諸国等文化遺産保存修復協力事業」およびユネスコ文化遺産保存日本信託基金により、2004年度より毎年、イラク人保存修復専門家を日本に招聘し、保存修復の研修を行っています。
 本年度も、イラク国立博物館より、アリ・ガーニム氏、ナフラ・ナビール氏、ハディール・アブドゥルハーディ氏の3名を招聘し、9月22日から12月9日にかけて、およそ3カ月に渡る研修を実施しています。文化財保存修復に必要な分析機器の研修、木製品や金属製品の保存修復に関する講義と実習を行う予定になっています。また、奈良文化財研究所や東京大学総合研究博物館、国士舘大学イラク古代文化研究所、株式会社日立ハイテクノロジーなどの見学も行なう予定です。

バーミヤーン遺跡保存事業―第10次ミッションの概要

壁画の保存修復を行う現地の保存修復家

 文化遺産国際協力センターは、2003年よりアフガニスタン情報文化省と共同で、バーミヤーン遺跡保存事業を行っています。今年は、7月9日から7月30日にかけて第10次ミッションを派遣し、壁画の保存修復および考古学調査を実施しました。
 壁画の保存修復では、東大仏に隣接するC(a)窟、C(b)窟、D窟、D1窟での作業を開始しました。アクセスが容易なこれらの4窟では、意図的な破壊行為や売買目的のための切り取り、観光客による落書きなどの被害がとくに目立ちます。今年度は、C(a)窟、そしてD窟のベランダ部分に残された壁画の応急的処置を完了しました。来年度以降も、一般公開に向けて、この4窟での作業を継続する予定です。
 考古学調査では、これまでの調査で得られた考古遺物の資料整理を行いました。これらの遺物は、異なる地点で実施してきた試掘調査や仏教石窟の清掃の過程で発見されたもので、バーミヤーン谷の歴史を知るうえで重要な資料です。また、来年度以降の発掘調査候補地であるシャフリ・ゾハーク遺跡やバーミヤーン遺跡の王城推定地などの予備調査もあわせて実施しました。

講演会「イラクの文化財保護の現状」

講演を行うアミーラ・イダーン・アル=ダハブ女史

 12月2日、東京文化財研究所地下一階会議室において、イラク国立博物館事務局長アミーラ・イダーン・アル=ダハブ女史による講演会を開催しました。 2003年、イラク戦争終戦後の混乱のさなか、イラク国立博物館が略奪の対象となったというニュースは、世界に衝撃を与えました。その後、日本やイタリアをはじめとする国際社会の支援を受け、イラク国立博物館は2009年2月にようやく再開されました。
 今回、アミーラ女史は、外務省の「21世紀パートナーシップ促進招聘」事業により来日し、この機会を利用して講演会を開催することができました。アミーラ女史は、多くの写真を示しながら、博物館の略奪から再開にいたる長い道程とその苦労について報告しました。また、文化遺産国際協力センターがユネスコ文化遺産保存日本信託基金および運営費交付金で行っているイラク人の保存修復家の人材育成事業にも触れ、イラクの文化遺産の復興には、今後とも日本からの支援が必要不可欠であることを繰り返し訴えました。

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